オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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「早く入れ!」

 招き?入れられて、ミユキはふたばを抱えて薄暗い室内に進んだ。

「お邪魔します……」

 居間らしき部屋を抜けて廊下を進むとさっき目があった子どもが穴が開きそうなくらいガン見していた。ずだ袋を。オークガエルが18匹入ってるからね!
 目があったのでにっこりと微笑んでみせた。青い顔で目を逸らされたが。

「こっちだ。怪我はないか?」

 男の一人が心配げに全身を見たあと、もう一人の男が廊下の突き当たりの脇にある小さな扉を開けると、暗闇の中に灯りが見える。

「階段だから、気をつけろ」

 男二人に挟まれる形で石造りの階段を降りていく。
 背後に気をつけながら。この状況でアレをやってしまうことだけは避けなければいけない。

 階段を降りきると、広い地下室で30人程が……興奮していた。ここでもみなさんをロン毛にしてしまったようだ。ミユキに気付くと、静まり返った。

「あんた、誰だ?  何処から来た」

 棒を突きつけられて、当たり前のことを問われる。

(まあ、そうだよね~。怪しすぎるよね)

「ミユキといいます。王都カエルムから来ました」

「カエルム?」

 灯り石で煌々と明るい部屋の中、ほぼ全員が金髪に紅い瞳だった。アミアにそっくりな女性がいる。きっと母親に違いない。いや、お姉さんかも……。

「ここまでどうやって来た?  次の定期便の馬車が来るのは10日後のはずだ」

「あ、歩いて来ました!  もちろん歩きに決まってますよ。ひ、ひと月くらいかかったかなぁ?」

「………」

「あ、アミアくんのご両親はいらっしゃいますか?   手紙を預かっておりますが」

 数人が顔を見合わせて、男女二人が進み出て来た。やはりさっきの女性だった。

「息子が?  息子に会われたのですか?」

「ええ。息子さんはこちらの村のことを大変心配されていましたよ」

 袖口から出した手紙を女性に手渡す。夫婦で手紙を読みながら、涙ぐんでいたが、ふと、目を止めて顔を上げ、ミユキをじっと見つめた。

「あの、この方とお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?  息子のことで」

 夫の方が男二人に申し出た。

「あ、ええ。構いませんが。大丈夫ですか?」

 男たちはアミアの両親には丁寧だった。広い地下室から小部屋に移動する。物置のようで、布袋が積み上げてあった。

「……ミユキ様、と仰いましたね。手紙をありがとうございました」

「いえいえ、ついでですので」

「一昨日、勇者様の召喚が成功したと、手紙に……」

「………」(やはりバレたか……)

「ミユキ様には大変お世話になったと書いてありました。ありがとうございます」

「いえいえこちらこそ!  みなさんの前でふせて下さって助かりました」

「私はウンダ、妻のナーウィスです。その、どうやってこちらまで?」

(そりゃ、気になるよね~。私だって気になるもの)

「えー、実はワタシ、遠方から参りました、まじない屋でございまして。この度は一子相伝の術、ドゥコヘディモドゥワァーでやって参りました」

「まじない?  そ、それは?」

 ミユキは眉間に皺を寄せ、もっともらしく頷きながら小声で言った。人差し指を口の前で立ててからだ。

「まじないとは魔術に非ず。魔法ではございませんので、出来ることは限られております」

「はぁ……」

「そして、その数少ない出来ることのひとつに、このドゥコヘディモドゥワァーがあり、この術は行きたい場所に瞬時に移動できるのですが、とても不安定で、今回はたまたま上手くいってこちらに来ることが出来ました。運が良かったようです」

「運ですか?」

「ええ…….」(うーん、苦しいかな?)

 話を逸らそうとミユキは徐ろに頷いて、ウンダの髪に視線をやりながら、自分の髪を触った。自分の髪を触り、驚くウンダに、もう一度頷いてみせる。

「王都でも同様のことになっていました。髪だけではなかったようですが」

 さっきやっちゃったし、どうせバレるだろうから予め言っておくことにする。

「怪我が治ったとか、灯り石が明るくなったとか」

 思い当たったのか、二人は顔を見合わせた。

「これが勇者様召喚の奇跡?   アミアの手紙に書いてありました。王都全体に奇跡が起きたと……」

(……アミアくん、筆まめなのね)

 昨夜手紙を持って来たアミアを思い出しながら、ミユキがため息をついた時、隣の部屋から男の叫び声が響いた。

「オークがまた来やがった!  集団だ!  くそッ!   すごい数だぞ」

 人々の絶望を含んだ悲鳴が聞こえる。目の前の夫婦も同様だった。ここは、確かめなくてはいけない。

「あの、すみませんが、教えていただきたいことがあるのですが……」

 階段を駆け上る音が聞こえる中、訝しげな表情の二人に質問を続ける。

「オークって、食べられるんですかね?」

「「はい?」」

「あの、オークが皆さんの食料になっているのかどうか、確認を……」

「?」
「ちょっと前までは食べていたようですが、最近はあまり出回らないし、家畜を飼うようになったので」

「あれば食べます?  美味しいんですか?」

「とてもおいしかったと昔父が言ってましたね」

 ウンダが、丁寧に答えてくれた。

「なるほど!  では、この村にオークを捌ける方はいらっしゃいますかね?」

「え?  ええ。ギルドの前にある肉屋の先代は、それはもう魔物を捌くのが上手かったらしく、肉が出回らなくなって引退したと聞きましたが、あればできるんじゃないでしょうか。今もとてもお元気ですし」

「ほほぅ。では、蛙は食用になりますか?」

 二人の顔に、嫌そうな表情が浮かんだので、ミユキは頷いた。あまり食べないらしい。昔居酒屋で食べた唐揚げはおいしかったのだが……。まぁ、自分では捌けないので食べないけど。こんなことならあの漫画でもっと捌き方を学んでおくべきだったなぁ……。

「それじゃ、最後に、そのお肉屋さんの先代さんがいらっしゃいそうな場所を教えてください。あとお名前を」

 アミアの地図を取り出して見せると、ウンダが指差して教えてくれた。

「カローさんです」

 ありがとう、と聞こえると同時に、ミユキはその場から消えてしまった。









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