パラサイト・ルーラー ~追放された王国最高の錬金術師は【寄生生物】を使って聖女三姉妹への復讐を開始する~

御浦祥太

文字の大きさ
20 / 28

第20話 エルフの女王と獣人王

しおりを挟む
――それからしばらくすると、市街地を制圧した獣人軍団が遂に王宮へと押し寄せてきた。王宮内に残った最後のエルフの戦士たちが応戦したが、それも突破され、遂に獣人軍団はエルフの女王の間のすぐ前まで迫った。

「ぐはっ……」

「ごふっ……女王……陛下……」

 廊下で応戦していた衛兵たちが倒され、女王の間の扉がバンッと開かれる。

――女王の間に入ってきたのは獣人王とその部下数人だった。獣人王は屈強な身体を持った獣人の男で、見た目は人間でいうところの30代程度という感じであった。獣人王は奥の玉座に座っているエルフの女王を見ると、笑みを浮かべて言った。

「エルフの女王ディアナよ、お前も今日で終わりだな。これからはエルフの国は獣人族のものとなる。さぁそこをどけ。その座はオレのものだ」

「……ふん、獣人王レイドルフか。この玉座が欲しいのならば、力づくでわらわを退けるがよい。もっとも貴様にそれができるとは思えないがな」

 ディアナは不機嫌そうな態度でそう言った。獣人王は王宮がほとんど獣人軍団によって制圧されているというのに女王は随分余裕があるなと思った。

「それは面白い冗談だ。……いいだろう。力づくでどかせるとしよう!!」

 そう言うと、獣人王レイドルフは目にも止まらぬスピードで駆け、飛び上がると玉座に座るエルフの女王に向かって右拳を打ち付けようとした。

 ガキィン!!

 しかしその拳は何やら壁のようなものへと当たり、ディアナには届かなかった。

「魔力障壁か……」

 着地した獣人王はそう呟く。ディアナは弾き返されたレイドルフを見て笑みを浮かべた。

「だが……これなら?」

 獣人王はそう言うと右手に【闘気】を込め始めた。闘気は魔力と似たようなもので、主に身体強化に使われる力の一つであった。獣人族には魔法の代わりに闘気を扱える者が多く、獣人王レイドルフもその例外ではなかった。レイドルフはもう一度、エルフの女王に向かうと、今度は闘気を込めた右手を魔力障壁に思いっきり叩きつけた。

「はぁッ!!」

――ガキィン!

 それでも魔力障壁が破られることはなく、レイドルフの攻撃は弾かれる。しかし、レイドルフはそこで攻撃をやめずにラッシュを放った。

「うおおおおおおッ!!」

 レイドルフが何度もパンチを叩きつけることで魔力障壁はジリジリとその強度を削られていく。

「これで最後だッ!!」

 バキィン……!

 レイドルフが渾身の一撃を放つと、遂に魔力障壁が破られ、消え去った。レイドルフは得意げな顔をしてディアナを見る。

「くく、オレ様の手にかかればこんなもんだ」

「わらわの魔力障壁を破るとは……さすがは獣人王と言ったところか。見事なものじゃ」

 エルフの女王はそう言ってふっと笑った。

「ほう、観念したか?」

「ああ、王宮は制圧されているし、わらわには逃げ場はもうない」

 そう言ってディアナは玉座から立つと、レイドルフの方へと歩み寄ってくる。ディアナはレイドルフのすぐ前まで来ると、レイドルフへと話しかけた。

「さぁ、その手の鋭い爪でわらわの胸を一突きにするがよい。それでこの国を統べるエルフの女王は死に、貴様が征服者として新たな王になることだろう」

 ディアナはそう言うと、両手を広げた。

「……本気か?」

 レイドルフにとってディアナの台詞はいささか予想外だった。レイドルフはディアナはきっと降伏するものだと思っていた。そして、相手が降伏するのであれば命だけは助けようと考えていた。

 レイドルフにとっても今後のエルフ国の統治を考えれば、エルフの女王であるディアナには生きていてもらったほうが都合がよかった。エルフの国民の反感を買わずに済むからだ。

「もちろんだ。さぁやるがいい! ……それとも獣人王は自ら手を下すことができないのか?」

 ディアナはそう言って不敵な笑みを浮かべた。レイドルフはディアナの態度に少し違和感を覚えたが、手を下すこともできないと言われては黙って引くわけにはいかなかった。

「……そこまでして死にたいのなら……いいだろう。オレが直接手を下してやる」

 レイドルフは右手の鋭い爪に意識を集中させ、さらに闘気を込めると、女王の胸に右腕を突き刺した。右腕はいとも簡単にディアナの胸を貫通し、血が溢れ出る。

「ぐはっ……」

 エルフの女王は口から血を吐き、左手で自身の胸を貫くレイドルフの腕を掴む。ディアナは胸を貫かれても倒れることなく、その場に立っていた。

「……くくく、あーはっはっは!!」

 するとディアナは高笑いを始めた。胸を貫かれても倒れず高笑いをしているディアナにレイドルフは嫌な予感を覚え、右腕を引き抜いて離れようとした。

「!!」

 しかし、エルフの女王はものすごい力で獣人王を掴んで離さなかった。

「――捕まえたぞ、獣人王」

 そう言ってディアナがニタリと笑うと、ディアナの胸から突如牙のようなものがいくつも生え、レイドルフの腕に食い込んだ。

「ぐああ!!」

 牙はレイドルフの腕に深く食い込み、レイドルフの腕から血が流れる。

「!!」

 何やらただならぬ事態にレイドルフの護衛が駆け寄ろうとするが、その瞬間、レイドルフの後ろに厚い壁のようなものが現れた。壁は完全にレイドルフとその護衛を分離した。

「ふふ、さすがは私の主様です……」

 ディアナはそう小さく呟いた。すると、ディアナは右腕を触手のように長く伸ばすと、レイドルフの身体へと巻き付け、レイドルフの身体の自由を奪った。レイドルフは闘気を全開にして抵抗するも、逆に全身から力が抜けていった。

「無駄な抵抗はやめよ、獣人王。貴様が闘気を発したところでわらわに吸われるだけだ」

 ディアナはそう言うとニヤっと笑った。ディアナの言う通り、レイドルフの闘気はディアナの身体を貫いている右腕からディアナへと吸われていたのだった。

「くくく、さて、ではおぬしにもわらわたちの仲間になってもらうとしよう。おぬしも我が主様に仕えるのだ……」

 そう言うと、ディアナは両耳から触手のようなものを生やし、レイドルフの耳の中へと突き刺した。触手はレイドルフの脳内まで入ると、中へ寄生細胞を送り込み始めた。寄生細胞はすぐに周りの細胞と同化し始め、レイドルフの脳を侵蝕していく。

「ぐ……が……あ……」

 さらに、レイドルフの右腕もディアナを構成する寄生細胞によって同化され始め、レイドルフの寄生生物への変化は急速に進んでいった。レイドルフの頭と右腕から始まり、徐々にレイドルフの身体全体へと寄生生物の同化は広がっていく。

「あ……あ……」

「ふふ……レイドルフよ。どうじゃ、わらわの胸の中の感触は? わらわは感じるぞ、お主の腕が徐々にわらわと同じようになっていくのを……。お主も感じるか? お主の腕がわらわの胸の中で徐々に変わっていくのを……」

 ディアナはそう呟くと、恍惚とした表情でレイドルフを見た。レイドルフはもはや意識が保てず、口を開け虚空を見ているだけだった。

「恐れることは何もない。すべては主様のためなのじゃ。わらわとお主、エルフ国と獣人国は全て主様のために存在するのじゃ。のう、レイドルフよ……」

「…………」

「さて、そろそろかの。あとは自分で起き上がってくるじゃろ」

 ディアナはそう言うと、レイドルフを拘束していた自身の右腕や耳から生えていた触手を戻し、レイドルフの拘束を解いた。すると、レイドルフはその場に倒れ込み、びくんびくんと身体を震わせる。

 しばらくすると、レイドルフは完全に寄生生物へと変化した。レイドルフはすっと立ち上がるとディアナを見てニヤリと笑った。その眼には爛々とした光が宿っていた。ディアナも寄生生物となったレイドルフを見てニヤリと笑う。同時に、レイドルフと護衛を隔てていた壁が消滅した

「じゅ、獣人王様、お怪我はありませんか! エルフの女王、貴様ぁ!!」

 そう言って護衛たちはレイドルフを守り、ディアナを討たんと駆け寄ってくる。

「――」

 レイドルフは護衛たちを一瞥すると、闘気を纏って自身の護衛たちを目にも止まらぬ速さで叩きのめしていった。

「がっ」

「ぐふっ」

「ごっ」

 護衛たちはみんな壁に叩きつけられ、意識を失う。

「じゅ、獣人王……さま……な……なぜ……」

 まだ意識があった護衛がそう呟いた。

「――全ては我が主の意思だ」

 レイドルフはそう言って意識のある護衛にもう一撃加え、完全に意識を失わせた。……ことが終わると、女王の間の奥に身を隠していたヴァイスが姿を現す。レイドルフとディアナはヴァイスの姿を認識するとすぐに跪いた。

「ふむ、二人とも身体の方は問題ないようだな」

「……全く問題はありません。主様より承ったこの身体。全ては主様に尽くすために存在します」

「……我が主様、オレはこの身体を得る以上の喜びを感じたことはありません。何にかえても主様の命を遂行すると誓います」

「ふふ、そうか、それは頼もしい……」

 ヴァイスはそう言った。ほんの少し前まで敵対していた二人が今では仲良く並んで跪き、自分に心からの忠誠を誓っている。……もし国のトップの人間を全て寄生生物に変えれば、国同士の争いはなくなるのでは? ヴァイスはそう思いつつ、自分の生み出した寄生生物の素晴らしさを再認識した。

「レイドルフよ、これからすべきことはわかってるな?」

「もちろんです。エルフ国の制圧を宣言したあとは、徐々に獣人軍団、およびエルフの戦士団の上層部を我々の『仲間』へと変えていく」

「くく、そうだ。当面は獣人とエルフの軍の上層部を寄生生物に変えることに専念しろ。そして準備が整い次第、両軍をもってエスティナ率いる神聖騎士団を急襲する。そこでエスティナを捕えるのだ」

 ヴァイスはそう言った。

「「御意」」

 レイドルフとディアナはそう言ってニヤリと笑った。全てはマスターの意思のもとに……。二人はそれ以外のことは頭になかった。

 その後、レイドルフはエルフ国は獣人国の属国となったことを内外に宣言した。そしてエルフ国の統治は以前と同じようにディアナに任せることになった。この決定には獣人軍団の中にも反対する意見が多くあったが、レイドルフはその方がエルフも獣人族に反感を持たないと強く主張し、最終的にはレイドルフの案が通ることとなった。

 こうしてディアナはエルフ国の玉座へと戻り、レイドルフは獣人国へと帰っていった。

――その際、ヴァイスはレイドルフとディアナにそれぞれ【ネスト】を授けた。ヴァイスはネストによって両国の上層部の者たちを効率よく寄生生物にしようと考えたのだった。その後、エルフ国の首都の復興が一段落するとヴァイスは疎開させていた村にリリカを迎えにいった。リリカはヴァイスを見て安堵したのか、ヴァイスに抱きついて再会を喜んだ。

 二人はエルフ国の首都へと戻り、獣人国とエルフ国に十分に寄生生物が広がるのを待つことにした。エスティナと神殿騎士団は各地の教会建設やその巡礼で忙しいのか特に目立つ動きはなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま
恋愛
アデライトは婚約者である王太子に無実の罪を着せられ、婚約破棄の後に断頭台へと送られた。 ……だが、気づけば彼女は七歳に巻き戻っていた。そしてアデライトの傍らには、彼女以外には見えない神がいた。 「見たくなったんだ。悪を知った君が、どう生きるかを。もっとも、今後はほとんど干渉出来ないけどね」 「……十分です。神よ、感謝します。彼らを滅ぼす機会を与えてくれて」 ※※※ 冤罪で父と共に殺された少女が、巻き戻った先で復讐を果たす物語(大団円に非ず) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...