Rainy Cat

mito

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Past#3 一日-oneday-

Past#3 一日-oneday- 1

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鳥が鳴いてる。

道場脇で若々しく生い茂る銀杏の木に巣があるらしく、朝はいつも軽快なさえずりが脳を刺激する。


「……ん……」


丸い格子窓から朝日が差し込んで眩しい。持っていた掛布団を引き上げて顔を覆う。頭が痛い。瞼が重い。かつてないほどに全身が重たい。目に関しては開いてるつもりなのに、視界の半分埋まってる。どうやらかなり瞼が腫れてるらしい。


そういえば昨日かなり泣いたのに冷やさず寝たな。……え、寝た? うん寝たんだろう。それは今布団に居る時点で明白なんだけど。あれ、違うよね。何か違うよね。


言うのも恥ずかしい寝たとかいうネタ、二度目とか嘘ですよね?


「ああああああっっ!!!!」

掛布団を蹴り飛ばして、半分の世界を瞬時に見渡す。居ない、居ない。本来ここで寝ているはずの彼が居ない!!


1日はいるって言ったのは他でもない彼だったのに。
もう怖くて正直言葉に似合わない穏やかさに心臓止まったとか本気で思ったくらい怖い中で必死に一日って言ったのに!!


「逃げやがったなあのひと……ッ!!!!」


ばんっと離れのあちこちが軋むような勢いで、仏間に繋がる襖を開けて飛び出す。が瞬間、固い何かにぶちあたり畳に思いきり尻を打った。



「った!!」

「大丈夫か」

「大丈夫……って貴方自分で一日とか言ったくせに逃げるとかどういうっ…………てあれ?」


差し出された大きな手に触れる直前で、ピタリと止める。それはヒビが入っていたためシズさんに言われて敢えて固めに固定したはずの、痛々しい内出血が見える左手。
決定的なのはこの耳にじんわり染み渡るような低い声。


「アンタは目の前に居る奴に向かって、逃げやがってって責めんのか?」


高い位置から、からかうように問う彼は、そうして淡い朱色の唇の端を持ち上げる。



動きに合わせて、さらさらと揺れる長い前髪。
その隙間に見える瞳に光彩は見えない。まるでぽっかりと開いた洞穴に広がる闇のように。

目尻が少し切り上がり、鋭利な印象を与えるが、雰囲気が今は柔らかいせいか強面にしても睨み付けられているようには感じない。


むしろ多分間抜けな顔をして見上げている自分に苦笑するような目線は、優しい気がして。


呼吸の仕方が分からなくなる。


明け方の月を思わせる白磁の肌にある、殴られた跡も少し腫れた頬も、そして額の包帯も。
きっと何をもっても損なうことはできやしない。



光の中で、ただ目を奪われた。


彼はとても綺麗だった。



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