Rainy Cat

mito

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Past#4 東町-easttown-

Past#4 東町-easttown- 7

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* * *


「……ひどい」


ガタガタと膝が笑う。酷い悪臭が蔓延している。

ブチが鳴き示したその場所に、横たわるのは野良猫だった。


それも一匹のメスと、七匹の子供。


まだ満足に鳴けない子の前で横たわり、魚のように開かれた腹部から血を流す親猫は、その体の下に事切れた子供を抱いていた。


七匹の子供のうち生きて親元を離れないのが四匹。
防水の携帯のバックライトで怪我を確認すれば、四匹も軽くではあるが明らかに人工的な傷を負っていた。


「……ッ」


目を強く瞑る。見つめたくない現実に噛み締めた唇から鉄の味がした。
それでも、目を瞑っても、猫は一匹だって生き返らない。

バックにし舞い込んだシャツを、文具に入れたカッターで裂き、まず手当てをする。近場の軒下に傘をおき、敷いたタオルの上に四匹とブチを避難させる。

ブチは少々暴れたが、ふと大人しくなって傘の下に入っていった。


雨に濡れ、血の濡れる母猫の姿は、あまりに無惨だった。


ぐったり弛緩した体は、徐々に強ばっていく。雨でそのしなやかな体躯を清め、一度抱き締めて、三匹の子猫と共に近場で埋められる場所を探すために、一歩と踏み出す。


知っていた。
十分すぎるほど、理解していたはずだ。
一番最初に猫を拾った時に、そのことを自分は思い知った。

ここはそういう町なんだと。



だからこそ余計に、怪我した猫を放っておくことができなくなった。



ものの腐敗した臭いが酷い。アンモニアのようなツンと奥で嫌に残る臭気は、まさに捨てられた町に相応しい臭い。

抱える体の冷たさに、震える。

震える体を抑えるよう、一層に抱きしめる。


その刹那、首筋から背筋に走った嫌な感じはなんだったのか。


振り向くよりも早く、次いで首筋に当たった固いもの。ぬるりと筋に沿って線が引かれる感触。
襟足を遊ぶ指は、頸動脈を確実に捉える。


大きく震えた腕から、ぱしゃんと子猫の体が一つこぼれ落ちた。


低く唸るような音をたて、水銀灯の放つ青白の光が、水溜まりに反射する。

波紋の重なるその水鏡。
映る。目を見開いた自分の肩口。


覆いかぶさるようにして。






――――虚ろの死神は、そこにいた。


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