Rainy Cat

mito

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Past#5 名前-name- side.az

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人間が堕ち始めるきっかけに、そんな大層な理由はいらない。

今になってやっと、涙が出るほどガキくせぇ理由で人生捨てやがったと過去の自分を笑うこともあるが、当時としちゃそれは人生を捨てるに値する十二分の理由だった。



死にたがり、だなんて表現した暁には何の成長もなく今まで生きてきたように思われるだろうが、あの頃の俺は今と比じゃないくらい死に場所を求めていた。
落ちて堕ちて、落ちぶれて。
ただただ、誰かに殺して欲しかった。


……そんな、ガキ過ぎた俺にとって、
闇色だけを侍らせたヤクザの世界は、俺の望みを叶える唯一に見えた。



高校を中退し、自暴自棄に陥ったままアンダーグラウンドに入り浸っていた俺を拾った奴が、当時の武藤の組長だったことも、全てのきっかけだったのだろう。

そいつは俺を殺してやれる、と言った。
だから思惑に乗ってやった。




そして、いざ約束が果たされると思った日。



あとは本当の死神を待つだけだった俺を、明が拾った。







未来を決めてやる。




そう不敵に笑い、明は言葉通り俺の死に様までを綿密に計画し、そして施行に移してみせた。


明は常に完璧だった。
アイツが計画し策略を練った全てに負けは存在しない。
アイツは人を人とは思わない。
三歩先を読み、あらゆるパターンを考え対策を作る。敵味方関係なく使える手駒を全て有効に使いきる能力に、明は特に長けていた。

アイツの目には、きっとこの町がチェス盤にしか見えていなかったように思う。


そして俺も例に漏れず、そのゲーム盤に上がり、最強の捨て駒として死ぬはずだった。




あの日、蒼に沈む廃れたアーケード街で。










「……ましたか?」


うっすらと見えた世界を脳が映すことを拒否する。まるで海底から空を見上げた時のような、不安定に揺れ映る光が眩しくて、また瞼を下ろす。


光の夢。


潮に巻かれ、渦に呑まれ。深く深く光の反射すら差し込まず、黒が染めあげる深海に一度堕ちた人間を、引き上げることは決してできない。


だから俺が本当の光を見ることは決してない。





「……いい加減。起きてるでしょう? 元死神」





遠く囁いて聞こえる声に、心の中だけで笑う。
自分に都合の良い夢は続いているようだ。
たとえその囁きが現実味帯び、多分に苛立ちを含んでいたとしても、これはただの幸せな夢。

幸せな、に決まってんだろう?

この声の近くには、深海にまで手を伸ばそうと奮闘する稀な光があると俺は知ってる。


その小さな光は、諦めが悪く、世間知らずで。

その親に負けないほどお人好し。




「……元って、なに」



上手く、発声できない。掠れに掠れた声は、果たしてあの男に届いただろうか。


「元は元でしょう? 貴方はもう死神ではないのですから」


アンタまでバカ言うんじゃねぇよ。
本当にこの親子は、いつも想像の斜め上をいきやがる。


ヤクザに堕ちても
死神と呼ばれ
明の息子になっても

例えばあのお人好しこどもが、俺に名付けたあれが夢ではないとしても。


それは俺という人の形をした物体の、肩書きが変化していっただけの話で、結局は何の解決にもなっていない。



本当にこの世から俺の存在が抹消されない限り。
簡単な話、俺の死体と死亡届けが世間に出ない限り、裏の世界が俺を手放すことはないだろう。


朝比奈も武藤も問わず、血眼に探し続けるはずだ。
姿が消えたからといって安堵し野に放つには、俺は黒の世界の内情に精通し過ぎた。



結局、俺は『死神』の名から逃れることはできない。
武藤明の義息子の立場からも、逃げられない。
彼が俺に付けた新たな名は、俺の新たな肩書きとなっただけだ。


そもそも新たな名を与え新たな生を受けるなど、ただの言葉上の問題であり、精神面でしか人を救わない。


「そうだろう?」



ふわふわとした頭がやっと見る機能に通常運転を許す。
映し出された板張りの天井、蒼に染まって見えるのは、やはり心持ちの問題か。


「それでも、そういったものを理解した上で、貴方があの子の要求を呑んだのでしょう?」


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