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第50話 おとうさんはへたれー♪
しおりを挟む大霊廟前の広場。
「ぎゅーん!」
俺とベイカーのフライングボードに並走するひよこ。今日のひよこの装いはミニメイド服だ。メイド達と同じ服をあつらえてもらってご機嫌のひよこだが、俺たちの目を奪ったのはそこじゃない。
「ちょ、なにそれ? かっけーな!!」
「ノボリトおねいちゃんにもらったのー♪」
なんでも、ひよこの事故を知ったノボリト&爺さんsがフライングボードのアイディアを発展させて、スカート内に浮揚魔法陣と風系魔法陣を付与しホバー機能を搭載した遊び着ーーミニメイド服をひよこのために突貫で作ったそうな。
名付けて《試作強襲メイド服『AMSー02』》
待て、名前が物騒なんだが、あと、02ってことは01があるのか?
ひよこはさらにスピードを上げると、俺達をあっという間に追い抜く。
「義雄様! 何ですかあのスピード? ひよこちゃん、アレ浮いてますよね!?」
「マジか!? ド○? ○ムなのか?」
やがて、スピードを上げたひよこの前に大霊廟の壁が迫る。俺の脳裏にこの昨日のひよこの事故が浮かんだ。ヤバイって!
「ひよこっ! 止まれ!! ぶつかる!!」
「だいじょおぶー♪」
「えっ?」
「えいっ!」
そう言うや、ひよこのスカートからスパイクが飛び出して地面を抉る。スパイクを軸にして軽快に180度ターンを決めたひよこが俺たちの間をすり抜けた。
「な、アーマードトルーパー!? ボ○ムズだとう!?」
振り返り、ひよこの動きを追い続ける俺の耳にベイカーの叫び声が飛び込む!
「義雄様!! 前! 前!」
「えっ?」
ドガシャーン!!
「痛ってえー!」
ひよこに気を取られた俺は盛大に大霊廟の壁に激突した。うん、よそ見よくないね。
「いたいのいたいのとんでけー!」
「うう、ありがとうな、ひよこ」
ひよこの手当ての真似事に付き合っている俺を、によによしながら覗き込むベイカー。ちっ、これも情操教育というやつだよ、生暖かい目でみるなよ!
とはいえ、痛みが治まったぞ。これはアレだ。愛の力だな。
「しかしながらひよこちゃんの服、すごいですねぇ」
「ああ、もう装備のレベルだよなあ、多分、使った布も大霊廟のヤツだ。普通に防御力とかも高いぞ。ヘタな攻撃は効かないな」
「これなら長距離行軍の負担が劇的に減りますね。いや、速度と防御力、突破力を考えたら騎兵の意味が無くなりかねませんよ! これが騎士団に配備されたら……」
「そうだな……」
思うところは同じなのか、微妙な空気に俺とベイカーの会話が途切れる。
「……ふつーに気持ち悪いよなー」
「ですよねー」
すかーとを履いたおっさんの集団がホバー推進で突撃かますとか、正直トラウマもんだ。俺が敵なら泣いて逃げるわ。
「敵の心にダメージが」
「で、味方の心にもダメージな。騎士団潰れるぞ」
そんな間抜けな話をしているとエイブルがひよこを迎えにやってきた。なんか完成したからひよこをお誘いに来るとか言ってたっけ。
「ひよこちゃ~ん!」
「あ、えいぶるおかあさん!」
「いっぱい遊びましたか?」
「はーい」
「じゃあ、お風呂行きましょうね♪」
むう、完全にひよこを籠絡しおったな、だが本丸たる俺が……ちょっと待て?
「エイブルさんや、今、お風呂って言った?」
「はい。白金寮に大浴場が出来ました」
「出来ましたって……」
「義雄様も入られますか? お風呂」
この世界、風呂だけは流石にない。大量のお湯の温度を維持しなきゃいけないのは、魔法を使えるものでも流石に手間で、温泉でも行かない限りは一般には魔法で作ったお湯で身体を拭くのが主流だそうだ。
ちょっと待て、そもそも魔法じゃなくて薪で湯を沸かせばいいんじゃないかとツッコミを入れたいが、魔法で簡単に湯が沸かせるのになんでそんな手間のかかる事をという反論が帰ってくるそうな。魔法が身近すぎて、魔法ありきの発想から抜け出せなくなっているのは正直どうだろう。
魔法の使えないエイブルさんたちには貰い湯とかチョット気持ち的にも気軽に言いづらいから、水で身体を洗うことも多いんだとか。
「是非!!」
「混浴でよろしければ、さ、ひよこちゃんも行きましょう」
ちょっと待てぃ!!
「それ、ラッキースケベをスキップしてるぞ! そういうのは男湯と女湯を分けてだなあ……」
「大浴場は一つしか無いです」
「じゃあ時間帯を男女別々にしてだなあ……」
「男女比を考えると非効率的です。義雄様が入られている時に、入りたく無い子は入らなければ良いのでは?」
ぬう、正論ぽいけど、確信犯なのか? からかわれてるのか?
「そうだ、ベイカー、俺と白金寮の風呂行こうぜ!」
「イヤです! まだ死にたく無いです」
くっそー!! ずるいぞ! 漢なら、ここは命を賭すところだろうが!
ただの一歩を踏み出せない悔しさを噛み締めながらエイブルとひよこの後ろ姿を見送ると、すぐさま俺は大霊廟の一画に駆け込むなり叫んだ。
「ノボえもーん!! 風呂作ってくれえー!!」
「ふぇっ? ひゃ! はいいっ!?」
そんな姿に、振り返ったエイブルが小さく呟く。
「義雄様はヘタレです……」
「おとうさんはへたれー♪」
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