編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら

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第12話 すべては決められていたこと?

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聖獣王が去った後、重い沈黙が部屋を支配していた。ヴァイス様は俯いたまま、震える声で呟く。

「父上は、何も分かっていない……」
「ヴァイス、貴様……」

アス様が警戒を解かないまま、私を庇うように立っている。

「もう十分だろう。これ以上——」
「十分?」

ヴァイス様が顔を上げた。その瞳には、悲痛な色が浮かんでいた。

「十分なわけがない! ニニィアネ様は、真実を知らない」
「真実……?」

嫌な予感がした。

ヴァイス様は苦しげな表情で、古い本を取り出した。表紙には、見慣れない文字が刻まれている。

「これは、運命の書。世界の理を記した禁書です」
「運命……?」
「姫の伝説もはっきりとここに記されている」
「……それが、いったい……?」
「聞いてください、ニニィアネ様」

ヴァイス様の声が、痛々しいほど必死だった。

「貴女は家族から、平凡な容姿だ、地味だと言われ、何もできぬと、理不尽に疎まれていた」
「!」

胸が、ぎゅっと締め付けられた。
忘れたくても忘れられない、辛い記憶。

「な、なんでそれを……」
「全て、ここに記されています」

ページをめくる音が、やけに大きく響く。

「『姫の魂を持つ者は、その力が覚醒するまで、世界から拒絶される運命にある』と」
「え……?」
「貴女の苦しんだ過去、それさえも運命だった。世界が、貴女の真の力を封じるための」

頭が、ぐらぐらする。

「つまり、あなたの境遇は全て『そうなるように』世界が仕組んだこと」
「そんな……」

膝から力が抜けた。アス様が慌てて支えてくれる。

「ニニィアネ!」
「だ、大丈夫……!」

でも……大丈夫なわけなかった。

あの辛い日々が、全部……運命?
私が苦しんだのは、世界の都合?

「さらに」

ヴァイス様が続ける。容赦なく。

「幼女化の魔法も運命の一部。貴女が魔族の地へ行き、力を覚醒させるための道筋だった」
「やめろ」

アス様が低く唸る。でも、ヴァイス様は止まらない。

「偶然、魔族に売られる……? いえ、それは偶然などではなく、そうなるようになっていたのです」

父が私を売り、アス様が優しくしてくれて、編み物が魔法陣だと分かったーーそれが、すべて決められていたこと?

「全て、今のため、ノルンのため」

ヴァイス様が一歩近づく。

「貴女の苦しみも、出会いも、全て世界の都合で作られた物語なんですよ」
「違う!」

アス様が怒鳴った。

「出会いがどうあれ、俺の想いは本物だ!」
「そうでしょうか?」

ヴァイス様の笑みが、悲しい。

「貴方が彼女に惹かれたのも、運命の力かもしれませんよ?」
「なっ……!」

アス様が言葉を失う。
その隙を突いて、ヴァイス様は私の手を取った。冷たい手。

「ニニィアネ様、こんな残酷な世界を、貴女は許せますか?」
「私……」

涙が溢れてきた。

確かに、辛かった。
地味だと馬鹿にされ、お荷物と呼ばれ、誰にも必要とされなかった日々。

それが全部、決められていたことだなんて。

「貴女には、力がある」

ヴァイス様の声が、甘い誘惑のように響く。

「ノルンを使えば、こんな残酷な世界を変えられる。誰も苦しまない、優しい運命を紡げる」
「優しい運命……」
「そうです。貴女が最初から愛される世界。誰も傷つかない世界を編み直しましょう?」

もし最初から愛されていたら、どんなに幸せだったか……でも……それは……

「さあ、僕と一緒に——」
「……」

どうしても、考えてしまう。私を拒んだ残酷な日々を……幸福に、作り変える……?

「確かに辛い運命だ」

隣でアス様が声をあげ、ハッとする。その大きな手で、私の涙を拭ってくれる。

「ニニィアネが昔、どれほど苦しんだか……それを考えると、胸が張り裂けそうだ」
「アス様……」
「だが」

真っ直ぐに私を見つめる、紅い瞳。

「それがなければ、今の君に会えなかった」

その言葉に、心臓が跳ねた。

「魔族というのは、わがままな生き物でな」

苦笑しながら、でも真剣に。

「君との今を手放したくない。もし君がやり直すと望んでも、君の手を離さない」
「くっ、魔族め……なんて自己中心的な……!」
「それがどうした」

力強く言い切った。

「ニニィアネをまだ過去が苦しめるなら、それを塗りつぶしてみせよう。ニニィアネが全てを忘れられるほどに、幸福にしてやる」

そして、優しく微笑んだ。

「俺を選べ、ニニィアネ」

涙が、止まらなかった。
でも今度は、違う涙。

「ずるい……そんなこと言われたら……」
「ふふ、ずるいのは魔族の特権でな」

優しく強く、抱きしめられる。

「そんな……」

ヴァイス様が、苦々しく呟いた。その瞳には、深い悲しみが浮かんでいた。

「僕は、貴女と共に新しい世界を作ると誓った。なのに……」

声が震える。

「千年です。千年も、僕は待っていた」
「……!」

ヴァイス様の瞳から、一筋の涙がこぼれた。

「貴女の生まれ変わりを探し、やっと見つけたのに……どうして分かってくれないんです?」

その姿は、本当に痛々しかった。千年も、一人で待っていたなんて。

でも——

「ごめんなさい」

はっきりと言った。

「私は、前世の私じゃない」
「あぁ、そんな……」
「私は、編み物が好きで、アス様が大好きな、ただのニニィアネです」

ヴァイス様の顔が、絶望に歪んだ。

「じゃあ、僕の千年は……無駄だったのか……」
「! いえ、そんなことは——!」

言いかけて、ふと窓の外を見た。
聖獣の国の美しい街並み。笑顔で歩く人々。

そうだ。
大切なことを、忘れていた。
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