勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

文字の大きさ
73 / 124

73話 むう! こんなにキュートなのに

しおりを挟む




 大慰霊祭本部

 203高地の幽霊は全てが浄化され天へと召されたわけで、あとのケアは神の爺さんに任せときゃなんとかなるだろう。
 任務完了。と言いたいところだが……ただ一人残った幽霊――メリー。過去、勇者として召喚され魔王を倒し、ソルティアに裏切られて命を落とした古の勇者。彼女の来歴を知った皆の顔つきは神妙かつ複雑だ。

「いんねんが」
「おんねん」
 
 それ言うほどのことか? そのとおりだけどな。

「えー、まずは解析をやってみてくれ、ルイス」 
「この方、幽霊ですよね? アンデッドじゃないんですか?」
「むう! こんなにキュートなのに、アンデッド扱いは酷くない?」

 いや~、こんなアンデッドっているか? つか自分でキュートとか言うな。

「自我のある霊体という事はもしかしてリッチとかでしょうか」

 リッチ、ああ、死霊系のエグいのだっけ、魔法使ったりアンデッド操ったり普通の武器が通用しないとか……

「ちなみにファドリシアにはいるのか?」
「国内に限っていえばいません。死者や魔獣の犠牲者は基本的に完全収容されて埋葬されます。そうでなければ悪霊になって事態が深刻化した時に、我が国は決定的な対抗手段を持ち合わせていませんから大変なことになります」

 なるほど。

「その……メリーさんは大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ。ヤバかったら、まんまんちゃーで強制退場させる」
「酷っ! おっさん酷~い!」
「おっさん言うな! なりはともかくここでの年季はお前が上だろう!」
「ブウ~!」

「それでは、解析アナライズ!」
「どうだ?」
「え? これは何でしょう? 英霊?」

 英霊? そんなアンデッドは知らん。神話やらなんかで言えば、神仙に近い存在だな。英雄や勇者とかが命数尽きて至る存在、そういやあ死んで仙人になる尸解仙なんてのもあるな。神の側に立つものかな? うーんどう説明したもんかな。

「大丈夫、悪いアンデッドじゃないよ」
「アンデッド言うなぁ!」

 英霊メリー。結論から言えば、浮くし、消えるし、すり抜ける。しかも神の属性だから、半端な神聖魔法は効かない。あ、情報収集には持ってこいだよな。これぞ、壁に耳あり障子にメアリー。

「なんか、ロクでもない事、考えてるでしょ?」

 勘もするどいなあ。霊だけに、霊感が。

「……また、なんか考えてるでしょう」
「べっに~」



 全ての事が収まり、さて、ファドリシア王都に帰ろうかって事になったが、転送ポータルをぶっ壊してしまった為、俺たちはファドリシアまで陸路で帰ることになった。幸い、M577が残っていたので帰りは歩くことなく帰れるぞ。

「とにかく、みんなが心配してるだろうからさっさと帰るぞ!」
「はい!」
「よし、みんな乗れ!」
「えっ?」×ALL
「休まずぶっ飛ばせば1日で帰れる! さあ!」
「さすがにソレに一日中乗ってるのは……」
「の、ノボちゃん! 転送ポータル直せないの~?」
「うう、さすがに無理です」
「全速はイヤ……全速はイヤ……」
「グリセンティ! 気をしっかり持って!」
「お尻が」
「壊れる」

 皆からの総ブーイング。ナカノにいたっては無言で皆の輪からも離れてコソコソ荷物をまとめている。それ、乗る準備じゃなくて逃げる準備じゃないだろうな?

 なんかメイド隊のみんなからの強い要望で無理せず帰りましょうという事になってしまった。三半規管ってレベルが上がれば強くなるってもんじゃないのか……

 なんだかんだで安全運転(時速15km維持)で戻る事になり、二日かけて今日にもファドリシア王都に戻れるだろうという朝。

「ねえ、なんでわざわざ車で移動するの?」

 M577の上、見上げるとフヨフヨと飛びながら付いてくるメリーが俺の前に回り込むと、不思議そうな顔で話しかけてきた。まったく、厄介なものに取り憑かれたもんだよ。

「仕方ないだろ。お前が襲ってきた時、王都に戻る転送ポータルを壊したんだから」
「転送ポータル? よくわかんないけど転移魔法みたいなもの?」
「そうだよ」
「おっさん勇者でしょ? 転移魔法使えばいいじゃん」

 ぐっ、痛いところをついてくるな……

「……使えないんだよ」
「えっ?」

「転移魔法っ!! 俺はレベル1だから知らねーの!!」
「うっそー!!」

 悪かったな使えなくて、大体覚えたからって使えるもんでもない。なんせ呪文の発音の悪さは鑑定団のお墨付きですよ。何より、レベルが一向に上がらないんだからどうしようもないだろ。

「勇者なのにレベル1とか、どんだけ仕事してないのよ!」
「じゃあお前使えんのかよ!」

 エラソーに! 自分だって死んで幽霊になってなにも出来ないだろうが。

「使えるわよ」
「……えっ?」
「あんたねえ、そこそこ高位のアンデッドは魔法使うわよ。ましてや私は勇者よ! 英霊よ! 魔法くらい使えるわよ!」

 言われりゃそうだ。高位アンデッドが強いのは高位の魔法詠唱が出来るところが大きい。つか、自分でアンデッド言うか。

「さすが……腐っても勇者」
「腐ってないし!! 人をゾンビみたい言うなあっ!!」

 もう、被害妄想だよメリーさん。骨すら残ってないのに腐っているとか。

「じゃあ、お前の転移魔法でファドリシアにも行けるのか?」
「ああ、ファドリシアね。行ったことあるから大丈夫よ」
「マジ!?」
「ただし、アレよ。一緒に転移出来るのはパーティーメンバーだけよ」
「え~!」

 さあどうよとばかりにフフンと鼻を鳴らし、俺を見下ろすメリー。なんか腹たつわ。

「ねえ」
「なんだよ」
「あたしを仲間にしたくなったでしょ?」
「くっ……」

 正直言って、メリーの力は無視できない。だけど、幽霊なんて仲間に出来るのか? 聞いたことないぞ。

「ねえねえ~ 仲間にしてよ~ ねえねえ~」

 コイツうぜー。どこの世界にアンデッドを仲間にする勇者がいるんだよ。勇者じゃないけど、さすがに無いわー。

 ピロリン♪

「へ?」

 突然脳内に鳴り響くインフォメーション。続けて視界にウィンドが開く。ま、まさか……
 
 『メリーが仲間になりたそうにこちらを見ています』
 『仲間にしますか?』
 【する】 【しない】

 ええ? マジ?

しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...