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「お、お嬢様……」
金髪ナイスガイとなった執事の目がウルウルしている。
「ようごさいました。本当に……」
手を取り、そう涙ぐまれてラーヤは自分の右の手のひらを見た。
「え……?」
「鏡を持ってきてもらおうね」
なぜだか無駄にキラキラしているロンブスが微笑んでいる。どうやら先程のまじないも部屋全体に効いたらしい。同様にキラキラしているシルーシスが慌てて部屋から出て行き、すぐに大きな姿見を抱えて戻ると、壁に立て掛けた。
キラキラのアングイラがラーヤの手を取って鏡の前に導いた。
「あ……」
右の頬に手を当てて、目を見開いている。
「髪が……」
「綺麗に結えるね」
ロンブスが豊かな長い髪を後ろから手でまとまるように持ち上げた。
「私……」
大きな目から涙がこぼれ落ちてくる。そしてその傍には自分の変貌した姿を見て驚愕の表情を隠せない執事がいた……。髪に恐る恐る触れている……?
「お兄さまのは?」
「先に治していただいたよ。ミユキ様に」
手袋を取り、手のひらを見せると、ラーヤは手にとって笑みを浮かべた。
(様に昇格したらしい……。さて、お暇して宿に向かうとするか。しかし、シルーシス君は報酬の件は忘れてないよね? パンみたいなの、あるのかな、この世界の食べ物すらわからんな。虫が主食だったらどうしよう。まあ、それはそれでいただくとして、味覚は似てて欲しいよね……)
ふたばを抱え上げ、粗相をしていないか確認をしていると、ラーヤが駆け寄ってきた。男共も付いてくる。
「ミユキ様」
見上げてくる顔はさっきより、格段に明るかった。可愛い。短い髪も可愛かったけどなぁ……。
「おまじない、ありがとうございました」
「どういたしまして。……髪に触ってもいい?」
「どうぞ」
にこりと笑うラーヤの頭を優しく撫ぜると、ラーヤは左手で抱えているふたばを覗き込んだ。
「この子のお名前は?」
「ふたばです」
「ふたばちゃん」
しかし、肝心のふたばはもともとサービス精神が全くない犬なので無反応だった。他人が頭を撫でようすると避けるので、非常に気不味くなるため、勧められない。
「さて、では先を急ぎますので、お暇させていただきますね」
「えっ!?」
「お帰りになるのですか?」
執事が驚いたように尋ねてきた。
「はい。宿の予約もしていますので」
「当家で御宿泊をなされてはいかがでしょう? 主人は間もなく戻りますので…… 恐らくお礼を申し上げたいかと存じます」
「ありがとうございます。でも、お礼はして頂きましたし、これから約束もございますので、本日はこれにて失礼させていただきます」
「サルモーのところへ行かれるのですか?」
「ええ」
「その後は?」
ロンブスはにっこりと笑っているが、何故だろう?少し怖い気がするのは。
「森を目指します」
「「「森?」」」
見事にハモった。
「ええ。ふたばと森で生きていこうかと。いい森を探すのにしばらく旅を続けますが……」
皆さん絶句しているのは何故? そういえば、見習い天使さんもこんな感じだったかな?
「では、皆さん、ごきげんよう」
頭を下げ扉に向かうと、シルーシスが慌てて追いかけてきた。
「お送りします」
「お待ちくださいませ」
執事が深く頭を下げる。
「ミユキ様 もしも、また……おまじないをお願いしたい場合はどのようにすればよろしいのでしょうか?」
「連絡方法……」
(朝のラジオに賛美歌十三番? いやいやいやラジオなさそうだしなぁ そもそも賛美歌ってないよね。13年式G型トラクター……トラクターも新聞もなさそうだし)
「この街は、お祭りがあるなら見物して、明日か明後日には出たいので、それまででしたら、サルモーさんの宿にいると思います」
「私も玄関までお見送りをしてもよろしいでしょうか?」
ラーヤが、遠慮しつつ尋ねてくる。かわいい。
「ありがとう」
全員でぞろぞろと部屋から出ると、すぐ戻りますと言って執事が慌ててどこかに駆けていった。
廊下では数人のメイドとすれ違ったが、全員素早く壁際に避けて頭を下げ、顔を見る者はいなかった。おそらく、ラーヤのためにそうなっているのだろう。
吹き抜けの大きな玄関ホールに出ると、執事が走って来た。小さな布袋をミユキに手渡す。受け取ったものは、大きさに反してずしりとした重みを持っていた。
これはわかる。お金だろう。
「失礼とは承知ですが、是非ともお受け取りください」
ブランキアは有無を言わさぬ口調だった。
「シルーシス坊っちゃまがどのようなお礼をお渡ししたかは存じませんが」
(何か食べ物の予定でまだもらっていないけど……)
「世間知らずのお子様だと、お許しください」
「?」
「ブランキアッ!」
「遠方からいらっしゃったのでしたら、相場というものをご存知ないかも知れませんが、ミユキ様のなされたことは、とてつもないことでございます」
(火傷の治療? 増毛? どっちだ?)
「こちらは私の分の御礼でございます」
(増毛か……)
「いえ、あれは偶然です。巻き込んでしまったようなものですのでお代は結構です」
「お う け と り く だ さ い」
「はい アリガトウゴサイマス」
金髪碧眼ナイスガイの笑みは怖かった。鞄はないのでローブもどきのポケットに突っ込んだが、妙な違和感を感じた。重さがない。しかしここで確かめるのも何なので、先を急ぐことにする。
「では、お邪魔しました~」
「ミユキ様 またいらして下さいね」
「ありがとう。ではまた」
かわいいラーヤに挨拶をして、ブランキアに頭を下げると門に向かって歩き出す。外はだいぶ暗くなっていた。後ろからシルーシスがついてくる。
「僕達も後から追いかけるよ」
「すぐに追いつく」
ロンブスとアングイラが声をかけてきた。
「ミユキ様! 本当にありがとうございました」
ラーヤの声に振り返り、大きく手を振る。
瞳をウルウルさせながら手を振るラーヤは、ものすごく可愛い。深く深く頭を下げるブランキアにもう一度会釈をして、ミユキはお屋敷を後にした。
金髪ナイスガイとなった執事の目がウルウルしている。
「ようごさいました。本当に……」
手を取り、そう涙ぐまれてラーヤは自分の右の手のひらを見た。
「え……?」
「鏡を持ってきてもらおうね」
なぜだか無駄にキラキラしているロンブスが微笑んでいる。どうやら先程のまじないも部屋全体に効いたらしい。同様にキラキラしているシルーシスが慌てて部屋から出て行き、すぐに大きな姿見を抱えて戻ると、壁に立て掛けた。
キラキラのアングイラがラーヤの手を取って鏡の前に導いた。
「あ……」
右の頬に手を当てて、目を見開いている。
「髪が……」
「綺麗に結えるね」
ロンブスが豊かな長い髪を後ろから手でまとまるように持ち上げた。
「私……」
大きな目から涙がこぼれ落ちてくる。そしてその傍には自分の変貌した姿を見て驚愕の表情を隠せない執事がいた……。髪に恐る恐る触れている……?
「お兄さまのは?」
「先に治していただいたよ。ミユキ様に」
手袋を取り、手のひらを見せると、ラーヤは手にとって笑みを浮かべた。
(様に昇格したらしい……。さて、お暇して宿に向かうとするか。しかし、シルーシス君は報酬の件は忘れてないよね? パンみたいなの、あるのかな、この世界の食べ物すらわからんな。虫が主食だったらどうしよう。まあ、それはそれでいただくとして、味覚は似てて欲しいよね……)
ふたばを抱え上げ、粗相をしていないか確認をしていると、ラーヤが駆け寄ってきた。男共も付いてくる。
「ミユキ様」
見上げてくる顔はさっきより、格段に明るかった。可愛い。短い髪も可愛かったけどなぁ……。
「おまじない、ありがとうございました」
「どういたしまして。……髪に触ってもいい?」
「どうぞ」
にこりと笑うラーヤの頭を優しく撫ぜると、ラーヤは左手で抱えているふたばを覗き込んだ。
「この子のお名前は?」
「ふたばです」
「ふたばちゃん」
しかし、肝心のふたばはもともとサービス精神が全くない犬なので無反応だった。他人が頭を撫でようすると避けるので、非常に気不味くなるため、勧められない。
「さて、では先を急ぎますので、お暇させていただきますね」
「えっ!?」
「お帰りになるのですか?」
執事が驚いたように尋ねてきた。
「はい。宿の予約もしていますので」
「当家で御宿泊をなされてはいかがでしょう? 主人は間もなく戻りますので…… 恐らくお礼を申し上げたいかと存じます」
「ありがとうございます。でも、お礼はして頂きましたし、これから約束もございますので、本日はこれにて失礼させていただきます」
「サルモーのところへ行かれるのですか?」
「ええ」
「その後は?」
ロンブスはにっこりと笑っているが、何故だろう?少し怖い気がするのは。
「森を目指します」
「「「森?」」」
見事にハモった。
「ええ。ふたばと森で生きていこうかと。いい森を探すのにしばらく旅を続けますが……」
皆さん絶句しているのは何故? そういえば、見習い天使さんもこんな感じだったかな?
「では、皆さん、ごきげんよう」
頭を下げ扉に向かうと、シルーシスが慌てて追いかけてきた。
「お送りします」
「お待ちくださいませ」
執事が深く頭を下げる。
「ミユキ様 もしも、また……おまじないをお願いしたい場合はどのようにすればよろしいのでしょうか?」
「連絡方法……」
(朝のラジオに賛美歌十三番? いやいやいやラジオなさそうだしなぁ そもそも賛美歌ってないよね。13年式G型トラクター……トラクターも新聞もなさそうだし)
「この街は、お祭りがあるなら見物して、明日か明後日には出たいので、それまででしたら、サルモーさんの宿にいると思います」
「私も玄関までお見送りをしてもよろしいでしょうか?」
ラーヤが、遠慮しつつ尋ねてくる。かわいい。
「ありがとう」
全員でぞろぞろと部屋から出ると、すぐ戻りますと言って執事が慌ててどこかに駆けていった。
廊下では数人のメイドとすれ違ったが、全員素早く壁際に避けて頭を下げ、顔を見る者はいなかった。おそらく、ラーヤのためにそうなっているのだろう。
吹き抜けの大きな玄関ホールに出ると、執事が走って来た。小さな布袋をミユキに手渡す。受け取ったものは、大きさに反してずしりとした重みを持っていた。
これはわかる。お金だろう。
「失礼とは承知ですが、是非ともお受け取りください」
ブランキアは有無を言わさぬ口調だった。
「シルーシス坊っちゃまがどのようなお礼をお渡ししたかは存じませんが」
(何か食べ物の予定でまだもらっていないけど……)
「世間知らずのお子様だと、お許しください」
「?」
「ブランキアッ!」
「遠方からいらっしゃったのでしたら、相場というものをご存知ないかも知れませんが、ミユキ様のなされたことは、とてつもないことでございます」
(火傷の治療? 増毛? どっちだ?)
「こちらは私の分の御礼でございます」
(増毛か……)
「いえ、あれは偶然です。巻き込んでしまったようなものですのでお代は結構です」
「お う け と り く だ さ い」
「はい アリガトウゴサイマス」
金髪碧眼ナイスガイの笑みは怖かった。鞄はないのでローブもどきのポケットに突っ込んだが、妙な違和感を感じた。重さがない。しかしここで確かめるのも何なので、先を急ぐことにする。
「では、お邪魔しました~」
「ミユキ様 またいらして下さいね」
「ありがとう。ではまた」
かわいいラーヤに挨拶をして、ブランキアに頭を下げると門に向かって歩き出す。外はだいぶ暗くなっていた。後ろからシルーシスがついてくる。
「僕達も後から追いかけるよ」
「すぐに追いつく」
ロンブスとアングイラが声をかけてきた。
「ミユキ様! 本当にありがとうございました」
ラーヤの声に振り返り、大きく手を振る。
瞳をウルウルさせながら手を振るラーヤは、ものすごく可愛い。深く深く頭を下げるブランキアにもう一度会釈をして、ミユキはお屋敷を後にした。
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