Rainy Cat

mito

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Past#7 日常-daily-

Past#7 日常-daily- 1

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富岡道場の朝は早い。
それはシズさんの稽古があるからで、それに合わせて僕の朝も早くなったのだけれど。


「早いな」

「……」

朝日を浴びて、少し目を細めるようにして僕を見上げる彼の手に、大人しく収まるのは竹箒。



『アズミ』の訪れから二週間。
学校は夏期講習と名前を変えただけで、生活は何も変わらない。

その中で、彼が静かに床についていたのは一週間にも満たず、その細く大きな手が手にした清掃アイテムはかれこれいくつ目になるのだろう。


ふぅ、と思わずため息が漏れる。それを彼は苦笑で迎えて、小さく肩を竦める。

しかたがないだろうというように。



確かに働かざる者食うべからず、と掃除を命じたのはシズさんだけれども。

「こんな朝やらなくたって……」

呟きに彼は相変わらず声なく笑うだけだ。


そうして、いう。


「おはよう、コタ」

「……おはよう、アズ」


本当はわかってる。
この声を朝一番に聞いて安堵する胸が、彼がいつも早朝に自分の部屋の辺りを掃除するの意味を悟ってる。



……今日も、居た。
居てくれた。



浴衣一つ残して、それ以外の痕跡をすべて消して、彼が姿をくらましたあの日が脳裏を離れない。


背中に隠した右手の拳を解き、脱力を装って肩の力を抜く。
こんな、不安が拭えず不安定な自分のを、どんなに笑顔で取り繕ったところで、
聡い彼が気づかないはずがないのだ。


彼が掃除を終えた頃に、朝ご飯を作り終える。


同じ食卓を囲む。


最初の日、食べられない、すまないと、用意した食事を前に小さく呟いた彼は、たぶんシズさんが睨みを利かせているせいもあるのだろうけど、今では少量のお粥を口にするようになった。


もともと食は細いらしい。
その上、ここ数日ろくなものを食べていなかったから、今の状態で固形物を受け入れられないだろうと判断したのだ、と彼はその夜言った。


『アンタの料理だから食べられないんじゃない』



謝罪のあとに加えられた言葉は、いつだって自分を気遣うもの。


いつだって、この胸の内を見透かしたように、彼の言葉は計算されたタイミングで与えられる。


そこまで気遣わなくて大丈夫なのに。
そんなに彼の一挙一動に動揺しているように見えるのだろうか。


会話のない食事の最中も、彼が手を止め自分を見つめているのは、そんなに自分が不安定で、いつも言葉を欲しているように見えるからだろうか……


言葉ですべての理由を明かされなくたって、自分は……



「そう思ってんのはお前だけだろ。なに、自覚ないの、コタロって」

「……え、は!? 岡やん!?」

「お前はさ、言葉でいちいち説明してやんないと、自分で勝手に悪い方に思い込んで自己完結してさ。ぶっちゃけかなり面倒くさいタイプだよなー」

「いきなり何言ってんの、てかかなり辛辣な評価なんだけど、僕何か岡やんにした!?」

突然思考に割り込んできた岡やんの声に、困惑と混乱の最中に放り込まれた自分のもとへ、はぁ? とこれはまた呆れた声が投げかけられる。


「帰りのSHR終わったから、帰ろーぜっていいにきたら、一人でぶつぶつ言ったの、自覚なかったのかよ。隣の女子引いてたぜ?」

「うわ、痛い……」

「あのな、他人事じゃなくてお前の話よ、お前の」


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