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第六話・・・瞬間移動

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「知ってたんだ~。そうだよ、私こそがここのマドンナ的存在。喜入 美海きいれ みみだよ」
「......そんな学園のマドンナさんが俺に何か用でも?」

 そういや俺の隣ってこいつだったっけ。
 この二年生になって1~2回ほど席替えをしたが学業に専念するため隣との接触はペア交流ぐらいになっており、気にしたことがそうなかった。
 
そのため隣が誰なのか、どんな人なのかぼんやりと記憶にもやが掛かっているようにあんまり思い出せていなかった。
 しかし学園のマドンナの存在自体は噂などで多少知っていた。

 噂によると学園のマドンナの名前は目の前で名乗った少女と同じ喜入美海。容姿端麗、文武両道の成績優秀生。それに関わる全員に優しさと笑顔を振りまく、もうこの八柳高校のアイドルと言っていい存在だ。
 そんな人物がこんなガリ勉野郎に話しかける筋合いはなく、なぜ話しかけてきたの一切理解できなかった。

「いや~? さっきまでかなりうなされてたみたいだから」
「それで学園のマドンナさんが俺に話しかける筋合いはないよな?」
「だって目の前で苦しそうにしている人が居たら普通話しかけない?」
「そういうもんか?」
「そういうもんです」

 なぜ話しかけたのか疑問を投げかけたものの、本能的な優しさによって話しかけたらしく、あまり俺は理解できなかった。
 だが本当にそうみたいで、喜入は自信満々に俺の疑問に答える。

「なんの夢を見てたんです?」
「なんの夢って、教える必要は?」
「気になっただけです」
「そうか......なら教えねぇ。人には教えたくないものだってあんだよ」
「ならいいです」

 さっきの悪夢思い出したくない夢がどんなものだったのか聞いてきたが、少しあしらうと案外素直に引いて探りを入れなくなった。
 ほんの少し疑問に思ったが深く考えない方が面倒なことにならないと思い、考えることを放棄してふと時計を見る。

 時計の長針と短針はまだ生徒が来るにはまだ結構な時間があることを示していた。そして何気なく窓の外を見ていると。
 何をしようかと思考を巡らせていると、横からちょいちょいと制服を少し引っ張られる。
 恐らく喜入がしたのだろうと考え、少し煙たがりながら振り向く。振り向いた先には———

「さっきからなん...だよ......」
「せんぱい? どうしたんですか?」
「あっ茶立場か......」

 視線の先には頭上にクエスチョンマークを発生させた茶立場の姿があった。茶立場がいるのは別にどうでもいいんだが、さっきまで隣に座っていた少女は綺麗さっぱりいなくなっていた。
 そんなことにまた疑問を抱くが、こんな野郎にはどうにもし難いので目の前の対応をする。

「んで? お前はなんで当然のように他学年の教室に入ってきてんの?」
「そんな些細な事どうでもいいじゃないですか」
「いやよくね~よ? 普通に校則で禁止されてるからな?」
「もうせんぱいは校則校則ってうるさいですね~! 今の時間帯は誰もいないんですからいいじゃないですか。それにここに来るまで誰とも出会ってないですし」
「誰もいないからいいってわけじゃ......おい待て、お前今ここに来るまで誰にも会ってないって言ったか?」
「えぇそうですよ?」

 おかしい、おかしいって。そんなん瞬間移動以外あり得んやん。でもさっきまでここにいたのに茶立場が見ていないはずがない。
 本当に瞬間移動ぐらいしないとここから誰にも見られず抜け出すことなんてできないと思うが......

「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
「え~? なんです~?」
「見てないんならいいんだよ」
「ちぇ~つまんないの~」
「子供か」

 何度も子供が駄々をこねるように聞いてくる茶立場を適当にあしらいながらあの喜入という少女はどんな人物なのか思考を巡らせるのだった。



「キミは本当に無茶が好きだね」
「まあハラハラが好きなんでね」
「まあ今回は彼に接触、それとこいつを回収できただけ満足か」

 校舎によってできた影を利用して顔が分からないようにし、八柳の誰かに見つかっても手掛かりが残らないようにしている謎の人物たち。
 その人物の中にはさっきまで諒と会話をしていた喜入美海とよく似た人物が二人、片方は謎の人物と言葉を交わし、もう片方は手足を縛られ仰向けにされていた。

「もうこんな時間か戻るぞ。我らが———黒見虚リーゲンナイトに」
「了解です」
 次の瞬間、謎の人物らは身に纏っていた黒く、長いローブらしきものをバサッと思いっきり開いて姿を消す。



 あれから結構な時間が経ち、茶立場も他の生徒が来る前に自身のクラスへと戻った。そして帰宅部を含む部活動を行っていた生徒が教室へ入り授業準備をする。
 また数分時間が経ち朝礼の時間になったが、俺のクラスの担任教師が一向に姿を現せない。

 そんな状況にクラスの生徒たちが少しずつざわつき始める。すると、教室のドアが勢いよく開け放たれる。
 開け放たれたドアの向こうにはこのクラスの担任教師が息を切らしながら立っていた。そして一度大きく空気を吸うと口を開いて俺たち生徒に言葉を飛ばす。

「この中で今日、喜入を見たやつはいるか!」

  と、この中で誰もが考えもしなかった言葉を......
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