勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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68話 おれ、この世界を救ったらエイブルに結婚申し込むわ

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 一時解散し、具体的な話は後でするということで、天幕に残ったのは俺とエイブル。

「エイブル、付き合いの長い君から見て、皆の様子はどうだ?」
「ええ、大丈夫です。これまで以上に高い士気です」
「そっか……」
「義雄様?」

うーん。

 正直、計算できない部分がある。メイド隊の新称号『巫女』に関しては問題ないだろう、あとはひよこの新呪文『まんまんちゃー』だ。おそらく高レベルの呪文、いや、神の奇跡だ。ひよこはともかくメイド隊の皆のことを考えればキャパシティとかの問題で二度目を撃てる保証はない。リハ無し本番一発勝負だ。

 だとしたら、どう布陣すべきだろう?

《203高地》
高さはマテリアルに覆われた部分だけだと約200m。マテリアル外縁部までは山頂からおおよそ4kmだから斜度は5パーセント。外縁部の周りは腰丈ほどの草に覆われた中型肉食魔獣のテリトリー。ゴーレムは駆逐済みで、あとは成仏できなかった亡霊が目算で2万~3万。

《まんまんちゃー》
一応神聖魔法と考えて、ただし神の奇跡クラスで、おそらく効果は絶大だろう。だが、効果範囲は接触? 放射? だとしたら射程は? 効果対象は一体? 複数? 全部が未知数ときたもんだ。

 そんな魔法(仮)を万単位の対象に同時に且つ、むらなく効果を及ぼさなければならない。ひよこの知る魔法は『いたいのいたいのとんでけー』だが、そうなると『まんまんちゃー』も接触魔法の可能性が高い。なんせひよこの知る魔法はそれだけだから、突然広範囲魔法とか、違うイメージが沸き起こるとかは考えにくい。

 対象の亡霊を完全包囲してのまんまんちゃを発動……範囲は203高地のマテリアルに覆われた全域、山頂から半径4km圏内だから面積なら5240000㎡は東京ドーム約1000個分。エイブルメイド隊の一人当たりの受け持ちは東京ドーム20個。周囲は約24kmでエイブルメイド隊で包囲したら500mに一人……ザルにもならん。

「無理ゲーじゃん……」
「え? 仰ってる意味がわかりません」
「いや、203高地の亡霊を全部カバーして、成仏させる具体的な方法が思いつかん」
「え、今更ですか?」


 ゴメン。あの場をおさめるというか、イメージはあるんだ。ただ、決定的なピースが足りない気がするんだよ。ああ、今ここにスマホがあれば、某大規模掲示板にスレ立てして聞くのに。軍事板かオカルト板、いやいや、ハイファンタジー板かなろう板? さしずめスレタイは『2~3万のアンデッドを約50人のメイドで殲滅したいんだが』

 うん、荒れる。最悪、「クソスレ立てんな!」で終了するな。ワイ涙目ってオチが見えるぞ。

「とはいえ、スマホ欲しいなあ……」
「義雄様、スマホって何ですか?」
「ああ、WEBというビミョーなアカシックレコードにアクセスするアーティファクトだよ」
「すいません。意味が全然わかりません」

 ですよね~

「それって、大霊廟には無いんでしょうか?」
「無いなあ……」

 スマホどころかガラケーも無いな。あ~先代さんが令和とは言わん、平成までご存命ならiモードで……いや、異世界だと流石に圏外かなあ。

「あの、義雄様?」
「ん?」
「その、亡霊の方達って203高地から離れられないんですよね?」
「うん。未練やら妄執やらでね、地縛霊みたいなもんかな。あの土地に縛り付けられている感じだね」
「だったら、まんまんちゃーを足元のマテリアルに放ったら、皆さんビリビリ~ってならないでしょうか? ……すいません無理ですよね?」
「そ……」
「そ?」
『それだあああああああああぁっ!!』
「な、にゃっ! ?」

 喜びのあまり思わずエイブルを抱き上げる。それだよ!

 マテリアルは魔力との親和性が高い。例えるなら金属に電気を通すように撃ち込まれたまんまんちゃーはマテリアル上を一瞬にして広がり、203高地に縛り付けられた全ての亡霊に絶大な効果を発揮するはずだ。

「困った時のエイブルさんだよ! 俺にとってのマジ女神だ!!」
「あ、あの~、義雄様……」
「ん?」
「し、しばらくこのままで……」
「!」

 呟いたエイブルさんの肩は小刻みに震えていた。俺を見上げる顔は上気し、瞳は潤んでいる。やがてゆっくりと瞳が閉じられる。

 おれ、この世界を救ったらエイブルに結婚申し込むわ。



「その、まんまんちゃーを地面に向かって撃つんですか?」
「亡霊にじゃなくて?」

 ナカノが当惑気味に尋ね、グリセンティが続く。

「意味」とヴィラール。
「不明」とペロサ。

 再び皆を招集し第2部のメインであるひよこ魔法、まんまんちゃーの対象目標を亡霊にではなく、地面に向けて発射するように指示を出したのだが、案の定、質問が次々と飛び出してきた。周りに控えているメイド達も同じ思いなのだろう、固唾を飲んで俺の返答を見守る。

「うん。まんまんちゃーの効果を完璧にするにはこれが一番だ」

 どうにもふに落ちないという顔つきの皆の前で、俺はテーブルの上に細かくした木片を撒く。

「テーブルは203高地、木片は亡霊だ。一度にこれを全て動かせるか?」
「フって息を吹いたら……」
「全部だぞ」
「じゃあフ~って吹いたら?」
「長く広く息を吹きかけるという事か、魔法だとしたらそんなに続くかな」
「……」
「エイブル、アレを持ってきてくれ」
「はい」

 俺はテーブルの上の木片を片付けるとエイブルに前もって打ち合わせておいた物を持ってくるよう促した。エイブルが別の机の上に置いてあった水盆をテーブルの上に据える。水盆の中には水が満たされておりその上にはいくつかの木片が浮いている。

「義雄様、これは?」
「水盆が203高地、満たされた水は203高地を覆うマテリアルだ。浮かんでいる木片が亡霊」
「見てろよ」

 俺は水面を指先で弾いた。水面には指先を中心に小さな波が立ち、やがてそれは波紋となって水面全体に広がり浮かんでいる木片全てを小さく揺らす。

「!!」

 見ていたみんなの目が大きく見開かれる、さながら『エウレカ~!』って感じだろうな。

「義雄様……」
「うん。よろしく頼むよ」
「はい!!」

 一斉に皆の力強い返事が帰ってきた。みんな聡いからほんと、助かるよ。さ~これで準備は整ったぞと。
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