猫ホスト

猫幸世

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猫ホスト

会員番号0特別編~前編~

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樹海の真ん中で司はスーツ姿で立ち止まったまま空を見上げていた。 

「……」

「俺で良かったら話を聞くよ」

「……」

話しかけられ振り向いた司は金色の猫に驚いた。

「金色の猫…」

「俺の店で話を聞くからついておいで」

「俺の店って」

「良いからおいで」

「……」

歩いていく金色の猫のあとを司は少し警戒しながらついていった。 

「猫のホストクラブ?」

「俺しか居ないけどな」

「猫にあなたっていうのもあれだけどあなた1匹で建てたんですか?」

「そうだよ、中へどうぞ」

「お邪魔します」

先に司が中に入ると金色の猫も中に入り奥の部屋に向かい金色の猫と司は中に入った。 

「飲み物、持ってくるから椅子に座って待ってて」

そう言って金色の猫が部屋から出ていくと司は言われた通りに椅子に座り金色の猫を待った。 

それから暫くしてスーツ姿の男性がお茶のペットボトルを持って現れた。

「ペットボトルで悪いけど飲んで」

「ありがとうございます」

差し出されたペットボトルを掴むと司は向かい合って椅子に座る男性を見つめた。

「俺の顔に何かついてますか」

「金色の猫はどこに?」

「俺は隆史」

そう言って椅子から立ち上がると隆史は司の前で金色の猫に変身した。 

「金色の猫!…」

「……」

金色の猫からスーツ姿の男性に変身すると隆史は椅子に座り口を開いた。 

「どうしましたか?」

じっと見つめる司に隆史が話しかけると司が口を開いた。 

「ビックリです」

「そうですよね」

「……」

「あなたの悩みをお聞かせください」

真剣な顔で隆史が見つめると司はうつ向きながら口を開いた。 

「俺はホストクラブで働いています…」

「No.1になって他のホスト達にいじめられている」

「なぜ、わかったんですか」

「……」

無言で立ち上がると隆史は司を立たせ唇を重ねた。

その後、隆史が唇を離すと司が口を開いた。 

「なぜ、キスをしたんですか?」

「緊張してたから落ち着かせるためにキスをしたんだ」

「緊張してても男にキスされたらドキドキが高鳴ります」

「ゴメン」

「……」

「それで君の望みは何?」

「いじめから逃れたい」

「わかりました、君の望みを叶えよう」

「え…」

目を向けると司は再び隆史に唇を奪われた。 

その後、司と隆史の唇は離れた。 

「君の願いは叶えられました」

「司です」

「え…」

「俺の名前です」

「明日から仕事に行っても司をいじめる者は居ない」

「本当ですか?」

「はい」

「……」

「仕事に行っていじめられたら俺のところに来てください、責任をもっていじめを消します」

信じていない司に真剣な顔で隆史が口にすると司が口を開いた。 

「隆史さんを信じます、ありがとうございました」 

そう言って司が部屋から出ていくと銀色の猫が現れた。

「俺しか居ない、よくそんな嘘が言えたな」

「警戒してたから俺しか居ないと言ったんだ、怒るなよ」

「別に怒ってないよ」

「そうか」

そう言って人間から金色の猫に戻ったその時、銀色の猫が図星の言葉を発した。 

「好きになったか」

「好きになったかって誰が」

「お前に決まってるだろ」

「俺が?」

「俺にはわかる、お前は司という人間に恋してる」

「バカなこと言ってないで樹海のみまわりに行ってこい」

そう言って銀色の猫を部屋から追い出すと金色の猫はドアを閉めため息が出た。 

その頃、司は嬉しい気持ちで自宅に向かっていた。 

ー次の日ー 

いつものように仕事場のホストクラブの店にやって来た司は控え室に向かった。 

「……」

自分のロッカーの前に立ち私服からスーツに着替えようとしたその時、司をいじめていた2人のホストが近づいてきた。 

「おはよう」

「おはよう」

司が挨拶をすると2人のホストはスーツ姿に着替え控え室を出ていった。 

その姿を見て司は心の中で隆史にお礼を言った。 

その後、司は控え室を出ていきホストの仕事を始めた。 

その頃、隆史は人間の姿でヤクザのボスに会っていた。 

「樹海の方は良いのか?」

「樹海に人が来れば気配でわかるから大丈夫です」

「そうか」

「ボス」

「何だ」

「もう1匹、ボディガードいらないですか?」 

「俺のボディガードはお前だけで良い」

「そうですよね」

口にした直後、落ち込んだ顔を隆史がするとボスが口を開いた。 

「お前にとってその猫は大切な猫なのか」

「大切な友です」

「わかった、友を連れてきなさい」

「ありがとうございます」

ボスに向かってお辞儀をすると隆史は嬉しそうに部屋を出て事務所を出ると樹海に走った。 

その頃、銀色の猫は樹海の真ん中で空を見上げていた。 

「良い天気だ」

「銀太…銀太…」

「……」

隆史の声に銀色の猫、銀太は振り向き走って近づいてくる隆史に目を向けた。

「ヤクザのところに行ってたんじゃなかったのか」

「銀太、人間になれ」

「何で」

「お前もボスのボディガードをするんだ」

「嫌だよ」

「良いから来るんだ」

そう言って隆史は銀色の猫、銀太を抱っこし樹海を走った。 

「人間になってついていくからおろしてくれ」

「……」

無言で立ち止まり隆史がおろすと銀色の猫、銀太は猫から人間に変身した。 

「これで良いか」 

「銀太、行くぞ」

「はいはい」

返事をすると銀太は隆史と共に歩き出しヤクザの事務所に向かった。 

ー事務所ー 

部屋のソファーでボスは煙草を吸いながらくつろいでいた。 

「どんな猫かな」

ボスが口にしたその時、ドアをノックする音がした。 

「入りなさい」

「失礼します」

ドアを開き隆史が銀太と共に中に入るとボスは煙草を灰皿に捨てソファーから立ち上がった。 

「いらっしゃい」

「若いな」

「若く見られて嬉しいな」

「ボス、俺の友の銀太です、銀太」

「銀太です」

「柴崎雪(しばさきゆき)ヤクザのボスをしています、よろしく」

「よろしくお願いします」

差し出された雪の手を銀太は握りその後、銀太と隆史と雪は向かい合ってソファーに座った。 

「隆史、すまないが煙草と3人分の弁当を買ってきてくれないかな」

「わかりました」

ソファーから立ち上がると隆史は雪から1万円を受け取り部屋を出ていった。

その後、雪はソファーから立ち上がり銀太の側に座ると銀太の手に触れた。 

「……」

驚いた顔で銀太が見つめると雪は無言で顔を近づけ銀太の唇を奪った。 

その後、雪は唇を離し何もなかったかのように銀太から離れ向かい合ってソファーに座った。 

「驚かせてゴメンね」

「隆史にもしたのか?」

「隆史にはしていないよ、キスをしたのは銀太君が初めてだ」

「なぜ」

「銀太君のこと気に入ったから」

「まじかよ俺は」

「知ってる、猫だよね」

ニコリと雪が銀太に笑ったその時、煙草と3人分の弁当が入った袋を持って隆史が戻ってきた。 

その後、雪と隆史と銀太は弁当を食べ始めた。 
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