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おしまい
呼ばれたその名は、忘れるなかれ
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自分に用意された部屋に閉じこもって、スマートフォンのインカメラで自分の顔をぼんやりと眺める。
近付かないとハッキリ見えないその顔が、四ノ宮はなんとも言えず嫌いだった。
四ノ宮を初めて見た人間は皆「美しい」「お人形さんのよう」と称賛してくるが、そんなものは四ノ宮にとって少しも嬉しくない。
生まれた時から強さを求められてきたし、ある程度の年齢になったら「最強」を押し付けられて生きてきた。
「上」にとっては、その〝最強の祓人〟が美しい容姿をしているというのは、政府へのいいアピールポイントではあったのだろう。
人間は、強く美しい者に惹かれるものだ。
祓人は表に出ない職業だが、知っている者は知っている。
そういう「知っている側」に売り込める要素は、ひとつでも多い方が良かったということだ。
しかし、やはり艶のある黒髪をしている自分の姿を見るのは随分と久しぶりで、何となく腹の奥がむず痒い。
人化の術が解けたタイゴクの源力を「これでもか」と注がれたおかげで、今や四ノ宮は正式に祓人になる前よりも美しい髪に戻っていた。
源力を消費するごとに色が抜け、艶も失っていった髪と、段々とぼんやりとしてきていた目。
髪だけとはいえ、まさかそうやって誰にも明らかな消耗の象徴であったそれらが、こんなにアッサリ戻るとは。
まだ視力は完全に戻っているとは言えない。
目が悪くなっていることについては、誰にも言っていないので知らない者の方が多いだろう。
でも、もしかしたらそちらも、タイゴクと過ごすうちになんとかなるんじゃないだろうかとつい、思ってしまう。
今やタイゴクのことを「赤い人」という風にしか認識出来ていなかった目が、元に戻るのかも、と。
そうしたら、手で触れなくてもタイゴクの顔がハッキリ視えるようになるのだろうか。
──大嶽丸の姿に戻ったタイゴクとセックスをし続ければ?
う、と呻いて、真っ赤になっているだろう顔に手を当てる。
こんなにも、源力供給を恥ずかしいと思う日が来るなんて、思わなかった。
それもこれも、遙と一条のせいだ。
タイゴクと四ノ宮は契約関係であり、そのために行動を共にしてきた、謂わば同志。
付き合うだとか、縁談だとか、そんなものは──そんなものは、意識したことなんて、ない。
いや、嘘だ。四ノ宮は、己の腹に手を当てながらまた呻く。
四ノ宮はきっと、出会って数カ月もしないうちにタイゴクのことが好きになっていた、と、思う。
抱き締められたことのなかった身体を抱き締め、鬼とは思えぬほどに大事そうに口付ける人を、その存在を、どうして愛さずにいられようか。
タイゴクから想いが返ってくることなんか、最初から期待もしていない。
人間の姿をさせているとはいえ、彼は鬼だ。
鬼神とまで呼ばれた、最強の存在。
だから、ただの人間である自分を特別に想うことなど無いと、決めつけていた。
そんな男は、昨日自分になんと言った?
「なんだ、腹がおかしいか」
「うわっ!」
なんだか痒いような気がする腹を無意味に撫でながら赤い顔を冷ましていたというのに、突如その原因に背後から抱き込まれる。
しかも腹をぎゅうと押し込まれたものだから、四ノ宮は足先をひくつかせながらひっくり返った声をあげた。
何だ今のは。
折角おさまりかけていた顔面の熱さが、またぶわりと戻って来る。
「あぁ、なんだ。余韻があるだけか」
「よ、余韻?」
「ナカでイくとな、その後しばらくは身体が思い出すのよ」
楽しそうに四ノ宮に顔を寄せてきたタイゴクは、腹に回した腕の力を強めながら耳元で囁いた。
くわん、と、脳が揺れるような熱さに、思わず腹の腕に爪をたてる。
さっき散々にからかわれたばかりだというのに、また昼間から耽るわけにはいかない。
契約と割り切っていた時であれば、丁度いいとばかりに誘ったりもしたものだけれど、今は無理だ。
顔にかかる己の髪の黒さばかりハッキリと見えて、それさえも恥ずかしい。
「ま、まって、むり……」
「何が無理だ。そんな面をしておいて」
「た、たけまるが、す、好きなのわかってからすんの、初めてだから……はずかし、ぃ……」
「は、」
腹に回された鬼の腕は、一定のテンポでぐっぐっと腹を圧してきて身体が揺れる。
何を求められているのかはその段階で明白で、でも、だからこそ駄目だった。
この腕の主を好きだと、自覚してしまった。
この男との性行為が気持ちいいものだと、理解してしまった。
それだけで、ただの源力供給がまったく違うものになってしまったのだ。
いくら人間の姿に戻っているとはいえ、タイゴクはタイゴク。
まだ〝愛〟というものを受け入れきれないまま彼に抱かれるのは、恥ずかしいよりも胸が苦しくなりそうで。
しかしそんな四ノ宮の様子を見ていたタイゴクの赤い眼は、ゆっくりと細められていく。
「ぅ、ひゃ! も、もぅお腹、やめ」
「……今のはお前が悪い」
「何が!? 僕なんか変なこと言った?!」
ひょいと持ち上げられて、太い腕で膝の上に拘束される。
抗議する口も、あぐと大きく開かれた口に食べられて飲み込まれてしまった。
ベロリと口内を舐められ、舌を吸われればアッサリと身体から力が抜けてしまう己が、恨めしい。
「慣れるまで付き合ってやろう。時間ならばたっぷりとある」
ニヤリと笑う顔は、四ノ宮の視界の中でも鮮やかに赤く輝いている。
思わず「たけまる」と、なんとも情けない声を出して泣きを入れるが、その声はやはりすぐに、やけにご機嫌な鬼に食われて消えてしまった。
なお、部屋に戻って来る時に「タイゴクがまた人払いをしていた」と四ノ宮が聞いたのは、翌日になってからのことだった。
【完】
近付かないとハッキリ見えないその顔が、四ノ宮はなんとも言えず嫌いだった。
四ノ宮を初めて見た人間は皆「美しい」「お人形さんのよう」と称賛してくるが、そんなものは四ノ宮にとって少しも嬉しくない。
生まれた時から強さを求められてきたし、ある程度の年齢になったら「最強」を押し付けられて生きてきた。
「上」にとっては、その〝最強の祓人〟が美しい容姿をしているというのは、政府へのいいアピールポイントではあったのだろう。
人間は、強く美しい者に惹かれるものだ。
祓人は表に出ない職業だが、知っている者は知っている。
そういう「知っている側」に売り込める要素は、ひとつでも多い方が良かったということだ。
しかし、やはり艶のある黒髪をしている自分の姿を見るのは随分と久しぶりで、何となく腹の奥がむず痒い。
人化の術が解けたタイゴクの源力を「これでもか」と注がれたおかげで、今や四ノ宮は正式に祓人になる前よりも美しい髪に戻っていた。
源力を消費するごとに色が抜け、艶も失っていった髪と、段々とぼんやりとしてきていた目。
髪だけとはいえ、まさかそうやって誰にも明らかな消耗の象徴であったそれらが、こんなにアッサリ戻るとは。
まだ視力は完全に戻っているとは言えない。
目が悪くなっていることについては、誰にも言っていないので知らない者の方が多いだろう。
でも、もしかしたらそちらも、タイゴクと過ごすうちになんとかなるんじゃないだろうかとつい、思ってしまう。
今やタイゴクのことを「赤い人」という風にしか認識出来ていなかった目が、元に戻るのかも、と。
そうしたら、手で触れなくてもタイゴクの顔がハッキリ視えるようになるのだろうか。
──大嶽丸の姿に戻ったタイゴクとセックスをし続ければ?
う、と呻いて、真っ赤になっているだろう顔に手を当てる。
こんなにも、源力供給を恥ずかしいと思う日が来るなんて、思わなかった。
それもこれも、遙と一条のせいだ。
タイゴクと四ノ宮は契約関係であり、そのために行動を共にしてきた、謂わば同志。
付き合うだとか、縁談だとか、そんなものは──そんなものは、意識したことなんて、ない。
いや、嘘だ。四ノ宮は、己の腹に手を当てながらまた呻く。
四ノ宮はきっと、出会って数カ月もしないうちにタイゴクのことが好きになっていた、と、思う。
抱き締められたことのなかった身体を抱き締め、鬼とは思えぬほどに大事そうに口付ける人を、その存在を、どうして愛さずにいられようか。
タイゴクから想いが返ってくることなんか、最初から期待もしていない。
人間の姿をさせているとはいえ、彼は鬼だ。
鬼神とまで呼ばれた、最強の存在。
だから、ただの人間である自分を特別に想うことなど無いと、決めつけていた。
そんな男は、昨日自分になんと言った?
「なんだ、腹がおかしいか」
「うわっ!」
なんだか痒いような気がする腹を無意味に撫でながら赤い顔を冷ましていたというのに、突如その原因に背後から抱き込まれる。
しかも腹をぎゅうと押し込まれたものだから、四ノ宮は足先をひくつかせながらひっくり返った声をあげた。
何だ今のは。
折角おさまりかけていた顔面の熱さが、またぶわりと戻って来る。
「あぁ、なんだ。余韻があるだけか」
「よ、余韻?」
「ナカでイくとな、その後しばらくは身体が思い出すのよ」
楽しそうに四ノ宮に顔を寄せてきたタイゴクは、腹に回した腕の力を強めながら耳元で囁いた。
くわん、と、脳が揺れるような熱さに、思わず腹の腕に爪をたてる。
さっき散々にからかわれたばかりだというのに、また昼間から耽るわけにはいかない。
契約と割り切っていた時であれば、丁度いいとばかりに誘ったりもしたものだけれど、今は無理だ。
顔にかかる己の髪の黒さばかりハッキリと見えて、それさえも恥ずかしい。
「ま、まって、むり……」
「何が無理だ。そんな面をしておいて」
「た、たけまるが、す、好きなのわかってからすんの、初めてだから……はずかし、ぃ……」
「は、」
腹に回された鬼の腕は、一定のテンポでぐっぐっと腹を圧してきて身体が揺れる。
何を求められているのかはその段階で明白で、でも、だからこそ駄目だった。
この腕の主を好きだと、自覚してしまった。
この男との性行為が気持ちいいものだと、理解してしまった。
それだけで、ただの源力供給がまったく違うものになってしまったのだ。
いくら人間の姿に戻っているとはいえ、タイゴクはタイゴク。
まだ〝愛〟というものを受け入れきれないまま彼に抱かれるのは、恥ずかしいよりも胸が苦しくなりそうで。
しかしそんな四ノ宮の様子を見ていたタイゴクの赤い眼は、ゆっくりと細められていく。
「ぅ、ひゃ! も、もぅお腹、やめ」
「……今のはお前が悪い」
「何が!? 僕なんか変なこと言った?!」
ひょいと持ち上げられて、太い腕で膝の上に拘束される。
抗議する口も、あぐと大きく開かれた口に食べられて飲み込まれてしまった。
ベロリと口内を舐められ、舌を吸われればアッサリと身体から力が抜けてしまう己が、恨めしい。
「慣れるまで付き合ってやろう。時間ならばたっぷりとある」
ニヤリと笑う顔は、四ノ宮の視界の中でも鮮やかに赤く輝いている。
思わず「たけまる」と、なんとも情けない声を出して泣きを入れるが、その声はやはりすぐに、やけにご機嫌な鬼に食われて消えてしまった。
なお、部屋に戻って来る時に「タイゴクがまた人払いをしていた」と四ノ宮が聞いたのは、翌日になってからのことだった。
【完】
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コメントありがとうございます!
読み応えがあると言って頂き、とても嬉しいですっ。
まだもうちょっとだけお話は続くので、少しでも楽しんで頂けたらと思います☺️