編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら

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第16話 世界樹への扉

「準備はできたか?」

アス様が優しく聞いてくる。私は編み物バッグを確認しながら頷いた。

「うん。編み棒も、糸も、全部持った」
「よし。では、行こう」

城の奥にある転移魔法陣へ向かう。チューベエが心配そうについてくる。

「主、本当に大丈夫ですか? 世界樹なんて……」
「大丈夫だよ、チューベエ。きっと何とかなる」
「でも……」

不安そうなチューベエの頭を撫でた。

「心配してくれてありがとう。でも、これはきっと……私がやらなきゃいけないことだと思う」

転移先は、アス様の領地の外れ。人気のない森だった。普段は誰も近づかない場所だという。

「実は、我が一族は代々、ある場所を守ってきた」

歩きながら、アス様が説明してくれる。

「伝説の丘と呼ばれる場所だ。そこには特別な花畑があってな」
「花畑?」
「ああ。夕暮れ時にだけ咲く、不思議な花が一面に広がっている」

深い森を抜けると、なだらかな丘が見えてきた。
そして――

「わあ……!」

息を呑むような光景が広がっていた。

見渡す限りの花畑。でも、普通の花じゃない。花びらが透き通っていて、夕陽の光を受けてきらきらと輝いている。まるで、ガラス細工のような花たち。

「綺麗……」
「夕映草という。太陽が沈む時だけ、この姿を見せる」

アス様に手を引かれて、花畑の中を進む。
花びらが風に揺れるたび、シャランと鈴のような音が響く。

「昔から、我が一族はこの場所を守ってきた。なぜかは分からなかったが、『いつか必要な時が来る』と言い伝えられていた」
「それが、今……?」
「おそらくな」

花畑の中央に、古い石碑があった。見慣れない文字が刻まれている。

「これは……?」
「魔族の古い文字だな」
「なんて書いてあるの?」
「『織りなす者、糸を通せ』」
「糸を……?」

石碑をよく見ると、何かを引っかけるところがいくつかある。
まるで、かぎ針の先のような。

「もしかして……」

毛糸を取り出して、石碑に順にかけていくと文様ができあがっていった。
すると――

空が急に歪み、始めた。

「きゃっ!」
「大丈夫だ、俺がついている」

アス様に支えられながら見守っていると、石碑の前の空間はどんどん歪んでいき、大きな光の扉が現れる。

「すごい……」
「ああ。こんなものが隠されていたとは」
「これが……世界樹への入り口」
「行こう、ニニィアネ」
「うん」

手を繋いで、光の中へ一歩踏み出す。

目を開けると、そこは――

「すごい……」

言葉を失った。

目の前にそびえ立つのは、想像を絶する巨大な輝く樹。幹の太さは城よりも大きく、先が見えないほどに、枝は空の彼方まで伸びている。葉は星のように輝き、全体が淡い光を放っていた。

「これが、世界樹……」
「ああ。世界を支える、命の樹だ」

美しく強大……でも、近づいてみると、異変は明らかだった。

「あ……」

光る幹のあちこちに、亀裂が走っている。
枝は重みで垂れ下がり、葉は光をこぼし始めていた。

そして何より――

「糸……」

無数の糸が、樹に絡みついている。
金色、銀色、赤、青、あらゆる色の糸。それぞれが誰かの運命を表しているのだろう。

でも、その量が尋常じゃない。
糸が何重にも巻きついて、樹を締め付けている。

「千年分の運命……」

アス様が苦い表情で呟いた。

「手入れされずに溜まり続けた、人々の運命の糸か……」
「樹が、苦しんでる……」

涙が出てきた。ずっと長い間、世界樹は一人で耐えていたんだ。

ギシッ……

不気味な音がした。
見ると、幹の亀裂がさらに広がっている。

「このままじゃ、本当に壊れちゃう……!」
「ああ。急ごう」

震える手で、あの古い紙片を取り出した。
樹を手入れするための魔法陣――『ユグドラシル』。

「これで、きっと……」

でも、魔法陣を見ているうちに、不安が募ってくる。
本当に、私にできるのだろうか。こんなに巨大な樹を、救えるのだろうか。

もし、失敗したら――。

「ニニィアネ」

アス様が優しく肩に手を置いた。

「君なら、できる」
「でも……」
「俺も協力する。大丈夫だ」
「アス様……」

その言葉に勇気をもらった。
そうだ、私は一人じゃない。

「まずは、世界樹の状態をもっとよく調べよう」
「うん」

二人で世界樹の周りを歩く。
近くで見ると、ダメージは想像以上に深刻だった。

「ここの亀裂、かなり深い……」
「こっちの枝は、もう折れかけている」
「葉っぱも、半分以上枯れちゃってる……」

調べれば調べるほど、絶望的な気持ちになる。
でも、諦めるわけにはいかない。

「……」
「アス様?」
「いや、少し気になることがある。だが、まずはユグドラシルを試そう」
「うん」

ユグドラシルの魔法陣を見ながら、毛糸を用意し、編み始める。
心を込めて、願いを込めて。

世界樹を救いたい。
皆の運命を、守りたい。

カチャカチャと編み棒が動く。
複雑な模様が、少しずつ形になっていく。

「できた――けど」

巨大な世界樹に対して、修復用の魔法陣はあまりに小さい――。
アス様が魔力を流してくれた。祈るような気持ちで見守る。

「あ、ちゃんと手入れできてる――!」

そう思ったのもつかの間。

「え……」

一か所を手入れして、そして他の箇所に魔法を使って手入れしている間に……さっき手入れした場所が、再び力を失って光の繊維がほつれていく。

「そ、そんな……!」

私は絶望的な気持ちで、その様子を見ていた。
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