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葛藤
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翌日の朝食の席で、王宮に送っていた側近から連絡が来たとアムリが言った。
ランシェットとグリゴールの、いつの間に…と言う表情を見て取ったのか、
直接会いづらい時は伝令として暗号と訓練した鳥を使っており、
万一鳥が捕まっても何の暗号かは分からないようになっているとイーラが教えてくれた。
「その様に簡単に教えてはいけませんと何度お伝えしたら…」
「もうそういうのはいいって。
グリゴールには隠し事はもうしたくないし」
そう言って屈託なく笑って見せたイーラは、純粋にグリゴールを想っているように見えた。
それを見て、ランシェットは自分の心の中で靄がかかったような気持ちを覚えた。
ーー王の事を、俺は本当に好きなんだろうか。
王の言葉は絶対で、『花』として傍に寄り添うことになった時はまだ幼く、半ば栄誉として受け容れた。
恋というものを知らないまま王に望まれ、そこから王妃が嫁いできた頃には嫉妬をいつの間にか自覚するようになっていた。
これが子供じみた独占欲からだったのか、恋愛感情からだったのか、正直なところランシェットには分からなかった。
それが、何度も王への気持ちを揺らがせる原因になっていた。
「…ランシェット?」
「っ!!?」
気がついた時には、至近距離にイーラの顔が迫っていた。
「どっか具合悪いの?さっきからぼーっとしてさあ」
「…い、いえ…いざ久々に王にお会いするとなったら、どうしていいか分からなくなって」
「…十年もあそこにいたんでしょ?王に会ったら気持ちなり体なり勝手に何とでもなるって」
そう言ってイーラは、ぽんぽんと小さい子供をあやすようにランシェットの頭を軽く撫でた。
塔の中から出て多少気が昂ったと言っても、いざ王都の目の前になると萎縮してしまうのは、
重ね重ね希望を打ち砕かれた十年という幽閉生活のせいだろう。
会って間もない人たちを信頼することも、王都へ向かう道すがら起きたことも、
未だに夢なのではないかと毎朝起きる度に薄氷を踏む思いでここまで来た。
長い間幽閉されたことで自分に都合の良い夢を見ているのではないか、
誰かが王を語り政変の為に利用しているのではないか、
本当は王は罪悪感を払拭したいだけで、自分への愛情などないのではないかと、
繰り返し思ってしまうのを止められなかった。
孤独な十年という歳月が精神をすり減らし、人格を萎縮させ変えてしまうのは十分で、
それを分かっているからこそイーラたちが何度もああして励ましてくれているのは分かっている。
それでも尚、未だに閉じ込められた塔の中の生活のように、前に踏み出すことも未来に明るい希望を持つことすら恐怖を感じてしまう。
「すみません、こうして鼓舞して頂いているのに…
どうしてもまだ怖くて」
そう言って力無く笑おうとするランシェットの両頬を、イーラはバシッと音がするほど力強く掴んだ。
「無理に笑わなくていい」
「…え?」
ランシェットの爪は、無意識に己の手に食い込むほど握りしめられていた。
「王に会ったら泣いてもいいし怒ってもいい。
恨み言でも何でも言ったらいい。
…だから、感情を出す練習しとけば?」
そう言って頬を摘むイーラの指先に引っ張られ、凝り固まっていたランシェットの表情は僅かに綻んだ。
ランシェットとグリゴールの、いつの間に…と言う表情を見て取ったのか、
直接会いづらい時は伝令として暗号と訓練した鳥を使っており、
万一鳥が捕まっても何の暗号かは分からないようになっているとイーラが教えてくれた。
「その様に簡単に教えてはいけませんと何度お伝えしたら…」
「もうそういうのはいいって。
グリゴールには隠し事はもうしたくないし」
そう言って屈託なく笑って見せたイーラは、純粋にグリゴールを想っているように見えた。
それを見て、ランシェットは自分の心の中で靄がかかったような気持ちを覚えた。
ーー王の事を、俺は本当に好きなんだろうか。
王の言葉は絶対で、『花』として傍に寄り添うことになった時はまだ幼く、半ば栄誉として受け容れた。
恋というものを知らないまま王に望まれ、そこから王妃が嫁いできた頃には嫉妬をいつの間にか自覚するようになっていた。
これが子供じみた独占欲からだったのか、恋愛感情からだったのか、正直なところランシェットには分からなかった。
それが、何度も王への気持ちを揺らがせる原因になっていた。
「…ランシェット?」
「っ!!?」
気がついた時には、至近距離にイーラの顔が迫っていた。
「どっか具合悪いの?さっきからぼーっとしてさあ」
「…い、いえ…いざ久々に王にお会いするとなったら、どうしていいか分からなくなって」
「…十年もあそこにいたんでしょ?王に会ったら気持ちなり体なり勝手に何とでもなるって」
そう言ってイーラは、ぽんぽんと小さい子供をあやすようにランシェットの頭を軽く撫でた。
塔の中から出て多少気が昂ったと言っても、いざ王都の目の前になると萎縮してしまうのは、
重ね重ね希望を打ち砕かれた十年という幽閉生活のせいだろう。
会って間もない人たちを信頼することも、王都へ向かう道すがら起きたことも、
未だに夢なのではないかと毎朝起きる度に薄氷を踏む思いでここまで来た。
長い間幽閉されたことで自分に都合の良い夢を見ているのではないか、
誰かが王を語り政変の為に利用しているのではないか、
本当は王は罪悪感を払拭したいだけで、自分への愛情などないのではないかと、
繰り返し思ってしまうのを止められなかった。
孤独な十年という歳月が精神をすり減らし、人格を萎縮させ変えてしまうのは十分で、
それを分かっているからこそイーラたちが何度もああして励ましてくれているのは分かっている。
それでも尚、未だに閉じ込められた塔の中の生活のように、前に踏み出すことも未来に明るい希望を持つことすら恐怖を感じてしまう。
「すみません、こうして鼓舞して頂いているのに…
どうしてもまだ怖くて」
そう言って力無く笑おうとするランシェットの両頬を、イーラはバシッと音がするほど力強く掴んだ。
「無理に笑わなくていい」
「…え?」
ランシェットの爪は、無意識に己の手に食い込むほど握りしめられていた。
「王に会ったら泣いてもいいし怒ってもいい。
恨み言でも何でも言ったらいい。
…だから、感情を出す練習しとけば?」
そう言って頬を摘むイーラの指先に引っ張られ、凝り固まっていたランシェットの表情は僅かに綻んだ。
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