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第五章
『変面(四)』
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この拓飛の咆哮によって張豊貴の用心棒たちは皆めまいを起こし、中には気絶した者もいた。凰華も立ち眩みを起こしたが、自分で両頬を叩きなんとか持ち堪えた。
「いやあ、ホンマ頑丈なやっちゃな。もうちょっと弱らさへんと虎退治とはいかんようやな」
呆れたように話す斉天大聖の仮面はいつの間にか嘴が描かれた物に変わっている。
「さっきの手の型は鷹爪だな? つうこたぁそりゃ鷹の面ってことか」
「そや。ほな、これはなんか分かるか?」
斉天大聖が袖で顔を払うと、また仮面が変わった。
(———龍面!)
果たして構えを取った斉天大聖の手の型は龍爪である。
「やっぱり虎の相手ゆうたら龍やろ」
「へっ! やってみやがれ!」
再び撃ち合い始めた二人だったが、斉天大聖は撃ち合いの最中にも頻繁に面を変えた。猴・蟷螂・鷹・龍と面が変わるたびに斉天大聖の技も、面に合わせたものに瞬時に変わる。最初は戸惑った拓飛だったが、斉天大聖の面は規則正しく順番に変わることに気づいた。
(龍・猴と来りゃ次は———)
拓飛の読み通り斉天大聖の猴の面が蟷螂に変わる。
(もらった!)
先読みして蟷螂拳に対する返し技を放った拓飛だったが、その拳は空を切り、斉天大聖の回し蹴りが側頭部に直撃した。その動きは蟷螂拳ではなく、龍形拳のそれであった。
「悪いなあ。せやけど、面と同じ技しか使えへんとはゆうてへんで?」
そう言った斉天大聖の面はいつの間に鷹に変わっていた。
「何でわざわざ技に合わせて面を変えてた思う? 無意識にでも技と面が一致してると思い込ませるためや」
「拓飛!」
凰華が駆け寄るが、うつ伏せに倒れた拓飛ピクリとも動かない。
「なかなかオモロかったでニイちゃん。さてと、ほな、いただくモンいただいてお暇しよか」
「待ちなさい! 次はあたしが相手よ!」
背を向けた斉天大聖に凰華が構えを取った。
「やめときや。おネエちゃん、内功使えへんねやろ。あんたじゃ相手に———」
その時、倒れた拓飛の左腕が一人でにブルブルと動き出し、急にピンッと宙に伸びると、左腕に引っ張られるように拓飛の身体が起き上がった。
「なんやと?」
斉天大聖が驚きの声を上げたが、拓飛の顔は俯いたままである。
「拓飛! 気がついたの?」
凰華が話しかけるが、拓飛はそれには反応せず構えを取る。しかし、脚が小刻みに震えて力が入っていないように見える。
「なんや、フラフラやないか。ええわ、とどめ刺したるわ」
斉天大聖が言い様拓飛に襲いかかる。面は蟷螂のままだったが、振るう技は鷹爪拳や猿猴拳、龍形拳と瞬時に切り替わる。
だが拓飛は動じず斉天大聖の攻撃を全て受け流し、突け入る隙を見せない。しかし、その眼は虚ろで、闘いの最中にも関わらずなにやらブツブツと呟いていた。
『———おい、拓飛。おめえ何でいまだに俺から一本も取れねえか分かるか?』
『……おっさんが俺よりちょっとだけ強えから』
『あのな、そういうことを言ってんじゃねえんだよ。いいか、おめえはいっつも自分から仕掛けやがる』
『ケンカは先手必勝だろ!』
『馬鹿野郎。武術はゴロツキの喧嘩じゃねえんだ。先手必勝が通用するのは良くて相手が同格までだ。相手が格上の時は、落ち着いて相手の出方を窺ってみろ。見えなかったモンが見えるかも知れねえぞ』
「———うるせえ! おっさん、説教すんじゃねえ!」
これまで受けに徹していた拓飛が突如、大声と共に突きを繰り出した。意表を突かれた斉天大聖は正面から受け止めるが、威力を殺せず数丈後ろへ吹き飛ばされた。
「いやあ、ホンマ頑丈なやっちゃな。もうちょっと弱らさへんと虎退治とはいかんようやな」
呆れたように話す斉天大聖の仮面はいつの間にか嘴が描かれた物に変わっている。
「さっきの手の型は鷹爪だな? つうこたぁそりゃ鷹の面ってことか」
「そや。ほな、これはなんか分かるか?」
斉天大聖が袖で顔を払うと、また仮面が変わった。
(———龍面!)
果たして構えを取った斉天大聖の手の型は龍爪である。
「やっぱり虎の相手ゆうたら龍やろ」
「へっ! やってみやがれ!」
再び撃ち合い始めた二人だったが、斉天大聖は撃ち合いの最中にも頻繁に面を変えた。猴・蟷螂・鷹・龍と面が変わるたびに斉天大聖の技も、面に合わせたものに瞬時に変わる。最初は戸惑った拓飛だったが、斉天大聖の面は規則正しく順番に変わることに気づいた。
(龍・猴と来りゃ次は———)
拓飛の読み通り斉天大聖の猴の面が蟷螂に変わる。
(もらった!)
先読みして蟷螂拳に対する返し技を放った拓飛だったが、その拳は空を切り、斉天大聖の回し蹴りが側頭部に直撃した。その動きは蟷螂拳ではなく、龍形拳のそれであった。
「悪いなあ。せやけど、面と同じ技しか使えへんとはゆうてへんで?」
そう言った斉天大聖の面はいつの間に鷹に変わっていた。
「何でわざわざ技に合わせて面を変えてた思う? 無意識にでも技と面が一致してると思い込ませるためや」
「拓飛!」
凰華が駆け寄るが、うつ伏せに倒れた拓飛ピクリとも動かない。
「なかなかオモロかったでニイちゃん。さてと、ほな、いただくモンいただいてお暇しよか」
「待ちなさい! 次はあたしが相手よ!」
背を向けた斉天大聖に凰華が構えを取った。
「やめときや。おネエちゃん、内功使えへんねやろ。あんたじゃ相手に———」
その時、倒れた拓飛の左腕が一人でにブルブルと動き出し、急にピンッと宙に伸びると、左腕に引っ張られるように拓飛の身体が起き上がった。
「なんやと?」
斉天大聖が驚きの声を上げたが、拓飛の顔は俯いたままである。
「拓飛! 気がついたの?」
凰華が話しかけるが、拓飛はそれには反応せず構えを取る。しかし、脚が小刻みに震えて力が入っていないように見える。
「なんや、フラフラやないか。ええわ、とどめ刺したるわ」
斉天大聖が言い様拓飛に襲いかかる。面は蟷螂のままだったが、振るう技は鷹爪拳や猿猴拳、龍形拳と瞬時に切り替わる。
だが拓飛は動じず斉天大聖の攻撃を全て受け流し、突け入る隙を見せない。しかし、その眼は虚ろで、闘いの最中にも関わらずなにやらブツブツと呟いていた。
『———おい、拓飛。おめえ何でいまだに俺から一本も取れねえか分かるか?』
『……おっさんが俺よりちょっとだけ強えから』
『あのな、そういうことを言ってんじゃねえんだよ。いいか、おめえはいっつも自分から仕掛けやがる』
『ケンカは先手必勝だろ!』
『馬鹿野郎。武術はゴロツキの喧嘩じゃねえんだ。先手必勝が通用するのは良くて相手が同格までだ。相手が格上の時は、落ち着いて相手の出方を窺ってみろ。見えなかったモンが見えるかも知れねえぞ』
「———うるせえ! おっさん、説教すんじゃねえ!」
これまで受けに徹していた拓飛が突如、大声と共に突きを繰り出した。意表を突かれた斉天大聖は正面から受け止めるが、威力を殺せず数丈後ろへ吹き飛ばされた。
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