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Past#4 東町-easttown-
Past#4 東町-easttown- 10
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生と死とは、言わずと知れた対義語であるけれど、これは決して矛盾した考えではない。
言い方を変えれば、わかりやすいのかもしれない。
彼が本当に望むこと。
それは、逝かされた『相手』の中で生きること。
現実の世界で生きるのではなく、
記憶の中で生きること。
そのためには、『相手』を見定める必要がある。
人を殺し慣れ、その事実を割りきれ、忘却できる人間ではいけない。
人が死ぬ現実に、馴れきった世界の人間は相応しくない。
だったら、求めるべきはどんな人間?
遠くに聞こえる猫の声。
この路地に入り込んだ直後、どこか嬉しそうに鳴いていたブチを思う。
本来人嫌いであるはずのあの猫が、唯一初対面で触れることを許したのは誰だった?
自惚れではなく、彼は自分を待っていたのだと思った。
いや。
僕をというより、
彼の理想とする、最適な『相手』を。
「なんなんだよ、それ!!」
叫んだ。
叫ばずに、いられなかった。
だって、彼ならわかってたはず。
彼が提示していることは、一生を縛り付ける究極な命の背負わせ方だということを。
自分が提示した一人の人間を保護して、その身を負って、責任を負うよりも、ずっとずっと重い背負う方法なんだと。
彼は聡明で理性的な人間だから。
でも、二週間前から胸の奥底で燻っていた恐怖が囁く。
この時を待っていたように。
普段あまりに自分たちと変わらないように見える彼が、ふと見せる、まさに今目の前にいる彼こそが
『死神』と呼ばれる所以(ゆえん)の姿なのではないのか。
「……安心しろよ。今なら俺を殺したところでアンタは捕まらない。そこに転がってる奴らが喜んで罪を背負うから」
「ッそういう問題じゃない!! そもそもそんなことしない!!」
「俺殺しはこの世界じゃ名誉らしい」
「殺さないって言ってるだろう!?」
とうとうと言いつなぐ彼の腕を強く、強く引く。その肩を揺さぶる。
俯く顔に、真っ黒な髪が張り付いて、前髪が顔半分覆って、彼の目は見上げても見えない。
捕らえた腕をそのままの力で握って、感情に任せて揺さぶり続ける。こんなに近くにいるのに言葉が一向に届いた様子がなくて、何を言っても何をやっても届く気配がなくて、その焦れがそのまま声に伝わって空気を震わす。
雨のにおいが助長する。
ものの腐った臭いが喉を焼く。
それでも、言葉をとぎらせるつもりはなかった。
彼に、彼の願望を口にできる時間を与えるつもりは、一片だってなかった。
「背負う覚悟もないくせに、って言った!! 自己満足だって言った!!」
「……」
「自己満足はどっちだよ!! 結局背負わせるつもりかよ!! しかも一番最低な方法で!!」
「……あぁ、」
「言っただろう!? 僕は貴方に生きて欲しいんだ。生きる貴方ならいくらでも助ける。確かに僕には何もかもが足りないけど、貴方が生きたいならそれでも絶対に背負ってみせる、だけど!」
「……生きる?」
ぽつり。
それは今まで聞いた中で一番、雨に消え入りそうなほど微かな呟きだったのに、知らずにひくりと息を呑んだ。
声音が自分の中を吹き抜けて、大きく体が震える。
掴んでいた腕を咄嗟に放した。
そのまま握っていたら、繋がっているそこから得体の知れないモノが流れ込んでくるような。
そのまま、この見える景色のように、彼の色に染められるようで。
「ッ!!」
――でも、逃さないと、細く長い指がするり、自分の腕を絡めとる。
言い方を変えれば、わかりやすいのかもしれない。
彼が本当に望むこと。
それは、逝かされた『相手』の中で生きること。
現実の世界で生きるのではなく、
記憶の中で生きること。
そのためには、『相手』を見定める必要がある。
人を殺し慣れ、その事実を割りきれ、忘却できる人間ではいけない。
人が死ぬ現実に、馴れきった世界の人間は相応しくない。
だったら、求めるべきはどんな人間?
遠くに聞こえる猫の声。
この路地に入り込んだ直後、どこか嬉しそうに鳴いていたブチを思う。
本来人嫌いであるはずのあの猫が、唯一初対面で触れることを許したのは誰だった?
自惚れではなく、彼は自分を待っていたのだと思った。
いや。
僕をというより、
彼の理想とする、最適な『相手』を。
「なんなんだよ、それ!!」
叫んだ。
叫ばずに、いられなかった。
だって、彼ならわかってたはず。
彼が提示していることは、一生を縛り付ける究極な命の背負わせ方だということを。
自分が提示した一人の人間を保護して、その身を負って、責任を負うよりも、ずっとずっと重い背負う方法なんだと。
彼は聡明で理性的な人間だから。
でも、二週間前から胸の奥底で燻っていた恐怖が囁く。
この時を待っていたように。
普段あまりに自分たちと変わらないように見える彼が、ふと見せる、まさに今目の前にいる彼こそが
『死神』と呼ばれる所以(ゆえん)の姿なのではないのか。
「……安心しろよ。今なら俺を殺したところでアンタは捕まらない。そこに転がってる奴らが喜んで罪を背負うから」
「ッそういう問題じゃない!! そもそもそんなことしない!!」
「俺殺しはこの世界じゃ名誉らしい」
「殺さないって言ってるだろう!?」
とうとうと言いつなぐ彼の腕を強く、強く引く。その肩を揺さぶる。
俯く顔に、真っ黒な髪が張り付いて、前髪が顔半分覆って、彼の目は見上げても見えない。
捕らえた腕をそのままの力で握って、感情に任せて揺さぶり続ける。こんなに近くにいるのに言葉が一向に届いた様子がなくて、何を言っても何をやっても届く気配がなくて、その焦れがそのまま声に伝わって空気を震わす。
雨のにおいが助長する。
ものの腐った臭いが喉を焼く。
それでも、言葉をとぎらせるつもりはなかった。
彼に、彼の願望を口にできる時間を与えるつもりは、一片だってなかった。
「背負う覚悟もないくせに、って言った!! 自己満足だって言った!!」
「……」
「自己満足はどっちだよ!! 結局背負わせるつもりかよ!! しかも一番最低な方法で!!」
「……あぁ、」
「言っただろう!? 僕は貴方に生きて欲しいんだ。生きる貴方ならいくらでも助ける。確かに僕には何もかもが足りないけど、貴方が生きたいならそれでも絶対に背負ってみせる、だけど!」
「……生きる?」
ぽつり。
それは今まで聞いた中で一番、雨に消え入りそうなほど微かな呟きだったのに、知らずにひくりと息を呑んだ。
声音が自分の中を吹き抜けて、大きく体が震える。
掴んでいた腕を咄嗟に放した。
そのまま握っていたら、繋がっているそこから得体の知れないモノが流れ込んでくるような。
そのまま、この見える景色のように、彼の色に染められるようで。
「ッ!!」
――でも、逃さないと、細く長い指がするり、自分の腕を絡めとる。
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