17 / 22
第16話 世界樹への扉
「準備はできたか?」
アス様が優しく聞いてくる。私は編み物バッグを確認しながら頷いた。
「うん。編み棒も、糸も、全部持った」
「よし。では、行こう」
城の奥にある転移魔法陣へ向かう。チューベエが心配そうについてくる。
「主、本当に大丈夫ですか? 世界樹なんて……」
「大丈夫だよ、チューベエ。きっと何とかなる」
「でも……」
不安そうなチューベエの頭を撫でた。
「心配してくれてありがとう。でも、これはきっと……私がやらなきゃいけないことだと思う」
転移先は、アス様の領地の外れ。人気のない森だった。普段は誰も近づかない場所だという。
「実は、我が一族は代々、ある場所を守ってきた」
歩きながら、アス様が説明してくれる。
「伝説の丘と呼ばれる場所だ。そこには特別な花畑があってな」
「花畑?」
「ああ。夕暮れ時にだけ咲く、不思議な花が一面に広がっている」
深い森を抜けると、なだらかな丘が見えてきた。
そして――
「わあ……!」
息を呑むような光景が広がっていた。
見渡す限りの花畑。でも、普通の花じゃない。花びらが透き通っていて、夕陽の光を受けてきらきらと輝いている。まるで、ガラス細工のような花たち。
「綺麗……」
「夕映草という。太陽が沈む時だけ、この姿を見せる」
アス様に手を引かれて、花畑の中を進む。
花びらが風に揺れるたび、シャランと鈴のような音が響く。
「昔から、我が一族はこの場所を守ってきた。なぜかは分からなかったが、『いつか必要な時が来る』と言い伝えられていた」
「それが、今……?」
「おそらくな」
花畑の中央に、古い石碑があった。見慣れない文字が刻まれている。
「これは……?」
「魔族の古い文字だな」
「なんて書いてあるの?」
「『織りなす者、糸を通せ』」
「糸を……?」
石碑をよく見ると、何かを引っかけるところがいくつかある。
まるで、かぎ針の先のような。
「もしかして……」
毛糸を取り出して、石碑に順にかけていくと文様ができあがっていった。
すると――
空が急に歪み、始めた。
「きゃっ!」
「大丈夫だ、俺がついている」
アス様に支えられながら見守っていると、石碑の前の空間はどんどん歪んでいき、大きな光の扉が現れる。
「すごい……」
「ああ。こんなものが隠されていたとは」
「これが……世界樹への入り口」
「行こう、ニニィアネ」
「うん」
手を繋いで、光の中へ一歩踏み出す。
目を開けると、そこは――
「すごい……」
言葉を失った。
目の前にそびえ立つのは、想像を絶する巨大な輝く樹。幹の太さは城よりも大きく、先が見えないほどに、枝は空の彼方まで伸びている。葉は星のように輝き、全体が淡い光を放っていた。
「これが、世界樹……」
「ああ。世界を支える、命の樹だ」
美しく強大……でも、近づいてみると、異変は明らかだった。
「あ……」
光る幹のあちこちに、亀裂が走っている。
枝は重みで垂れ下がり、葉は光をこぼし始めていた。
そして何より――
「糸……」
無数の糸が、樹に絡みついている。
金色、銀色、赤、青、あらゆる色の糸。それぞれが誰かの運命を表しているのだろう。
でも、その量が尋常じゃない。
糸が何重にも巻きついて、樹を締め付けている。
「千年分の運命……」
アス様が苦い表情で呟いた。
「手入れされずに溜まり続けた、人々の運命の糸か……」
「樹が、苦しんでる……」
涙が出てきた。ずっと長い間、世界樹は一人で耐えていたんだ。
ギシッ……
不気味な音がした。
見ると、幹の亀裂がさらに広がっている。
「このままじゃ、本当に壊れちゃう……!」
「ああ。急ごう」
震える手で、あの古い紙片を取り出した。
樹を手入れするための魔法陣――『ユグドラシル』。
「これで、きっと……」
でも、魔法陣を見ているうちに、不安が募ってくる。
本当に、私にできるのだろうか。こんなに巨大な樹を、救えるのだろうか。
もし、失敗したら――。
「ニニィアネ」
アス様が優しく肩に手を置いた。
「君なら、できる」
「でも……」
「俺も協力する。大丈夫だ」
「アス様……」
その言葉に勇気をもらった。
そうだ、私は一人じゃない。
「まずは、世界樹の状態をもっとよく調べよう」
「うん」
二人で世界樹の周りを歩く。
近くで見ると、ダメージは想像以上に深刻だった。
「ここの亀裂、かなり深い……」
「こっちの枝は、もう折れかけている」
「葉っぱも、半分以上枯れちゃってる……」
調べれば調べるほど、絶望的な気持ちになる。
でも、諦めるわけにはいかない。
「……」
「アス様?」
「いや、少し気になることがある。だが、まずはユグドラシルを試そう」
「うん」
ユグドラシルの魔法陣を見ながら、毛糸を用意し、編み始める。
心を込めて、願いを込めて。
世界樹を救いたい。
皆の運命を、守りたい。
カチャカチャと編み棒が動く。
複雑な模様が、少しずつ形になっていく。
「できた――けど」
巨大な世界樹に対して、修復用の魔法陣はあまりに小さい――。
アス様が魔力を流してくれた。祈るような気持ちで見守る。
「あ、ちゃんと手入れできてる――!」
そう思ったのもつかの間。
「え……」
一か所を手入れして、そして他の箇所に魔法を使って手入れしている間に……さっき手入れした場所が、再び力を失って光の繊維がほつれていく。
「そ、そんな……!」
私は絶望的な気持ちで、その様子を見ていた。
アス様が優しく聞いてくる。私は編み物バッグを確認しながら頷いた。
「うん。編み棒も、糸も、全部持った」
「よし。では、行こう」
城の奥にある転移魔法陣へ向かう。チューベエが心配そうについてくる。
「主、本当に大丈夫ですか? 世界樹なんて……」
「大丈夫だよ、チューベエ。きっと何とかなる」
「でも……」
不安そうなチューベエの頭を撫でた。
「心配してくれてありがとう。でも、これはきっと……私がやらなきゃいけないことだと思う」
転移先は、アス様の領地の外れ。人気のない森だった。普段は誰も近づかない場所だという。
「実は、我が一族は代々、ある場所を守ってきた」
歩きながら、アス様が説明してくれる。
「伝説の丘と呼ばれる場所だ。そこには特別な花畑があってな」
「花畑?」
「ああ。夕暮れ時にだけ咲く、不思議な花が一面に広がっている」
深い森を抜けると、なだらかな丘が見えてきた。
そして――
「わあ……!」
息を呑むような光景が広がっていた。
見渡す限りの花畑。でも、普通の花じゃない。花びらが透き通っていて、夕陽の光を受けてきらきらと輝いている。まるで、ガラス細工のような花たち。
「綺麗……」
「夕映草という。太陽が沈む時だけ、この姿を見せる」
アス様に手を引かれて、花畑の中を進む。
花びらが風に揺れるたび、シャランと鈴のような音が響く。
「昔から、我が一族はこの場所を守ってきた。なぜかは分からなかったが、『いつか必要な時が来る』と言い伝えられていた」
「それが、今……?」
「おそらくな」
花畑の中央に、古い石碑があった。見慣れない文字が刻まれている。
「これは……?」
「魔族の古い文字だな」
「なんて書いてあるの?」
「『織りなす者、糸を通せ』」
「糸を……?」
石碑をよく見ると、何かを引っかけるところがいくつかある。
まるで、かぎ針の先のような。
「もしかして……」
毛糸を取り出して、石碑に順にかけていくと文様ができあがっていった。
すると――
空が急に歪み、始めた。
「きゃっ!」
「大丈夫だ、俺がついている」
アス様に支えられながら見守っていると、石碑の前の空間はどんどん歪んでいき、大きな光の扉が現れる。
「すごい……」
「ああ。こんなものが隠されていたとは」
「これが……世界樹への入り口」
「行こう、ニニィアネ」
「うん」
手を繋いで、光の中へ一歩踏み出す。
目を開けると、そこは――
「すごい……」
言葉を失った。
目の前にそびえ立つのは、想像を絶する巨大な輝く樹。幹の太さは城よりも大きく、先が見えないほどに、枝は空の彼方まで伸びている。葉は星のように輝き、全体が淡い光を放っていた。
「これが、世界樹……」
「ああ。世界を支える、命の樹だ」
美しく強大……でも、近づいてみると、異変は明らかだった。
「あ……」
光る幹のあちこちに、亀裂が走っている。
枝は重みで垂れ下がり、葉は光をこぼし始めていた。
そして何より――
「糸……」
無数の糸が、樹に絡みついている。
金色、銀色、赤、青、あらゆる色の糸。それぞれが誰かの運命を表しているのだろう。
でも、その量が尋常じゃない。
糸が何重にも巻きついて、樹を締め付けている。
「千年分の運命……」
アス様が苦い表情で呟いた。
「手入れされずに溜まり続けた、人々の運命の糸か……」
「樹が、苦しんでる……」
涙が出てきた。ずっと長い間、世界樹は一人で耐えていたんだ。
ギシッ……
不気味な音がした。
見ると、幹の亀裂がさらに広がっている。
「このままじゃ、本当に壊れちゃう……!」
「ああ。急ごう」
震える手で、あの古い紙片を取り出した。
樹を手入れするための魔法陣――『ユグドラシル』。
「これで、きっと……」
でも、魔法陣を見ているうちに、不安が募ってくる。
本当に、私にできるのだろうか。こんなに巨大な樹を、救えるのだろうか。
もし、失敗したら――。
「ニニィアネ」
アス様が優しく肩に手を置いた。
「君なら、できる」
「でも……」
「俺も協力する。大丈夫だ」
「アス様……」
その言葉に勇気をもらった。
そうだ、私は一人じゃない。
「まずは、世界樹の状態をもっとよく調べよう」
「うん」
二人で世界樹の周りを歩く。
近くで見ると、ダメージは想像以上に深刻だった。
「ここの亀裂、かなり深い……」
「こっちの枝は、もう折れかけている」
「葉っぱも、半分以上枯れちゃってる……」
調べれば調べるほど、絶望的な気持ちになる。
でも、諦めるわけにはいかない。
「……」
「アス様?」
「いや、少し気になることがある。だが、まずはユグドラシルを試そう」
「うん」
ユグドラシルの魔法陣を見ながら、毛糸を用意し、編み始める。
心を込めて、願いを込めて。
世界樹を救いたい。
皆の運命を、守りたい。
カチャカチャと編み棒が動く。
複雑な模様が、少しずつ形になっていく。
「できた――けど」
巨大な世界樹に対して、修復用の魔法陣はあまりに小さい――。
アス様が魔力を流してくれた。祈るような気持ちで見守る。
「あ、ちゃんと手入れできてる――!」
そう思ったのもつかの間。
「え……」
一か所を手入れして、そして他の箇所に魔法を使って手入れしている間に……さっき手入れした場所が、再び力を失って光の繊維がほつれていく。
「そ、そんな……!」
私は絶望的な気持ちで、その様子を見ていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。
まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。
理由は、お家騒動のための避難措置である。
八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。
★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。
☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。
☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
役立たずとして邪神へ生贄に捧げられましたが、至宝認定されて溺愛されています
灯息めてら
恋愛
セレナは不思議な力を持ち、ずっと気味悪がられてきた。そしてついに邪神に生贄に捧げられてしまう。ところが邪神ネフィルはセレナを害するどころか溺愛し始めて――
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
義妹に婚約者を譲りました。貧乏伯爵に嫁いだら、溺愛と唐揚げが止まりません
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!