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居場所は、自分で作る
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朝の廊下に、石壁を伝う冷たい風が吹き抜ける。昨夜の雨の名残か、窓枠には水滴が光り、磨かれた床が湿った匂いを放つ。
その中を、鉄心は堂々と歩く。
「——聞いた? あのノーマジック」
「首席の魔法を、素手で」
「ありえない。何かの間違いよ」
「間違いじゃないわ。実技場にいた子が見てる。巨岩ごと、粉々に——」
ひそひそ声が水面の波紋のように広がっていく。鉄心が通り過ぎるたび、会話が途切れ、視線だけが背中に張りつく。
好意的な目は、ほとんどない。
「首席に恥をかかせた野蛮人」「身の程知らず」「ノーマジックが調子に乗るな」——そんな言葉の断片が、すれ違いざまに耳をかすめる。
曲がり角で、上級生と思しき長身の男が肩をぶつけてきた。わざとらしく、真正面から。
「——っと、すまん! 大丈夫か?」
鉄心が振り返る。ぶつかった相手の方がよろめき、壁に手をついて顔を歪めている。百十キロの筋肉にぶつかれば、そうなる。
「お、おい……なんだこいつ……」
「怪我してないか? 廊下は走ると危ないぞ。前の学校でもよく言ってたんだが——」
体育教師の癖が出た。上級生は舌打ちして去り、鉄心は首を傾げるだけだ。
◇
ロッカー室に入った瞬間、鉄心の足が止まる。
自分のロッカーの扉一面に、黒い文字が踊っていた。
『ノーマジックは出ていけ』『学院の恥』『筋肉バカ』
周囲の生徒が、ちらちらとこちらを窺う。反応を待っている。泣くのか、怒るのか、それとも——。
「おっ、なかなかの達筆だな」
鉄心は感心したように目を細めた。ポケットからハンカチを取り出し、ごしごしと文字を拭き始める。魔法インクらしく簡単には落ちないが、力任せに擦ると壁ごと薄く削れていく。
「前の学校でもヤンチャな生徒はいたからな。慣れてるぞ」
誰に言うでもなく呟きながら、鉄心は黙々とロッカーを磨き上げる。三分後、文字は跡形もなく消え——ロッカーの表面も一層薄くなった。
隅で見ていたカイルという生徒が、ぽかんと口を開けたまま動けずにいる。その目には敵意ではなく、純粋な困惑と、かすかな好奇心が宿っていた。
◇
昼の食堂は喧騒に包まれている。焼きたてのパンの香りと、煮込み料理の湯気が天井の梁まで立ちのぼる。
鉄心がトレイを持って席を探すと、面白いほど露骨に人が散った。座っていた生徒が立ち上がり、隣のテーブルに移動する。鉄心の周囲三メートルだけ、不自然な空白地帯が出来上がる。
「お、広々してるな。ラッキー」
まったく堪えていない。
大盛りを三人前ほど積み上げたトレイをテーブルに置き、手を合わせる。
「いただきます」
もぐもぐと食べ始める鉄心の食いっぷりに、遠巻きの生徒たちの視線が「蔑み」から「驚愕」に変わっていく。山盛りのパンが消え、スープの大鍋が空になり、肉の塊が骨だけになる。
「うんっ、美味いな! この学食、レベル高いぞ!」
満面の笑みで言い放つ。
厨房から覗いていた料理長が、思わず目頭を押さえた。こんなに美味そうに食べる生徒は久しぶりだ——魔法学院の生徒は少食ばかりだから。
◇
放課後。セレナの研究室は、薬草と古い紙の匂いが混じり合う狭い部屋だ。窓から差し込む西日が、積み上げられた本の背表紙を橙色に染めている。
「剛田鉄心。座りなさい」
「おう、セレナ先生。何か用っすか?」
椅子が鉄心の体重で軋む。セレナは溜息を一つ吐いてから、真っ直ぐに目を合わせた。
「単刀直入に聞きます。——退学する気は、ないのですか」
「え? なんで?」
心底不思議そうな顔だった。演技ではない。本当にわからないのだ。
「……なんで、ではありません。今日一日であなたに何が起きたか、把握しています。ロッカーの件も、食堂の件も」
「ああ、あれか。別に大したことじゃないっすよ」
「大したこと、です」セレナの声が少しだけ硬くなる。「これはまだ序の口です。ノーマジックが首席を——いえ、魔法そのものを否定したと受け取る者は少なくない。今後、もっと露骨な妨害が来る可能性があります」
鉄心は腕を組んだ。太い腕が制服の袖をぱんぱんに押し広げる。
「うーん……つまり、もっとヤンチャな奴が出てくるってことっすか?」
「……はぁ。そういう要約になりますか」
「学校は楽しいぞ、先生。新しいことばかりだし」
鉄心の目が、子供のように輝く。
「魔法ってすげーんだな。火が出たり、風が吹いたり。見てるだけでワクワクする。俺は使えないけど、この世界のこと、もっと知りたいんだ」
セレナのペンを持つ指が止まった。
この男は、自分を排除しようとする世界に対して、純粋な好奇心を返している。怒りでも、諦めでも、意地でもない。ただの——好奇心。
「……あなた、変わってますね」
「よく言われるっす」
「褒めてません」
「知ってる。でも嫌な顔してないっすよ、先生」
セレナは眼鏡の奥の目を逸らした。鉄心の観察眼は、妙なところで鋭い。
「……報告は以上です。帰りなさい」
「うっす! 先生も無理すんなよ! 肩凝ってるなら筋トレがいいぞ!」
「結構です」
ドアが閉まった後、セレナはノートを開く。前回の実技で書き留めた一文——「理想的な体重移動」の横に、新たなメモを書き加えた。
「精神的耐性——異常。環境ストレスへの適応力、要研究」
◇
夕暮れ。
校庭の隅に、規則正しい呼吸音が響く。
沈みかけた太陽が空を茜色に染め上げ、鉄心の汗ばんだ肌を赤銅色に照らしている。芝の青い匂いと、自分の汗の匂いが混じる。前世から変わらない、一番落ち着く香りだ。
腕立て伏せ。三百回目。
「よっしゃ、学校生活だ!」
四百回目。
「明日も筋トレして!」
五百回目。
「いっぱい食べて!」
六百回目。地面が、かすかに震える。
「友達、作るぞ!」
——声が、少しだけ掠れた。
腕立てを止めず、鉄心はふと前世のことを思い出す。体育教師だった頃、職員室には仲間がいた。サボりがちな生徒にも、根気強く向き合えば、最後には笑い合えた。
ここには——まだ、誰もいない。
腕が、一瞬だけ止まる。六百一回目を押し上げる力が、ほんの僅かに遅れた。
鉄心は目を閉じ、大きく息を吸う。芝の匂い。汗の匂い。風の匂い。——生きている匂いだ。
「……まあ、なんとかなるだろ」
独り言は、いつもより静かだった。だが次の瞬間、ぐっと腕に力を込めて体を押し上げる。
「なんとかする!」
今度は、いつもの声だ。
ノーマジック区画の子供たちの顔が浮かぶ。あの小さな拳を突き上げた少年。「この世界を変えてやる」——酒場で口にした言葉が、胸の奥で静かに燃えている。
あの子たちのためにも、ここで折れるわけにはいかない。
腕立てから切り替え、拳を握り、構える。夕日に向かって正拳突き。拳が空を切るたびに、乾いた破裂音が校庭に響き渡る。
寮棟三階の窓辺に、銀色の髪が揺れていた。
リリアーナは頬杖をつき、校庭の隅を見下ろしている。教科書を開いたまま、一ページもめくれていない。
「……馬鹿みたい」
呟く声に、いつもの鋭さがない。
あの男は、何も持っていない。魔力も、地位も、味方さえも。それなのに——なぜ、あんなに真っ直ぐ立てるのか。
視線を外そうとして、外せない。
膝の上に置いた魔法書を、無意識に両手で強く抱きしめていた。分厚い革表紙が軋む。自分が積み上げてきた魔法の才能——それだけが誇りだったのに、あの拳の前では何の意味もなかった。
「——っ」
自分の仕草に気づき、リリアーナは弾かれたように魔法書を机に叩きつけ、カーテンを引いた。
学院の最上階。尖塔に設えられた学院長室の窓から、ヴァルターもまた同じ光景を見つめている。
夕日に染まる校庭で、一人の男が拳を振るい続けている。原始的な、魔法以前の時代の光景。
「……あの男は危険だ」
白髪の大魔導士が呟く。声に滲むのは、怒りだけではない。
「魔法の秩序そのものを壊しかねん」
机の引き出しに、退学勧告の書類が用意してある。署名一つで済む話だ。だが——ペンを取る手が、動かない。
窓の外で、鉄心の拳がまた空を裂く。
ヴァルターの指が、無意識に自分の右腕を握った。ローブの下に隠された、大魔導士にはあるまじき——鍛えられた前腕の筋肉を。
すぐに手を離し、背を向ける。
「……監視を続けよ」
誰にともなく命じた言葉が、薄暗い学院長室に溶けて消えた。
校庭では、鉄心がまだ拳を振るっている。
七百回。八百回。呼吸は乱れず、拳のキレは衰えない。
——そのとき。
鉄心の足元、拳の衝撃波が繰り返し叩いた地面に、蜘蛛の巣状の細い亀裂が走った。亀裂の縁が、淡い青白い光を帯びる。まるで地中に眠る何かが、呼応するかのように。
魔力場の歪み。筋力が、この世界の根幹に触れ始めている証。
だが鉄心は気づかない。
「よっしゃ、千回! いい汗かいた!」
額の汗を拭い、満足げに笑う。
足元の亀裂は夕闇に紛れ、誰の目にも留まることなく——静かに、広がり続けていた。
その中を、鉄心は堂々と歩く。
「——聞いた? あのノーマジック」
「首席の魔法を、素手で」
「ありえない。何かの間違いよ」
「間違いじゃないわ。実技場にいた子が見てる。巨岩ごと、粉々に——」
ひそひそ声が水面の波紋のように広がっていく。鉄心が通り過ぎるたび、会話が途切れ、視線だけが背中に張りつく。
好意的な目は、ほとんどない。
「首席に恥をかかせた野蛮人」「身の程知らず」「ノーマジックが調子に乗るな」——そんな言葉の断片が、すれ違いざまに耳をかすめる。
曲がり角で、上級生と思しき長身の男が肩をぶつけてきた。わざとらしく、真正面から。
「——っと、すまん! 大丈夫か?」
鉄心が振り返る。ぶつかった相手の方がよろめき、壁に手をついて顔を歪めている。百十キロの筋肉にぶつかれば、そうなる。
「お、おい……なんだこいつ……」
「怪我してないか? 廊下は走ると危ないぞ。前の学校でもよく言ってたんだが——」
体育教師の癖が出た。上級生は舌打ちして去り、鉄心は首を傾げるだけだ。
◇
ロッカー室に入った瞬間、鉄心の足が止まる。
自分のロッカーの扉一面に、黒い文字が踊っていた。
『ノーマジックは出ていけ』『学院の恥』『筋肉バカ』
周囲の生徒が、ちらちらとこちらを窺う。反応を待っている。泣くのか、怒るのか、それとも——。
「おっ、なかなかの達筆だな」
鉄心は感心したように目を細めた。ポケットからハンカチを取り出し、ごしごしと文字を拭き始める。魔法インクらしく簡単には落ちないが、力任せに擦ると壁ごと薄く削れていく。
「前の学校でもヤンチャな生徒はいたからな。慣れてるぞ」
誰に言うでもなく呟きながら、鉄心は黙々とロッカーを磨き上げる。三分後、文字は跡形もなく消え——ロッカーの表面も一層薄くなった。
隅で見ていたカイルという生徒が、ぽかんと口を開けたまま動けずにいる。その目には敵意ではなく、純粋な困惑と、かすかな好奇心が宿っていた。
◇
昼の食堂は喧騒に包まれている。焼きたてのパンの香りと、煮込み料理の湯気が天井の梁まで立ちのぼる。
鉄心がトレイを持って席を探すと、面白いほど露骨に人が散った。座っていた生徒が立ち上がり、隣のテーブルに移動する。鉄心の周囲三メートルだけ、不自然な空白地帯が出来上がる。
「お、広々してるな。ラッキー」
まったく堪えていない。
大盛りを三人前ほど積み上げたトレイをテーブルに置き、手を合わせる。
「いただきます」
もぐもぐと食べ始める鉄心の食いっぷりに、遠巻きの生徒たちの視線が「蔑み」から「驚愕」に変わっていく。山盛りのパンが消え、スープの大鍋が空になり、肉の塊が骨だけになる。
「うんっ、美味いな! この学食、レベル高いぞ!」
満面の笑みで言い放つ。
厨房から覗いていた料理長が、思わず目頭を押さえた。こんなに美味そうに食べる生徒は久しぶりだ——魔法学院の生徒は少食ばかりだから。
◇
放課後。セレナの研究室は、薬草と古い紙の匂いが混じり合う狭い部屋だ。窓から差し込む西日が、積み上げられた本の背表紙を橙色に染めている。
「剛田鉄心。座りなさい」
「おう、セレナ先生。何か用っすか?」
椅子が鉄心の体重で軋む。セレナは溜息を一つ吐いてから、真っ直ぐに目を合わせた。
「単刀直入に聞きます。——退学する気は、ないのですか」
「え? なんで?」
心底不思議そうな顔だった。演技ではない。本当にわからないのだ。
「……なんで、ではありません。今日一日であなたに何が起きたか、把握しています。ロッカーの件も、食堂の件も」
「ああ、あれか。別に大したことじゃないっすよ」
「大したこと、です」セレナの声が少しだけ硬くなる。「これはまだ序の口です。ノーマジックが首席を——いえ、魔法そのものを否定したと受け取る者は少なくない。今後、もっと露骨な妨害が来る可能性があります」
鉄心は腕を組んだ。太い腕が制服の袖をぱんぱんに押し広げる。
「うーん……つまり、もっとヤンチャな奴が出てくるってことっすか?」
「……はぁ。そういう要約になりますか」
「学校は楽しいぞ、先生。新しいことばかりだし」
鉄心の目が、子供のように輝く。
「魔法ってすげーんだな。火が出たり、風が吹いたり。見てるだけでワクワクする。俺は使えないけど、この世界のこと、もっと知りたいんだ」
セレナのペンを持つ指が止まった。
この男は、自分を排除しようとする世界に対して、純粋な好奇心を返している。怒りでも、諦めでも、意地でもない。ただの——好奇心。
「……あなた、変わってますね」
「よく言われるっす」
「褒めてません」
「知ってる。でも嫌な顔してないっすよ、先生」
セレナは眼鏡の奥の目を逸らした。鉄心の観察眼は、妙なところで鋭い。
「……報告は以上です。帰りなさい」
「うっす! 先生も無理すんなよ! 肩凝ってるなら筋トレがいいぞ!」
「結構です」
ドアが閉まった後、セレナはノートを開く。前回の実技で書き留めた一文——「理想的な体重移動」の横に、新たなメモを書き加えた。
「精神的耐性——異常。環境ストレスへの適応力、要研究」
◇
夕暮れ。
校庭の隅に、規則正しい呼吸音が響く。
沈みかけた太陽が空を茜色に染め上げ、鉄心の汗ばんだ肌を赤銅色に照らしている。芝の青い匂いと、自分の汗の匂いが混じる。前世から変わらない、一番落ち着く香りだ。
腕立て伏せ。三百回目。
「よっしゃ、学校生活だ!」
四百回目。
「明日も筋トレして!」
五百回目。
「いっぱい食べて!」
六百回目。地面が、かすかに震える。
「友達、作るぞ!」
——声が、少しだけ掠れた。
腕立てを止めず、鉄心はふと前世のことを思い出す。体育教師だった頃、職員室には仲間がいた。サボりがちな生徒にも、根気強く向き合えば、最後には笑い合えた。
ここには——まだ、誰もいない。
腕が、一瞬だけ止まる。六百一回目を押し上げる力が、ほんの僅かに遅れた。
鉄心は目を閉じ、大きく息を吸う。芝の匂い。汗の匂い。風の匂い。——生きている匂いだ。
「……まあ、なんとかなるだろ」
独り言は、いつもより静かだった。だが次の瞬間、ぐっと腕に力を込めて体を押し上げる。
「なんとかする!」
今度は、いつもの声だ。
ノーマジック区画の子供たちの顔が浮かぶ。あの小さな拳を突き上げた少年。「この世界を変えてやる」——酒場で口にした言葉が、胸の奥で静かに燃えている。
あの子たちのためにも、ここで折れるわけにはいかない。
腕立てから切り替え、拳を握り、構える。夕日に向かって正拳突き。拳が空を切るたびに、乾いた破裂音が校庭に響き渡る。
寮棟三階の窓辺に、銀色の髪が揺れていた。
リリアーナは頬杖をつき、校庭の隅を見下ろしている。教科書を開いたまま、一ページもめくれていない。
「……馬鹿みたい」
呟く声に、いつもの鋭さがない。
あの男は、何も持っていない。魔力も、地位も、味方さえも。それなのに——なぜ、あんなに真っ直ぐ立てるのか。
視線を外そうとして、外せない。
膝の上に置いた魔法書を、無意識に両手で強く抱きしめていた。分厚い革表紙が軋む。自分が積み上げてきた魔法の才能——それだけが誇りだったのに、あの拳の前では何の意味もなかった。
「——っ」
自分の仕草に気づき、リリアーナは弾かれたように魔法書を机に叩きつけ、カーテンを引いた。
学院の最上階。尖塔に設えられた学院長室の窓から、ヴァルターもまた同じ光景を見つめている。
夕日に染まる校庭で、一人の男が拳を振るい続けている。原始的な、魔法以前の時代の光景。
「……あの男は危険だ」
白髪の大魔導士が呟く。声に滲むのは、怒りだけではない。
「魔法の秩序そのものを壊しかねん」
机の引き出しに、退学勧告の書類が用意してある。署名一つで済む話だ。だが——ペンを取る手が、動かない。
窓の外で、鉄心の拳がまた空を裂く。
ヴァルターの指が、無意識に自分の右腕を握った。ローブの下に隠された、大魔導士にはあるまじき——鍛えられた前腕の筋肉を。
すぐに手を離し、背を向ける。
「……監視を続けよ」
誰にともなく命じた言葉が、薄暗い学院長室に溶けて消えた。
校庭では、鉄心がまだ拳を振るっている。
七百回。八百回。呼吸は乱れず、拳のキレは衰えない。
——そのとき。
鉄心の足元、拳の衝撃波が繰り返し叩いた地面に、蜘蛛の巣状の細い亀裂が走った。亀裂の縁が、淡い青白い光を帯びる。まるで地中に眠る何かが、呼応するかのように。
魔力場の歪み。筋力が、この世界の根幹に触れ始めている証。
だが鉄心は気づかない。
「よっしゃ、千回! いい汗かいた!」
額の汗を拭い、満足げに笑う。
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