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蛍のような光がほわほわと舞う中、10脚のアウトドアチェアに腰掛ける高校生を前にミユキは頭を下げた。
「えーと、まず明日の予定の説明をします。
まず、みんなで王都の召喚があった場所に行き、そこから現在の元の世界に戻って、あ、今回の勇者さん達の学校近くだと思いますが、そこから2年前に行きたいと思います」
「「「「「「「…………」」」」」」」
(ほぼ全部に突っ込みたいけど、とりあえず最後まで聞くことにしよう)
「で、2年前の事故現場に直行します。──おそらく、バスが転落する直前だと思います。2年前の皆さんが召喚されたあとでなければいけないからです。それで、とりあえず全員を救出しますが、こゆみちゃんはこちらに残るとのことですので、そのぅ……」
「……行方不明、ですか?」
「いえ、行方不明になっちゃうとですね、──見つかるまで探すでしょ?」
「「「「「………」」」」」
「台風とかくるし、ひとりだけ見つからないのもこっちで生きているのを知っている皆さんは心苦しいと思うし、知らなくて助かった方々もいろいろキツいと思うので………こゆみちゃん、すみません!」
ミユキはパパっと両掌をこゆみに向け、8の字を描くように回しながらむにゃむにゃと呟く。
「アラビン カ◯ピン スカンピン」(タンバリンが欲しいけどリズム感がないしなぁ)
「えっ?」
こゆみが光に包まれた。
「こゆみ様っ!」
「「「「「ええええええええええええ!?」」」」」
光が消えた後、アウトドアチェアに腰掛けるこゆみの横には全く同じ状態の目を閉じたこゆみがもう一人、いた。
「わ、わたし?」
「こゆみ様?」
「こゆみちゃん、ごめんね? もしもこゆみちゃんが何年か後に戻りたいって思ったときに帰る場所がなくなってしまうんだけども、遺体としてこっちを発見してもらいます」
「う……」
自身を見つめていたこゆみが、フッと息を吐き気を失ってしまった。イークレスが殺人ビームでも出しそうな視線でミユキを睨みつけてくる。ブレない男であった。
(ああっ、やっぱりまずかったかな? 寝てるときにこっそり作るべきだったか。昔読んだ「地獄で〇スが光る」では自分の遺体を見ちゃった主人公はかなりショックを受けてたからなぁ……。でもあれは脳移植で別人になってたけど、やっぱダメだったか……)
「ほぅ、入れ物を容易く作れるものなのですね。でも、このままでは……」
「え?」
「うむ、戻ってしまうのぅ」
いつも間にかミユキの横に立っていた世界樹さんとキャサリンが頷きながらこゆみの複製を見ている。
「あぁ……っ」
眠るように目を閉じたこゆみの体が足の先から光の粒子となって夜の闇に溶けるように消えてゆく。数秒でアウトドアチェアだけを残し、全て消えてしまった。
「……どうして消えてしまったのでしょうか? 生きていないから? いやでも、オークはちゃんとお肉になったのに……」
(いや、比べるのそこ?)
誰かの突込みは声にならなかった。
「こちらで生まれたものではないからです。魂がなくなると、大地に溶けていくのですよ?」
「勇者殿も、あのまま力尽きるとこうなっていたのぅ」
頷きながら言うキャサリンに青ざめる高校生たちであった。
(いやいやあの時確か粉塵って言ってたよね? まぁ似たようなものだけどさ。しかしどうすれば……)
考え込むミユキに、世界樹さんが微笑んだ。
「ミユキ様、もう一度やってみてください」
右手の人差し指を小鳥を乗せるように立てて、顔くらいの高さまで上げている。すると、精霊の光がふうわりと集まり、まさしく小鳥のように世界樹さんの指に止まっていた。
なぜ世界樹さんから[様]付けで呼ばれるのか……
先に進めたいミユキはそれはそこに置いておいてそれらしい呪文を唱える。
「アラビン カ◯ピン スカンピン」(タンバリン……以下略)
気を失ったこゆみが光に包まれ、その横の椅子に、再びもう一体のこゆみが現れる。
世界樹さんが椅子の脇に跪き、こゆみの口元に光の集まった指を近づけた。小さく開いたこゆみの唇に、光が吸い込まれていく。ほんのりとこゆみの体が輝いたように見え、その次の瞬間、複製のこゆみがゆっくりと目を瞬き、目を閉じた。
「え……?」
驚く一同に、世界樹さんは微笑む。
「大丈夫です。あなた方が言うところの”眠っている状態”いえ、生きているわけではないのですがね。入れ物の中に少しの間だけ宿るだけですから」
(誰!? 誰が宿ってるの?!)
誰かの心の叫びに世界樹さんは穏やかに答えた。
「精霊です。ヒトの体を動かす力はなく、あなた方の世界には少しの時間しかいられませんのでその時間が来たらこちらに戻りますが、問題ないでしょう」
「はぁ…。ありがとうございます。生きているわけではないのでしたらしまっても大丈夫そうですね。では、こゆみちゃんが目覚める前に話しておきましょうか。あちらに行ってからのことを」
いつにない、オバさんの真面目な顔に元祖勇者たちは、神妙に頷いたのだった。
「えーと、まず明日の予定の説明をします。
まず、みんなで王都の召喚があった場所に行き、そこから現在の元の世界に戻って、あ、今回の勇者さん達の学校近くだと思いますが、そこから2年前に行きたいと思います」
「「「「「「「…………」」」」」」」
(ほぼ全部に突っ込みたいけど、とりあえず最後まで聞くことにしよう)
「で、2年前の事故現場に直行します。──おそらく、バスが転落する直前だと思います。2年前の皆さんが召喚されたあとでなければいけないからです。それで、とりあえず全員を救出しますが、こゆみちゃんはこちらに残るとのことですので、そのぅ……」
「……行方不明、ですか?」
「いえ、行方不明になっちゃうとですね、──見つかるまで探すでしょ?」
「「「「「………」」」」」
「台風とかくるし、ひとりだけ見つからないのもこっちで生きているのを知っている皆さんは心苦しいと思うし、知らなくて助かった方々もいろいろキツいと思うので………こゆみちゃん、すみません!」
ミユキはパパっと両掌をこゆみに向け、8の字を描くように回しながらむにゃむにゃと呟く。
「アラビン カ◯ピン スカンピン」(タンバリンが欲しいけどリズム感がないしなぁ)
「えっ?」
こゆみが光に包まれた。
「こゆみ様っ!」
「「「「「ええええええええええええ!?」」」」」
光が消えた後、アウトドアチェアに腰掛けるこゆみの横には全く同じ状態の目を閉じたこゆみがもう一人、いた。
「わ、わたし?」
「こゆみ様?」
「こゆみちゃん、ごめんね? もしもこゆみちゃんが何年か後に戻りたいって思ったときに帰る場所がなくなってしまうんだけども、遺体としてこっちを発見してもらいます」
「う……」
自身を見つめていたこゆみが、フッと息を吐き気を失ってしまった。イークレスが殺人ビームでも出しそうな視線でミユキを睨みつけてくる。ブレない男であった。
(ああっ、やっぱりまずかったかな? 寝てるときにこっそり作るべきだったか。昔読んだ「地獄で〇スが光る」では自分の遺体を見ちゃった主人公はかなりショックを受けてたからなぁ……。でもあれは脳移植で別人になってたけど、やっぱダメだったか……)
「ほぅ、入れ物を容易く作れるものなのですね。でも、このままでは……」
「え?」
「うむ、戻ってしまうのぅ」
いつも間にかミユキの横に立っていた世界樹さんとキャサリンが頷きながらこゆみの複製を見ている。
「あぁ……っ」
眠るように目を閉じたこゆみの体が足の先から光の粒子となって夜の闇に溶けるように消えてゆく。数秒でアウトドアチェアだけを残し、全て消えてしまった。
「……どうして消えてしまったのでしょうか? 生きていないから? いやでも、オークはちゃんとお肉になったのに……」
(いや、比べるのそこ?)
誰かの突込みは声にならなかった。
「こちらで生まれたものではないからです。魂がなくなると、大地に溶けていくのですよ?」
「勇者殿も、あのまま力尽きるとこうなっていたのぅ」
頷きながら言うキャサリンに青ざめる高校生たちであった。
(いやいやあの時確か粉塵って言ってたよね? まぁ似たようなものだけどさ。しかしどうすれば……)
考え込むミユキに、世界樹さんが微笑んだ。
「ミユキ様、もう一度やってみてください」
右手の人差し指を小鳥を乗せるように立てて、顔くらいの高さまで上げている。すると、精霊の光がふうわりと集まり、まさしく小鳥のように世界樹さんの指に止まっていた。
なぜ世界樹さんから[様]付けで呼ばれるのか……
先に進めたいミユキはそれはそこに置いておいてそれらしい呪文を唱える。
「アラビン カ◯ピン スカンピン」(タンバリン……以下略)
気を失ったこゆみが光に包まれ、その横の椅子に、再びもう一体のこゆみが現れる。
世界樹さんが椅子の脇に跪き、こゆみの口元に光の集まった指を近づけた。小さく開いたこゆみの唇に、光が吸い込まれていく。ほんのりとこゆみの体が輝いたように見え、その次の瞬間、複製のこゆみがゆっくりと目を瞬き、目を閉じた。
「え……?」
驚く一同に、世界樹さんは微笑む。
「大丈夫です。あなた方が言うところの”眠っている状態”いえ、生きているわけではないのですがね。入れ物の中に少しの間だけ宿るだけですから」
(誰!? 誰が宿ってるの?!)
誰かの心の叫びに世界樹さんは穏やかに答えた。
「精霊です。ヒトの体を動かす力はなく、あなた方の世界には少しの時間しかいられませんのでその時間が来たらこちらに戻りますが、問題ないでしょう」
「はぁ…。ありがとうございます。生きているわけではないのでしたらしまっても大丈夫そうですね。では、こゆみちゃんが目覚める前に話しておきましょうか。あちらに行ってからのことを」
いつにない、オバさんの真面目な顔に元祖勇者たちは、神妙に頷いたのだった。
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