菊の華

八馬ドラス

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第一章

麗華の土曜日

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麗華の土曜日

麗華の土曜日は時に忙しい。中学のころから陸上部に入っていて、高校でも続けて陸上部に入っている。大会が近づくと土曜日に練習が入っているので学校に行っているが、これは面倒だとは思っておらずむしろ楽しいのだそうだ。100メートル走をメインにやっているが、ずっとタイムを計ったり、フォームを撮影して確認をしたりとたくさん走っていたら長距離組に負けず劣らずの体力を手に入れていた。長距離に変えないかと周りからよく誘われたが本人は頑なに変える気はないと断っている。

麗華はアップと何本か軽く走り、タイム測定に入った。このときは自分でも集中してるのがわかる。体中の神経が冴えわたり、ただまっすぐ走ることだけを考える。周りでは応援している声がしているが麗華には届いていなかった。
「位置について、よーい」
パンッ!
その合図で体中にためたエネルギーを一瞬で放出した。

「はっはっはっはっ....」

自分の知る最高のフォームを意識してただ前に走る、一緒に走っている人たちなど気にせずただ前にーー
麗華は他の人と差をつけてゴールした。このゴールした瞬間はとても気持ちがいい。

「はあっ、はぁはぁ...」
「麗ちゃん、タイム少し縮んだよ」
「ホント!やった~。でももう一回」
「いいんだよ少し休んでも?今の結構本気だったでしょ」
「このくらいで疲れる私ではないのですっ!」

そう言って、スタートの位置に戻っていった。それからずっと100メートルを走り続けた。タイムが縮むことはなかったが、ずっと近いタイムを出しているのだから、相当の体力と集中力を使っているだろうに、麗華は終始楽しそうだった。

「はいっみんな休憩!」

顧問の全体休憩の声が聞こえるなり、みんなぞろぞろと休憩に入っていった。
麗華がベンチに座りスポーツドリンクを飲んでいるとき隣にマネージャーがやって来た。

「麗ちゃん、おつかれー」
「おつかれ~あかりちゃ~ん」

天竺明香里、高校からの友達で去年同じクラスだったというのもあって仲良くしてる友達の一人だ。部活ではマネージャーをしているが、ほとんど麗華専属みたいな形になっている。

「麗ちゃん、なんでそんなに練習してるの?そりゃー大会はあるけど、いつもこんな感じだよね。なんか気合が入ってるというか...」
「いい質問だね~。そういえばあかりちゃんには言ってなかったね~」

麗華は昔のことを思い出し、懐かしがるような笑顔になった。

「私はね、追いかけたい人がいたの」
「追いかけたい人?」
「そう。小学生の時、かけっこで勝負しろって言ってくる人がいたの。あの頃は、私は走るのは得意ではなかったから負けちゃって。その相手がね、すごい喜んでたの。それをみてすごい悔しい気持ちになっていつか見返したいと思って、その時から速く走れるように練習したんだ。そしたら、自分の中で主旨が変わっちゃって、単に走るのが好きになってた。」
「なんか麗ちゃんらしいね。じゃあ勝負はどうなったの?」
「ん~、うん。ちゃんとした勝負はしてないかな。でももう、とっくのとうに越しちゃってたみた~い」

お花見の時の姿を見ればもう明らかであった。

「え~なにそれ。あっ、だから”いた”なんだ」
「そう。だからね、今度はあの人の前を引っ張って...ううん、越しちゃった分を戻って一緒に並びたいって思ってるんだ~」
「えっそれって、もしかして...彼氏!?」
「さあ~どうでしょ~?」

いたずらっぽく笑ってうやむやにした。明香里はずっと麗華の相手は誰なのかとぶつぶつ唱えながら考えていた。だが麗華の持つ答えにはたどり着くことはないだろう。彼氏なんていないし、そもそも麗華の思ってる人は男ですらない。だからこの気持ちは果たして正解なのかもわからない。だが、他の人がこの気持ちを感じたらほとんどの人はこれをーーー

「星野さーん、大会のことなんだけど―」
「は~い」

大会についての話し合いを一通り済ませた後、まだ休憩の時間が残っていたのでベンチに座りなおした。

(菊は今頃何をやっているんだろう。いつもみたいに家でテレビでも見てるのかな)
(それとも散歩かな?いつも誘ってって言ってるのに一人で行っちゃうんだよな、断られるとこっちも寂しいんだよーって誰に言ってるんだろう)
(今度は何持っていこうかなー、あのボードゲーム、きくちゃんハマってたしまたやってくれるかもなー)

菊のことを考えていた。暇をつぶすには十分で、また菊に会うのが楽しみになる。菊のことをまだ考えていたかったが、ここで再開の声が顧問からかかる。

「そろそろ再開するぞー」
(もう少し休憩あってもいいんだけどな~)
休憩時間を名残惜しみながら走る準備をする。

いつものように100メートルを走る。だがこの時の麗華は休憩前よりも顔が真剣そのもので、意識も引き締まっていた。菊のことを改めて意識したからだろう。

(あかりちゃんのおかげで、自分の思いを再確認できたよ。ありがとね)
「次、タイムはかるよー」
「おっけ~」

体もいい感じにあったまり、気持ちも落ち着いてる。あとはただ前を向いて走るだけ!

「位置について―、よーい」
パンッ!
最初に測った時と同じように走り出したが気持ちが違う。自分の目標はもう超えてしまったかもしれない。それでも走り続ける。菊はああ見えて麗華を応援してくれている。その気持ちにこたえたいし私の気持ちを届けたい。ただまっすぐ一直線にーー
ゴールした。今までよりも疲れた気がするのに気分はとても清々しい。

「麗ちゃんすごいよっ!さっきのタイムよりも縮んだよ!これだったら大会も絶対勝てるよー!」
「おっ、私の専属マネージャーから言われた以上やるしかないね~」

これはもう勝つしかない、と麗華は心の底から燃え上がる思いを感じながら練習に励んだ。

ーーーーーーーーー

「今日はもう練習終わりー!みんな片づけとグラウンド整備ー」

練習が終わりみんなが片づけをしている中、麗華は日陰のベンチで横になっていた。

「走りすぎた~...もう動けな~い」
「だから休憩挟もうって言ったのに、ちゃんとストレッチしてよー」
「は~い...」

グラウンドが一通り片付いてもうすぐ終わるという時まで麗華は休んでいた。

(こんなところ、きくちゃんには見せられないな~)

こんなかっこ悪いところは菊には見せたくない。どこか恥ずかしさが沸き上がる。いつもはあまり気にしないのに、今日は考えすぎたのかもしれない。

「早く着替えるよー」

明香里に更衣室まで引っ張られ着替えた。汗をこれでもかと拭いて菊と会った時も平然といられるようにした。
それから帰り、明香里は電車通学なので学校を出てすぐ別れた。土曜日の部活の帰りはいつも一人で帰っているが、今日は少し寂しかった。そこまで離れてはいないのですぐ家に着いた。すると反対側から菊が走って来るのが見えた。小学生の時からずいぶん成長したはずなのに、麗華が憧れたあの姿を見ている気がした。

「きくちゃ~ん」
「れ、麗華!?」

麗華に見つかった菊は、何もなかったように話し出した。

「ぶっ部活はどうしたんだよ?」
「早めに終わったの~。それよりも~」

少し火照った頬、上がった息、少し汗ばんだ服や顔、懐かしい姿に胸がいっぱいになった。

「走ってたの?」
「たっただ散歩してただけだし」
「そんな汗だくになって?」
「暑かったんだよ」
「あ~確かに今日は暑かったねぇ~。私も汗すご~い」

私が追いかけようと思った姿だ。今日はずっと考えてたからいざ目の前にすると、いざ何か言いたくても嬉しさで何も言えなくなる。でももう、その姿を見れただけで満足だ。これ以上は麗華は耐えられなくなると思い先に帰った。

「今日は疲れたから帰るね~。じゃあね~」

少し早足で玄関に入った。

「ひゃ~、うれし~!」

これでまた頑張れる気がした。早くこの気持ちを菊に伝えたい。

続く
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