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サンタ、懺悔する ※
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当然のごとく、菊理のマンションまで同行したサンタは、きちんと靴を揃えて脱ぎ、高そうなスーツを菊理が差し出したハンガーにかけると、「失礼いたします」と断ってから張りのある生地で出来た間違いなく高級なネクタイをしゅるりと外した。
ワイシャツの襟の釦を外す様を見て、思わずごくりと唾を飲んだのは生理現象だと、菊理は心の中で言い訳した。
「菊理さん、甘い物もお好きですよね? 出張続きでしたので、各国各種チョコレートを揃えてみました! 私のオススメは、ベルギーです。さぁ、どうぞ! 心おきなく、鼻血が出るほど食べてください!」
にこにこ笑って、実はサンタ袋と同じ仕組みだという皮製のお洒落な鞄から、美しい包装が施されたチョコレートの箱の数々を取り出して山積みにしたサンタに、菊理は何からツッコむべきか判断しかね、取り敢えず頷いた。
オススメだというベルギー産のチョコレートは、小ぢんまりした箱に入っていたが、一粒口に入れた瞬間、思わず唸る。
美味い。
「お気に召していただけましたか?」
「ん」
「おでんもどうぞ。菊理さんの好きな『たこ串』はありませんでしたが、『牛すじ』はありましたよ。他のコンビニのものでもよければ『たこ串』もお出ししますが?」
サンタ袋からナマモノが出て来るのを想像した菊理は、首を横に振った。
何と言うか、お洒落な皮製の鞄から出て来る『たこ串』を食べたいとは思えなかった。
以前、サンタが「ナマモノ」は取り扱っていないと言ったのも、納得だ。
サンタは、いそいそと、用意した取り分け用の皿に、サンタ袋ではなくコンビニ袋から取り出した「牛すじ」を含めたおでんの具材を載せて差し出す。
思い切り胸の中がモヤモヤしているが、菊理はいかなる状況下でも食欲が無くなるということはない。
黙々と、美味しくおでんを完食した。
「美味しかったですね! 国内の出張で各地を巡ったのですが、おでんには地域によって異なる具材があるのだと初めて知りました」
お腹いっぱいだと笑うサンタに、菊理は思い切りへの字に唇を引き結んだ。
出張とは、サンタの仕事だろうか。
それとも、高級スーツを着るような仕事だろうか。
なんで、嘘の連絡先を残したのだろうか。
なんで、一度も連絡をくれなかったのだろうか。
なんで、急に現れて、少しの罪悪感もなく、おでんを食べているのだろうか。
色々と尋ねたいと思うのに、ようやく口に出来たのは、馬鹿みたいなひと言だ。
「なんで、会いに……来なかったの?」
おでんによって乾いていた場所が潤ったせいか、ぼろり、とあっけなく熱いものが目からこぼれ落ちた。
「なんで、連絡しないのよぅ?」
ぼろぼろとこぼれ落ちる涙が、おでんの汁に滴って、ぴちょんと音を立てた。
「あの……菊理さん。実は何度か来たんですが……会えませんでした。今年は社の移転もあって、クリスマスシーズンが終わった後も忙しくて、菊理さんの方もお忙しそうでしたし、何度かこちらにお伺いしたのですが、なかなかタイミングが合わなかったようで……」
サンタは、申し訳なさそうな顔で、言い訳した。
「だったら、置手紙とかなんとかしなさいよっ!」
「はい。すみません……その、書きたいことが山のようにあって、なかなかまとめられず……」
「だったら、電話しなさいよっ!」
手近にあったチョコレートの箱を投げつけようとした菊理は、中身がまだ入っていることに気付いた。
素早く残りを口に入れ、空になったところで投げつけると、ひょいと首を竦めてかわされた。
「……はい……すみません。実は、気付けば連絡先をお伺いするのを忘れていたようで……名刺も置いていきましたから、そのうち菊理さんの方からしてくれるだろうと思っていたのですが……いや、その、なかなか連絡が来ないので、おかしいな、とは思っていましたが、物凄く忙しいんだろうなと……」
菊理は、名刺と聞いて、ハッとした。
名刺。
そうだ、名刺だ。
詐欺の名刺だ。
鞄の中から財布を取り出し、収めていた名刺をバンっ! とテーブルに叩きつけた。
「電話したっ! 何回もしたっ! でも、通じなかったっ! ホームページだって検索したけど、なくなってたっ! 詐欺じゃないのようっ!」
「え?」
バシバシと憎たらしい名刺を滅多打ちにすれば、餅つきの合いの手の要領で、サンタは素早く名刺を引き抜いた。
「いや、そんなはずは……」
怪訝な顔をして手にした名刺を見た途端、サンタの色白の顔が青くなった。
パクパクと口を開け閉めしているが、おそらく「オー、マイ、ゴッド」と言いたいのだろうと思われる。
言った瞬間、張り飛ばすぞと思いながら、菊理は睨みつけたが、日本文化に精通しているサンタは、日本人の怒りを逆なでするような真似はしなかった。
ぴしっと正座に直り、深々と頭を下げた。
「大変、申し訳ございませんっ! 私、とんだ失態を犯したようで……。こちらの名刺は、サンタ用名刺で、営業先であるデパートや玩具店向けに期間限定で配っているものなんです。子供たちの願いごとなんかを聞いたりするための専用電話番号で……その……ホームページもクリスマス期間限定のもので、子供たち向けに遊びで作っているもので……つまり……間違えましたっっっ! すみませんっ!」
間違えた?
詐欺じゃない?
一夜限りの「アバンチュール(多分、死語)」、とかいうわけではない?
「昨今、アメリカなどではサンタをレーダーで追跡するとか、日本でも新聞社でサンタ速報なるものを掲載するなど、なかなか遊び心満載のイベントが開催されており、わが社としてもより多くの人に楽しんでもらいたいと考えていてですね……」
早口で今のサンタ業界事情を語っていたサンタは、菊理が無言のまま俯いているのに気付くと、恐る恐るといった感じで手を伸ばした。
「ごめんなさい、菊理さん。泣かないで」
頭を撫で、そのうち、ちゃっかり菊理を抱きしめて、いつの間にかベッドまで運んでいた。
「菊理さん……寂しい思いをさせて……不安にさせて、ごめんなさい」
チュッチュッと音を立てて、瞼や頬やおでこや鼻にキスをしていたサンタは、菊理と目が合うと唇にキスをした。
ゆっくりと優しく菊理の唇を食み、控え目に舌でお伺いを立てる。
菊理が引き結んだ唇を緩めれば、するりと中に侵入して、菊理が好きな場所を優しくなぞる。
キスに夢中になっている間に、ブラウスの釦を外し、ブラジャーに包まれた胸の中心で固くなった先をカリカリと引っ掻く。
「んっ!」
「菊理さん……触ってもいいですか?」
もう触っているくせに、と思いながらも頷けば、ホックを外して直に大きな手で包みこむ。
しばらくやわやわと揉み、菊理が刺激に堪え切れなくなって足を擦り合わせるようにして身悶え始めると、スカートの中に手を差し入れる。
「……ストッキングは、禁止です」
器用にストッキングを脱がせたサンタは、不満げに言う。
女子高生でもないのに、生足なんてあり得ない。
菊理が呆れた眼差しを向けると、サンタは「お家では」と譲歩した。
「スーツが皺になってしまいますから、さっさと脱ぎましょうね」
自分のことを棚に上げ、サンタは菊理のスカートをするりと脱がせてから、しみじみとした様子で菊理を見下ろし、頷いた。
「どうしてこんなに、菊理さんは美味しそうなんでしょう?」
艶っぽい眼差しは、直接触れているわけではないのに、菊理の肌を粟立たせる。
隅々まで菊理を観察しながら、カフスを外し、シャツを脱ぎ、肌着を脱ぎ捨てたサンタは、美しい筋肉を露わにする。
ベルトを外したところで、くすりと笑う。
「菊理さんに見られて脱ぐなんて、なんだか、興奮します」
ガン見していたことに気付き、菊理は慌てて目を逸らす。
「見ていてもいいのに」
無理。
鼻血出る。
「菊理さん、脱がせたくはないですか?」
手を取られ、持って行かれた先で固く熱いものに触れた菊理は、思わず目を見開き、視線を向けた。
「……っ!」
ボクサーショーツの大きな膨らみ。
「触ってくれますか?」
反射的に引きかけた手を押さえられ、ゆっくりと膨らみを撫でるように上下させられる。
固くて、でも弾力があって……。
「……ああ、いいですね……これ」
うっとりした表情のサンタに、菊理はおずおずとその形を確かめるように少し握ってみた。
「……っ!」
びくん、と反応したサンタの表情が変わり、菊理は驚いた。
「菊理さん……」
柔らかな生地を押し上げる形を指先で辿れば、「ああ」と熱い吐息を漏らす。
もう少し、もうちょっと。
好奇心と数カ月間、不安と寂しさを味わったことへの報復として、サンタをちょっとだけ困らせたい。
菊理が、窮屈そうなショーツを少しだけ引き下ろすと、弾かれるようにして男性器が飛び出した。
「大丈夫なんですか? 菊理さん?」
初心者には衝撃的だろうと気遣うサンタに、菊理は大丈夫だと頷いた。
衝撃的で、可愛い代物ではないが、気持ち悪くはない。
これで自分が気持ちよくさせられたのだと思うと、不思議な気がする。
少しだけ、濡れて光る先端に顔を近づけ、何だろうと思って覗き込めば、ふっと掛かった息に反応したサンタがビクリと腰を揺らし、菊理の唇に押し付けた。
「ご、ごめんなさい、菊理さんっ!」
慌てて腰を引こうとするサンタに、菊理は興味本位でキラキラ濡れた滑らかなその先をチロリと舐めた。
「うっ……」
ビクリ、と再び腰を揺らしたサンタがぐっとその屹立を押しつけ、菊理の口の中へ侵入する。
入ってしまったので、そのまま何となく舌を絡めれば、悲鳴が上がった。
「ひ、うあっ」
強張る太股を掴み、もう少しだけ奥まで口に含めば、腹筋にも力が入るのがわかる。
つい、引き締まったお尻と太股。シックスパックの腹筋と脇腹も確かめるように手を這わせると、口の中に収まったものがビクビクと跳ね、ぐっぐっと奥へ入ろうとする。
その度に、サンタは慌てて腰を引く。
「はっ……ああ、菊理さん……もう、駄目です……」
口の中に収まり切らない程膨らみ、固くなったものに舌を絡めて上目遣いで見上げれば、サンタが顔を赤くして、泣きそうな表情を浮かべる。
舐めにくいのでその根元を掴めば、「ああっ」と悲鳴を上げる。
悶絶する様に復讐心を満たされて、ゆるゆると手で上下に擦れば、サンタが懇願した。
「菊理さんっ……菊理さんの中に……入りたい……入れたい……入れさせてくださいっ!」
いい、とも駄目、とも答えられなかった。
叫んだサンタは、よっぽど余裕がなかったらしく、菊理を押し倒し、必要なだけ下着をずらしただけで、いきなり菊理の中に入った。
「……っ!」
直接触れられてはいなかったけれど、驚くほど濡れて潤っていた場所は、サンタのものを呑み込んだ。
めいっぱい押し広げられて苦しいくらいだったけれど、痛みはなく、待ちわびていたものを与えられた喜びに、体中がざわめいた。
「菊理さんっ」
貫かれたその先にあったある一点に、先ほどまで味わっていた切っ先が埋められた瞬間、菊理は信じられないほどの快感に貫かれた。
「ひ、やぁぁぁっ!」
大きく身体をしならせて、本能的に過ぎた快感から逃れようとしたが、腰を抱えられ、逃げることは許されなかった。
「菊理さん……菊理っ……」
「あああああっ! あうっ! は、だ、めっ! やだっ! おかしくなるっ! やだやだやだっ! さんた、やだっ!」
引くことのない快感の波に翻弄され、叫び、涎と涙でぐちょぐちょになりながら許しを乞えば、ギラギラした青い目で睨まれる。
「サンタじゃないでしょう?」
「く、くら、うす……」
「そちらもいいですけれど……婿入りするなら、日本名の方がいいかもしれませんね。聖で」
「むこ? にほ、ん?」
何の話だと一瞬取り戻した理性で尋ねれば、再びガツガツと穿たれ、あっという間に何も考えられなくなる。
「ああっ! やぁっ!」
「聖です」
「ひ、じりっ」
何かが気に入らなかったのか、サンタは奥に沈めたものでグリグリと菊理を抉る。
「ひ、あああっ」
足の先まで痺れるような快感に攫われ、痙攣しながらその肩にしがみつけば、サンタは首を傾げて再び要求する。
「やっぱり、クラウスの方がいいでしょうか。……クラウスで」
収縮する襞の間をゆるゆると擦られて、再び叫ぶ。
「く、くらうすっ……クラウスっ!」
「うーん。決め難いですね。……菊理さんは、どちらがいいですかっ?」
どっちでもいい。
もう、どうでもいい。
「菊理さん?」
甘い声で囁かれ、菊理は泣きながら叫んだ。
「サンタでいいっ!」
不穏な空気が漂い、冷やかな青い瞳で睨まれた。
「却下です」
そこから先、夜が明けるまで、菊理は「クラウス。聖。サンタ」と叫び続けることとなった。
最終的に「クラウス」で落ち着いたのは、その名前で呼ぶ時に、菊理の中がきゅっと締まるから、という馬鹿馬鹿しく、果てしなくどうでもいい理由だった。
ワイシャツの襟の釦を外す様を見て、思わずごくりと唾を飲んだのは生理現象だと、菊理は心の中で言い訳した。
「菊理さん、甘い物もお好きですよね? 出張続きでしたので、各国各種チョコレートを揃えてみました! 私のオススメは、ベルギーです。さぁ、どうぞ! 心おきなく、鼻血が出るほど食べてください!」
にこにこ笑って、実はサンタ袋と同じ仕組みだという皮製のお洒落な鞄から、美しい包装が施されたチョコレートの箱の数々を取り出して山積みにしたサンタに、菊理は何からツッコむべきか判断しかね、取り敢えず頷いた。
オススメだというベルギー産のチョコレートは、小ぢんまりした箱に入っていたが、一粒口に入れた瞬間、思わず唸る。
美味い。
「お気に召していただけましたか?」
「ん」
「おでんもどうぞ。菊理さんの好きな『たこ串』はありませんでしたが、『牛すじ』はありましたよ。他のコンビニのものでもよければ『たこ串』もお出ししますが?」
サンタ袋からナマモノが出て来るのを想像した菊理は、首を横に振った。
何と言うか、お洒落な皮製の鞄から出て来る『たこ串』を食べたいとは思えなかった。
以前、サンタが「ナマモノ」は取り扱っていないと言ったのも、納得だ。
サンタは、いそいそと、用意した取り分け用の皿に、サンタ袋ではなくコンビニ袋から取り出した「牛すじ」を含めたおでんの具材を載せて差し出す。
思い切り胸の中がモヤモヤしているが、菊理はいかなる状況下でも食欲が無くなるということはない。
黙々と、美味しくおでんを完食した。
「美味しかったですね! 国内の出張で各地を巡ったのですが、おでんには地域によって異なる具材があるのだと初めて知りました」
お腹いっぱいだと笑うサンタに、菊理は思い切りへの字に唇を引き結んだ。
出張とは、サンタの仕事だろうか。
それとも、高級スーツを着るような仕事だろうか。
なんで、嘘の連絡先を残したのだろうか。
なんで、一度も連絡をくれなかったのだろうか。
なんで、急に現れて、少しの罪悪感もなく、おでんを食べているのだろうか。
色々と尋ねたいと思うのに、ようやく口に出来たのは、馬鹿みたいなひと言だ。
「なんで、会いに……来なかったの?」
おでんによって乾いていた場所が潤ったせいか、ぼろり、とあっけなく熱いものが目からこぼれ落ちた。
「なんで、連絡しないのよぅ?」
ぼろぼろとこぼれ落ちる涙が、おでんの汁に滴って、ぴちょんと音を立てた。
「あの……菊理さん。実は何度か来たんですが……会えませんでした。今年は社の移転もあって、クリスマスシーズンが終わった後も忙しくて、菊理さんの方もお忙しそうでしたし、何度かこちらにお伺いしたのですが、なかなかタイミングが合わなかったようで……」
サンタは、申し訳なさそうな顔で、言い訳した。
「だったら、置手紙とかなんとかしなさいよっ!」
「はい。すみません……その、書きたいことが山のようにあって、なかなかまとめられず……」
「だったら、電話しなさいよっ!」
手近にあったチョコレートの箱を投げつけようとした菊理は、中身がまだ入っていることに気付いた。
素早く残りを口に入れ、空になったところで投げつけると、ひょいと首を竦めてかわされた。
「……はい……すみません。実は、気付けば連絡先をお伺いするのを忘れていたようで……名刺も置いていきましたから、そのうち菊理さんの方からしてくれるだろうと思っていたのですが……いや、その、なかなか連絡が来ないので、おかしいな、とは思っていましたが、物凄く忙しいんだろうなと……」
菊理は、名刺と聞いて、ハッとした。
名刺。
そうだ、名刺だ。
詐欺の名刺だ。
鞄の中から財布を取り出し、収めていた名刺をバンっ! とテーブルに叩きつけた。
「電話したっ! 何回もしたっ! でも、通じなかったっ! ホームページだって検索したけど、なくなってたっ! 詐欺じゃないのようっ!」
「え?」
バシバシと憎たらしい名刺を滅多打ちにすれば、餅つきの合いの手の要領で、サンタは素早く名刺を引き抜いた。
「いや、そんなはずは……」
怪訝な顔をして手にした名刺を見た途端、サンタの色白の顔が青くなった。
パクパクと口を開け閉めしているが、おそらく「オー、マイ、ゴッド」と言いたいのだろうと思われる。
言った瞬間、張り飛ばすぞと思いながら、菊理は睨みつけたが、日本文化に精通しているサンタは、日本人の怒りを逆なでするような真似はしなかった。
ぴしっと正座に直り、深々と頭を下げた。
「大変、申し訳ございませんっ! 私、とんだ失態を犯したようで……。こちらの名刺は、サンタ用名刺で、営業先であるデパートや玩具店向けに期間限定で配っているものなんです。子供たちの願いごとなんかを聞いたりするための専用電話番号で……その……ホームページもクリスマス期間限定のもので、子供たち向けに遊びで作っているもので……つまり……間違えましたっっっ! すみませんっ!」
間違えた?
詐欺じゃない?
一夜限りの「アバンチュール(多分、死語)」、とかいうわけではない?
「昨今、アメリカなどではサンタをレーダーで追跡するとか、日本でも新聞社でサンタ速報なるものを掲載するなど、なかなか遊び心満載のイベントが開催されており、わが社としてもより多くの人に楽しんでもらいたいと考えていてですね……」
早口で今のサンタ業界事情を語っていたサンタは、菊理が無言のまま俯いているのに気付くと、恐る恐るといった感じで手を伸ばした。
「ごめんなさい、菊理さん。泣かないで」
頭を撫で、そのうち、ちゃっかり菊理を抱きしめて、いつの間にかベッドまで運んでいた。
「菊理さん……寂しい思いをさせて……不安にさせて、ごめんなさい」
チュッチュッと音を立てて、瞼や頬やおでこや鼻にキスをしていたサンタは、菊理と目が合うと唇にキスをした。
ゆっくりと優しく菊理の唇を食み、控え目に舌でお伺いを立てる。
菊理が引き結んだ唇を緩めれば、するりと中に侵入して、菊理が好きな場所を優しくなぞる。
キスに夢中になっている間に、ブラウスの釦を外し、ブラジャーに包まれた胸の中心で固くなった先をカリカリと引っ掻く。
「んっ!」
「菊理さん……触ってもいいですか?」
もう触っているくせに、と思いながらも頷けば、ホックを外して直に大きな手で包みこむ。
しばらくやわやわと揉み、菊理が刺激に堪え切れなくなって足を擦り合わせるようにして身悶え始めると、スカートの中に手を差し入れる。
「……ストッキングは、禁止です」
器用にストッキングを脱がせたサンタは、不満げに言う。
女子高生でもないのに、生足なんてあり得ない。
菊理が呆れた眼差しを向けると、サンタは「お家では」と譲歩した。
「スーツが皺になってしまいますから、さっさと脱ぎましょうね」
自分のことを棚に上げ、サンタは菊理のスカートをするりと脱がせてから、しみじみとした様子で菊理を見下ろし、頷いた。
「どうしてこんなに、菊理さんは美味しそうなんでしょう?」
艶っぽい眼差しは、直接触れているわけではないのに、菊理の肌を粟立たせる。
隅々まで菊理を観察しながら、カフスを外し、シャツを脱ぎ、肌着を脱ぎ捨てたサンタは、美しい筋肉を露わにする。
ベルトを外したところで、くすりと笑う。
「菊理さんに見られて脱ぐなんて、なんだか、興奮します」
ガン見していたことに気付き、菊理は慌てて目を逸らす。
「見ていてもいいのに」
無理。
鼻血出る。
「菊理さん、脱がせたくはないですか?」
手を取られ、持って行かれた先で固く熱いものに触れた菊理は、思わず目を見開き、視線を向けた。
「……っ!」
ボクサーショーツの大きな膨らみ。
「触ってくれますか?」
反射的に引きかけた手を押さえられ、ゆっくりと膨らみを撫でるように上下させられる。
固くて、でも弾力があって……。
「……ああ、いいですね……これ」
うっとりした表情のサンタに、菊理はおずおずとその形を確かめるように少し握ってみた。
「……っ!」
びくん、と反応したサンタの表情が変わり、菊理は驚いた。
「菊理さん……」
柔らかな生地を押し上げる形を指先で辿れば、「ああ」と熱い吐息を漏らす。
もう少し、もうちょっと。
好奇心と数カ月間、不安と寂しさを味わったことへの報復として、サンタをちょっとだけ困らせたい。
菊理が、窮屈そうなショーツを少しだけ引き下ろすと、弾かれるようにして男性器が飛び出した。
「大丈夫なんですか? 菊理さん?」
初心者には衝撃的だろうと気遣うサンタに、菊理は大丈夫だと頷いた。
衝撃的で、可愛い代物ではないが、気持ち悪くはない。
これで自分が気持ちよくさせられたのだと思うと、不思議な気がする。
少しだけ、濡れて光る先端に顔を近づけ、何だろうと思って覗き込めば、ふっと掛かった息に反応したサンタがビクリと腰を揺らし、菊理の唇に押し付けた。
「ご、ごめんなさい、菊理さんっ!」
慌てて腰を引こうとするサンタに、菊理は興味本位でキラキラ濡れた滑らかなその先をチロリと舐めた。
「うっ……」
ビクリ、と再び腰を揺らしたサンタがぐっとその屹立を押しつけ、菊理の口の中へ侵入する。
入ってしまったので、そのまま何となく舌を絡めれば、悲鳴が上がった。
「ひ、うあっ」
強張る太股を掴み、もう少しだけ奥まで口に含めば、腹筋にも力が入るのがわかる。
つい、引き締まったお尻と太股。シックスパックの腹筋と脇腹も確かめるように手を這わせると、口の中に収まったものがビクビクと跳ね、ぐっぐっと奥へ入ろうとする。
その度に、サンタは慌てて腰を引く。
「はっ……ああ、菊理さん……もう、駄目です……」
口の中に収まり切らない程膨らみ、固くなったものに舌を絡めて上目遣いで見上げれば、サンタが顔を赤くして、泣きそうな表情を浮かべる。
舐めにくいのでその根元を掴めば、「ああっ」と悲鳴を上げる。
悶絶する様に復讐心を満たされて、ゆるゆると手で上下に擦れば、サンタが懇願した。
「菊理さんっ……菊理さんの中に……入りたい……入れたい……入れさせてくださいっ!」
いい、とも駄目、とも答えられなかった。
叫んだサンタは、よっぽど余裕がなかったらしく、菊理を押し倒し、必要なだけ下着をずらしただけで、いきなり菊理の中に入った。
「……っ!」
直接触れられてはいなかったけれど、驚くほど濡れて潤っていた場所は、サンタのものを呑み込んだ。
めいっぱい押し広げられて苦しいくらいだったけれど、痛みはなく、待ちわびていたものを与えられた喜びに、体中がざわめいた。
「菊理さんっ」
貫かれたその先にあったある一点に、先ほどまで味わっていた切っ先が埋められた瞬間、菊理は信じられないほどの快感に貫かれた。
「ひ、やぁぁぁっ!」
大きく身体をしならせて、本能的に過ぎた快感から逃れようとしたが、腰を抱えられ、逃げることは許されなかった。
「菊理さん……菊理っ……」
「あああああっ! あうっ! は、だ、めっ! やだっ! おかしくなるっ! やだやだやだっ! さんた、やだっ!」
引くことのない快感の波に翻弄され、叫び、涎と涙でぐちょぐちょになりながら許しを乞えば、ギラギラした青い目で睨まれる。
「サンタじゃないでしょう?」
「く、くら、うす……」
「そちらもいいですけれど……婿入りするなら、日本名の方がいいかもしれませんね。聖で」
「むこ? にほ、ん?」
何の話だと一瞬取り戻した理性で尋ねれば、再びガツガツと穿たれ、あっという間に何も考えられなくなる。
「ああっ! やぁっ!」
「聖です」
「ひ、じりっ」
何かが気に入らなかったのか、サンタは奥に沈めたものでグリグリと菊理を抉る。
「ひ、あああっ」
足の先まで痺れるような快感に攫われ、痙攣しながらその肩にしがみつけば、サンタは首を傾げて再び要求する。
「やっぱり、クラウスの方がいいでしょうか。……クラウスで」
収縮する襞の間をゆるゆると擦られて、再び叫ぶ。
「く、くらうすっ……クラウスっ!」
「うーん。決め難いですね。……菊理さんは、どちらがいいですかっ?」
どっちでもいい。
もう、どうでもいい。
「菊理さん?」
甘い声で囁かれ、菊理は泣きながら叫んだ。
「サンタでいいっ!」
不穏な空気が漂い、冷やかな青い瞳で睨まれた。
「却下です」
そこから先、夜が明けるまで、菊理は「クラウス。聖。サンタ」と叫び続けることとなった。
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