ナンセンス文学

イシナギ

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怪物―ジンガイ―

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━━━━━━目が醒めると、見知らぬ天井が見えた。ここはどこだ?僕は新聞を読んでて、その後隠れる場所を探そうとして…
「あ!」 そこまで回想したところで思い出した。そうだ、僕はあの1つ目の怪物に…僕は寝かされていたベッドから飛び起き、あいつらを探した。二度と会いたくはなかったが、戻り方を知っているのはあいつらしかいなさそうだ。
探す時に建物の中を見てみたが、随分広いようだ。僕が寝かされていた部屋自体は少し狭かったが、廊下に出ると壁にドアがいくつもある。一個一個見て回った。空っぽの部屋が多かったが、2部屋ほど妙な生き物がいた。タマゴに枝を刺したようなもの、串団子に目が1つついたもの、うさぎのようなものまで様々だ。
最後の部屋まで見て突き当たって右の階段を降りると、リビングのドアが見えた。窓から明かりが漏れている。……間違いなく居る。そう直感し、意を決してドアを開けた。
「ん?あぁ、お目覚めか」 
目が合った怪物は、僕が入って来た事に別段驚く様子もなくそう言って椅子から立ち上がった。反射的に後退る僕に怪物は、
「ようこそ、私のフィールドに」と柔らかい口調で話しかけてきた。僕は初めてそこで口を開く。
「あ、貴方は誰ですか?ここはどこですか?僕は一体…っ」
「まあ落ち着け小僧」と怪物は笑った。小僧とは失礼な!僕は体こそ小さいがもう今年で17だ。よく中学生に間違えられる。酷い時には小学生だと思われる事もあるけど…。そこまで心の中で呟いた時、
「あ、それはすまんな。だが17なら私からしたらまだ小僧だ(笑)」と怪物の声でそう言われた。心が読めるのか…?ますます恐怖感が募る。すると怪物はまたも柔らかい口調で
「そういえば言ってなかったな。私は心が読めるし、テレパシーも使える。三次元そっちで言うところの『超能力』というやつも大方使えるぞ」と続けた。
先程からの怪物の話し方のおかげか、僕はだんだん落ち着きを取り戻してきていた。
「何故怪物さんは僕をこんな世界に連れて来たんです?どうやったら出られるんですか?」と尋ねた途端、いつから居たのか、さっきのコーン女が後ろから僕の襟を掴み、首元にナイフを突きつけ、
「あの方を怪物と呼ばないで頂戴。『ひとつめ様』とお呼びしなさい。」と低い声で言った。怪物━━━━ひとつめ様は、
「やめなさいパイロン。一応客人だ」とたしなめた。パイロン、と呼ばれたあのコーン女は、渋々ナイフを下げ、僕の襟を掴んでいた手を離した。
「先程から驚かせてすまない。普段は大人しい奴でな…。」とひとつめ様は言う。いえ、こちらこそすみません、と返そうとした時だった。
「まあ、お前が殺したんだから、分かるよな」と急に口調を変えて続けたのだ。
何故?何故彼がそんな事を知ってる…?
「何故もなにも、お前が50人目のコイツを殺したからここへ連れてきたんだ。」と彼は言った。
「ちょっと待って下さい!それとなんの関係が?」と僕は言う。
彼は、「質問が多いな…。ここへ連れてきたのはな、お前が今度は殺される番だからだよ。死刑になってな!このまま見殺しにしても良かったんだが、お前が死ぬのが惜しくなったんだ」と若干不機嫌な口調で言った。
「何故です…?」
「お前には『怪物ジンガイ』になる素質があるんだよ。三次元で見つけられるのは200年振りだ!」 そこで僕はふと気になった。
「じゃああの女…パイロンにも素質が?」
「いや、あいつはもう三次元で死んだから既に人じゃない。元人間だ。三次元で死んだら普通は5次元に…そっちで言う冥界に行くはずなんだが、どういう訳か異次元である私のフィールドに落ちてきてしまってな。更に記憶も失くしていたから、私の秘書になって貰ったんだ。」と彼は言う。そうか…パイロンからしたらひとつめは自分を拾ってくれた恩人という訳だ。それなら先程あんなに怒るのも納得がいく。
「あ、それとお前、ここから出たいらしいな。出してやれないこともないが、今出したところで頭の弱いお前じゃ捕まって死刑になって終わりだぞ?」と彼が言うので、僕は「そんな事ありません。今までだって何度も逃げてきたんですから…」と返したが、それもすぐ否定された。
「言っただろう?私は超能力が使える。その中には未来予知も含まれてるんだ。私にはお前がヘマをやらかして死刑になる未来しか見えん」……  言い返す 術すべもない。「じゃあどうすれば…」と言うと、
「心配することは無い。ここは異次元だが、三次元と同じ座標でフィールドを張っているだけだ。……って言っても分からないか(笑)」と彼は頭にはてなマークを浮かべていた僕にそう言った。
「要するにだ。私がここのフィールドを畳めば出ることは出来るわけだが、今出て行けば死ぬだけだから、当分ここに居なさいと言っているんだよ。」と彼は続け、更に変な事を言い出した。
「お前、自分の名前を覚えてるか?」
何を言ってるんだ?僕の名前は……
「あれ…?」そこで初めて、自分の名前が言えない事に気がついた。
「別次元からここにくると、ここ数年で殆ど使われてなかった記憶は消えるからな。」さも当たり前かのように言うひとつめ様。僕は慌てて財布にあった保険証を探す。出てきたそれは…文字が消えかけていた。名前の1文字である「文」という字だけが辛うじて読める。そしてそれ諸共、カードの文字は全て掠れて消えていった。
するとひとつめ様が、「にしても名前が消えるとは珍しいなぁ…そっちの世界じゃ連続殺人犯であるお前は指名手配されてる筈だから、寧ろ毎日のように自分の名前を見てたんじゃないのか?」と不思議そうに言うのが聞こえた。
「それが…僕、色々ヘマやらかしてきたけど本名や素性だけはバレてなくて、新聞でもテレビでも『白い悪魔』とだけ呼ばれてました…。だから名前なんて意識する必要もなかったんです。」と答えた。そう、僕が今まで『ゲーム』をする上でただ一つ守ってきたルールは、素性を知られないことだった。家族も親戚も居ないから、僕以外に名前を知り得る奴はいなかったのだ。
ひとつめ様は、なるほど…とため息混じりに呟き、僕にこう言った。
「名前から辛うじて読み取れた1文字を取って、『文』と呼ぶことにしよう。良いかい?」と。文……なぜかこの呼ばれ方に違和感は無かったし、呼び方なんてどうでも良かったから、僕は承諾した。僕は「文」として、これからこの怪物達と過ごしていくことになる。
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