【完結】生きて還りし物語

ミスミ シン

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第二章

ひげき

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「な、なんだこりゃあ……」
「月光文字や何かと同じですよ。違うのは、貴方の魔力にのみ反応して文字を浮かび上がらせるようにされているだけで」
「オレの、だと?」
『お待ち下さい柊。この本は太古の人々の本なのですよね? ですが、その時代にはまだエードラムは居ないはずです。彼の魔力に反応するように設定するなど出来るわけがありません』

 思わず口を挟むと、エードラムも重々しく頷きます。
 わたしのように物質として太古から存在している者と違い、エードラムは戦いの後に闇から生まれた存在です。
 それでも当然人間よりもずっと長い時間を生きている事に違いがありませんが、太古の人々がこの世界に干渉している時代には当然存在をしていないはずなのです。
 しかし、魔力文字はその魔力に反応する対象が存在していなければ設定が出来ないはず。

「それは、太古からある本ではありません。あなた方の勇者が記したものです」
「なんだとっ」
『ど、どういう事ですかっ』
「正確には、太古の人々との契約として記されたもの。あの子が、貴方にのみ反応するようにしたのは、貴方もこの契約に立ち会っていたからです」

 柊の言葉のひとつひとつが、やはり我々には意味不明でした。
 その言葉を全てそのまま鵜呑みにするとしたら、つまりは、あの人とエードラムが太古の人々の前でこの文字を書いたのだという事になります。
 一体何故、何のために?
 いや、そもそもどうやって太古の人々と契約をしたというのでしょう?
 そして何故柊がそれを、知っているのでしょう?
 何故わたしはそれを、知らないのでしょう?
 わたしに頭があればクラクラしているような、きっとそんな感覚に陥っていたことでしょうが残念ながら私はただの剣で、ただの物質でしかありません。
 何も言うことが、出来ませんでした。

「わたしもその辺の記憶は結構曖昧なのですけれどね、あなた方の勇者は、どうしても譲れないものがあってそれを手に入れるために太古の人々と契約をしたのですよ」
「どうしても譲れないもの?」
「えぇ。貴方の命です、魔王エードラム」

 今度こそ、エードラムは「はぁ?」と声を荒げておりました。
 その気持ちはとてもとてもよく分かります。わたしだってもう頭がついていっておりません。
 柊はそれに苦笑を返すと、ひとつひとつをゆっくりと説明してくれました。

「まず最初に、貴方と貴方の勇者が出会ったのは、貴方の記憶の通りにあの戦いの日です。その後に貴方は魔力を失い、勇者のところに襲撃を仕掛けたのも、そのままです。ですが、違うのはその後。貴方は、ある時はあの子の家の周囲に野宿をしつつ、ある時には自分の配下を集め、またある時は勇者と生活を共にしました」
「……何回だ?」
「今回を含めれば六回、でしょうか。ですが、それはわたしの把握出来ている範囲ですので、もしかしたらもっとかもしれませんね。とにかくそのくらい、貴方はあの子と生活を共にしていました。貴方が身につけている生活能力は、その間に培われたものでしょうね」

 柊の言葉に、我々は反論が出来ませんでした。
 エードラム自身、何故自分はこんなにも人間の生活を熟知しているのかと悩んでいる風でありましたので、そうやって過去の生活を持ち出されれば納得するしかありません。
 そうでなければ、説明がつかないのですから。
 しかし、じくじく擦り傷でも出来ているかのようにイラつきを覚えつつ話を聞いていると、そんな我々の様子に気付いたのでしょうか、柊が自分の紅茶を一口飲みつつ爆弾を落としてきました。
 
「その生活の中で、貴方とあの子は家族になっていきました」

「…………は? 何だって?」
「とても幸せそうでしたよ。最初こそ周囲は反対をしましたけれど、家族のなかったあの子にとっては対等である貴方の存在はとても重要なものであったのでしょう」
「待て、そうじゃねぇ。家族になるって、あーっ、と……」
「そのままの意味です。解釈は、お任せしますけどね」

 呆然としている我々を置いて、柊の手が本を一ページめくりました。
 そこには、わたしでも読める簡単な太古の文字が浮かび上がっていました。
 記されている文字は、擦れて読めない、あの人の恐らく名前なのだろうそれと、そのすぐ横に残されているエードラムの名前。
 二人が、わたしたちの知らない別のエードラムとあの人が共に記したと証明する、文字でした。

「心配しなくても、別に過去にそうだったからと言って今回も家族になれとは言いませんよ。かつてはそうだったというだけのことです」
「衝撃過ぎるぜ……親の浮気を突きつけられた気分だ」
『そんな経験がおありで?』
「ねぇけどよ……」
「初めてあなた方の事情を知ったときには、わたしとて椅子から転げ落ちるくらいには衝撃でしたよ。けれど、貴方たちの様子を見ていると反対する気にはなれませんでした。いつも飄々としてて人に本心を晒さないあの子が、貴方には甘えて、本当の笑顔を見せていました。兄か、父か……もっと違う存在か。そんな人にするかのように、まるで幼い子供であるかのように笑っていたのです。幾度かのループを見たわたしが、未だに忘れられないくらいには衝撃で、そして認めるしかない姿でした」
「………………」
「ですが、ある時にその幸せは突然引き裂かれました……貴方の死によって」

 柊は、とても言い難そうに、しかしはっきりと言いました。
 そして暫くは言葉をとめ、紅茶を一口飲んでからまた言葉を続け、彼等の身に起きた悲しい運命を語りました。
 生活を共にしながら幸せに暮らしていた彼等のところに、他の魔王が襲撃してきたということ。
 その魔王の攻撃から勇大とわたしの勇者を守って、エードラムが命を落としたこと。

「貴方の死を嘆きに嘆いたあの子はその嘆きによって心を砕き、悲しみによって命を落とそうとしていたのです。しかしそれに気付いた大いなる力が……あの子の身に流れる血が、あの子を守るために動いた」
『あの人の身に流れる血、とは……』
「あの子はお前と同じなのです、バルィ。太古の戦いの終焉を見て眠りにつき、目覚めた者。何故あの子がお前を見つけることが出来たのか、疑問に思ったことはありませんでしたか? それは、あの子が元々貴方の存在と、貴方の眠っている場所を知っていたからなのですよ」

 次に驚くのはわたしの番でした。
 確かに、何故あの人がわたしを手に出来たのかと疑問に思ったことはありました。
 しかし勇者本人が「偶然」とさらっと言っていたために、わたしはそれを疑ったことはなかったのです。

「……つまり、アイツも太古の人間?」
「そうです。眠っているあの子を見つけたのはガーラハドで、人間として生活出来るように見守ってきたのも我々です。だからこそ、あの子に近しかったからこそ……このループに気付いてしまったのかもしれない」

 柊は続けました。
 唯一残る太古の人間であるあの人の心が弱り死に向かおうとした時、あの人の唯一の所持品であったこの本が光を放ったこと。
 そして、あの人が本に向けて悲しすぎる誓いをたてていたのを見てしまったことを。

「本に、誓い……?」
「本には太古の人々の意思が宿っています。具体的な力は流石に察することは出来ませんが、本自体が強力な魔術媒体であった事を、あの子は知っていたのかもしれません」
『その、誓いというのは、何ですか?』
「えぇ……至極単純な願いです。エードラムを生き返らせる事は自然の摂理に反することのため、太古の人々は許しはしない、ならば対価を差し出し過去をやり直す事でエードラムが生きるチャンスを与えたい。だから……」

 自分を構成する一部を差し出すから、過去をやり直させてくれと、の勇者は願った。
 柊のその言葉に、我々は詰めていた息を思い切り吐き出しておりました。
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