オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
9 / 91

9

しおりを挟む
「あの…   その服は、目立つと思います……」

 紫のローブを着た魔道士Aがおずおずと言ってきた。
 しかしやはりここは確かめねばなるまい。

「もしや、あなたは攻撃魔法がご専門?」

「え?   はい」

(やったぁ   黒魔道士~~)

 頷く魔道士Aにガッツポーズをこっそりキメる。
 王道RPGの第9弾、黒魔道士にピンポンと名前をつけて育てまくり、最後に号泣したのは甘酸っぱい思い出である。

(ハッ)
 
「そういえば、皆さんは宴とやらに行かれなくてもよろしいのですか?」

 ビミョーな空気が辺りにひろがり、魔道士Bが咳払いを小さくして、言った。

「僕達は魔法学院の学生なんです。今回の儀式は魔力をお使い頂くために参加させていただきましたので、宴までは……」

「………なるほど」

(つまり、燃料みたいなものか……)

「あ、やはりこの服では目立ちますか?」

 ミユキの問いに全員が頷く。
 連れてこられたのは、いぬの散歩中である。紺色のTシャツにジーンズ、グレーのパーカーであった。  

「そんではおまじないで……」

 パーカーを脱いで床に置く。あの漫画のイメージで、真理の扉は開いていないが、両手をパチンと合わせ、パーカーにかざしてあの主題歌を口ずさんでみた。(第1期)

「ふーん、ふ、ふ、ふんふーーん♪」

 ちょっぴり音痴だったが、判る者はいない。

「なっ!?」

 光に包まれて、パーカーの裾が伸びながら形を変えていく。袖口が広く、生地が厚く、たっぷりと……等価交換はどうなった!  と勢いよく叱られそうだ。

 一同唖然と口を開いた中、ミユキはパーカーの肩の辺りをつまんで、ふむ、と袖に手を通してフードを頭から被って見せた。

「こんな感じでいかがでしょう?」

 頭から全身がローブで隠された。

「お……おまじないって」

「大丈夫ならお願いします」

 ぺこりと頭を下げていぬを抱え、出口に向かって歩き出す。さっさとここから抜け出したい。お腹も減ったし、ふたばのトイレもさせてあげたい。水だって飲みたいだろう。いぬの顔を覗き込むと、仔犬に戻ってしまったふたばは、のんきな表情でペロリと頬を舐めてきた。精神年齢は若返っていないような気がした。落ち着きがありすぎる。
 そこは後程確かめるとして、小さな扉を開くと廊下を挟んで更に扉があった。

「こちらです」

 シルーシスがその扉を開けると、小部屋があり、ロッカールームのようだった。

「すみませんが、少しお待ちください。こちらのローブは儀式用に支給されたもので返却しなくてはならないものですから」

「おぉ……」

 ローブを脱ぐと、皆お揃いのゆったりとしたこげ茶色の厚手の生地の上着とズボンを着ていた。制服のようだ。ロッカーから鞄を出して肩からかけていく。

「急ぎましょう」

 次々とローブを壁にかけ、出口に向かう。外に出てみると、まだ明るかった。出口は建物の裏側のようで、振り返ると、かなり大きな神殿のような屋根が見える。

「ミユキさん、こちらの出口は関係者用ですので、顔を上げずに気分が悪そうにしていてください」

「はい」

 ふたばをローブの懐に入れて腕で抱え込み、背中を丸めてとぼとぼと歩くと少年たちが支えるように囲んでくれた。

 ローブを被っていない少年達は、明るい場所で見ると、髪と瞳が色とりどりだった。びっくりだ。

 建物から離れてしばらく歩くと、高い3メートルほどのレンガの壁があり、小さな扉の前に門番が1人立っていた。

「お疲れ様です」

「おぉ、お疲れさま。儀式はうまくいったのかい?」

「えぇ。けれど1人魔力ぎれで酷い状態になってしまって」

 シルーシスが、やれやれといった風に肩を竦めた。
 騎士Jがニコニコと頷いている。

「みんな、頑張ってくれたんだな。お疲れさん」

 門番が重そうな扉を開けながら労った。

「ありがとうございます」

 人の良さそうな門番に口々に礼を言いながら扉を潜る。塀の幅は人がふたり分程だろうか。全員が潜るように外に出た後、シルーシスと騎士Jが最後に続いて出た後、背後で扉が閉められた。

(警備体制があまくないか……?   いや、出口だからか……   いやいや入るだけ入って誰かが残って悪事を働くことも考えられるだろうに……   いや、もしかしたらものすごいセキュリティが作動するのかも知れない。魔法的な何かで……)

 塀から遠ざかると、数人が小さなため息を吐いて、お互いを見合わせて、笑いだした。

「悪いことしてるみたいだけど……これって悪いことなのかな?」

「何か、すみません」

 思わず謝ってしまうミユキだった。このせいでこの子達が罰せられたりしたらどう責任を取ればいいのか。

「いえ、私がお願いしましたので、責任は私にあります。みんな、後で何か言われたら、私に脅されてやったと言ってくれ」

 何だか暗い雲を背負ったようなシルーシスに、誰も何も言えずとぼとぼと歩いていく。
 公園のような広場を抜けると石畳の街並みが広がっていた。どうやらメインストリートのようで、道幅が広く、両側に店があり、行き交う人たちも忙しく動き回っているようだ。
 何の店だかわからないが、夕方だし、帰宅時間も重なっているのだろうか。
 夕焼けのオレンジめいた色が石畳と煉瓦の街並みを包み込んで、外国に来ている気分になった。

(そういえば、アジアから出たことなかったなぁ。新婚旅行はお隣の国だったし20年以上前だったからなぁ)

 映画でしか見たことのないような夕焼けの街の景色に、ついつい感慨深く見とれてしまっていた。



しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

処理中です...