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誓い
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「ランシェット、起きてるか」
「…グリゴール?…構わない、入って」
翌朝、控えめなノックに続いてグリゴールが声をかけてきた。
昨日はアムリのマッサージと香のお陰かすっかり深く眠り、久しぶりに爽快な目覚めとなった。
アムリが朝食の準備の為、部屋から出ていったのを見計らっていたようだ。
「昨日はついてやれなくて済まない。
…イーラがあの剣幕だったからあの後部屋から出して貰えなくてな」
「いや、大丈夫だ。気にしてないよ」
どちらが護衛だか分からない。
そう思いランシェットが苦笑したのを見て、グリゴールの様子がにわかにぎこちなくなる。
「あ、その…昨夜は起きずに朝まで眠れたか?」
「ああ、朝までゆっくり寝れたよ」
「そ、そうか!なら良かった!」
グリゴールは意外と色事には慣れていないのかもしれない。
イーラは部屋決めの前から皆の前でグリゴールを誘っていたし、昨夜は勿論そうしたのだろう。
ランシェットと王との夜伽の際は、隣の部屋で侍従が待機しているのが常だったので、特にランシェットは気にしないつもりでいたが、
これも騎士であるグリゴールからしたら有り得ない事なのかもしれないとやっとその時思い当たった。
「グリゴール、そういう事は気にしないで愉しんでくれたらいい。
王との夜伽は常に誰か外にいるのが普通だったし、イーラ殿下もそうだろうから」
昨日乱入してきたのは昼間からそういう関係でもないアムリに、王という存在がありながら体を委ねきっていたのが見過ごせなかったに違いない。
「…本当に…そういう所は王族と俺は馴染めない…」
グリゴールは耳まで赤くしながら顔を手で覆って大きな溜息をついた。
「お話中失礼致します。この中でそれを気にしておられるのはグリゴール様だけかと」
片腕で食事の載ったトレーを二つ器用に支えながら、アムリが帰ってきた。
やはりどこの国でも夜伽中に命を狙われる可能性を考え、行為中でも常に声や音を聞かれているようだ。
「っ…!」
「これで暫くイーラ様のご機嫌が良くなられるでしょうし、夜だけと言わずいつでもお励み下さいませ」
心からの笑顔のアムリと、見たことが無いほど真っ赤になってしまったグリゴール。
その様子を見ながら、まるで初めて王に夜伽を命じられた日の自分のようだなどとランシェットが思っているなど、グリゴールは思いもしないだろう。
「何だよその生暖かい視線は!
俺はそういう事は…ああ、もう良い!」
こいつらに説明しても無駄だと言わんばかりに手を振ってグリゴールは強制的に話を終わらせようとした。
「ふぅん、そうなんだ。
気に留めておくね、グリゴール」
いつの間にかアムリに続いてイーラもこっちの部屋にやって来ていた。
「おはようございます、イーラ様。
昨夜はお悦びの様で大変ようございましたね。
ちょうど朝食を運んできたところですので、こちらで頂きながら王都へ入る計画を相談致しましょう」
「うん、解った」
やはり何でもない様子で、イーラも上機嫌で部屋の椅子へと腰掛ける。
椅子の横に備え付けられたテーブルへ、アムリは持ってきたトレーから一人分の朝食を手際よく並べた。
胡桃パンと葡萄などの新鮮な果物と、あっさりとしたスープ。
皆で分けるための水入れからグラスに水が注がれ、四人は朝食を摂り始める。
「…暴徒化した民の中には、外部からの鎮圧を警戒して敏感になっている者も居るだろう。
王も迎えのために王都の入口まで迎えを寄越すと言っていたが、この様子では阻まれているだろうな」
「うん。姉上の方にも側近を置いてたんだけど、合流地点に中々現れなくて怒ったらそう言ってたよ」
イーラたちはこれまでの間に配下とこっそりと連絡を取っていたらしい。
自分の国では無いのに王よりも自由に行き来出来ている状況をグリゴールは苦々しく思ったが、今は彼らを頼る方が良いだろう。
正攻法で突破するやり方では、民衆に怪我をさせてしまいかねない。
「…その側近は命を預けられる程信用出来るか?イーラ」
「まあアムリと同じくらいには、ね」
イーラにとってはそうであっても、ランシェットにどう出るかは確証は持てない。
「…俺とランシェットを一緒に王宮内まで手引きするように命じてくれ」
グリゴールは、片膝を折って心臓に自身の手のひらを押し当て、イーラの前にかしづいた。
それは騎士が命を懸けて主君に仕える時や命を懸けた願いをする時にしかしない、心臓を捧げるという意味を持つ誓いだった。
「…グリゴール?…構わない、入って」
翌朝、控えめなノックに続いてグリゴールが声をかけてきた。
昨日はアムリのマッサージと香のお陰かすっかり深く眠り、久しぶりに爽快な目覚めとなった。
アムリが朝食の準備の為、部屋から出ていったのを見計らっていたようだ。
「昨日はついてやれなくて済まない。
…イーラがあの剣幕だったからあの後部屋から出して貰えなくてな」
「いや、大丈夫だ。気にしてないよ」
どちらが護衛だか分からない。
そう思いランシェットが苦笑したのを見て、グリゴールの様子がにわかにぎこちなくなる。
「あ、その…昨夜は起きずに朝まで眠れたか?」
「ああ、朝までゆっくり寝れたよ」
「そ、そうか!なら良かった!」
グリゴールは意外と色事には慣れていないのかもしれない。
イーラは部屋決めの前から皆の前でグリゴールを誘っていたし、昨夜は勿論そうしたのだろう。
ランシェットと王との夜伽の際は、隣の部屋で侍従が待機しているのが常だったので、特にランシェットは気にしないつもりでいたが、
これも騎士であるグリゴールからしたら有り得ない事なのかもしれないとやっとその時思い当たった。
「グリゴール、そういう事は気にしないで愉しんでくれたらいい。
王との夜伽は常に誰か外にいるのが普通だったし、イーラ殿下もそうだろうから」
昨日乱入してきたのは昼間からそういう関係でもないアムリに、王という存在がありながら体を委ねきっていたのが見過ごせなかったに違いない。
「…本当に…そういう所は王族と俺は馴染めない…」
グリゴールは耳まで赤くしながら顔を手で覆って大きな溜息をついた。
「お話中失礼致します。この中でそれを気にしておられるのはグリゴール様だけかと」
片腕で食事の載ったトレーを二つ器用に支えながら、アムリが帰ってきた。
やはりどこの国でも夜伽中に命を狙われる可能性を考え、行為中でも常に声や音を聞かれているようだ。
「っ…!」
「これで暫くイーラ様のご機嫌が良くなられるでしょうし、夜だけと言わずいつでもお励み下さいませ」
心からの笑顔のアムリと、見たことが無いほど真っ赤になってしまったグリゴール。
その様子を見ながら、まるで初めて王に夜伽を命じられた日の自分のようだなどとランシェットが思っているなど、グリゴールは思いもしないだろう。
「何だよその生暖かい視線は!
俺はそういう事は…ああ、もう良い!」
こいつらに説明しても無駄だと言わんばかりに手を振ってグリゴールは強制的に話を終わらせようとした。
「ふぅん、そうなんだ。
気に留めておくね、グリゴール」
いつの間にかアムリに続いてイーラもこっちの部屋にやって来ていた。
「おはようございます、イーラ様。
昨夜はお悦びの様で大変ようございましたね。
ちょうど朝食を運んできたところですので、こちらで頂きながら王都へ入る計画を相談致しましょう」
「うん、解った」
やはり何でもない様子で、イーラも上機嫌で部屋の椅子へと腰掛ける。
椅子の横に備え付けられたテーブルへ、アムリは持ってきたトレーから一人分の朝食を手際よく並べた。
胡桃パンと葡萄などの新鮮な果物と、あっさりとしたスープ。
皆で分けるための水入れからグラスに水が注がれ、四人は朝食を摂り始める。
「…暴徒化した民の中には、外部からの鎮圧を警戒して敏感になっている者も居るだろう。
王も迎えのために王都の入口まで迎えを寄越すと言っていたが、この様子では阻まれているだろうな」
「うん。姉上の方にも側近を置いてたんだけど、合流地点に中々現れなくて怒ったらそう言ってたよ」
イーラたちはこれまでの間に配下とこっそりと連絡を取っていたらしい。
自分の国では無いのに王よりも自由に行き来出来ている状況をグリゴールは苦々しく思ったが、今は彼らを頼る方が良いだろう。
正攻法で突破するやり方では、民衆に怪我をさせてしまいかねない。
「…その側近は命を預けられる程信用出来るか?イーラ」
「まあアムリと同じくらいには、ね」
イーラにとってはそうであっても、ランシェットにどう出るかは確証は持てない。
「…俺とランシェットを一緒に王宮内まで手引きするように命じてくれ」
グリゴールは、片膝を折って心臓に自身の手のひらを押し当て、イーラの前にかしづいた。
それは騎士が命を懸けて主君に仕える時や命を懸けた願いをする時にしかしない、心臓を捧げるという意味を持つ誓いだった。
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