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84話 ある意味で俺が一番大変じゃね?
しおりを挟む「フハハハハッ!! 軟弱!軟弱~!」
「貴様らの牙など、当たらなければどうという事はない!」
大森林地帯に響き渡る叫び声。声の主はひよこ親衛隊の野郎どもです。凶暴な魔獣に臆する事なく……いや、違う。レボアを見れば襲いかかり、ヤキトリ(旧名G)の群れを見れば、これまた襲いかかりと、まさにバトルジャンキー、すでに30分以上この状態が続いております。
くっ、どーしてこーなった……
で、さすがにあのバトルジャンキーどもの中には入れない俺は適宜魔獣を狙撃しつつ、まだ魔法の扱いというか使い所に慣れていないメイド隊に矢継ぎ早にひよこ魔法の指示を飛ばし続ける羽目に陥っている。
「効かぬう! 効かぬのだあ!」
ヤキトリの強烈な一撃を受け、後衛まで弾き飛ばされた親衛隊員がすかさず身を起こし、剣を振り上げるや、ヤキトリへと駆け出す。
「いやいや! 頭から血が吹いてるから!! ナカノ! あいつに『テアテ』をかけろ!」
「はい!」
「そこの、足が変な方を向いてる奴! ノボリト!『オテアテ』だ!」
「はヒャい!!」
「あそこで血だるまでピクピクしてる奴! サイガぁ!!」
「おてあげ?」
「アホかあぁっ!! ひよこ!! あそこの血だるまの馬鹿に『いたいのいたいの』たのむ!!」
「はーい♪」
てなわけでヒャッハー!! な感じになった馬鹿共のおかげで、極限の戦場におけるひよこ魔法の運用の仕方を図らずも実戦でメイド達に叩き込む事になった。なんせ、いかなエイブルメイド隊とはいえ、魔法初心者では予想を超えて発生する馬鹿……いや負傷者に対応しきれないのだ。
俺だって魔法は使えないんだが、ブレイブクエストをはじめとしたファンタジーRPGで培った経験がある分、プレイヤー目線で比較的冷静に対処出来る事もあって今の立ち位置におさまったわけだよ。だが、このままでは良くない。
「ルイス!」
「はい!」
メイド達の中で唯一、俺が指示を出さずとも的確に負傷者の治療を進めているのはルイスだけだ。医官としてのこれまでの実力と実績がこの状況下において彼女の成長を促していると見るべきだろう。
「現状の把握に専念してくれ。 負傷者は幾らでもいる。負傷の程度とそれに適したひよこ魔法の使い所の見極めに集中してくれ。戦場を視ろ! 必要なら他の者に指示を出せ。この機会にお前の医療技術と治癒魔法を組み合わせた総合的な医療大系というものを掴め!」
「はいっ!!」
医療担当のルイスなら戦闘外傷や緊急医療の重要性を誰よりも理解しているので俺の意図する事も十分に汲んでくれだろう。
「グハッ! やられたあああぁ! だが効かぬぅ!」
「血まみれで言うな! グリ! 『オテアテ』!」
思うんですけど、ある意味で俺が一番大変じゃね?
☆
遡ること2時間。
メイド隊の皆が落ち着いたのをみはからって、ルイスにメイド隊の皆の簡単な診察を頼んだ。
「ルイス、みんなの状態はどうなっている?」
「はい。メイド隊全員がひよこ魔法『ガンバー』を獲得、ステータス上に使用魔法として刻まれています」
「それは、普通に使用可能な魔法を得たと考えて良いのかな?」
大慰霊祭で使った魔法『まんまんちゃー』がメイド隊が初めて使った魔法だが、これは《使える》魔法とは言い難い。あくまでも新称号《巫女》の固有の力、『神降ろし』でひよこの力を借りたものだ。そもそも『まんまんちゃー』はあくまでも、ひよことの関係性を確立して、ここに至るための布石に過ぎなかった。まあ、あん時はひよこの神としての覚醒を促すのと、その確認が第一目標だったよな。多分。
そして、今。唐突ではあったがメイド隊の皆が晴れて魔法を手にしたわけですよ。うん、めでたしめでたし。
「義雄様……」
エイブルを頭にメイド隊全員が俺とひよこの元に誰いうでなく集まってきた。エイブルがひざまづき、こうべを垂れると、それにならうように他のメイド達も一斉にそれに倣った。
「義雄様、私達を永劫の苦悶から解き放って頂いた事に永遠の感謝と忠誠を」
「いやいや! そういうのはいらんから! 俺はこうなれば良いなあと思っただけで、何もしていないぞ。ひよこのおかげだよ。えらいぞ~ひよこ! ほら、エイブルかあさんとおねいちゃん達がありがとうってさ」
「えへへ~♪」
わしわしとひよこの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めるひよこ。そんな姿にみんなの顔も穏やかになる。
「それでも……今があるのは義雄様がいたからです」
「うっ……」
こういうのは面と向かって言われると、なんともムズムズして苦手だよ。ほらほら、みんな立って、ひよこ親衛隊の目もあるんだから。
「あのー、義雄様、そろそろ我々にもご説明頂けませんでしょうか?」
「ああ、待たせてゴメン。言葉で説明するのも必要だけど、まずはその身で確かめてもらおうか」
「?」
先ほどまでの俺とエイブル達とのやりとりをただ、遠巻きに眺めるしかなかった親衛隊の連中。正直、理由もわからず、呆気にとられているってのが現状だろう。こういう時って、照れ隠しつーか、なんていうかサプライズ的な事をしたくなるよな。悪いクセだと分かっちゃあいるけどやらずにはおれんのよ。
俺はニヤリと笑い、メイド隊に向かって指示を出す。
「さて、親衛隊の連中に君らが得た『新たな力』をご披露しようか? みんな、いいかな?」
「ハイッ!!」
爽やかな笑顔とともに返ってきた返事は、彼女達の自信と誇りに満ち溢れていた。
☆
「ガンバー!」
「こ、これは!!」
「ガンバー!」
「か、体が軽い? いや、力が満ち溢れてくるぞ!!」
「ガンバー!」
「この手応え、みなぎる力……」
メイド達によってかけられた『ガンバー』の効果を身に受け、ひよこ親衛隊の面々は例外なく驚き、その場に立ち尽くす。そりゃそうだ、自分たちに何が起こったか、その意味がわからぬ者はここにはいない。
「義雄様、ついにやったんですね!」
「ああ、取り戻したよ、色々な」
彼女達の誇り、名誉、尊厳ーー言葉では言い尽くせない。うん。この世界に来た甲斐があったよ。
「それじゃあ、細かいところの検証だ。メイド隊の皆は『ガンバー』の効果対象や効果時間、使用魔力量とかのチェックを頼む。ルイスはそれらを取りまとめてレポートにしてくれ」
「はい」
「ひよこ親衛隊のみんなは気づいた事とかあったらすぐに報告してくれ」
「はっ!」
「では魔獣掃討を始めようか……ん?」
なんかエイブルさんがモジモジしながら俺の前に進み出てきた。なに? 顔は赤いし、猫耳はせわしなくピクピクと動いている。瞳は潤み、目が合うとなぜかそらされる。???
やがて、意を決したようにエイブルさんが俺を真っ直ぐに見つめ、口を開く。
「わ、私の初めてを義雄様に捧げます!!」
「………………………………………………………ブフォ!!!」
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