勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

文字の大きさ
66 / 124

66話 なにコレ気持ちいいわ(笑)

しおりを挟む
 神楽殿に集められたエイブルメイド隊、アケノ爺さんs、国王夫妻、大臣、近衛騎士団。今回の大慰霊祭に関わった全員な訳だが、これってこの国の中枢が勢ぞろいしてるよな。よく考えたら王都空っぽじゃん。これアレだ、大本営だよね。一国の意思決定機関が丸々、辺境の地にあるとか将来ファドリシアの教科書に載ったりしてな。その時歴史が動いたとか、203高地会議とか。

 さて、まずは一発ぶちかましますか。ここでイニシアチブをとってしまえば、今後の展開をコントロールしやすくなるしね。

「うちのひよこですが……神です」
「尊い……」
「うむ、尊い」

 真顔で答えるお歴々。なんだこの反応? あ、あれ? ひよこのかわいさ、もしかしてこじらせてませんか? 

「あの、よく聞いて下さいよ。うちのひよこはおそらくこの世界で、名を奪われて力を失った女神です!」
「……」

 なんだよ、この間は……

「ななな! なんですとおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっ!?」

 え? 今、理解したの? 全員かよ!! お前ら全員かよ!?

 薄々感じるものがあったのだろうエイブル達は、それでも、え? って感じで驚いてたけど、他の連中が酷い。もう馬鹿じゃねえ? っていう驚き方だよ。アカン、ひよこのカリスマ性が凄まじすぎて、こいつらの目は曇りまくりだ。ここはしっかりと説明がいるわ。

 こうして俺はここから小一時間、ひよことの出会いから謎呪文の獲得の経緯と実践、その尋常じゃないカリスマ性とかみっちりと説明する羽目になった。

「~と、いうわけです」
『ななな! なんですとおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっ!?』

 さっきより声デカッ!

 とりあえず、皆が落ち着くのを待って話を続けよう。



「ひよこ……様が名を奪われし女神である事はわかった。いや、そう考えるしかない。で、義雄殿はどうしたいのだ? その、女神を立てて魔王を倒すのか? ソルティアの蛮行を正すのか?」
「まずは皆さんに守っていただきたい事があります」
「守る?」

 筆頭大臣の代表質問。皆がてんで勝手に質問をしないあたりは、さすがファドリシアの政治中枢を担うだけある。

「ひよこを女神と呼ばないでくださいーー女神として扱うことも控えていただきます。ひよこに女神の肩書きは不要です」
「な、なんですと!?」
「我らの奉じる神が失われて幾星霜。どれだけの者がこの日を待ち望んだと思われているのか! 義雄殿も所詮異邦人、我らの想いなどーー」
「皆、控えよ!!」

 紛糾し、荒れる場。怒号すらも飛び交いかねない状況に、ファドリシア王の一喝が響き渡る。おし黙る面々を前に王様が一変、穏やかな口調で俺に問いかける。

「よもや義雄殿が我らの想いをないがしろにすることはあるまい。そうであろう?」

王様、ナイスアシスト!

「ええ、これから説明させていただきますよ。皆さんが納得する説明をね」



「ひよこを女神にさせない理由はソルティアの存在です。ひよこの力は弱く、やもすれば吹き消されかねないほどに小さいです。今、ひよこの力が及ぶのは彼女の手が触れるところまでです。そんなひよこの存在をソルティアの連中が掴んだらどうするか、想像してみて下さい。ひよこが自らの意思で女神を名乗れるくらいに強くなるまで俺たちはひよこを守らなければいけない。そのためにはひよこの正体を知られるのは避けたいのです」

……てのがタテマエ。

 俺は203高地での出会いの時から分かっていた。この子がいずれ世界を救うカギか、世界を滅ぼす引き金となるであろう事を。だが、神としての自覚がないひよこは、俺に言わせれば、ただの子供だ。しかも可愛い俺の娘だよ。どこの世界に自分の子に一方的な他人のエゴを背負わせる親がいるかよ。
 ひよこには真っ直ぐ育って欲しい。人の中で子供らしく育てる事で世界を知り、多くの人と繋がり、神と人との付き合い方を学んで欲しいのだ。女神ソルティアは人との関わり方を誤った。結果、世界は大きく歪んだ。そんな事はさせない。

 女神? ひよこって名付けた時から、ひよこはひよこなんだよ。

「義雄様……義雄様のお言葉、ひよこ様への深い愛も、その深慮も十分に理解しました。ですが……ですが! それでも割り切れぬ我らの……想いをお察し……ください」

 感極まって、人目もはばからず泣き出す大臣。それは千年を超えるファドリシアの民の想いでもあるのだろう。

「神の御力の根源は民の信仰の深さによるものと聞き及んでおります。このままひよこ様のお立場を隠しおおせたとしても、それではいつまでも神の御力を取り戻せないのではないでしょうか? ならばこの命、女神の盾として捧げましょう。義雄様、何卒……」

 ウォーレン将軍がなおも食い下がる。後半は言葉にならない。

「答えを出せるのは義雄殿だけだ。かの者達、いや、この世界に住まう全ての想いを同じくする者達にどう応える?」

 真っ直ぐに俺を見つめる王様。

「ひよこが神を名乗らんでも、堂々と崇めりゃいいじゃないですか。大体、あんたら既にそれをやってるでしょ?」
「な? なんですと?」

 全員の頭の上に『?』が浮かんでいるのが俺には見えるよ。さんざん『尊い』って言っておきながらこれかい。まあ、千年以上神様との付き合いが無いんだ、仕方がないか。

「俺はひよこをこの世界の頂点、トップアイドルに育てます!!」

「へ? トップ……アイドル?」

 居合わせた全員が見事なまでに「ぽかーん」と間の抜けた顔を晒している。なにコレ気持ちいい(笑)

「異世界アイドル第1号! そう、ひよこプロジェクトです!!」
「義雄殿、言ってる意味がわからん。ひよこプロジェクト?」
「『カレーの勇者さまっ!』発信のアイドルです」



「あ、アイドルとはなんだ?」
「アイドルは俺の元いた世界の称号です。古代文明において『偶像』『崇拝者』という意味を起源とする言葉で、ある種の信仰の形とも言えます。特徴は神を信仰するのと極めて似ていて、個人を崇拝します。その対象がアイドルなのです」
「個人を崇拝?」
「神ではなく?」
「ソルティアなら異端扱い、いや、そうでなくても神を冒涜するとか言われそうですが、対象はひよこだよ。神ですが、なにか問題が?」
「!!」

 前世と違い、メディアの発達していないこの世界にアイドルが発生する土壌はまだない。せいぜい街の歌姫程度だろう。だが転送ポータルやカレーチェーンの全世界展開で情報発信の基盤を手に入れた俺たちなら、ひよこの超絶カリスマと合わせてひよこをアイドルにする事は十分可能だ。

「そして信者に当たるのが『ファン』です。皆さんはこれになってもらいます」
「ファン?」
「ええ。ファンはアイドルを応援し、その活動を支援します。そしてアイドルの歌や踊りを愛でます! 愛でまくりです!」
「め、愛でまくり……」
「ひよこ……様が、アイドル……」
「それ! 今はひよこに遠慮がちに『様』つけてますけどアイドルのひよこになら『ひよこ様』と堂々と言えます。むしろ熱烈なファンであればこそです」
「堂々とひよこ様を愛でられる……」

 うん。はた目にはかなりイタイですけどね。

「あなた達はファンとして堂々とひよこを愛でればいいんです!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!』

 湧き上がる大歓声!

「さすが義雄様!!」
「我らが勇者!!」

 俺はすっと右手を上げ、皆を制する。

「さらに!」

 一瞬にして静まり返り、俺の言葉を固唾をのんで見守る国王夫妻以下重臣達。エイブルメイド隊、アケノ爺さんs、近衛騎士団、全ての視線が俺に集まる。

「ファンのための組織を作ります。名付けて『ファンクラブ』!」
「ファンクラブ……だと?」
「なんと、特典付きです。記念すべき初回入会の皆さんはひよこプレミアム会員として、特製ファンクラブ会員カードをプレゼント! ひよこのあらゆるイベントにVIP招待されます! 」

 まさに、会いに行けるアイドル。神だけど。

「本来はカレーの勇者さまっのお食事ポイントを貯めて、銅、銀、金、そしてプラチナに至るわけですが、皆さんは、さらにその上、ファンクラブの頂点とも言える『オリハルコン会員カード』(非売品)です」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!』
「ぜひ会員番号一桁台を!」
「ぬ、抜け駆けはずるいですぞ!」
「いや、わし大臣だし!」
「わしも大臣ですぞ!」
「将軍です! 将軍です!」

 ウォーレン将軍まで……部下の近衛騎士団の方々がすごい残念そうな目で眺めてますよ。いかん、こんなんで国が乱れたら末代まで語り継がれるぞ。

「大丈夫! 大丈夫です! オリハルコン会員カードにはシリアルナンバーは付きません!」
「ま、まあそういう事なら……」

 そんなやりとりを羨ましそうに見ている近衛騎士団の人たち。ベイカーじゃああるまいし、さすがにヒャッハーは出来んよねえ。

「あ~、近衛騎士の君達には別のがあるよ。君達には『ひよこ親衛隊』を名乗ってもらおうかな」
「な、引き抜きか? こ、近衛騎士団だぞ!!」

 さすがに慌てる王様。もしかしたら普通に全員移籍しかねないもんなあ。

「いえいえ、親衛隊には非番の時とか手の空いている時にひよこのイベント警護をお願いするだけですよ」
「義雄殿、我らが忠誠を捧げるは、ファドリシア王のみ、それはいささか……」

 さすがウォーレン将軍。この状況で自分を見失わないとは武人の鑑。

「ウォーレン将軍、親衛隊長をお願いします」
「御意」
「うおいっ!!」

 鑑、チョロいな。

 なにを思ったか、双子がトコトコとみんなの前に並ぶや両手を高く上げる。

「ひよこを」
「あがめよ」

 そう言って両手でなにやらハンドサインを作った。掲げられたのはカタカナの『ヒ』の字。お前らいったいどこでそんなネタ仕入れてきてるんだよ?

 呼応するように次々と掲げられる『ヒ』のハンドサイン。ノリが良すぎですよあんたら。
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...