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第49話 いたいのいたいのとんでけー♪
しおりを挟む俺とベイカーはただ今絶賛工作中。203高地でブルドーザーを運んだ板をスノーボードの形に削り出すことに心血を注いでいる。
ことの発端は203高地から戻りブルドーザーを降ろした後、お役御免となり大霊廟内に積んであった例の浮揚魔法陣を施した板の一枚にベイカーが何気に座って魔力を通した事にある。
当然のように板が浮き上がり、何を思ったかベイカーが蹴り足で前に進み始めた姿を見た瞬間、俺の中に電流が走ったわけだ。
「それだ! ベイカー!!」
「えっ? なんですか義雄様?」
昔見たSF映画で主人公が空に浮くスケボーで颯爽と街中を進むシーンが脳裏に浮かんだわけだ。そして今に至る。
ガリガリガリガリ……
「お前も健康診断受けてこいよ。絶対称号増えてるって、あ、魔法陣削るなよ」
ガリガリガリガリ……
「はあ、まあそのうちに」
いい感じに仕上がったフライングボードをテストする俺とベイカー。要領はスケボーとかサーフボードと同じと思っていたがこれがなかなかに難しい。
「おおっと! コーナーを回るのが難しいなあ」
「抵抗が少ないから、大回りになりますね」
「重心を後ろにして板のけつを地面にこすらせたらいいんじゃね?」
「なるほど、だったら板の下の後ろの部分にフィンをつけて地面に接地しやすくしてみては?」
「それな! 早速改造だ!」
「ひよこもやっていい?」
シーソーに乗るように予備のフライングボードをまたぐと足で前後にゆらゆらと揺らし始めるひよこ。こういうアクティビティなものに興味津々のようだ。
「ああちょっと待ってな。こっちのボードを手直したら……ベイカー、かなづち取ってくれ」
これが良くなかった。子育てあるあるの、ちょっと目を離した隙にというやつだ。
フライングボードで一人遊びに興じていたひよこはふとしたはずみでグングンとスピードを上げるや大霊廟の壁へ向かって一直線に進んでいた!
ひょいと顔を上げたベイカーが異変に気付く。
「あれ、ひよこちゃん、結構スピードでてませんか?」
げげっ!!
「と、止まれ! ひよこ!!」
「義雄様! ひよこちゃん止まり方知ってます!?」
「ああ~っ! 教えてない!」
「ええ~っ!?」
どがしゃーん!!
派手に大霊廟の壁に突っ込み、衝撃でボードから投げ出されるひよこ。そのまま見事に顔から地面に着地した。
慌てて駆け寄ると、放心状態で起き上がったひよこの額に血が滲む。
「ひよこ! 大丈夫か!?」
「う……」
「う?」
「うわああああああああああん!!」
火がついたように泣き出したひよこ! ヤバイ! 医者はどこだ?
俺はひよこを抱きかかえると大霊廟へと駆け込んだ。
「メディーック! 衛生兵ー!!」
☆
近くにいたメイドに先導されて、着いたところは大霊廟の大食堂片隅の天幕で仕切られた部屋だ。掲げられたプレートには診察室とある。いつに間に……そんな事はどうでもいい!!
「すいません! ひよこが怪我したんで薬を! てか、医者はどこだ?」
診察室の中に駆け込むと、他のメイドと区別するためだろう、淡いピンクのメイド服を着たルイスがいた。確か【上級医官】の称号を持ってたよな。
「あらあら、ひよこちゃん、おねえちゃんに怪我を見せてね」
ルイスは慌てるでなく、ひよこを診察ベッドに座らせると、手慣れた手つきでひよこの怪我の様子を診て優しく塗り薬を塗ってくれた。
「骨に異常はないですね。うんうん、擦り傷とちょっと打ったところが痛いねえ~、もう大丈夫よ」
ひよこもルイスの雰囲気に安心したのかいつのまにか泣き止んでいる。子供を泣き止ませる医者ってのは、ある意味名医だよ。姪っ子なんか医者の顔見ただけでガン泣きしてたもんなあ。
「ありがとうルイス。ところで今使っているのは薬だよね? 治癒ポーションとか使わないのかな?」
「ありますよ。ファドリシアではあまりありませんけど……」
「えっ、あるの?」
「ポーション作製とか治癒魔法には神聖魔法が必要ですから……神の奇跡はソルティア神官以外の者は持ちません。私たちは神様が名を失い、いづこかへお隠れになった時、神聖魔法の力も失ったのです」
異世界といえばポーションなんてざらにあると思っていたが、そういうものではないようだ。しかも独占市場とかソルティアのくせに生意気な。まあ、俺の場合、大怪我するような事とは無縁だな。勇者や冒険者がするような荒事を一切してないし、する気もないし。
「神聖魔法ってどんな魔法になるんだ? 見たことがないけど」
「治癒や退魔、防御の魔法ですね。私たちの行う治療と違い、怪我や病をたちどころに直します……ただしソルティアだけです。ですから義雄様もひよこちゃんも怪我や病気には気をつけてくださいね。はい、ひよこちゃん、おわりましたよ」
ファドリシアの民は安易に怪我や病を治す魔法がない分、命の大切さを身近に感じているのだろうな。
「うう~ おとうさん、おでこがまだいたいです」
治療を終えたひよこだが、擦りむいた額を抑えて涙目で俺を見上げる。そういやあ俺もよく怪我したな。その度にばーちゃんが……!
「そうだ! おとうさんが特別な呪文を唱えてあげよう」
「うん」
「いくぞ、『いたいのいたいの飛んでいけ~』」
そう言ってひよこの額を優しく撫でる。そんな様子を不思議そうに見つめるルイス。
「義雄様、その呪文は?」
「呪文……というか俺の世界のおまじないかな? 魔法ではなくて癒しの言葉、心の不安を取り除いてやる言葉かなあ……どうだ? ひよこ、痛いのどっかいったか?」
「うん! いたくなくなった!」
「そうか~ よかったな」
「優しい、魔法ですね」
「そうかもな。俺が使える唯一の魔法だよ」
直後、血相変えて駆けつけたエイブルさんにめっさ怒られたのは言うまでもない。ベイカーと揃って絶賛反省中(正座)の俺のところへひよこがやって来る。いかんぞひよこ! 今、俺の足は痺れているから、少しの衝撃でエライことになるぞ! ダメだぞ~ フリじゃないぞ!
ペタペタ。
な、そんな!! そこはぁ!!
「おとうさん? 『いたいのいたいのとんでけー♪』」
「あうふ!!」
そ、そこはらメェ~!
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