勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした

ポポリーナ

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二パーセントの意味

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 レヴァルスの食堂。夜。

 十人が円卓を囲んでいた。窓の外に港の灯りが見え、波の音が遠くに聞こえている。

 レイドが深淵の底で見たもの——全てを報告した。三千年の箱庭。世界の模型。イルヴァーンの提案。世界の再設計。九十八パーセントの成功率。

「九十八パーセント——高いな」ジークが言った。

「高い?」ガレスが眉を上げた。「二パーセントで世界が消えるんだぞ」

「五十人に一人の確率だ。戦場なら——許容範囲だ」

「戦場じゃねえだろ。世界だぞ。全人類の命だ」

「だから——意見が分かれるんだろう」

 ジークの眼帯の奥の目が鋭い。この男は——数字で考える。

「リーシャ。学者として——どう見る」ジークが聞いた。

 リーシャが考え込んだ。碧眼が揺れている。

「模型の中で九十八パーセントという数字が出ているとして——現実の世界は模型より遥かに複雑です。変数が多い。人間の意志。魔力の揺らぎ。気象。地殻変動。模型で再現できない要素が——何百とある。現実の成功率は——九十八パーセントより低い可能性が高い」

「どのくらい低い」

「推測でしかありませんが——九十パーセントを下回る可能性もある。十パーセントの確率で世界が消える——それは」

「賭けには乗れない」レイドが断じた。

 ヴァレリウスが口を開いた。

「だが——現状維持が安全だとも言い切れない。封印は修復したが——永遠ではない。千年。三千年。やがてまた劣化する。その度に——誰かが修復しなければならない。人類が永遠にそれを続けられるか」

「ヴァレリウスの言う通りだ」ヴェルディアが頷いた。「私は三千年——一人で世界を支えた。次に同じことをする者が現れるとは限らない。封印の管理者が途絶えれば——いずれ世界は崩壊する」

「じゃあ——イルヴァーンの方法を受け入れるのか」ガレスが聞いた。

「受け入れない。だが——問題は認める。イルヴァーンが指摘した世界の欠陥は——事実だ」

 食堂が静まった。

 セレナが静かに手を挙げた。

「一つ——聞いてもいいですか。イルヴァーンさんの方法以外に——世界を完成させる方法は、ないのでしょうか」

 全員がセレナを見た。

「世界の設計を修正する。それ自体は——正しいのかもしれません。でも——方法が一つだけとは限らない。イルヴァーンさんは三千年かけて一つの方法を作った。でも——別の方法があるかもしれない。もっと安全な」

 ヴェルディアの琥珀色の瞳が——少し広がった。

「……別の方法か」

「はい。イルヴァーンさんは一人で考えました。三千年間——一人で。一人の知性では——見えない答えがあるかもしれない。十人なら——もっと多くの可能性が見える」

「理想論だ」ジークが言った。

「理想論ではありません。——実際に、ここに十人がいます。それぞれが異なる力と知識を持っている。三千年の天才一人より——十人の凡人の方が、多くの角度から問題を見られるかもしれません」

 レイドが——微笑んだ。

「セレナの言う通りだ。イルヴァーンは——一人で答えを出した。だが俺たちは——一人じゃない」

「だがどうやって——別の方法を見つけるんだ」アルヴィンが聞いた。

「イルヴァーンの模型を——使う」

 全員がレイドを見た。

「イルヴァーンが三千年かけて作った世界の模型。あれは——世界の設計図だ。あの模型を使って——俺たちも設計を試すことができる。イルヴァーンの方法とは違う、もっと安全な方法を」

「イルヴァーンが——許すか」ミラが聞いた。

「許すかどうかではない。——あの模型は封印の下にある。俺たちが降りれば——使える」

「つまり——イルヴァーンと競争するのか。どちらの設計が正しいか」

「競争じゃない。——説得だ。イルヴァーンに、もっと安全な方法があると示す。三千年の孤独で見えなくなったものを——俺たちが見せる」

 ヴェルディアが——長い沈黙の後、口を開いた。

「可能性は——ある。イルヴァーンの設計には、一つの前提がある。『深淵の力を使って世界を書き換える』という前提だ。深淵の力を使わずに——人間の力だけで設計を修正する方法があれば——リスクは大幅に下がる」

「人間の力だけで——可能なのか」

「分からない。だが——試す価値はある。泉の柱が証明した。人間の力で——世界を支えることができると。なら——人間の力で、世界を完成させることもできるかもしれない」

 レイドが立ち上がった。

「もう一度——降りる。イルヴァーンの模型を借りて。別の方法を——見つけるために」

「いつ降りる」

「明日だ。だが今度は——リーシャとヴェルディアだけでいい。学者と三千年の知識。——答えを見つけるのに必要なのは、剣ではなく知恵だ」

 リーシャの碧眼が——輝いた。学者の光だ。

「やりましょう。——世界の設計図を、読み解きます」

 夜が更けた。明日——再び深淵へ。今度は戦いではなく——学問の旅だ。
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