【完結】暴虎馮河伝 〜続編あり〜

知己

文字の大きさ
22 / 122
第五章

『変面(五)』

しおりを挟む
 拓飛タクヒの突きの威力に押された斉天大聖セイテンタイセイは数丈後ずさって止まった。

「おお、痛! 何やねん、急にー! びっくりするやんか!」

 わざとらしく腕を振るが、その実、受けた腕が痺れてすぐには力が入らない。

(こらアカン。寝とった虎を起こしてもうたわ。暴れ虎にはこのまま大人しゅうしといてもらわへんと)

 意識を取り戻した拓飛だったが、脚にはまだ完全に力が入らず、自分から仕掛けられない。斉天大聖は腕が痺れて動かせないため、蹴りを中心に攻め立ててくるが、面を変えられず、蹴りのみになった斉天大聖の攻撃は単調になり、拓飛は次々と捌いていく。その間に脚に少しずつ力が戻ってきた。

(何だ、こいつの技よく見りゃ……)

 斉天大聖は受けに回る拓飛を崩せず、焦りと疲労から徐々に技が乱れてきた。

(何やねん! 何で急に当たれへんようになってん!)

 焦れた斉天大聖の蹴りが大振りになった所を見逃さず、拓飛は蹴りの間合いを潰し、渾身の震脚から肘打ちを丹田に打ち込んだ。

「カッ―――……」

 氣の源である丹田を撃ち抜かれた斉天大聖は呻き声を上げて前のめりに倒れ、幾度か痙攣した後動かなくなった。

「やったね、拓飛! 大逆転!」

 歓声を上げながら凰華オウカが拓飛の手を握って飛び跳ねる。凰華に握られた手から徐々に蕁麻疹が浮かび上がってくる。

「うぎゃあーッ! てめえ放しやがれ! なに掴んでやがる!」
「あっ、ごめん。つい」

 慌てて拓飛は凰華の手を振り払い、両手を代わる代わる掻き毟った。

「……クソォ、なんで氣が湧いてけえへんねや……?」

 その時、意識を取り戻した斉天大聖が振り絞るように呟いた。

「やめとけ。丹田をブチ抜いてやったからな、内傷ないしょうが治るまで当分内功は使えねえよ」
「内傷って?」
「内功で受けた傷のことだ。特別な薬と時間を掛けねえと治らねえ」

 凰華の問いに拓飛が面倒臭そうに答えた。

「くっ……。ワイの技が急に当たれへんようになったんはなんでや?」
「おめえ一つの拳法に数手しか技がねえだろ。おまけに技の繋ぎがなってねえ。ただ単に技を続けて出してるだけだ」
「……ははっ、こらまいったわ。盗んだ秘伝書で覚えた技をそのまま使てもアカンってことかい」
「内功も盗んだ秘伝書で覚えたのか?」
「せや。最初は生きるために盗みを始めてんけど、ある武術家の家で内功の秘伝書を見つけてな。そこからは武術にハマってもうて、今は盗みに入るんも金目当てっちゅうより、武術の技を振るうためやった」

 ここまで話すと、斉天大聖は一瞬押し黙って、

「結局、左腕は使わさせられず終いか。弱いモンばかり相手にして得意になっとったんやな」
「そうよ! 武術は一人じゃできないわ。技を矯正してくれる師父と、競い合う相手がいてこそ大成できるのよ!」

 得意げに凰華が口を挟む。

「偉そうに言うな。どうせ、おめえの親父の受け売りだろ」
「エヘヘ、バレちゃった?」

 凰華はペロリと舌を出した。

「賊が倒れているぞ! 捕まえろ!」

 張豊貴チョウホウキの用心棒たちが声を上げてこちらへ向かってくる。

「ここまでやな。ニイちゃん、拓飛言うたな。おもろかったで、またな」
「俺は弱え奴は相手にしねえぞ」

 斉天大聖は仮面の下で笑ったように息を漏らすと、丹田を片手で抑えながら闇の中に消えて行った。

「行っちゃった。逃しちゃって良かったの?」
「ケチな盗人野郎なら、とっ捕まえて礼金でもせしめようと思ってたけどな。あの猴野郎は逃した方が面白そうだ。もうここには用はねえ。俺らも行くぞ」
「う、うん」

 走りながら拓飛は先ほどの凰華の言葉を思い返していた。

(ちっ、『技を矯正してくれる師父』か……)

「あっ!」

 張豊貴の屋敷を出た所で凰華が突然大声を上げた。

「うるっせえな! 突然なんだよ!」
「拓飛が逃しちゃったから、斉天大聖の素顔が見えなかったじゃない!」

 頭を抱えながら凰華は悲しそうな声を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...