編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら

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第4話 編み棒は普通の編み棒です。けれど……

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「ニニィアネ、今日も編み物か?」
「はい! 今日は季節の花をモチーフにした模様を試してみようと思って!」

いつものように書庫で編み物をしていた私。アス様は相変わらず過保護で、今日も私の隣にぴったりとくっついて座っている。

「ほう、その模様も魔法陣になりそうだな」
「えー、お花なのに?」
「君が編むものは何でも特別だ」

にこにこと私を見つめるアス様。最近、さらに過保護になった気がする……。

「ああ、そうだ。ニニィアネ、これを」
「わっ、なんですか? きれい……」

アス様が指輪を取り出した。小さな、子供用のサイズ。でも大人しくも優しい光を宿した宝石がきらきらと輝いている。

「守護の指輪だ。これを身につけていれば、どんな攻撃も必ず一度防げるというものだ」
「そ、そんな大げさな……」
「大げさではない。君に何かあったら、私は世界を滅ぼしかねん」
「滅ぼさないでぇ!」

でも、素直に指輪をはめる。アス様の愛情が嬉しいから。

「あとこれも」
「まだあるんですか!?」

今度は髪飾り。羽のような形が可愛い。

「気温調節と、飛行能力付きだ」
「ひ、飛行ー!?」
「人間には翼がないからな。転んだりしたら危ないだろう?」
「幼女扱いしすぎです~!」

でも、正直嬉しい。こんなに大切にされたことなんて、今までなかったから。カチャカチャと編み棒を動かしていると、ふと違和感を覚えた。

「あれ?」

編み棒の動きが、いつもと違う。
よく見ると——

パキッ

「きゃっ!」

編み棒に、ひびが入っていた。

「え……嘘……」

震える手で編み棒を見つめる。確かに、亀裂が走っている。

「どうした、ニニィアネ?」
「あ、あの……」

でも、言えなかった。
この編み棒は、もう何十年も使っているもの。しかもお屋敷で酷使してきた。寿命かもしれないし、アス様を心配させたくない。

「な、なんでもないの! ちょっと手が滑っちゃって!」
「そうか? 気をつけるのだぞ」
「はい!」

明るく返事をしたけれど、心の中は不安でいっぱいだった。その夜、部屋で一人、壊れかけた編み棒を見つめる。

「お母様……」

これは、亡くなる前に母が残してくれたもの。私があの家で持っていた、唯一の宝物。

パキッ

また、ひびが広がった。

「ダメ……壊れないで……」

涙が溢れる。でも、もう限界なのかもしれない。明日には、完全に折れてしまうかも。

「ぐすっ……でも、しょうがない、よね……」

物には寿命がある。それは分かってる。
でも、思い出が詰まった編み棒を失うのは、とても辛い。翌朝、編み棒は案の定、真っ二つに折れていた。

「……っ」

声も出ない。
震える手で、折れた編み棒を拾い上げる。

コンコン

「ニニィアネ様~、朝食ですよ~!」
「は、はい! 今行きます!」

慌てて涙を拭いて、折れた編み棒をそっとしまった。アス様には、心配かけたくない。

けれど、朝食の席で、アス様はすぐに気づいたようだった。

「ニニィアネ、編み物道具は? いつも肌身離さず持っているだろう?」
「あ、えっと……今日はお休みしようかなって」
「珍しいな」
「たまには、です!」

にこっと笑ってみせる。でも、アス様の赤い瞳が、じっと私を見つめていた。

「……そうか」

朝食を食べ終わり、アス様が立ち上がる。

「今日は街に出かけよう」
「え?」
「新しい編み物道具を買わねばな。最高級のものを見よう」
「!」

バレてた。

「あ、あの……」
「編み棒が、壊れたのだろう?」
「……はい」

観念してうなずく。アス様は優しく頭を撫でてくれた。

「なにも隠すことはない。新しいものを買えばいい」
「……はい」

その優しさはとても嬉しくて。でも、少し寂しい、その気持ちはわがままかな。
新しいものじゃ、きっとダメなんです。

街の高級手芸店。アス様は店中の編み棒を買い占めようとした。

「ふむ……全部いただこう」
「ぜ、全部!?」
「ニニィアネが好きなものを選べるようにな」
「いえいえ! 一つでいいです!」

結局、最高級の魔法銀で作られた編み棒を買ってもらった。確かに素晴らしい品質だ。軽くて、魔力の通りも良い。

「これならもっと編みやすくなるだろう?」
「はい……ありがとうございます……!」

お礼を言って、笑顔を作る。

「……」

でも、アス様はまたじっと私を見ていた。
城に戻ってから、新しい編み棒で編み物をしてみる。確かに使いやすい。でも——

「……うーん」

何かが違う。
手に馴染まない、というか、心が込められない、というか。そっとため息をついて、手を止めた。

「上手くいかないか?」

いつの間にか、アス様が後ろに立っていた。

「あぁ、いえ! そんな! とても使いやすいです!」
「嘘をつくな」

ドキッとした。

「壊れた編み棒、あれは、特別なものだったのだろう?」

優しい声に、涙がにじむ。

「……母の、形見だったの……」
「……! そうか……」

アス様が私を抱き上げて、膝の上に座らせた。大きな手が、優しく頭を撫でる。

「話してくれるか?」
「……はい」

ぽつりぽつりと、話し始めた。母のこと、編み物を教えてもらったこと、形見の編み棒のこと。ずっとずっと、編んできた。そして、あの編み棒が、このあたたかな運命を導いてくれた。

「だから、新しいものでは……上手くいかなくて。でも、物には寿命があるから、しょうがないです。新しいものに早く慣れないと!」

無理やり笑おうとしたら、アス様が真剣な顔で言った。

「編み棒を見せてもらえるか?」
「え?」
「壊れたものでいい」

言われるまま、隠し持っていた折れた編み棒を取り出した。アス様はそれを丁寧に受け取ると、じっくりと観察した。

「……ふむ、なるほど」
「アス様?」
「少し、時間をくれ」

そう言って、アス様は編み棒を持って部屋を出て行った。

一体、何をするつもりなのだろう……?
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