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73話 むう! こんなにキュートなのに
しおりを挟む大慰霊祭本部
203高地の幽霊は全てが浄化され天へと召されたわけで、あとのケアは神の爺さんに任せときゃなんとかなるだろう。
任務完了。と言いたいところだが……ただ一人残った幽霊――メリー。過去、勇者として召喚され魔王を倒し、ソルティアに裏切られて命を落とした古の勇者。彼女の来歴を知った皆の顔つきは神妙かつ複雑だ。
「いんねんが」
「おんねん」
それ言うほどのことか? そのとおりだけどな。
「えー、まずは解析をやってみてくれ、ルイス」
「この方、幽霊ですよね? アンデッドじゃないんですか?」
「むう! こんなにキュートなのに、アンデッド扱いは酷くない?」
いや~、こんなアンデッドっているか? つか自分でキュートとか言うな。
「自我のある霊体という事はもしかしてリッチとかでしょうか」
リッチ、ああ、死霊系のエグいのだっけ、魔法使ったりアンデッド操ったり普通の武器が通用しないとか……
「ちなみにファドリシアにはいるのか?」
「国内に限っていえばいません。死者や魔獣の犠牲者は基本的に完全収容されて埋葬されます。そうでなければ悪霊になって事態が深刻化した時に、我が国は決定的な対抗手段を持ち合わせていませんから大変なことになります」
なるほど。
「その……メリーさんは大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ。ヤバかったら、まんまんちゃーで強制退場させる」
「酷っ! おっさん酷~い!」
「おっさん言うな! なりはともかくここでの年季はお前が上だろう!」
「ブウ~!」
「それでは、解析!」
「どうだ?」
「え? これは何でしょう? 英霊?」
英霊? そんなアンデッドは知らん。神話やらなんかで言えば、神仙に近い存在だな。英雄や勇者とかが命数尽きて至る存在、そういやあ死んで仙人になる尸解仙なんてのもあるな。神の側に立つものかな? うーんどう説明したもんかな。
「大丈夫、悪いアンデッドじゃないよ」
「アンデッド言うなぁ!」
英霊メリー。結論から言えば、浮くし、消えるし、すり抜ける。しかも神の属性だから、半端な神聖魔法は効かない。あ、情報収集には持ってこいだよな。これぞ、壁に耳あり障子にメアリー。
「なんか、ロクでもない事、考えてるでしょ?」
勘もするどいなあ。霊だけに、霊感が。
「……また、なんか考えてるでしょう」
「べっに~」
☆
全ての事が収まり、さて、ファドリシア王都に帰ろうかって事になったが、転送ポータルをぶっ壊してしまった為、俺たちはファドリシアまで陸路で帰ることになった。幸い、M577が残っていたので帰りは歩くことなく帰れるぞ。
「とにかく、みんなが心配してるだろうからさっさと帰るぞ!」
「はい!」
「よし、みんな乗れ!」
「えっ?」×ALL
「休まずぶっ飛ばせば1日で帰れる! さあ!」
「さすがにソレに一日中乗ってるのは……」
「の、ノボちゃん! 転送ポータル直せないの~?」
「うう、さすがに無理です」
「全速はイヤ……全速はイヤ……」
「グリセンティ! 気をしっかり持って!」
「お尻が」
「壊れる」
皆からの総ブーイング。ナカノにいたっては無言で皆の輪からも離れてコソコソ荷物をまとめている。それ、乗る準備じゃなくて逃げる準備じゃないだろうな?
なんかメイド隊のみんなからの強い要望で無理せず帰りましょうという事になってしまった。三半規管ってレベルが上がれば強くなるってもんじゃないのか……
なんだかんだで安全運転(時速15km維持)で戻る事になり、二日かけて今日にもファドリシア王都に戻れるだろうという朝。
「ねえ、なんでわざわざ車で移動するの?」
M577の上、見上げるとフヨフヨと飛びながら付いてくるメリーが俺の前に回り込むと、不思議そうな顔で話しかけてきた。まったく、厄介なものに取り憑かれたもんだよ。
「仕方ないだろ。お前が襲ってきた時、王都に戻る転送ポータルを壊したんだから」
「転送ポータル? よくわかんないけど転移魔法みたいなもの?」
「そうだよ」
「おっさん勇者でしょ? 転移魔法使えばいいじゃん」
ぐっ、痛いところをついてくるな……
「……使えないんだよ」
「えっ?」
「転移魔法っ!! 俺はレベル1だから知らねーの!!」
「うっそー!!」
悪かったな使えなくて、大体覚えたからって使えるもんでもない。なんせ呪文の発音の悪さは鑑定団のお墨付きですよ。何より、レベルが一向に上がらないんだからどうしようもないだろ。
「勇者なのにレベル1とか、どんだけ仕事してないのよ!」
「じゃあお前使えんのかよ!」
エラソーに! 自分だって死んで幽霊になってなにも出来ないだろうが。
「使えるわよ」
「……えっ?」
「あんたねえ、そこそこ高位のアンデッドは魔法使うわよ。ましてや私は勇者よ! 英霊よ! 魔法くらい使えるわよ!」
言われりゃそうだ。高位アンデッドが強いのは高位の魔法詠唱が出来るところが大きい。つか、自分でアンデッド言うか。
「さすが……腐っても勇者」
「腐ってないし!! 人をゾンビみたい言うなあっ!!」
もう、被害妄想だよメリーさん。骨すら残ってないのに腐っているとか。
「じゃあ、お前の転移魔法でファドリシアにも行けるのか?」
「ああ、ファドリシアね。行ったことあるから大丈夫よ」
「マジ!?」
「ただし、アレよ。一緒に転移出来るのはパーティーメンバーだけよ」
「え~!」
さあどうよとばかりにフフンと鼻を鳴らし、俺を見下ろすメリー。なんか腹たつわ。
「ねえ」
「なんだよ」
「あたしを仲間にしたくなったでしょ?」
「くっ……」
正直言って、メリーの力は無視できない。だけど、幽霊なんて仲間に出来るのか? 聞いたことないぞ。
「ねえねえ~ 仲間にしてよ~ ねえねえ~」
コイツうぜー。どこの世界にアンデッドを仲間にする勇者がいるんだよ。勇者じゃないけど、さすがに無いわー。
ピロリン♪
「へ?」
突然脳内に鳴り響くインフォメーション。続けて視界にウィンドが開く。ま、まさか……
『メリーが仲間になりたそうにこちらを見ています』
『仲間にしますか?』
【する】 【しない】
ええ? マジ?
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