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第20話 エルフの女王と獣人王
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――それからしばらくすると、市街地を制圧した獣人軍団が遂に王宮へと押し寄せてきた。王宮内に残った最後のエルフの戦士たちが応戦したが、それも突破され、遂に獣人軍団はエルフの女王の間のすぐ前まで迫った。
「ぐはっ……」
「ごふっ……女王……陛下……」
廊下で応戦していた衛兵たちが倒され、女王の間の扉がバンッと開かれる。
――女王の間に入ってきたのは獣人王とその部下数人だった。獣人王は屈強な身体を持った獣人の男で、見た目は人間でいうところの30代程度という感じであった。獣人王は奥の玉座に座っているエルフの女王を見ると、笑みを浮かべて言った。
「エルフの女王ディアナよ、お前も今日で終わりだな。これからはエルフの国は獣人族のものとなる。さぁそこをどけ。その座はオレのものだ」
「……ふん、獣人王レイドルフか。この玉座が欲しいのならば、力づくでわらわを退けるがよい。もっとも貴様にそれができるとは思えないがな」
ディアナは不機嫌そうな態度でそう言った。獣人王は王宮がほとんど獣人軍団によって制圧されているというのに女王は随分余裕があるなと思った。
「それは面白い冗談だ。……いいだろう。力づくでどかせるとしよう!!」
そう言うと、獣人王レイドルフは目にも止まらぬスピードで駆け、飛び上がると玉座に座るエルフの女王に向かって右拳を打ち付けようとした。
ガキィン!!
しかしその拳は何やら壁のようなものへと当たり、ディアナには届かなかった。
「魔力障壁か……」
着地した獣人王はそう呟く。ディアナは弾き返されたレイドルフを見て笑みを浮かべた。
「だが……これなら?」
獣人王はそう言うと右手に【闘気】を込め始めた。闘気は魔力と似たようなもので、主に身体強化に使われる力の一つであった。獣人族には魔法の代わりに闘気を扱える者が多く、獣人王レイドルフもその例外ではなかった。レイドルフはもう一度、エルフの女王に向かうと、今度は闘気を込めた右手を魔力障壁に思いっきり叩きつけた。
「はぁッ!!」
――ガキィン!
それでも魔力障壁が破られることはなく、レイドルフの攻撃は弾かれる。しかし、レイドルフはそこで攻撃をやめずにラッシュを放った。
「うおおおおおおッ!!」
レイドルフが何度もパンチを叩きつけることで魔力障壁はジリジリとその強度を削られていく。
「これで最後だッ!!」
バキィン……!
レイドルフが渾身の一撃を放つと、遂に魔力障壁が破られ、消え去った。レイドルフは得意げな顔をしてディアナを見る。
「くく、オレ様の手にかかればこんなもんだ」
「わらわの魔力障壁を破るとは……さすがは獣人王と言ったところか。見事なものじゃ」
エルフの女王はそう言ってふっと笑った。
「ほう、観念したか?」
「ああ、王宮は制圧されているし、わらわには逃げ場はもうない」
そう言ってディアナは玉座から立つと、レイドルフの方へと歩み寄ってくる。ディアナはレイドルフのすぐ前まで来ると、レイドルフへと話しかけた。
「さぁ、その手の鋭い爪でわらわの胸を一突きにするがよい。それでこの国を統べるエルフの女王は死に、貴様が征服者として新たな王になることだろう」
ディアナはそう言うと、両手を広げた。
「……本気か?」
レイドルフにとってディアナの台詞はいささか予想外だった。レイドルフはディアナはきっと降伏するものだと思っていた。そして、相手が降伏するのであれば命だけは助けようと考えていた。
レイドルフにとっても今後のエルフ国の統治を考えれば、エルフの女王であるディアナには生きていてもらったほうが都合がよかった。エルフの国民の反感を買わずに済むからだ。
「もちろんだ。さぁやるがいい! ……それとも獣人王は自ら手を下すことができないのか?」
ディアナはそう言って不敵な笑みを浮かべた。レイドルフはディアナの態度に少し違和感を覚えたが、手を下すこともできないと言われては黙って引くわけにはいかなかった。
「……そこまでして死にたいのなら……いいだろう。オレが直接手を下してやる」
レイドルフは右手の鋭い爪に意識を集中させ、さらに闘気を込めると、女王の胸に右腕を突き刺した。右腕はいとも簡単にディアナの胸を貫通し、血が溢れ出る。
「ぐはっ……」
エルフの女王は口から血を吐き、左手で自身の胸を貫くレイドルフの腕を掴む。ディアナは胸を貫かれても倒れることなく、その場に立っていた。
「……くくく、あーはっはっは!!」
するとディアナは高笑いを始めた。胸を貫かれても倒れず高笑いをしているディアナにレイドルフは嫌な予感を覚え、右腕を引き抜いて離れようとした。
「!!」
しかし、エルフの女王はものすごい力で獣人王を掴んで離さなかった。
「――捕まえたぞ、獣人王」
そう言ってディアナがニタリと笑うと、ディアナの胸から突如牙のようなものがいくつも生え、レイドルフの腕に食い込んだ。
「ぐああ!!」
牙はレイドルフの腕に深く食い込み、レイドルフの腕から血が流れる。
「!!」
何やらただならぬ事態にレイドルフの護衛が駆け寄ろうとするが、その瞬間、レイドルフの後ろに厚い壁のようなものが現れた。壁は完全にレイドルフとその護衛を分離した。
「ふふ、さすがは私の主様です……」
ディアナはそう小さく呟いた。すると、ディアナは右腕を触手のように長く伸ばすと、レイドルフの身体へと巻き付け、レイドルフの身体の自由を奪った。レイドルフは闘気を全開にして抵抗するも、逆に全身から力が抜けていった。
「無駄な抵抗はやめよ、獣人王。貴様が闘気を発したところでわらわに吸われるだけだ」
ディアナはそう言うとニヤっと笑った。ディアナの言う通り、レイドルフの闘気はディアナの身体を貫いている右腕からディアナへと吸われていたのだった。
「くくく、さて、ではおぬしにもわらわたちの仲間になってもらうとしよう。おぬしも我が主様に仕えるのだ……」
そう言うと、ディアナは両耳から触手のようなものを生やし、レイドルフの耳の中へと突き刺した。触手はレイドルフの脳内まで入ると、中へ寄生細胞を送り込み始めた。寄生細胞はすぐに周りの細胞と同化し始め、レイドルフの脳を侵蝕していく。
「ぐ……が……あ……」
さらに、レイドルフの右腕もディアナを構成する寄生細胞によって同化され始め、レイドルフの寄生生物への変化は急速に進んでいった。レイドルフの頭と右腕から始まり、徐々にレイドルフの身体全体へと寄生生物の同化は広がっていく。
「あ……あ……」
「ふふ……レイドルフよ。どうじゃ、わらわの胸の中の感触は? わらわは感じるぞ、お主の腕が徐々にわらわと同じようになっていくのを……。お主も感じるか? お主の腕がわらわの胸の中で徐々に変わっていくのを……」
ディアナはそう呟くと、恍惚とした表情でレイドルフを見た。レイドルフはもはや意識が保てず、口を開け虚空を見ているだけだった。
「恐れることは何もない。すべては主様のためなのじゃ。わらわとお主、エルフ国と獣人国は全て主様のために存在するのじゃ。のう、レイドルフよ……」
「…………」
「さて、そろそろかの。あとは自分で起き上がってくるじゃろ」
ディアナはそう言うと、レイドルフを拘束していた自身の右腕や耳から生えていた触手を戻し、レイドルフの拘束を解いた。すると、レイドルフはその場に倒れ込み、びくんびくんと身体を震わせる。
しばらくすると、レイドルフは完全に寄生生物へと変化した。レイドルフはすっと立ち上がるとディアナを見てニヤリと笑った。その眼には爛々とした光が宿っていた。ディアナも寄生生物となったレイドルフを見てニヤリと笑う。同時に、レイドルフと護衛を隔てていた壁が消滅した
「じゅ、獣人王様、お怪我はありませんか! エルフの女王、貴様ぁ!!」
そう言って護衛たちはレイドルフを守り、ディアナを討たんと駆け寄ってくる。
「――」
レイドルフは護衛たちを一瞥すると、闘気を纏って自身の護衛たちを目にも止まらぬ速さで叩きのめしていった。
「がっ」
「ぐふっ」
「ごっ」
護衛たちはみんな壁に叩きつけられ、意識を失う。
「じゅ、獣人王……さま……な……なぜ……」
まだ意識があった護衛がそう呟いた。
「――全ては我が主の意思だ」
レイドルフはそう言って意識のある護衛にもう一撃加え、完全に意識を失わせた。……ことが終わると、女王の間の奥に身を隠していたヴァイスが姿を現す。レイドルフとディアナはヴァイスの姿を認識するとすぐに跪いた。
「ふむ、二人とも身体の方は問題ないようだな」
「……全く問題はありません。主様より承ったこの身体。全ては主様に尽くすために存在します」
「……我が主様、オレはこの身体を得る以上の喜びを感じたことはありません。何にかえても主様の命を遂行すると誓います」
「ふふ、そうか、それは頼もしい……」
ヴァイスはそう言った。ほんの少し前まで敵対していた二人が今では仲良く並んで跪き、自分に心からの忠誠を誓っている。……もし国のトップの人間を全て寄生生物に変えれば、国同士の争いはなくなるのでは? ヴァイスはそう思いつつ、自分の生み出した寄生生物の素晴らしさを再認識した。
「レイドルフよ、これからすべきことはわかってるな?」
「もちろんです。エルフ国の制圧を宣言したあとは、徐々に獣人軍団、およびエルフの戦士団の上層部を我々の『仲間』へと変えていく」
「くく、そうだ。当面は獣人とエルフの軍の上層部を寄生生物に変えることに専念しろ。そして準備が整い次第、両軍をもってエスティナ率いる神聖騎士団を急襲する。そこでエスティナを捕えるのだ」
ヴァイスはそう言った。
「「御意」」
レイドルフとディアナはそう言ってニヤリと笑った。全てはマスターの意思のもとに……。二人はそれ以外のことは頭になかった。
その後、レイドルフはエルフ国は獣人国の属国となったことを内外に宣言した。そしてエルフ国の統治は以前と同じようにディアナに任せることになった。この決定には獣人軍団の中にも反対する意見が多くあったが、レイドルフはその方がエルフも獣人族に反感を持たないと強く主張し、最終的にはレイドルフの案が通ることとなった。
こうしてディアナはエルフ国の玉座へと戻り、レイドルフは獣人国へと帰っていった。
――その際、ヴァイスはレイドルフとディアナにそれぞれ【ネスト】を授けた。ヴァイスはネストによって両国の上層部の者たちを効率よく寄生生物にしようと考えたのだった。その後、エルフ国の首都の復興が一段落するとヴァイスは疎開させていた村にリリカを迎えにいった。リリカはヴァイスを見て安堵したのか、ヴァイスに抱きついて再会を喜んだ。
二人はエルフ国の首都へと戻り、獣人国とエルフ国に十分に寄生生物が広がるのを待つことにした。エスティナと神殿騎士団は各地の教会建設やその巡礼で忙しいのか特に目立つ動きはなかった。
「ぐはっ……」
「ごふっ……女王……陛下……」
廊下で応戦していた衛兵たちが倒され、女王の間の扉がバンッと開かれる。
――女王の間に入ってきたのは獣人王とその部下数人だった。獣人王は屈強な身体を持った獣人の男で、見た目は人間でいうところの30代程度という感じであった。獣人王は奥の玉座に座っているエルフの女王を見ると、笑みを浮かべて言った。
「エルフの女王ディアナよ、お前も今日で終わりだな。これからはエルフの国は獣人族のものとなる。さぁそこをどけ。その座はオレのものだ」
「……ふん、獣人王レイドルフか。この玉座が欲しいのならば、力づくでわらわを退けるがよい。もっとも貴様にそれができるとは思えないがな」
ディアナは不機嫌そうな態度でそう言った。獣人王は王宮がほとんど獣人軍団によって制圧されているというのに女王は随分余裕があるなと思った。
「それは面白い冗談だ。……いいだろう。力づくでどかせるとしよう!!」
そう言うと、獣人王レイドルフは目にも止まらぬスピードで駆け、飛び上がると玉座に座るエルフの女王に向かって右拳を打ち付けようとした。
ガキィン!!
しかしその拳は何やら壁のようなものへと当たり、ディアナには届かなかった。
「魔力障壁か……」
着地した獣人王はそう呟く。ディアナは弾き返されたレイドルフを見て笑みを浮かべた。
「だが……これなら?」
獣人王はそう言うと右手に【闘気】を込め始めた。闘気は魔力と似たようなもので、主に身体強化に使われる力の一つであった。獣人族には魔法の代わりに闘気を扱える者が多く、獣人王レイドルフもその例外ではなかった。レイドルフはもう一度、エルフの女王に向かうと、今度は闘気を込めた右手を魔力障壁に思いっきり叩きつけた。
「はぁッ!!」
――ガキィン!
それでも魔力障壁が破られることはなく、レイドルフの攻撃は弾かれる。しかし、レイドルフはそこで攻撃をやめずにラッシュを放った。
「うおおおおおおッ!!」
レイドルフが何度もパンチを叩きつけることで魔力障壁はジリジリとその強度を削られていく。
「これで最後だッ!!」
バキィン……!
レイドルフが渾身の一撃を放つと、遂に魔力障壁が破られ、消え去った。レイドルフは得意げな顔をしてディアナを見る。
「くく、オレ様の手にかかればこんなもんだ」
「わらわの魔力障壁を破るとは……さすがは獣人王と言ったところか。見事なものじゃ」
エルフの女王はそう言ってふっと笑った。
「ほう、観念したか?」
「ああ、王宮は制圧されているし、わらわには逃げ場はもうない」
そう言ってディアナは玉座から立つと、レイドルフの方へと歩み寄ってくる。ディアナはレイドルフのすぐ前まで来ると、レイドルフへと話しかけた。
「さぁ、その手の鋭い爪でわらわの胸を一突きにするがよい。それでこの国を統べるエルフの女王は死に、貴様が征服者として新たな王になることだろう」
ディアナはそう言うと、両手を広げた。
「……本気か?」
レイドルフにとってディアナの台詞はいささか予想外だった。レイドルフはディアナはきっと降伏するものだと思っていた。そして、相手が降伏するのであれば命だけは助けようと考えていた。
レイドルフにとっても今後のエルフ国の統治を考えれば、エルフの女王であるディアナには生きていてもらったほうが都合がよかった。エルフの国民の反感を買わずに済むからだ。
「もちろんだ。さぁやるがいい! ……それとも獣人王は自ら手を下すことができないのか?」
ディアナはそう言って不敵な笑みを浮かべた。レイドルフはディアナの態度に少し違和感を覚えたが、手を下すこともできないと言われては黙って引くわけにはいかなかった。
「……そこまでして死にたいのなら……いいだろう。オレが直接手を下してやる」
レイドルフは右手の鋭い爪に意識を集中させ、さらに闘気を込めると、女王の胸に右腕を突き刺した。右腕はいとも簡単にディアナの胸を貫通し、血が溢れ出る。
「ぐはっ……」
エルフの女王は口から血を吐き、左手で自身の胸を貫くレイドルフの腕を掴む。ディアナは胸を貫かれても倒れることなく、その場に立っていた。
「……くくく、あーはっはっは!!」
するとディアナは高笑いを始めた。胸を貫かれても倒れず高笑いをしているディアナにレイドルフは嫌な予感を覚え、右腕を引き抜いて離れようとした。
「!!」
しかし、エルフの女王はものすごい力で獣人王を掴んで離さなかった。
「――捕まえたぞ、獣人王」
そう言ってディアナがニタリと笑うと、ディアナの胸から突如牙のようなものがいくつも生え、レイドルフの腕に食い込んだ。
「ぐああ!!」
牙はレイドルフの腕に深く食い込み、レイドルフの腕から血が流れる。
「!!」
何やらただならぬ事態にレイドルフの護衛が駆け寄ろうとするが、その瞬間、レイドルフの後ろに厚い壁のようなものが現れた。壁は完全にレイドルフとその護衛を分離した。
「ふふ、さすがは私の主様です……」
ディアナはそう小さく呟いた。すると、ディアナは右腕を触手のように長く伸ばすと、レイドルフの身体へと巻き付け、レイドルフの身体の自由を奪った。レイドルフは闘気を全開にして抵抗するも、逆に全身から力が抜けていった。
「無駄な抵抗はやめよ、獣人王。貴様が闘気を発したところでわらわに吸われるだけだ」
ディアナはそう言うとニヤっと笑った。ディアナの言う通り、レイドルフの闘気はディアナの身体を貫いている右腕からディアナへと吸われていたのだった。
「くくく、さて、ではおぬしにもわらわたちの仲間になってもらうとしよう。おぬしも我が主様に仕えるのだ……」
そう言うと、ディアナは両耳から触手のようなものを生やし、レイドルフの耳の中へと突き刺した。触手はレイドルフの脳内まで入ると、中へ寄生細胞を送り込み始めた。寄生細胞はすぐに周りの細胞と同化し始め、レイドルフの脳を侵蝕していく。
「ぐ……が……あ……」
さらに、レイドルフの右腕もディアナを構成する寄生細胞によって同化され始め、レイドルフの寄生生物への変化は急速に進んでいった。レイドルフの頭と右腕から始まり、徐々にレイドルフの身体全体へと寄生生物の同化は広がっていく。
「あ……あ……」
「ふふ……レイドルフよ。どうじゃ、わらわの胸の中の感触は? わらわは感じるぞ、お主の腕が徐々にわらわと同じようになっていくのを……。お主も感じるか? お主の腕がわらわの胸の中で徐々に変わっていくのを……」
ディアナはそう呟くと、恍惚とした表情でレイドルフを見た。レイドルフはもはや意識が保てず、口を開け虚空を見ているだけだった。
「恐れることは何もない。すべては主様のためなのじゃ。わらわとお主、エルフ国と獣人国は全て主様のために存在するのじゃ。のう、レイドルフよ……」
「…………」
「さて、そろそろかの。あとは自分で起き上がってくるじゃろ」
ディアナはそう言うと、レイドルフを拘束していた自身の右腕や耳から生えていた触手を戻し、レイドルフの拘束を解いた。すると、レイドルフはその場に倒れ込み、びくんびくんと身体を震わせる。
しばらくすると、レイドルフは完全に寄生生物へと変化した。レイドルフはすっと立ち上がるとディアナを見てニヤリと笑った。その眼には爛々とした光が宿っていた。ディアナも寄生生物となったレイドルフを見てニヤリと笑う。同時に、レイドルフと護衛を隔てていた壁が消滅した
「じゅ、獣人王様、お怪我はありませんか! エルフの女王、貴様ぁ!!」
そう言って護衛たちはレイドルフを守り、ディアナを討たんと駆け寄ってくる。
「――」
レイドルフは護衛たちを一瞥すると、闘気を纏って自身の護衛たちを目にも止まらぬ速さで叩きのめしていった。
「がっ」
「ぐふっ」
「ごっ」
護衛たちはみんな壁に叩きつけられ、意識を失う。
「じゅ、獣人王……さま……な……なぜ……」
まだ意識があった護衛がそう呟いた。
「――全ては我が主の意思だ」
レイドルフはそう言って意識のある護衛にもう一撃加え、完全に意識を失わせた。……ことが終わると、女王の間の奥に身を隠していたヴァイスが姿を現す。レイドルフとディアナはヴァイスの姿を認識するとすぐに跪いた。
「ふむ、二人とも身体の方は問題ないようだな」
「……全く問題はありません。主様より承ったこの身体。全ては主様に尽くすために存在します」
「……我が主様、オレはこの身体を得る以上の喜びを感じたことはありません。何にかえても主様の命を遂行すると誓います」
「ふふ、そうか、それは頼もしい……」
ヴァイスはそう言った。ほんの少し前まで敵対していた二人が今では仲良く並んで跪き、自分に心からの忠誠を誓っている。……もし国のトップの人間を全て寄生生物に変えれば、国同士の争いはなくなるのでは? ヴァイスはそう思いつつ、自分の生み出した寄生生物の素晴らしさを再認識した。
「レイドルフよ、これからすべきことはわかってるな?」
「もちろんです。エルフ国の制圧を宣言したあとは、徐々に獣人軍団、およびエルフの戦士団の上層部を我々の『仲間』へと変えていく」
「くく、そうだ。当面は獣人とエルフの軍の上層部を寄生生物に変えることに専念しろ。そして準備が整い次第、両軍をもってエスティナ率いる神聖騎士団を急襲する。そこでエスティナを捕えるのだ」
ヴァイスはそう言った。
「「御意」」
レイドルフとディアナはそう言ってニヤリと笑った。全てはマスターの意思のもとに……。二人はそれ以外のことは頭になかった。
その後、レイドルフはエルフ国は獣人国の属国となったことを内外に宣言した。そしてエルフ国の統治は以前と同じようにディアナに任せることになった。この決定には獣人軍団の中にも反対する意見が多くあったが、レイドルフはその方がエルフも獣人族に反感を持たないと強く主張し、最終的にはレイドルフの案が通ることとなった。
こうしてディアナはエルフ国の玉座へと戻り、レイドルフは獣人国へと帰っていった。
――その際、ヴァイスはレイドルフとディアナにそれぞれ【ネスト】を授けた。ヴァイスはネストによって両国の上層部の者たちを効率よく寄生生物にしようと考えたのだった。その後、エルフ国の首都の復興が一段落するとヴァイスは疎開させていた村にリリカを迎えにいった。リリカはヴァイスを見て安堵したのか、ヴァイスに抱きついて再会を喜んだ。
二人はエルフ国の首都へと戻り、獣人国とエルフ国に十分に寄生生物が広がるのを待つことにした。エスティナと神殿騎士団は各地の教会建設やその巡礼で忙しいのか特に目立つ動きはなかった。
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