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72話 ふっ、人は分かり合えるものなのね……
しおりを挟む本部天幕の中、テーブルを挟んで相対する俺とメリーさん。うっすらと背後が透けて見えるあたり幽霊に違いない。違いないのだが……なんだかなあ。
「ふっ、人は分かり合えるものなのね……」
なにかを悟ったように遠い目でのたまうメリーさん。
いやいや、あんた人じゃないですよね。て言うか、くくりで言えば悪霊か妖怪だぞ。勝手に綺麗にまとめるんじゃないよ。なにこの間の抜けた空気は?
「あんたが責任者でいいの? ていうか、この子たちの格好といい、武器といい、あなたもこっちに呼ばれた勇者なの? ホント、いい趣味してるわね」
メリーさんの口から驚きの言葉が出てきた。 【勇者】? 【あなたも】!?
「私はメアリー難波。昔、この世界に呼ばれた勇者よ」
「その名前……じゃあ君は日本から召喚された……」
「ええ」
「お笑い芸人?」
「違うわよ!!」
「いやいや、メアリー難波って、アンドロー梅田とか、バッテン荒川と同じ芸人じゃ無いの?」
「はあ? 誰よそれ?」
「アンドロー梅田は違うが、バッテン荒川は昭和を代表する伝説的な九州のお笑い芸人だぞ。いきなり芸名を名乗るとかそうじゃないのか?」
「芸名じゃ無いわよ! 本名! ハーフよ! ハーフっ!! 」
うっそでー、そうツッコミを入れたくなるくらいの容姿なんですけど。メアリーという割に肩にかかる黒髪にスレンダーな体躯。ん?瞳の色が鳶色かな? でも見た目アメリカン的な要素が微塵もないし、詐欺だよなー。
「その割に」とヴィラール。
「ボケがキレてる」とペロサ。
「なんでやねん!!」とメリーさん。
おお、双子のボケに俺以外がツッコミを入れるとか、なんか新鮮。いやいや、ここは聞きたいことが山ほどあるぞ。なんせ大慰霊祭で唯一人、ひよこ呪文『まんまんちゃー』破ったのだ。名前はメアリー難波。何というかその存在感はおおよそ幽霊らしくない。儚さとかおどろおどろしさがないのだ。何ちゅうか……存在がくどい?
現在、メイド隊は今回の大慰霊祭で大量の経験値を獲得したようで幹部以外の全員がレベル酔いにおちいって戦闘不能だ。前半の慰霊祭より、後半の浄霊の方が手強い相手だったらしく経験値も破格なものだったようで、現在ここにいるメイド隊はエイブル、ナカノ、サイガ、ルイス、グリセンティ、ヴィラールとペロサだけだ。あとは皆王都に帰した。
エイブルメイド隊で最強の戦力が残っているとはいえ、それでも状況はかなり厳しい。なにせ、あのまんまんちゃーを曲がりなりにも打ち破ったのだ。神聖呪文以外の攻撃が果たしてどれくらい通用するだろうか。
「ルイス、どう思う?」
「ひよこちゃんの呪文のまんまんちゃーは神聖呪文にあてはめれば、神の奇跡に匹敵します。それを打ち破る相手とか……」
「だよな」
さてどうしたもんか、会話が成り立つあたり、自我の確立したかなりの高位の存在だろう。ここはひとつ膝を割って話でもしてみるか……あ、メリーさん膝から下が消えてらあ。
「どうやってひよこのまんまんちゃーを破った?」
「え? まんまんちゃーって言うの? 破ってないわよ。アレはかなりやばかったわ。あんなの食らったらあたしも成仏一直線だったわね」
「破ってないだと? じゃあ、お前どうやって……」
間抜けな質問なのは百も承知だ。でもこれが聞かずにおれようか。
「飛んだのよ」
「へ?」
「飛んだのよ! ぴょんってジャンプして」
「飛んだ?」
「そう、ひよこちゃんだっけ? その、まんまんちゃーが発動した瞬間に」
「じゃあなにか? ひよこのまんまんちゃーから逃れる為に……」
まんまんちゃーは203高地を覆うマテリアルを介して山全体の亡霊に直接効果を及ぼしたはずだ。効果範囲から逃れるために出来る事は限られている。
「そう、あの一瞬、あたしはあの効果範囲にいなかったのよ!!」
「それって、まさか――」
こいつのやった事はアレだ、大晦日のカウントダウンの時、新年の変わり目にジャンプして「俺、新年に移る瞬間、地球上にいなかったんだぜ!!」って言うやつだわ。スゲー! コイツは天才的なバカだ。よくそれで何とかなると思ったよな! いや、躊躇なく動けたな!
「あのさ……なんでそんな事を?」
「決まってるでしょ。まだ成仏する訳にはいかないからよ」
「なんで?」
「それは……あたしは勇者だったからかな」
「?」
ん~話が見えん。勇者だから? って、お前勇者かよ!
「私は魔王を倒す為にソルティアに召喚されてこの世界に来たの。そうして、見事に当時の魔王を倒したわ。そこまでは普通の勇者と同じね。ただ、他の勇者と決定的な違いがあった」
「違い?」
「あたしは女」
「!!」
これは盲点だった! 古今、いや、その手のゲームや物語で女の子が主人公だったものがあるだろうか? 勇者はほぼ皆、男だ。女勇者は、そんなに多く選択肢にない。女性主人公での立ち位置はせいぜいシンデレラか悪役令嬢だ。
昨今のジェンダーフリーの状況を考えれば女性の勇者がいるという可能性は十分にあった。そして、彼女は目の前にいる。
「他の男の勇者は魔王を倒せば、お姫様と一緒になってハッピーエンドよね。世界最強の男なんて引く手あまたよ。いい女をあてがっておけば、簡単に骨抜きよ。バカだもん」
「うわっ! 言い切りおった」
「事実よ」
まったくもってその通りだ。勇者なんて分別のつかないガキだからこそなれる。いいようにおだてられて、その力を考え無しに目的に向かってぶつけられる。目的を遂げ、ご褒美を与えれば、それを馬鹿正直に受け入れ、御役御免だ。
「じゃあ世界最強の女は? この先に何があると思う?」
ああ……厳しいなあ。最強の女勇者の伴侶。男系社会において自分より強い女になびく男、ましてやそれが権威主義者の貴族や皇族であればまずいない。というかそういう風にしか勇者を見れない世界……
「全てが終わった後、あたしは世界を巡り歩いたの。自分の未来と引き換えにあたしが救った、救ったはずの世界をね」
どういう事だ? 魔王を倒したのに帰れなかった? それとも帰さなかった?
「色々知ったわ。あたしをここに呼ぶ為に何が行われたか、国を追われた人々がどうなったか。私の中に膨らんでいく疑問を、怒りをソルティアにぶつけたわ。考えが浅かった。子供だったのよね……」
「その、メリーさんはなんでここにいたんです? 」
「殺されたのよ、ここで、ソルティアの罠にはまってね」
「!!」
「あたしはここに答えがあると言う言葉に踊らされて……結局、ソルティアはあたしを切り捨てたの。この世界に裏切られた。だからこそこの世界のいく末を見届けるまでは死ねない!」
いや、死んでるから。流石に口には出さんけど。
「……なによ」
「いや、別に」
ただ彼女の事例は、今も無差別召喚を繰り返すソルティアの連中にどんな影響を及ぼしただろうか。召喚したはいいが、自分達の思惑にそぐわない勇者――籠絡が難しい大人、将来的に扱いが難しい女性、そんな連中を下手に強くしたらソルティアにとってロクなことにならないのはメリーで経験済みだ。それはこの世界の、いや、ソルティアにとって都合の悪い存在だ。では、使い道のない勇者達はどうしているのだろう?
「つーか、そんだけ酷い目にあってよく悪霊化しなかったなあ」
「そこは不思議よねえ、最初のうちは腹たって腹たって、絶対化けてでちゃるって思ってたんだけどここの魔力? に包まれてるうちにだんだん穏やかになって眠っちゃったのよ。たぶん他のみんなもそうよ」
ひよこの力か……
「でもさ、良い感じで眠ってたら、いきなり魔力が切れるじゃない! もうみんなパニックよ! 寝起きドッキリよ!」
ぷっ、例えが昭和だ。もしかしてリアルに年上じゃね?
「そういう訳で、ここで成仏する訳にはいかないの!だから、あたしはおっさんについていくわ」
「はあ?」
「あたしもメイドにしてよ!」
……なんじゃそりゃ。死人を、アンデッドを仲間にするってアリか?
「そうそう、あたしの名前、さっきも言ったけどメアリー難波よ。メリーでいいわ」
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