FLOWER WORLD~花に選ばれし者と愛されし者~

本山莉子

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第8話 彼の腕の中で野宿

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「そうですね、もう日も落ちましたし野宿で決定ですね」

二人で木の根もとに寄りかかり並んで座った。

月明かりがあり、少し周りが見える。

だけど、頼みの月もたまに雲に隠れてしまうと、辺りは真っ暗になってしまう。

「鞄の中に絆創膏はありませんでした。湿布もないです。タオルならありますが、濡らして冷やしますか?」

「元々傷はねぇし、捻っただけだといっただろ。水は貴重だからおいとけ」

「はい」

タオルを鞄にしまって、鞄の中から先程私が食べていたスティック状のクッキーの残り、まだ口をつけていないものを取り出した。

「腹へったのか?」
京極さんはそう訊ねるが、これは彼にとっておいたものだ。

「いえ、これは京極さんの分です。どうぞ!」

そういって、彼に差し出すが受け取ってくれない。

「……」

「はい!あーんして!」

強硬手段に出るも、京極さんは口を開けてくれなかった。

「……やめろ」

やっぱりそうだ。私が気づいてないと思ってるのかな。

「京極さん、お水もあんまり飲んでないし、あと何も食べてないですよね?脱水症状おこしますよ!」

「水は戻ってからすぐに飲んだだろ……」

京極さんは言い訳するが、さっきも少ししか飲んでいなかった。

「食い物も水もあまり無いだろ、おいとけ。それに今は食欲がねぇし……」

戻ってきたときから、京極さんは顔色が悪い。
食欲が無いのは本当かもしれない。

「何かあったんですか?」
訊ねるが、彼は何か思い詰めるような顔をして話してくれない。

「悪い……ちょっと考える時間をくれ」

「はい、それは別にいいですけど……」

彼に何があったのかも気にはなるが、それよりも救急用品も何もない。食べ物はいらないという。
私が彼にしてあげられることは、何もなかった。

なんとなくしょんぼりとしていると、不意に京極さんが話し始めた。

「お前、動かずにちゃんと待ってたんだな」

「はい、でも京極さんがなかなか戻ってこなくて不安でした」

「ちょっとだけ京極さんの声が聞こえたような気がして、そちらに探しにいこうと思いましたが、京極さんが戻ってくるのが見えました」


「そうか……」

彼は少し考えたあと、私の肩に腕をまわした。

「寒いですか?」

気温は肌寒い位だが、彼の腕から私の肩に体温が伝わるのが分かる。

「ちょっと寒いが、こうしてれば大丈夫だ」
「そうですか……」

そのまま彼の胸に頭を預けて眠ることにした。

地面に寝転がりたい気もするけれど、横になると土が服の広い範囲についてしまう。

このままなら土がつくのはお尻の部分だけで済む。

それに彼の腕がとても心地よかった。
私の瞼はだんだんと重くなってきて、そのまま眠った。


「お前がちゃんと待っててくれて良かった」


私が深い眠りに落ちる前に、京極さんはそういって、私を一度ぎゅっと抱き締めたような気がした。
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