勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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67話 ホント、ブレないですよね

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 ひよこカミングアウトとひよこプロジェクトの立ち上げ発表を終え、待機用の天幕で大慰霊祭第2部のミィーティングに突入。王様や大臣達は別に設けられた天幕で、今後の方策について話し合うとのことで、今ここにいるのは俺、ひよこ、エイブルメイド隊。それと……

「あの、なんで王妃様がここに?」

 しっかりとひよこを膝の上に乗せた王妃様。

「私、政には口を出しませんのよ。ここでひよこニウムの補給をしてます」
「さいですか、エイブルニウムもいります?」
「ええ、それは後程」

 ホント、ブレないですよね。

「……じゃあ、始めようか。みんな、新称号は確認したか?」
「はい」×全員
「ひよこの一件でワタワタしたけど、君たちを呼び返したのは、新たに付いた称号『巫女』についてだ。
「……」

 神妙な面持ちで耳を傾けるメイド隊員(巫女仕様)。今回の大慰霊祭の前説で、ソルティアによって植えつけられた「巫女」についての誤った考えは正され、だからこそのわだかまりを捨てた、本来の巫女装束を纏っての神楽舞は大成功を納めたわけだが、直後に付いた『巫女』という称号にはさすがに戸惑いは隠せないのだろう。

「この称号は第1部の神楽舞、おそらく大慰霊祭という偉業ーークエストの達成によって付与された称号だ。君たちは正統な『巫女』となったんだよ。これはソルティアの馬鹿どもが付けたエセ称号とは次元が違う、言わば神から与えられた『祝福』だ」

 俺の説明に皆の顔から緊張が解ける。そして、ここからが本番だ。

「これにはさっき言ったひよこの正体が大きく関わってくるんだ。ひよこが名を失った神だって話をしたよね」
「ひよこちゃん……」

 思い当たる節がありまくりだもんなあ。みんなの顔が真顔に戻ってしまったのはさもあらんだよ。

「これには俺の中で確信に近い推測があった。それに伴う君たちの存在についてもね。これまでの第1部の計画にはそれを裏付ける目的があったんだ」
「目的……ですか?」
「神の喪失とともに失われた奇跡の代行者。ソルティアでいうところの神官にあたる存在。それが君たちじゃないかなってね」
「!!」

 流石に驚くよなあ。皆、ずっと自分の運命を負い目に感じて生きてきたんだもんな。

「そこで俺は試してみた。神と巫女の関係性を再現する事でなんらかの結果が現れるんじゃないかって。俺の世界では巫女の仕事は神や御魂を鎮める為に舞う。また、失われた神の威光を取り戻す為に舞うんだ」

 俺の世界の神話で天照大神が天岩戸にお隠れになって、世界から光が失われた。天照大神を天岩戸から誘い出すために天鈿女命あまのうずめのみことによって捧げられた舞に誘われて岩戸を出て、世界は光を取り戻した。

 そう、『神話再現』そいつをやってみた。その結果は俺の想像以上のものだった。

「でも、義雄様がおっしゃる事が正しいとして、私たちは未だに神聖魔法が使えません」

 ナカノが当惑気味に口を開く。俺の言うことと現実には大きな開きがあるのだから仕方がないっちゃー仕方がない。エイブル達は新たな称号を得たにもかかわらず、ひよこ魔法を含め、神聖魔法らしきものを覚えたものはいなかった。そこは俺も期待していたところではあるだけに最初はがっかりしたんだけどさ。

「うーん、そこは仕方がないんじゃないかな?」
「ええっ?」
「ひよこ呪文はあくまで神の奇跡だ。みんなが巫女になりたてって事や、ひよこが神として幼いから力がまだ弱くおそらく神としての自覚も芽生えていないとか、色々な要因が考えられる。まあ、そこはおいおいになんとかするよ」
「義雄様がそう言うのなら……では、私たちは何をすればいいのでしょう?」

 何をするか、それまでの想定以上の事をやれる可能性がここに至って急浮上してきたのだ。

「巫女に出来ることは、先ほど言ったこと以外に、もう一つあるんだ」
「もう一つ……?」
「それは神の『依代よりしろ』だ」
依代よりしろですか?」
「なに」
「それ?」
「自らの身に神をおろして神の言葉を伝える役目だ。ソルティアの神聖魔法とかは神の力の一端に過ぎない。それと違い、神の力を直接行使する。つまりは君たちを介して神の奇跡を起こす」

 静まり返った中でヴィラールとペロサが互いの手をぎゅっと握り合い呟いた。

「なんか」
「コワイ」

 皆の心の中を代弁した二人の言葉。今からやろうとすることはこの世界の『人』の領域を超えた行いと言える。

「リスクがないとは言えない。俺の世界の昔話にも、過ぎた力や不完全な神との合一から生まれた悲劇は数多く残っていたよ。だからこそ、敢えて言わせてもらう。君たちエイブルメイド隊がひよこと出会い、これまでに培ってきた絆。その答えが『巫女』の称号だ。今、君たちはこの世界で最も神に近しい存在だという証だ」
「……」

 今この場に迷いは不要だ。俺に出来ることは彼女達の背中を押してやる事だよな。

「ひよこ」
「なあに、おとうさん?」
「ひよこはここにいるみんなは好きか?」
「うん! おとうさんもおかあさんもおねいちゃんもおばあちゃんもだいすき!! みんなひよこのかぞくだよ!!」

 ひよこの言葉に皆がハッと顔を上げる。先ほどまでの不安に陰った瞳の奥に強い意志が燃立つ炎のように宿る。そんなみんなの総意をエイブルが代弁する。

「義雄様、ひよこちゃんは私達にとって家族です。家族の言葉を信じない者はいません。そして義雄様のご期待に応えない者はここには誰一人としていません!」

 エイブルの言葉に皆が首肯する。

「みんなありがとう。では、大慰霊祭第2部を始めようか」
「はい!!」

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