捨てる神あれば、拾うサンタあり

唯純 楽

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神様、サンタといっしょになる

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「菊理さん! 今日の夜、デートしましょう! 素敵な夜景をトナカイ抜きで楽しみましょうっ!」

 再会の翌朝。
 白米、味噌汁、焼き鮭、お漬物に卵焼きという由緒正しい日本の朝食を完璧な箸使いで完食し、洗い物を手伝った後。
 緑茶で一服しながら、ご機嫌、元気いっぱい、にこにこ笑うサンタを、菊理はじとっとした目で睨んだ。
 股関節と腰と、人には言えない場所が痛くて、普通に歩くのもひと苦労である。
 すべての元凶であるサンタには、何のダメージもないのが腹立たしい。
 むしろ、すっきりさっぱり大満足の様子なのが、憎たらしい。

「今日は、新しい職場の二日目で、どんな風に仕事をするのかもわからないし、残業はないかもしれないけれど予定が不明だから無理かも」

 今度は、ちゃんとしたデートをすると約束したけれど、社会人としてはまずは新しい仕事を優先すべきだ。
 菊理は、常識的な回答をした。
 しかし、無下に断るつもりはなかったので、代替案を示す。
 
「週末はお休みだから、そのときに……」

「嫌ですっ! 三か月も会えなかったんですっ! 今すぐしたいっ!」

 十分ヤッただろう! とツッコミたいところだったが、菊理は溜息を吐いた。

「もしも都合が大丈夫だったら、ね。クラウスだって、仕事あるんでしょう?」

「ありますが、大丈夫です。問題ありません。菊理さんが優先順位の第一位です」

「……」

 最早、何かを言う気も失せる。
 取り敢えず、今度こそ互いの連絡先をきちんと交換した後、会社へ向かうため一緒にマンションを出て、地下鉄の駅まで歩く。

「一緒に出勤するなんて、なんだか新婚さんみたいですね」

 デレッとした笑みを浮かべるサンタに、「そうだね」と返す。
 新婚ではなくとも、彼女の家にお泊りした彼氏とか、同棲中とか、色々あるだろうが、深くはツッコまずにおいた。

「夏の商戦は、冬ほどではありませんがソコソコ忙しいので、その前に菊理さんのご実家にご挨拶に行きたいですね。神式の結婚式は経験がないのですが、十月に神様たちの許可を貰って、翌月に結婚式というのがベストだと思うのですが……」

「ええと……?」

 何を言われているのか理解出来ずに首を傾げれば、サンタはにっこり笑う。

「デキ婚だとしても、間に合うスケジュールです」

「……」

 思わず足を止めた菊理に、サンタは手を背に添えて、エスコートするかのごとくぎゅうぎゅうの地下鉄の車両に押し込める。

「父と母には報告済みですので、そのうち会って欲しいのですが、急ぎません。まずは、たっぷり菊理さんとの時間を満喫したいです」

 異論はないが、何やら一足飛びに話が飛んでいる。
 デキ婚の可能性には思い当たる節があるけれど、色んなことが急すぎる。

「取り敢えず、今夜ゆっくり話しましょうね」

「……うん」

 そうこうしている間に、駅前のビルに到着していた。
 菊理は、ここが新しい職場だから「また後で」と言ったのだが、サンタは「どこまでも一緒がいいです」と言って、菊理とエレベーターに乗った。  

 仕方がない。エレベーターで別れればいいかと、譲歩した菊理だったが、サンタはエレベーターを一緒に降りた。

「……クラウス。クラウスは、どこへ行くつもりなの?」

 まさか、一緒に出勤するつもりではないだろうな、と疑いを抱く。

「オフィスに」

「どこのオフィスに?」

「営業部の横に、私専用のオフィスがあります。残念ながら、菊理さんを連れ込むには、ちょっと狭いです」
 
「……クラウスの会社って……」

「ああ! 私としたことが、とんだ失態を! こちらが、本物の名刺です」

 サンタが懐から取り出した名刺を受け取った菊理は、目を疑った。

『クラウス・聖・シュタウフェンベルク

 ニコラウス&ループレヒト株式会社  
 日本支社長 兼 サンタクロース』

「ちなみに、わが社の営業担当はみな、本物のサンタクロースです。その他、ドワーフや妖精の血を引く社員もいますが、不法入国ではありませんし、日本の神様とは友好的な関係を維持していますので、ご安心を。私が菊理さんと結婚すれば、日本神界の国際化を進めるきっかけになると思われますし、コラボレーションによる事業の拡大など、双方にとってウィンウィンの関係が築けるものと考えています。その辺りを、神無月に出雲大社にお集まりの神様の前でプレゼンテーションすれば、菊理さんとの結婚もご納得いただけるかと」

 もしや、すべてはサンタの思惑通りだったのか?

 菊理は、偶然を装った出会いの可能性に思い至り、じっとサンタを見つめた。
 サンタは、そんな菊理の考えを読み取ったらしく、くすりと笑う。

「いやだなぁ、菊理さん。いくらなんでも、トイレ貸してくださいなんて、ナンパはしませんよ。あれは、本当に切羽詰まっていました。それに……菊理さんがわが社を受けてくださったのだって、ご縁があったからですよ?」

 本当か?
 何か、裏工作でもしているのではないか?
 国際的組織であれば、何でもアリでは?

 警戒する菊理に、サンタは懐から取り出したスマホを見せた。

「それもこれも、御利益ばっちりの『縁結び』の御守りのおかげです」

 スマホにぶら下がっている赤い御守りは、菊理とお揃いだ。

 確かに、御利益ばっちりだったのだろうと、妊婦のコンビニ店員を思い浮かべた菊理だったが、ずいと差し出されたスマホの待ち受け画面を見て、引き寄せるのは『良縁だけとは限らないのでは』という恐ろしい可能性に行きあたった。

 そこに映っていたのは、エロいサンタ服を着た木花菊理 もうすぐ二十六才、だった。
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