勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

文字の大きさ
65 / 124

65話 エエ~、ソナコトナイデスヨ

しおりを挟む



 俺に身を預け、浅く繰り返す息づかいの下、エイブルが小さく答える。

「すいません義雄様……皆様の声に少し当てられたようです……」
「エイブル様っ!!」

 たちまち俺たちの周囲を取り囲むメイド隊。不安げな表情でエイブルを見守る。

 しまった!!

 エイブルの身に着けている巫女装束は唯一大霊廟オリジナルだ。その中の装備『天冠』こいつの能力は《交霊》、霊との対話だった。これを身につけていたエイブルは彼等の声をその身に全て引き受けていた。なまじ悪意が無いため巫女装束に付与されていた《退魔》、悪霊の攻撃をレジストするヤツは発動しなかったようだ。数万の意識の奔流を一身に受けたエイブルが無事ですむはずがない。

「すまん、エイブル! 俺のせいだ! ひよ!!」
「うん!! いたいのいたいのとんでけー!!」

 心得たとばかりに詠唱されるひよこの謎魔法(もう、謎でも無いけど)を受けたエイブルの体調がたちどころに回復する。それどころか周囲を囲んでいたメイド隊の疲労までも回復する。もう、どのくらい高レベルの魔法か見当も付かんよ。

「エイブル、もう大丈夫か?」
「はい……」

 回復したとはいえ、あれだけの目にあった直後だ、精神的な負担が無くなるわけじゃない。負の記憶はやもすれば生涯彼女を責めさいなむ。

「くそっ!」

 忌々しげにエイブルの天冠に手を伸ばす俺の手をエイブルの手がそっとさえぎる。

「ダメですよ。まだ終わっていません。それに、受け入れたあの方々の想いを私は苦痛とは思っていません」

 強いなエイブル。俺にその瞳に宿した強い意志を無碍にする事は出来ない。

「わかった……」

 引っ込めようとした手をエイブルさんが掴む。ん?

「あ、あと、もう少し……このままで」

 猫耳をパタパタさせ、頰を染めるエイブルさん。ん? ああ、エイブルさんを抱きかかえたままでした。うん、俺も嫌じゃあ無いけどね。でも周りを見てみな、メイド隊のみんなが生暖かい目で見守ってるぞ。
 ホッとした表情のメイド隊の面々。ナカノが微笑みながら呟く。

「良かった。いつものエイブル様です」
「ど、どういう意味ですにゃ!みんな私のことをどう思ってるのですか?」
「言葉」
「通り」

 追い込み上手の双子さん。応えるようにエイブルさんの顔はさらに赤くなってるし。

「うにゃにゃ……」



 第1部は多少のアクシデントもあったが無事終了した事を王様達に報告する。

「203高地の霊体の9割が消滅、いえ、昇天しました」
「彼の者達の魂は救われたのだろうか……どう思う? 義雄殿」
「大丈夫でしょう。説明するのははばかられますが、俺が保証しますよ」

 あとは任せたぞ神の爺さん。そっちに送ったであろう魂の数はハンパな数じゃ無い。さすがに察しろよ、そしてフォローよろしく。

「しかし全てを、その、昇天とか言うわけにはいかんのだな」
「ええ、そうですね。ご覧の通り、残る彼等、彼女等は未だに戦い続けていますから。言い方悪いですけど妄執も強いのでしょう」

 今、大慰霊祭第1部を終えて、この地に残る亡者の姿には共通の特徴があった。それは霊となりながらもその手には一振りの剣、一柄の槍が握られている事だ。最後まで戦い力尽きたのであろう戦士や騎士。果たせなかった責務、守れなかった約束。その強い慚愧の念が未だ彼等をこの地に縛り付けているのだろう。

「彼等の魂も救ってやれるのか?」
「ええ、そのための第2部です。しっかり言い聞かせてあの世に送りますよ」

 第1部を終えて休息に入るメイド隊。その時間にも裏方の俺には色々とする事がある。エイブルの一件もある。今まで以上にみんなの体調や、心のケアとかに気をつけねば。

「ルイス、念のためみんなのメディカルチェックをしてくれ。あと能力や称号、加護に変化がないかも確認を」
「はい」

 ルイスの診察によるとメイドレベルには大きな変化はなかったようだ。慰霊という行為が魔獣討伐などとは違うこともあり、単純に経験値として反映されない可能性は想定していた。だって葬式や法事みたいなもんだしな。そんなんでレベル上がってたら坊主が最強職になるわ。
 だからといってそれが無為であったわけではない。多くの魂を天へと送る行為はある種のクエストをクリアしたと言ってもいいはずだ。それは彼女達に大きな変化をもたらしてもおかしくはない。

 で、俺の推測は大当りするわけだ。

「全員が新たな神与称号を得たようです。『巫女』です」
「うん」

 これを待っていた。いや、こうなる事を狙っていた、かな。この称号を得るために神楽舞とか意図して形から入ったところはあるんだよ。

『巫女』が称号化する事で、この世界における巫女の意味を全否定する事が出来た。まさにソルティアザマアだよ。これでメイド隊の子の巫女とされていた過去へのトラウマは払拭されるかな?

 そうして、もう一つの狙い。巫女の持つ本来の意味、というか能力だ。

 そう、巫女は神の依代だ。



「え? 呼び戻すんですか?」
「ああ、新称号が出たからな。戸惑っている子もいるだろう。ここは一度全員を集めて第2部をもう一度詰め直す。東西北のメイド隊に一度、本部指揮所へ戻るよう伝えてくれ」
「はあ……」

 指揮車輌のM577で各隊への連絡を任せていたベイカーにそう伝えると、思い迷うところがあるのか、歯切れの悪い返事が帰ってきた。

「どうした?」
「いいんですかね、王や大臣の方々にお待ちいただくようになりますが。宮仕えの私としてはそこが気になりまして」
「良いんだよ、別に彼らは来賓じゃあない。どっちかって言えば運営側だ。そうだな、いっそ彼等も作戦会議に参加させよう。俺から王様に言うからお前は皆を呼び戻してくれ」
「了解です」

 俺は、その足で国王夫妻と大臣達の為に設けた天幕に計画の一部変更を伝えるべく向かった。

「ふむ、予定を変更すると言うのだな?」
「ええ、少し状況が変わりましたので、今一度メイド隊全員集めてミーティングをします。そこで、この場にいる皆さんにも参加していただきたいのです」
「それは構わんが、我々が参加する理由を聞いても良いのかな?」
「そうですね。ファドリシアの、世界の命運に関わる事だと思っていただければ」
「うむ」
「あと、内容は記録に残しません。他言無用でお願いします」
「よもや、他言する者などおらんだろうが王家の名にかけて誓おう」

 俺達のやり取りから事の重大さを察したのだろう。王様の言葉に居合わせた大臣達も首肯する。これでお膳立ては揃った。それじゃあ後顧の憂いなくファドリシア王国を巻き込ませていただきますかね。

「……義雄殿」
「何ですか?」
「今、ものすご~く、義雄殿の顔つきが悪い顔に見えたのだが、気のせいだろうか?」
「エエ~、ソナコトナイデスヨ」
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...