さよなら異世界転生

武井とむ

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第一章

黒く深く

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「おい、ハニ大丈夫か!」
騒動を聞きつけ巡回していたシュアが立ち尽くすハニに駆け寄った
あまりにも自分の無力さにただただ打ちひしがれているハニ
少し遅れてコリンも到着する

「おい、大丈夫か?なんで聖堂の中にいたんだ!」
シュアが問い詰めるもハニは何も答えなかった
何かを察したコリンはシュアの肩に手を置き目で訴えた。

国葬に混沌を招いた暗殺者は既に拘束され大聖堂から連れ出される最中だった
瞬き一つせずハニはその様子を上階から見つめている
彼等もハニの視線を辿っていた。

「何もできませんでした...」
ハニは重く閉ざした口を開け、消え入るような声で言った
「何いってんだよ。無事でよかった」
すかさずシュアはフォローをいれるもハニは首を横に振る
「あの人ってどうなっちゃいますかね...」
大聖堂の大きな扉から連れ出される暗殺者に視線を向けながらコリンは答えた
「十中八九処刑されるだろうね」
その言葉にハニの身体は少し強張る。

聖堂内では、皇帝の葬儀が静かに続けられていた。
高くそびえる天井には、無数のステンドグラスが淡い光を差し込み、その色彩は神聖な雰囲気を漂わせている。
しかし、今日の空は灰色に覆われ、窓を通して入る光も冷たく鈍い。
燭台に立てられたろうそくの炎だけが、揺れる陰影を壁に映し出していた。

司祭は祭壇の前に立ち、低く響く声で祈りを捧げ続ける。
その声は、聖堂の石造りの壁に反響し、まるで空間全体がその音に包まれているかのようだ。
深い静寂の中で、参列者たちは頭を垂れ、誰一人として動こうとはしない。
彼らの顔には敬虔な表情が浮かんでおり、ただひたすら祈りの時間が過ぎるのを待っていた。

奥の壁際では、黒衣に身を包んだ近衛兵たちが厳然と立っている。
騒動もあり彼らの顔には疲労の色が見えたが、式典が終わるまではその場を離れることは許されない。
彼らもまた、皇帝に最後の敬意を表し、沈黙のうちに自らの役目を全うしていた。

聖堂全体を包む沈黙の中、時折、参列者の誰かが静かにすすり泣く音が響いた。
それもすぐに鎮まり、再び祈りの声だけが支配する。
礼拝堂中央には、皇帝の棺が荘厳に安置されており、棺の上には王冠と皇帝の剣が慎重に置かれている。
それらは彼の力と権威を象徴していたが今はただ冷たく、無機質な輝きを放っているだけだった。

長い時間が過ぎるように感じられたが、司祭の祈りが一区切りつくと、参列者たちは一斉に深いお辞儀をした。
鐘の音が遠くで鳴り始め、それが葬儀の終わりを告げる。

——————
国葬が厳粛に終わり、聖堂の鐘が最後の響きを残した頃、宮廷の奥深くにある会議室では、帝国の重鎮たちが集まり、今後の方針を話し合う場が設けられていた。
大きな円卓を囲む者たちの表情は、一様に険しく、重い沈黙が漂っていた。
国葬の哀しみから完全に切り替えることはまだできないものの、事態の進展を急ぐ必要があった。

部屋の中央に立つのは、軍神バルドル。
彼の声は低く、冷徹だった。

「暗殺者は捕えましたが、単独の犯行なのか命じた者がいるかまでは掴めていませんが、処刑は避けられません。帝国の威厳を守るためにも、速やかに公衆の前で断罪すべきです。」

その言葉に、一部の参列者は同意を示すようにうなずいたが、重い沈黙の中で異議を唱える者もいた。
セリニアの王ラザードが一歩前に出て、静かにしかし重厚な口調で言った。

「処刑を急ぐことが本当に最善策か? 我々はこの事件の背後にいる勢力をまだ掴み切れていない。今すぐに断罪することは、証拠を失う危険性も伴う。それに、帝国内部で動いている陰謀がある可能性を考慮すべきでは」

その言葉に場の緊張はさらに高まった。
暗殺者をすぐに処分するか、背後にある勢力を明らかにするために時間をかけるべきか、重鎮たちは二つの立場に分かれていた。

「ラザード陛下のお言葉はもっともです。しかし、混乱が長引けば、帝国内の安定が損なわれることも確実でしょう。」

そう言ったのは、財務大臣だった。
彼は腕を組み、眉間にしわを寄せている。
経済の混乱が引き金となり、帝国全土で不安定な状況が広がることを恐れていた。

「時間が必要です。しかし、帝国の民は秩序を求めています。暗殺者への処罰は、その象徴として速やかに行うべきだと考えます。」

バルドルは毅然とした態度を崩さなかった。
その意見に、一部の者たちは再び静かにうなずいたが、明確な結論には至らないままだった。
「それでは、暗殺者の処遇については追って決定するとして……次に、帝国の体勢について話を進めましょう....」
帝国の重臣が話しを一度まとめようとした、その時アダムは立ち上がり、静かに、しかし力強く言葉を紡いだ。

「尊敬する帝国の重臣の皆さま、私は友好国からこの帝国に派遣された身として、皆さまの前に立っております。まず、今回の悲劇について深い哀悼の意を表します。私は、暗殺者の鎮圧において微力ながらお手伝いをさせていただきましたが、それは友好の証として当然のことです。しかし、この事態が一段落した今こそ、帝国が直面している本質的な問題に向き合わなければなりません。」

彼の言葉は重く、会議室にいる者たちの耳に深く響いた。
アダムは視線を巡らせ、慎重に言葉を続けた。

「暗殺者は処罰されるべきでしょう。奴の行為は許されるものではありません。しかし、処罰が全てではない。この事件の背後に潜む真の脅威を明らかにしなければ、また同じような悲劇が繰り返される可能性がある。私は陛下と同じく、暗殺者が単独で動いたとは考えておりません。背後にはもっと大きな影響力が存在している。帝国にとって、それを見逃すことはあまりにも危険です。」

重臣たちは互いに顔を見合わせ、ざわつく気配が広がった。彼の指摘は誰もが心のどこかで感じていた懸念を言葉にしたものだった。

「それゆえに、私の国はさらなる支援を申し出たいと思っています。」
アダムは、友好国としての立場を強調しながら続けた。
「我が国の軍を一部派遣し、帝国の防衛と安定を共に支える準備があります。これにより、帝国内部での混乱を防ぎ、外部からの脅威にも対応できるでしょう。私たちの友情は揺るぎないものであり、今こそそれを証明する時です。」
ラザード陛下と顔を見合わせ、お互いの意向が一致しているかのように頷く。

この提案に、帝国の重臣たちは揺れた。
友好国からの援軍の申し出は魅力的だった。帝国内部が不安定な状況であればあるほど、その提案は理にかなっているように見えた。
しかし、そこには当然ながらリスクも伴う。外部の力が国内に入り込むことは、帝国の独立性を危うくする可能性があった。

「しかし、アダム殿……」と、一人の重臣が慎重に口を開いた。
「我々としては、外部の軍が帝国内に駐留することについて、慎重に考える必要がある。これは一時的な援助なのか、それとも長期的なものなのか? その点を明確にしておかねばなりません。」

アダムは頷いた。
「もちろん、これは一時的なものです。帝国が新しい皇帝を選び、完全に安定するまでの間の支援に過ぎません。私の国は帝国を乗っ取ろうなどとは全く考えておりません。むしろ、我々は隣国として、この大帝国の繁栄を共に祝福し、守りたいのです。」

彼の言葉は誠実であり、表情には疑いの余地がなかった。
しかし、彼の胸の奥底には別の意図が潜んでいた。
友好国が帝国を乗っ取るつもりはない、と彼は言ったが、実際にはそれこそが彼の密かな野望である。
軍を送り込むことで、帝国内部にその影響力を深く植え付け、やがて友好国としてではなく、支配者として君臨する機会を。

「私は皆さまのご決断を尊重いたします。どうか、時間をかけて慎重にお考えください。しかし、私の国がいつでも支援できることをお忘れなく。我々は、友好の証として帝国の安定を望んでいるのです。」

彼の言葉は丁寧でありながらも、どこか圧力のような響きを含んでいた。
重臣たちは再びざわつき、考えを巡らせ始めた。

アダムは静かに席に戻りながら、内心で計画が順調に進んでいることを確信していた。
この国は確かに強大だが、今は弱っている。
そして、その弱みを突くことで、自らの国の影響力を着実に拡大することができると信じていた。

彼の微かな微笑みは、誰にも気づかれることなく消えていった。
やがて訪れるであろう未来――帝国が彼の手の中で揺れ動くその瞬間を、彼は静かに待ち続けていた。
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