勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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69話 『ひよこ大地に立つ』

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 直前ミーティングを終え、メイド隊の皆はそれぞれの担当地区でのグループミーティングに別れた。残ったのは俺とひよこ。王妃様はなんかニヨニヨしながらエイブルについて行った。エイブルニウムの補給かいな? 

「はっ!!」

 ちょ! 王妃様! まだ一線は超えていませんから!

 作戦開始まで、さしてする事もない俺とひよこは本部の周辺を皆の様子見も兼ねてうろつく事にした。

 第2部の開始は予定を大きくずれ込んで深夜に及んでいるにもかかわらず、皆の士気はこれまで以上に高い。つか、メイド隊なら話がわかるんだがハイテンションなんですよ周りが。

 近衛騎士団の面々もなんか見たことないような精悍な表情ですな。これはひよこ親衛隊効果だけでは無いな。チラチラとメイド隊の娘を見ては耳やら顔やら赤らめているし、お前ら中学生か! まあ、第1部での彼女達の神楽舞を目の当たりにしたら、大概の野郎はハートにクリティカルヒットだわな。

 もっとも当のメイド隊の娘はそんな視線など微塵も意識してないな。これから始まる大仕事に意識を集中しているのか準備作業に余念がない。そんなひたむきな横顔が犠牲者を次々に量産しているんだろうが、うちの娘達は一筋縄じゃあいかんよ。せいぜい精進するが良い若人よ。俺も応援しているぞー(棒読み)。

「尊い……」
「尊い……」
「ひよこ様……」

 遠まきにひよこを見守るファドリシアの重鎮のお歴々……近衛の連中と違い、大臣連中の熱視線はひよこ一択だ。側から見るとええ年こいたおっさんだけにイタイ。カミングアウトはちょい早まったかなぁ。うん、取り敢えずスルーでいこう。

「ひよこ、眠くないか?」

 いつもならとっくに眠っている時間だもんな、ひよこには無理をさせたくないがこの流れは止めたくない。あ~ジレンマだよなあ。

「うん! おそとでよふかしってたのしいよ!」

 あらら、テンションお高めなのは、うちの娘も一緒でした。子供ってビッグイベントではたいがいこうなるんだよなあ。俺も遠足の前の夜は寝付けなかったし、大晦日とか親の許しもらって、妹とお菓子や漫画を準備して最強の布陣でカウントダウンを迎えていたなあ。もっとも妹は、俺の「寝たら死ぬぞ~!」という叫びをよそに早々と寝倒しといて、翌日になんで起こさなかったって大げんかになっていたよ。

「それじゃあひよこ、そろそろみんなのところに行こうか」
「うん!」



「東西北各攻略班に振り分けられた者はM113に乗車し、担当地域に速やかに移動してくれ」
「はい」
「直掩はひよこ親衛隊。巫女メイドの衣装に武装は無いから周辺警戒をしっかり頼むぞ!」
「はっ!」
「輸送のM113の運転、無線交信はアケノ爺さん達で」
「うむ、任せろ」
「よし、移動開始!」
「行ってきます!」

 M113に乗り込む巫女メイド達。軽い駆動音を立てて担当地区へと進み出す。並走する近衛の騎馬は各15騎。彼らの役目は何かあったら守るよりもメイド隊を乗せて逃げろだ。正直、タイマンならステゴロで近衞騎士倒すもんな、うちのお嬢さん達は。最優先は皆の安全だよ。

 30分後、北部に向かった隊から到着の無線が西部経由で届いた。思いっきり反対側になるわけで203高地が邪魔をしているのか直接の通話が出来なかった。

「ちょっとした誤算だなあ……無線は波長が長いから山の裏でも届くと思っていたんだがなあ」

 ふと、203高地に浮かぶ亡霊の姿が目に入る。まさか霊障……いやあここでオカルトはないわ~。実際、東西との連絡はつくし、やっぱ出力かなあ。
 眉間にしわを寄せてウンウン唸っているとサイガがツッコミを入れてきた。

「義雄様、しわ、しわ!」

 ツンツンと自分の眉間をつつくサイガ。わかっているよ性分なんだよ。

「義雄様」と、ヴィラール。
「ですから」と、ペロサ。

なんだよ、エイブルの口真似か? リラックスしているようだな。それじゃ次に進もうか。

「皆、マテリアルの上に裸足になってくれ。」

北部担当の巫女メイド達12名が203高地のマテリアルに覆われた地に立つ。進行状況をベイカーが各隊に無線で伝える。俺はひよこを肩車してエイブルの傍に立つと、次の指示を出す。

「エイブル、彼らの心の声を拾えるか?」
「やってみます」
「頼む。無理はするなよ」

 オリジナルの天冠に付与された力は『交感』――コイツは死者の声を聞き、彼らの心に訴えかける事ができる。先程は無数の声なき声を不用意に食らってしまったエイブルが体調を崩してしまい、かなり焦った。今回はそこらへんを踏まえて慎重に進めよう。

 両手で耳を覆い、潜水艦のソナーマンのように霊達の声を探るエイブル。やがて彼女を介して語られたのは『慙愧』『悲憤』『怨嗟』それらが入り混じった叫びだそうだ。

「悲しいですね。こんな思いに縛られて自分の力ではどうしようもないのでしょうね」
「それも今日までだ。みんなで終わらせよう」
「はい!」
「エイブル、彼らに伝えてくれ。『名を得し神、ひよこの名において、第16代ファドリシア王、ヨアヒム・アウル・ファドリシア及び勇者高槻義雄が宣する。諸君らの任はここに果たされた。死を乗り越え、新たな生を受けよ!』だ」
「はい!」

 スッと目を閉じ、両手を高く差し上げるエイブル頭上の天冠柔らかな光に包まれると、それに応えるように亡霊の動きが止まる。その表情は一様に驚きに満ち溢れている。
うん、つかみはOK。それでは――

「ひよこも裸足になって地面に立ってみようか」
「おくつぬぐの?」

 肩からひよこを地面に下ろして靴を脱がす。トストスと足元の感触を確かめるように地面を踏みしめるひよこ。

「わっ! ゆびのあいだにおすながはいってムズムズする~」

 少しでもマテリアルとの接触部分を増やしてみるのもいいかなと、まあ、気休めですよ、気休め。そういやあ泥んこ遊びとかしてないなあ、大霊廟に帰ったら砂場を作ろう。砂はもちろんマテリアルで。

「ベイカー、各隊に連絡!『ひよこ大地に立つ』だ。みんな、手はず通り皆はひよこに語りかけろ」
「ひよこちゃん! 力を貸して!」
「ひよこちゃん、よろしく~!」
「は~い!」
「いやいや、そばにいるからって声に出さなくてもいいぞ! 心の声な! ひよこも返事しない」

 ひよこの様子の変化を見逃すまいと見守っていると、ひよこの肩がビクッと震える。

「ひよこ?」
「おねえちゃんのこえがきこえるよ……みんなのおねがい……」
「いいぞ、ひよこ。みんなのお願い――ひよこの力をみんなに分けてやってくれ」
「うん……」

 やがてひよこの体が淡く金色に輝くのに合わせるかのようにエイブル達の体も輝き始める。おそらく他の地域のメイド達にも同じことが起こっているだろう。

「義雄様、爺さんsから報告です。メイド隊の変化を確認」
「よっしゃあ! ひよこ! みんなで一緒に唱えるんだ!『まんまんちゃー』だ。目の前の大地に向かって撃て!!」
「うん!」

 ひよこはその場にしゃがむと、両手を203高地に向かって伸ばす。ひょこの力を身に降ろした事で半ばトランス状態になっているのだろう、エイブル達もその場に膝を落とし両手を地面へと伸ばす。

『まんまんちゃー!!』

 ひよこがマテリアルに触れると同時にひよこが叫ぶ。いや、メイド隊の皆が叫んだ。普段の声とは違う高く力強い声色とともに一瞬にして203高地が黄金色染まったように輝くと、全ての亡霊が輝きに包まれる。

「これは!」

 ファドリシア王が身を乗り出し立ち上がる。全ての亡霊が剣を下ろし、俺たちの方へと向き直るとそれぞれの時代、流儀に沿ったであろう最上の敬礼を捧げ、光の中へと消えていく。203高地を覆っていた光は山頂へと集束すると天へと伸びる架け橋のように真っ直ぐに伸びてゆき、夜空へと溶け込むように消えた。
それらを見送るかのように天を仰ぐファドリシア王に続くように、王妃、おもねる大臣達、護衛の近衛騎士が、誰言うでなく天へ向かって応えるように礼を捧げた。

こうして大慰霊祭は終了した。

か~ら~の~
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