オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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 どうしてこうなった。


 砂塵の中、怒号と悲鳴が響き渡っている。

 目の前には棍棒を持った二足歩行の……豚が雄叫びをあげた。その声を聞きつけたのか、仲間の豚が寄ってくる。5頭に囲まれた。高い壁のようだ。背後は民家の玄関だろうか。

 足元でふたばが姿勢を低くして唸っているのが視界に入り、頭の中が急速に冷えてきた。

(これがオークってヤツか……食べられるのかな。やっぱ、豚っぽいし。おいしくなさそうだけど)

 ここは見習い天使さん特製伝説級武器を出すべきか。

 視線を5頭から外さないようにして、ぐるりと見渡すと、どうやらここは村の中のようで、小さな家が点在している。ミユキが立っているところは小高い場所にあるので、見晴らしがよかった。
 遠くでは兵士なのか、冒険者だかが、オーク一頭を囲んで苦戦しているようだ。村人らしき者は外にはいなかった。オーク5頭がそれぞれ一際大きな鳴き声をあげた。更にオークが集まってくる。

(もしかしなくても、村人さん達はこの家の中に避難してなくない?)

 なぜだか大勢の人間の気配をこの家の中から感じ取れた。それがわかるのか、オーク達が集まっているのだろう。この家を取り囲むのは18頭になっていた。

(人間を食べるのかな。しかし、18頭は多い……)

 牙が覗く口元からよだれが垂れ落ちている。濁った眼球が忙しなく動き、ミユキを値踏みしているようだ。近くなると、獣臭がすごい。食べるなら臭みを消さねば無理かもしれない。

「わあぁぁぁぁっ」
「おいっ!」

 オーク一頭と戦っていた誰かの悲鳴があがった。
 男が棍棒で殴られ、地面に叩きつけられるのが見えた。ピクリとも動かない。低く小さく声を出す。

「なーおれ治れ、ルルラララ~~、オークはダメよ~ルルラララ~~」

 ぶわりと緑色の光がミユキから湧き出て、ものすごい速さで村中を覆いつくした。

「シャラ○ラシャラン○ヘイヘヘイヘヘ○、シャ○ンラ~」

 光が意思を持ったかのように、人間達に吸い込まれていく。オーク達はぼんやりとそれを見ていた。

(とりあえず、今回は食べるのを諦めるかなぁ)

 伝説級武器とやらをまだ見てもいないが、慣れない戦闘で18頭も一撃で倒すのは無理だろうし、倒せたら倒せたでいろいろまずい気もする。取り敢えずは誰もいない場所で試してから使うべきだと思った。見習い天使さんに対する傾向と対策である。

(こっちを試そう)

 失敗しても何とかなりそうな方で、やってみることにした。一際大きなヤツに視線を向けると、目があったのだが、その目にはこれまでミユキが向けられたことがないものが浮かんでいた。

(……何だ?)

 そのオークの目は周りのオークにも感染するかのように広がっていき、一歩、後ずさった。
 オークが、である。
 目に浮かんでいたものは、怯えなのか。

「ウーッ」

(歯を剥き出して唸るふたばが怖いのか?  そりゃ私もあんまり見ないからビビるけども……でも、仔犬だしなぁ)

 オーク達は一歩、また一歩と後ずさる。
 が、遠くの一頭が咆哮をあげ、我に返ったように咆哮でかえした。ミユキに焦点が合ったのがわかる。

(よし、やるか!)

 ミユキは人差し指でオークをぐるりと指差しながら、小さな声で呟いた。

「カ~エ~ルカエル~~………トード!」

 指先から白い湯気のような煙がでて、オーク達を包み込む。

「ピョコー○  ペ○ーン  ピッ○ンコ!」

 間延びした声を合図に煙が消えた。

(おおお!  成功だ~)

 トノサマガエル、アマガエル、じゃないけれど、おそらく18匹の蛙がギーギー鳴きながらピョコタンと跳ねまくっていた。どうやらウシガエルのようだった。

「坊や~、よい○だねんねしな」

 ミユキが手をかざすと、蛙達はその場に腹を見せてひっくり返ったので、急いで袋にしまっていく。アイテムボックスではない、袋のほうだ。生きているので。しかし18匹は意外と嵩張るのでアイテムボックスにカエル専用の生育箱を作れないかな……。などと考えてアイテムボックスを覗いてみるとカエルフォルダ(生き物)が出来ていたので、素早く移す。

(大丈夫、誰も見てない見てない見て……)

 見られていた!
 小さな窓から子供が覗いていた!
 めっちゃ目を見開いてるし!

 ギギギ……と音がしそうな動きで窓の子供から目を逸らして、オークと戦っている集団を見ると、魔道士二人が炎でオークの顔を焼いていた。同時に剣士が二人で脚に斬りこみ、なぎ倒した所に全員で集中攻撃をかけている。その周りから、更に数人加わって弓やら風魔法っぽいのやら、槍やらで攻撃に加わっていた。

(なんて言うか……嬲り殺しですな……)

 うんうん、オーク一頭に大勢で、って普通なのかどうかもわからない。っていうか、ここはどこ?


 話は10分程前に、遡る。



 ふたばとともに門を出たミユキは意気揚々と駆け出した。

 素晴らしい!
 息が切れないし、身体が軽い!

 どこまでも走っていけそうだ。
 周りには誰もいないし、大声で笑いだしたい気分だ
 った。
 描いてもらった地図を思い浮かべ、ふたばに向かって叫ぶように言ってみる。

「よし、ふたば!  ソリス村に行きますぞ~~!」

 突然、空間が歪むような感覚になり、朝靄の清浄な空気が一変して、砂塵の中に立っていたのだ。
 目の前は扉、振り返るとオークである。

(もしかしたら、ここって………ソリス村?)

 点在する家の位置が、アミアに描いてもらった村の地図のようである。もしそうなら、この家はアミアの家だ。

 瞬間転移してしまったのか?

(いや、できるかな~~とか思ったこともあったけど、そういうのって、一度行ったことのある場所だよね?   FのゲームもDのゲームも、そうだったし。
 地図しかも手書きのヤツで行けるって………
 いや、ここは感謝すべきだよね?
 だって、これはきっとピンチだったはずだもの!
 オーク18頭はピンチだよね?
 アミア君は喜んでくれるよね?)

 拳を握りしめて自分に言い聞かせていると、ガチャリと音がしてドアが少し開いたので慌てて振り返る。

(やばかった!  急に背後に立たれると危ない所だったよ~~)

 開いたドアの向こうには、金髪に紅い瞳の男が3人、棒を手に持ち立っていた。

(う~~ん、説明するのも難しそう……)

 そしてミユキは途方に暮れた。










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