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再儀式
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四日目の夜明け。
地下空洞に——微かな光が差し込んだ。地上の太陽が、長い通路を伝って届く淡い光。
十人が泉の周囲に立っていた。四日前と同じ配置。同じ円。だが——空気が違う。
四日前は不安があった。イルヴァーンが十一人目として加わっていた。見えない亀裂が——最初からあった。
今は——十人だけだ。余分なものはない。不安もない。
「ヴェルディア——」レイドが声をかけた。
ヴェルディアは泉の縁に座っていた。四日間——世界を支え続けた体。顔は蒼白で、唇に血の気がない。だが琥珀色の瞳は——燃えていた。
「大丈夫だ。——始めろ」
「世界を支えたまま——儀式に参加できるか」
「私は主回路の一つを担当する。世界の均衡維持と——同時に。三千年前は——それが日常だった」
「三千年前と今では——体が違う」
「ああ。だからこそ——早く始めろ。体が持つうちに」
レイドは頷いた。全員を見回した。
アルヴィン。聖剣の金色の光が安定して灯っている。
ジーク。眼帯の奥の目が鋭く光っている。
ガレス。斧を背に、拳を握っている。
ミラ。猫のような目が——真剣そのものだ。
セレナ。両手を胸の前で組み、祈るように息を吸っている。
フェリクス。計測器を確認し、頷いた。
ヴァレリウス。白い法衣の上から聖印が白く光っている。
リーシャ。碧眼が——レイドを真っ直ぐに見ている。
「始めましょう」リーシャが言った。
全員が——泉に向かって一歩踏み出した。
◇
泉に入った。
水が体を包んだ。温度のない水。魔力の結晶体。呼吸ができる。四日前と同じ感覚——だが、今回は落ち着いている。
水底に——紋様が見えた。世界の核。巨大な魔法陣。七割が完成し——三割が欠けている。そして三箇所——歪んだ傷跡がある。イルヴァーンの力に浸食された痕。
十人が水底に降り立った。それぞれの担当位置へ。
レイドは東西軸の前に立った。左手を紋様に近づける。前回——手が貼りついて動かなくなった場所。今回は——自分の意志で触れる。
「全員——配置完了」リーシャの声が水中に響いた。
「行くぞ」レイドが言った。
「三——」
リーシャのカウント。全員が手に魔力を集中した。
「二——」
十色の光が水底を照らした。前回と同じ光景。だが——赤い光はない。十色だけだ。
「一——」
全員が——手を水底の紋様に押し当てた。
十の魔力が——同時に流れ込んだ。
◇
世界が震えた。
泉の水が渦を巻いた。紋様が次々と光り始める。欠けていた回路が——埋まっていく。
前回と同じだ。いや——違う。今回は——滑らかだ。イルヴァーンの力が干渉しない。十人の魔力だけが——純粋に流れ込んでいく。
レイドは東西軸の主回路に魔力を注いだ。新しいパターン——損傷箇所を迂回する設計。体が覚えている形を——反転させる。右が左に、左が右に。
紋様が光った。迂回路が——開通した。
「東西軸——修正完了」レイドが報告した。
「南北軸——順調」アルヴィンが応えた。
「上下軸——正常」ヴェルディアの声。だが——掠れている。
「副回路、第一——順調です」セレナの声。
「副回路、第二——問題なし」ミラが答えた。
七割の完成部分に加えて——新しい三割が埋まっていく。前回よりも速い。イルヴァーンの干渉がないから——魔力が真っ直ぐに流れる。
「八割——」リーシャがカウントした。「九割——」
紋様の光が強まった。水底全体が——白い光に包まれていく。
「九割五分——」
あと少し。あと少しで——
ヴェルディアの声が途切れた。
「ヴェルディア——」レイドが叫んだ。
上下軸の主回路。ヴェルディアの担当。光が——揺れていた。ヴェルディアの手から注がれる魔力が——細くなっている。
「体が——限界に近い」ヴェルディアの声が震えた。「均衡の維持と——回路の注入を——同時に——」
「魔力が足りないのか」
「足りない——のではない。体が——二つのことを同時に——」
ヴェルディアの手が——紋様から離れかけた。
「離すな!」レイドが叫んだ。
「分かって——いる——」
ヴェルディアの琥珀色の瞳が——薄暗くなった。体が傾く。水中でゆっくりと——崩れ落ちようとしている。
その時——リーシャが動いた。
自分の担当副回路から手を離し——ヴェルディアの隣に移動した。ヴェルディアの手を掴み、紋様に押し当てた。
「リーシャ——お前の回路が——」
「私の副回路は九割八分まで完了しています。残りは——フェリクスさんに引き継げます。フェリクスさん!」
「了解——俺の副回路は完了した。リーシャの分を引き継ぐ——」
フェリクスが移動した。リーシャの位置に入り、残りの副回路を引き継いだ。計測魔力の精密さが——リーシャの回路の形を正確に読み取り、再現する。
「引き継ぎ完了——問題ない」
リーシャはヴェルディアの手を握ったまま、碧の光を注ぎ込んだ。守り手の力——世界の均衡を補助する力。ヴェルディアが一人で支えていた均衡の負荷を——リーシャが半分引き受けた。
「これで——」リーシャの額から汗が流れた。「ヴェルディアさんは、回路の注入に集中してください。均衡は——私が支えます」
「お前——」
「守り手ですから。——世界を守るのが、私の仕事です」
ヴェルディアの琥珀色の瞳に——光が戻った。
「……ああ。——任せる」
上下軸の主回路に——魔力が再び流れ始めた。安定した光。ヴェルディアの手から——三千年の知識を凝縮した紋様が刻まれていく。
「九割七分——」リーシャがカウントした。均衡の維持と計測を同時に行いながら。
「九割八分——」
「九割九分——」
紋様が——完成に近づいた。水底の魔法陣が——眩い白光を放った。
「完了——」
十の魔力が——同時に流れ込んだ最後の一滴。
世界の回路が——完成した。
地下空洞に——微かな光が差し込んだ。地上の太陽が、長い通路を伝って届く淡い光。
十人が泉の周囲に立っていた。四日前と同じ配置。同じ円。だが——空気が違う。
四日前は不安があった。イルヴァーンが十一人目として加わっていた。見えない亀裂が——最初からあった。
今は——十人だけだ。余分なものはない。不安もない。
「ヴェルディア——」レイドが声をかけた。
ヴェルディアは泉の縁に座っていた。四日間——世界を支え続けた体。顔は蒼白で、唇に血の気がない。だが琥珀色の瞳は——燃えていた。
「大丈夫だ。——始めろ」
「世界を支えたまま——儀式に参加できるか」
「私は主回路の一つを担当する。世界の均衡維持と——同時に。三千年前は——それが日常だった」
「三千年前と今では——体が違う」
「ああ。だからこそ——早く始めろ。体が持つうちに」
レイドは頷いた。全員を見回した。
アルヴィン。聖剣の金色の光が安定して灯っている。
ジーク。眼帯の奥の目が鋭く光っている。
ガレス。斧を背に、拳を握っている。
ミラ。猫のような目が——真剣そのものだ。
セレナ。両手を胸の前で組み、祈るように息を吸っている。
フェリクス。計測器を確認し、頷いた。
ヴァレリウス。白い法衣の上から聖印が白く光っている。
リーシャ。碧眼が——レイドを真っ直ぐに見ている。
「始めましょう」リーシャが言った。
全員が——泉に向かって一歩踏み出した。
◇
泉に入った。
水が体を包んだ。温度のない水。魔力の結晶体。呼吸ができる。四日前と同じ感覚——だが、今回は落ち着いている。
水底に——紋様が見えた。世界の核。巨大な魔法陣。七割が完成し——三割が欠けている。そして三箇所——歪んだ傷跡がある。イルヴァーンの力に浸食された痕。
十人が水底に降り立った。それぞれの担当位置へ。
レイドは東西軸の前に立った。左手を紋様に近づける。前回——手が貼りついて動かなくなった場所。今回は——自分の意志で触れる。
「全員——配置完了」リーシャの声が水中に響いた。
「行くぞ」レイドが言った。
「三——」
リーシャのカウント。全員が手に魔力を集中した。
「二——」
十色の光が水底を照らした。前回と同じ光景。だが——赤い光はない。十色だけだ。
「一——」
全員が——手を水底の紋様に押し当てた。
十の魔力が——同時に流れ込んだ。
◇
世界が震えた。
泉の水が渦を巻いた。紋様が次々と光り始める。欠けていた回路が——埋まっていく。
前回と同じだ。いや——違う。今回は——滑らかだ。イルヴァーンの力が干渉しない。十人の魔力だけが——純粋に流れ込んでいく。
レイドは東西軸の主回路に魔力を注いだ。新しいパターン——損傷箇所を迂回する設計。体が覚えている形を——反転させる。右が左に、左が右に。
紋様が光った。迂回路が——開通した。
「東西軸——修正完了」レイドが報告した。
「南北軸——順調」アルヴィンが応えた。
「上下軸——正常」ヴェルディアの声。だが——掠れている。
「副回路、第一——順調です」セレナの声。
「副回路、第二——問題なし」ミラが答えた。
七割の完成部分に加えて——新しい三割が埋まっていく。前回よりも速い。イルヴァーンの干渉がないから——魔力が真っ直ぐに流れる。
「八割——」リーシャがカウントした。「九割——」
紋様の光が強まった。水底全体が——白い光に包まれていく。
「九割五分——」
あと少し。あと少しで——
ヴェルディアの声が途切れた。
「ヴェルディア——」レイドが叫んだ。
上下軸の主回路。ヴェルディアの担当。光が——揺れていた。ヴェルディアの手から注がれる魔力が——細くなっている。
「体が——限界に近い」ヴェルディアの声が震えた。「均衡の維持と——回路の注入を——同時に——」
「魔力が足りないのか」
「足りない——のではない。体が——二つのことを同時に——」
ヴェルディアの手が——紋様から離れかけた。
「離すな!」レイドが叫んだ。
「分かって——いる——」
ヴェルディアの琥珀色の瞳が——薄暗くなった。体が傾く。水中でゆっくりと——崩れ落ちようとしている。
その時——リーシャが動いた。
自分の担当副回路から手を離し——ヴェルディアの隣に移動した。ヴェルディアの手を掴み、紋様に押し当てた。
「リーシャ——お前の回路が——」
「私の副回路は九割八分まで完了しています。残りは——フェリクスさんに引き継げます。フェリクスさん!」
「了解——俺の副回路は完了した。リーシャの分を引き継ぐ——」
フェリクスが移動した。リーシャの位置に入り、残りの副回路を引き継いだ。計測魔力の精密さが——リーシャの回路の形を正確に読み取り、再現する。
「引き継ぎ完了——問題ない」
リーシャはヴェルディアの手を握ったまま、碧の光を注ぎ込んだ。守り手の力——世界の均衡を補助する力。ヴェルディアが一人で支えていた均衡の負荷を——リーシャが半分引き受けた。
「これで——」リーシャの額から汗が流れた。「ヴェルディアさんは、回路の注入に集中してください。均衡は——私が支えます」
「お前——」
「守り手ですから。——世界を守るのが、私の仕事です」
ヴェルディアの琥珀色の瞳に——光が戻った。
「……ああ。——任せる」
上下軸の主回路に——魔力が再び流れ始めた。安定した光。ヴェルディアの手から——三千年の知識を凝縮した紋様が刻まれていく。
「九割七分——」リーシャがカウントした。均衡の維持と計測を同時に行いながら。
「九割八分——」
「九割九分——」
紋様が——完成に近づいた。水底の魔法陣が——眩い白光を放った。
「完了——」
十の魔力が——同時に流れ込んだ最後の一滴。
世界の回路が——完成した。
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