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箱庭の真実
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螺旋階段を上ると、塔の内部が開けた。
壁面に——映像が浮かんでいた。赤い光の中に、風景が映し出されている。山。森。川。海。街。人々。——地上の世界の、完全な複製。
「これは——」リーシャが壁に手を触れた。「地上の風景が——記録されている。三千年分の」
「記録ではない」ヴェルディアが壁の映像を見つめた。「これは——シミュレーションだ。地上の世界を模倣し、再現している。物理法則。魔力の流れ。生態系。全てを——」
「三千年かけて作った——世界の模型か」レイドが呟いた。
「模型以上だ。この精度なら——世界そのものと区別がつかない」
階段をさらに上った。映像が変わった。
世界の構造が——図式化されている。五つの柱。五つの封印。地脈。海流。大気。全てが複雑な紋様で表現され、動いている。
「世界の設計図——」リーシャの碧眼が輝いた。学者としての興奮を抑えきれない。「こんなものが——作れるのですか」
「三千年あれば——できる」ヴェルディアが答えた。「イルヴァーンの知性なら」
塔の最上階に着いた。
広い部屋。壁面全体が赤い光で覆われ、中央に——石の台座がある。台座の上に——球体が浮いていた。
青い球体。直径は両手で抱えるほど。表面に——大陸と海が描かれている。雲が動き、風が渦を巻いている。
「世界だ——」ミラが呟いた。「小さな——世界が——」
球体の中に——世界が詰まっていた。ミニチュアの世界。山も森も海も街も——全てが精密に再現され、動いている。
「イルヴァーン」レイドが声を上げた。「ここにいるんだろう。話をしろ」
赤い光が揺れた。台座の横に——人影が現れた。
夢で見た男。痩身。長い黒髪。深い紫の瞳。だが——今は半透明だ。実体がない。意識の投影。
「気に入ったかい」イルヴァーンが球体を見つめた。「三千年の——傑作だ」
「何のために作った」
「世界を——完成させるために」
イルヴァーンが球体に手を翳した。球体が回転し、拡大した。大陸の一部がクローズアップされ、地脈の流れが見えた。
「今の世界には——設計上の欠陥がある。神々が世界を作った時——急いだ。完成させずに、応急処置で形にした。柱はその一つだ。世界を自立させるべきだったのに——支えを入れてしまった」
「支えがなければ——世界は崩壊する」
「今の世界は——そうだ。だが本来は——支えなしで立つ世界が作れた。神々には時間がなかったが——私には三千年あった」
イルヴァーンが球体の一部を指差した。地脈が交差する点。現実の世界では——そこに封印の神殿がある。
「この模型の中で——私は世界の設計を修正した。柱も封印もない。自律的に均衡を保つ世界。深淵の眷属は——存在しない。世界が完成していれば、そもそも深淵は生まれない」
「それは——理論上の話だ」ヴェルディアが低い声で言った。「模型の中で動いても——現実に適用できるかは別だ」
「三千年——テストした。この模型の中で。何百回も——設計を変え、試し、修正した。今の設計は——完全だ」
「完全——?」
「ああ。この設計で現実の世界を——書き換えれば。柱も封印も不要になる。深淵も消える。世界は——永遠に安定する」
沈黙。
「書き換える——って」ミラが聞いた。「世界を——壊して作り直すってこと?」
「壊すのではない。——再設計だ。現在の世界の骨格を保ったまま、設計上の欠陥を修正する。人間は死なない。山も海もそのまま残る。ただ——世界の基盤が、より完全なものに置き換わる」
「失敗したら」レイドが聞いた。
イルヴァーンが——初めて口ごもった。
「……失敗すれば——世界が崩壊する。全てが消える」
「その確率は」
「模型上のテストでは——成功率は九十八パーセント以上だ。だが——現実の世界には、模型で再現しきれない変数がある。正確な確率は——」
「分からないのか」
「……百パーセントではない。それだけは——認める」
レイドはイルヴァーンの紫の瞳を見つめた。嘘はない。だが——確信に満ちた狂気がある。九十八パーセントの成功率を——充分だと考える男。
「二パーセントの確率で——世界が消えるのか」
「二パーセントの代わりに——永遠の安定を得る。柱も封印も不要な世界。深淵の脅威から——永遠に解放される世界。それが——価値があると思わないか」
「思わない」
レイドの声は——静かだが、揺るがなかった。
「一パーセントでも——世界が消える可能性がある限り。この世界に生きている全ての人間の命を——賭けには使えない」
イルヴァーンの瞳が——揺れた。
「……お前は——ヴェルディアと同じだ。慎重すぎる。安全を選んで——未来を失う」
「安全が未来だ。二パーセントの破滅は——未来じゃない」
赤い光が揺れた。イルヴァーンの表情が——変わった。穏やかさが消え、深い失望が浮かんだ。
「そうか。——お前も——理解しないのか」
イルヴァーンの姿が薄くなった。赤い光が暗くなり始めた。
「帰れ。——考える時間をやる。だが——長くは待たない。私は——三千年待った。もう充分だ」
球体の光が消えた。塔の中が暗くなり、赤い光だけが壁面に残った。
「戻るぞ」レイドが言った。
四人は螺旋階段を降り、塔を出て、穴を通って石室に戻った。
アルヴィンたちが待っていた。
「何があった」
「長い話になる。——だが一つだけ。イルヴァーンは——世界を作り直そうとしている。成功率九十八パーセントの——賭けで」
全員の表情が——凍りついた。
壁面に——映像が浮かんでいた。赤い光の中に、風景が映し出されている。山。森。川。海。街。人々。——地上の世界の、完全な複製。
「これは——」リーシャが壁に手を触れた。「地上の風景が——記録されている。三千年分の」
「記録ではない」ヴェルディアが壁の映像を見つめた。「これは——シミュレーションだ。地上の世界を模倣し、再現している。物理法則。魔力の流れ。生態系。全てを——」
「三千年かけて作った——世界の模型か」レイドが呟いた。
「模型以上だ。この精度なら——世界そのものと区別がつかない」
階段をさらに上った。映像が変わった。
世界の構造が——図式化されている。五つの柱。五つの封印。地脈。海流。大気。全てが複雑な紋様で表現され、動いている。
「世界の設計図——」リーシャの碧眼が輝いた。学者としての興奮を抑えきれない。「こんなものが——作れるのですか」
「三千年あれば——できる」ヴェルディアが答えた。「イルヴァーンの知性なら」
塔の最上階に着いた。
広い部屋。壁面全体が赤い光で覆われ、中央に——石の台座がある。台座の上に——球体が浮いていた。
青い球体。直径は両手で抱えるほど。表面に——大陸と海が描かれている。雲が動き、風が渦を巻いている。
「世界だ——」ミラが呟いた。「小さな——世界が——」
球体の中に——世界が詰まっていた。ミニチュアの世界。山も森も海も街も——全てが精密に再現され、動いている。
「イルヴァーン」レイドが声を上げた。「ここにいるんだろう。話をしろ」
赤い光が揺れた。台座の横に——人影が現れた。
夢で見た男。痩身。長い黒髪。深い紫の瞳。だが——今は半透明だ。実体がない。意識の投影。
「気に入ったかい」イルヴァーンが球体を見つめた。「三千年の——傑作だ」
「何のために作った」
「世界を——完成させるために」
イルヴァーンが球体に手を翳した。球体が回転し、拡大した。大陸の一部がクローズアップされ、地脈の流れが見えた。
「今の世界には——設計上の欠陥がある。神々が世界を作った時——急いだ。完成させずに、応急処置で形にした。柱はその一つだ。世界を自立させるべきだったのに——支えを入れてしまった」
「支えがなければ——世界は崩壊する」
「今の世界は——そうだ。だが本来は——支えなしで立つ世界が作れた。神々には時間がなかったが——私には三千年あった」
イルヴァーンが球体の一部を指差した。地脈が交差する点。現実の世界では——そこに封印の神殿がある。
「この模型の中で——私は世界の設計を修正した。柱も封印もない。自律的に均衡を保つ世界。深淵の眷属は——存在しない。世界が完成していれば、そもそも深淵は生まれない」
「それは——理論上の話だ」ヴェルディアが低い声で言った。「模型の中で動いても——現実に適用できるかは別だ」
「三千年——テストした。この模型の中で。何百回も——設計を変え、試し、修正した。今の設計は——完全だ」
「完全——?」
「ああ。この設計で現実の世界を——書き換えれば。柱も封印も不要になる。深淵も消える。世界は——永遠に安定する」
沈黙。
「書き換える——って」ミラが聞いた。「世界を——壊して作り直すってこと?」
「壊すのではない。——再設計だ。現在の世界の骨格を保ったまま、設計上の欠陥を修正する。人間は死なない。山も海もそのまま残る。ただ——世界の基盤が、より完全なものに置き換わる」
「失敗したら」レイドが聞いた。
イルヴァーンが——初めて口ごもった。
「……失敗すれば——世界が崩壊する。全てが消える」
「その確率は」
「模型上のテストでは——成功率は九十八パーセント以上だ。だが——現実の世界には、模型で再現しきれない変数がある。正確な確率は——」
「分からないのか」
「……百パーセントではない。それだけは——認める」
レイドはイルヴァーンの紫の瞳を見つめた。嘘はない。だが——確信に満ちた狂気がある。九十八パーセントの成功率を——充分だと考える男。
「二パーセントの確率で——世界が消えるのか」
「二パーセントの代わりに——永遠の安定を得る。柱も封印も不要な世界。深淵の脅威から——永遠に解放される世界。それが——価値があると思わないか」
「思わない」
レイドの声は——静かだが、揺るがなかった。
「一パーセントでも——世界が消える可能性がある限り。この世界に生きている全ての人間の命を——賭けには使えない」
イルヴァーンの瞳が——揺れた。
「……お前は——ヴェルディアと同じだ。慎重すぎる。安全を選んで——未来を失う」
「安全が未来だ。二パーセントの破滅は——未来じゃない」
赤い光が揺れた。イルヴァーンの表情が——変わった。穏やかさが消え、深い失望が浮かんだ。
「そうか。——お前も——理解しないのか」
イルヴァーンの姿が薄くなった。赤い光が暗くなり始めた。
「帰れ。——考える時間をやる。だが——長くは待たない。私は——三千年待った。もう充分だ」
球体の光が消えた。塔の中が暗くなり、赤い光だけが壁面に残った。
「戻るぞ」レイドが言った。
四人は螺旋階段を降り、塔を出て、穴を通って石室に戻った。
アルヴィンたちが待っていた。
「何があった」
「長い話になる。——だが一つだけ。イルヴァーンは——世界を作り直そうとしている。成功率九十八パーセントの——賭けで」
全員の表情が——凍りついた。
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