8 / 16
第一章
ゴールに向かって
しおりを挟む
ゴールに向かって
ゴールデンウィークも残り二日となった。そして今日は麗華の大会当日だ。この日のために麗華は練習を重ねてきた。水、木曜日に最後の追い込みで練習し、金曜日は部活の方針の通り全力で休息(睡眠)をとり万全の体調で当日を迎えることができた。麗華は大会の準備を済ませていつもよりも早く家を出た。玄関の扉を開けたら目の前に菊がいた。
「きくちゃんどうしたの?朝早くから」
「いや、まあ...。見送ろうかなと思って」
菊は少し照れくさそうに視線をそらした。麗華は嬉しくて飛び跳ねそうだったが何とか抑えようと頑張ったが表情までは抑えきれなかった。
「ありがとう!きくちゃんの顔をみたら元気出てきた~!」
「そんなことないだろ。なんだったらいつも見てるじゃねえか?」
「ううん、そんなことない。今日は特別だから」
あぁ、だめだ顔がにやけてしまう。こんなところを菊に見られたくなかったので背を向けて最後に宣言した。
「絶対いいところ見せるから、期待しててね」
「おう。期待してる、頑張れよ」
麗華は菊の応援を受けて走り出した。やっぱり体も抑えきれなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
菊は応援のつもりで麗華が出てくるのを待っていたが、待っている間も気が気でなかった。麗華の大会は何度か見ているが、朝から応援するといったことはほとんどしなかったからどんな言葉をかければいいかわからなかった。考えがまとまらず麗華と会ってしまったのでうまく言葉をかけることができなかったが様子を見た感じだと元気そうだったので応援というのもいらなかったのかもしれない。菊も準備を始めようと家に戻った。といっても、これと言って準備するものもなかったので早めに行って会場の周りでも散歩するかと戻って早々家を出た。
電車で向かっているとき、周りにジャージ姿のグループがいくつかいた。この人たち全員大会に出る人なのだろうか、そんなに大きい大会なんだなと自分が出ないにもかかわらず少し緊張していた。
目的地である花ヶ谷駅に着くと予想通りジャージ姿の人たちが一斉に降りた。その流れに混ざり改札を出るとまず思ったのは、
(人多いな!)
駅の前からお店がずらりと並んでおり、土曜日というのもあって家族連れが多い。大会に出るであろう人たちも周りを見渡し、目についたお店の話をしているみたいだが、足取りはまっすぐスタジアムを向いていた。菊も一度スタジアムがどこにあるか見ておきたかったのでついていくような形で歩いたが、思っていたよりもすぐに着いた。テレビでも何度かでてきたことはあったが、実際に見るとやはり大きく中も広そうだ。ここで麗華が走るのかと思うとまた緊張してきてしまった。
(あたしが緊張してどうする。まだ時間あるし、このあたり適当に歩いてみるか)
とりあえず動いてみようと、まずスタジアムをぐるっと一周した。最初の位置まで戻ってきた頃にちょうど開場したらしく、中に入る人たちの列が伸びていた。まだ始まるまでは時間があるので列が落ち着いた頃に入ろうと散歩を続けた。少し離れたところまで歩いたところでひとつのスイーツ店を見つけた。いろんな種類のケーキやパフェが並んでいてどれもおいしそうだった。
(麗華こういうの好きそうだな。今度一緒に来るのもいいな)
麗華は今頃何をしているのだろうか。緊張してるだろうか、いや多分あの人はこういう瞬間も楽しんでいるような気がする。全力で楽しんで勝つ、それが麗華という人間だ。
ーーーーーーーーーーーーー
「どうしよ~あかりちゃん、すごいドキドキしてる!」
「あの麗ちゃんが?珍しー、いつもなら「今日も頑張るぞ~」って張り切ってるところなのに」
「そうなんだけど、どうしてだろう」
麗華は珍しく緊張していた。今まではそこまで緊張することはなかったが、菊が応援に来るというだけでこんなにも変わるものなのかと驚いてもいた。
(でもきくちゃんが応援してくれる。これほど頼もしい物もないよね)
麗華は自分の頬を軽くたたき気合を入れた。
「よ~し頑張るぞー、おー!」
「麗ちゃん急にどうしたの!?まあそっちのほうがらしいっちゃらしいけど」
明香里は麗華がいつもの姿に戻ったことにホッとし、友達兼マネージャーとして応援した。
「麗ちゃんならきっと勝てるよ。だってずっと見てきたんだもん。このマネージャーを信じて!」
「うん、いいとこ見せるよ~。あかりちゃんにも、きくちゃんにも...」
「みんなー開会式始まるからスタジアムに集まってー」
顧問の招集により部活のメンバーたちがぞろぞろと動く中、他校の人とすれ違い見知った顔と目が合った。
「麗華、やっぱり出場してたんだね」
葉月は麗華を鋭く睨んでいたが、麗華は気にも留めずいつもの調子で話した。
「は~ちゃん!久しぶり~」
「は~ちゃんって呼ばないで!」
「相変わらずだね、は~ちゃん」
「だーかーらー」
「葉月ー。早く集まってー」
「あ、はいっ。」
麗華に話しかけたことで集合に遅れてしまった。集合場所に行く前に麗華に向き直った。
「麗華、今度は負けないから」
「受けて立つよ~。私も負けるわけにはいかないから」
麗華と葉月はそれぞれの集合場所に向かった。それぞれの思いを強く握りしめながらーーー
「これより、第23回朝顔陸上競技大会、開会式を始めます」
グラウンドに出場選手が整列し大会が始まった。それぞれの学校ごとに並んでいるため菊は麗華をすぐに見つけることができた。いい顔をしている。やはり楽しんでいるようだ。他にどんな人がいるのかと他校の人を見ると、知った顔を見つけた。
「あれ、木済か?」
木済葉月。菊や麗華と同じ中学校で麗華と同じ陸上部だった。小さいころから走っていてジュニア大会で良い成績も残している。葉月が初めて麗華と会ったのは部活の時で、最初は気にも留めてなかったが麗華の上達がとても早く、中学二年の終わりごろには葉月と並ぶほどに強くなっていた。葉月はこの時焦っていた。最初はまったく走れなかったやつが練習のたび速くなっていき、自分にだんだんせまってきているのが見てて分かったからだ。そして中学最後の部活、麗華と葉月は100メートル走で勝負した。結果はほんのわずかな差で麗華が勝った。これは菊も遠くから見ていたので、葉月がとても悔しがっていたのを覚えている。
「相変わらず、気迫がすごいなあいつ...」
葉月は真剣なような、なにかにイラついているような顔をずっとしていた。
大会が始まり、しばらくして麗華の出場する100メートル走が始まった。
「木済と麗華、同じレースなのか」
レースがいくつか終わり、二人がレーンに入っていくのが見えた。
「絶対に勝つから」
「私も負けないよ~」
二人は、中学を卒業してから勝負をするのはこれが初めてだ。だがお互いに成長しているのは見て分かっていた。
「位置について、よーい」
パァン!
ピストルの合図で一斉に走り出した。麗華も葉月もスタートは完璧で、すぐ他の人と差が開き、二人の戦いになった。
「はっはっはっはっ」
「ふっふっふっふっ」
勝負は拮抗し半分を過ぎたが、100メートルがやたら長く感じた。普通に走っていればすぐに終わってしまうこの長さが何倍にも伸びているようだ。
(今度は絶対に!)
(負けるわけにはいかない!)
ずっと横並びで走る二人を見て菊はたまらず叫んだ。
「麗華ーー!負けるなーーー!」
その言葉に答えるように麗華はスピードを上げた。届いたかはわからない。だが言いたくてたまらなかった。その後も麗華が少しリードしてーー
ゴールした。
「よっしゃーーーー!」
菊はこぶしを突き上げこれまた全力で声を上げた。おかげで周りからの視線が集まり、菊はぺこぺこ頭を下げながら少し縮こまるように座りなおした。
(勝ったな、麗華)
「くそっ!結局また...」
「はーちゃんとまた一緒に走れて楽しかった~!」
こんなにも白熱したのはいつぶりだろう。それこそ葉月と最後に走った頃以来だろう。やはり葉月こそが麗華にとっての永遠のライバルなんだなと改めてわかった。
「負けたわ、今回もこっちの負けね」
「はーちゃんも速くなったね~」
「それはこっちのセリフだよ、一体どうやったらそんな早くなるんだよ...」
「ん~、愛、かな?」
葉月は真面目に質問したが、思いもよらぬ返答に少しイラついた。
「ふざけてる?」
「ふざけてないよ。愛っていうのは変な言い方だけど、要は人の想いの強さってところだよ~」
「想いの強さか。確かにそれは自分にはないわね」
葉月は自分を皮肉るように笑いながら右手を向けた。
「一緒に走ってくれてありがとう、麗華」
その手を麗華は両手で握り返した。
「こちらこそありがとう!」
大会が終わり、選手たちが帰り支度を済ませているとき、菊は麗華が出てくるのを待った。さっき連絡を取って一緒に帰ることにした。朝もこんな感じだったなとデジャブを感じたが、今度は緊張していなかった。言うことは決まってる。
「きくちゃ~ん!」
麗華が走って出てきた。本当に元気なやつだなと改めて感心した。
「麗華、おつかーー」
「きくちゃん、私どうだった?」
麗華は菊の前に来たと思ったら感想を求めてきた。でも言いたいことが変わるわけではない。
「かっこよかったよ。よく頑張ったな、お疲れ様」
気づいたときには麗華の頭を軽くなでていた。周りに見られてるのを気にして手を引っ込めると今度は麗華が抱き着いてきた。
「ありがとう、きくちゃんのおかげだよ」
「え?なんで?」
「応援!聞こえたよ~」
「聞こえてたのか。あの時は夢中だったっていうのもあるけどなんか恥ずかしいな」
麗華は極限まで集中していたが、菊の声だけはしっかりと聞こえていた。
「嬉しかったよ」
「そっそうか」
恥ずかしくなり遠くに視線を向けるとこちらに向かってくる葉月の姿が見えた。
「赤崎も来てたんだ」
「久しぶりだな木済。そっちもお疲れ様」
「ありがとうね。それよりーー」
葉月は二人の姿を見て何かを察し、踵を返した。
「あなたの想いの力っていうのがここにきて分かった気がするわ。せいぜいお幸せにね麗華、赤崎。じゃあね」
「おい、何の話ーー」
「きくちゃんも、早く帰ろ~」
「いやだから何の話を」
「秘密~♪」
麗華はいつものいたずらっぽい笑顔を浮かべて菊を引っ張った。麗華もさすがに話すのは気恥ずかしかったからだ。
「そういえばここの近くに美味しそうなスイーツ店があったぞ」
「そうなの!今から一緒に行こ~」
「いや、麗華大会が終わったばっかだろ。何も今からじゃなくても」
「私が行きたいの。だから連れてって~」
「仕方ねえな...」
菊は麗華の元気ぶりに苦笑いを浮かべたが、これでこそ麗華だなと思う。
「ん~!あま~い!体にしみる~」
「でかすぎだろそのパフェ...」
「食べる?」
「いらない」
見るだけで胸焼けしそうだった。
続く
ゴールデンウィークも残り二日となった。そして今日は麗華の大会当日だ。この日のために麗華は練習を重ねてきた。水、木曜日に最後の追い込みで練習し、金曜日は部活の方針の通り全力で休息(睡眠)をとり万全の体調で当日を迎えることができた。麗華は大会の準備を済ませていつもよりも早く家を出た。玄関の扉を開けたら目の前に菊がいた。
「きくちゃんどうしたの?朝早くから」
「いや、まあ...。見送ろうかなと思って」
菊は少し照れくさそうに視線をそらした。麗華は嬉しくて飛び跳ねそうだったが何とか抑えようと頑張ったが表情までは抑えきれなかった。
「ありがとう!きくちゃんの顔をみたら元気出てきた~!」
「そんなことないだろ。なんだったらいつも見てるじゃねえか?」
「ううん、そんなことない。今日は特別だから」
あぁ、だめだ顔がにやけてしまう。こんなところを菊に見られたくなかったので背を向けて最後に宣言した。
「絶対いいところ見せるから、期待しててね」
「おう。期待してる、頑張れよ」
麗華は菊の応援を受けて走り出した。やっぱり体も抑えきれなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
菊は応援のつもりで麗華が出てくるのを待っていたが、待っている間も気が気でなかった。麗華の大会は何度か見ているが、朝から応援するといったことはほとんどしなかったからどんな言葉をかければいいかわからなかった。考えがまとまらず麗華と会ってしまったのでうまく言葉をかけることができなかったが様子を見た感じだと元気そうだったので応援というのもいらなかったのかもしれない。菊も準備を始めようと家に戻った。といっても、これと言って準備するものもなかったので早めに行って会場の周りでも散歩するかと戻って早々家を出た。
電車で向かっているとき、周りにジャージ姿のグループがいくつかいた。この人たち全員大会に出る人なのだろうか、そんなに大きい大会なんだなと自分が出ないにもかかわらず少し緊張していた。
目的地である花ヶ谷駅に着くと予想通りジャージ姿の人たちが一斉に降りた。その流れに混ざり改札を出るとまず思ったのは、
(人多いな!)
駅の前からお店がずらりと並んでおり、土曜日というのもあって家族連れが多い。大会に出るであろう人たちも周りを見渡し、目についたお店の話をしているみたいだが、足取りはまっすぐスタジアムを向いていた。菊も一度スタジアムがどこにあるか見ておきたかったのでついていくような形で歩いたが、思っていたよりもすぐに着いた。テレビでも何度かでてきたことはあったが、実際に見るとやはり大きく中も広そうだ。ここで麗華が走るのかと思うとまた緊張してきてしまった。
(あたしが緊張してどうする。まだ時間あるし、このあたり適当に歩いてみるか)
とりあえず動いてみようと、まずスタジアムをぐるっと一周した。最初の位置まで戻ってきた頃にちょうど開場したらしく、中に入る人たちの列が伸びていた。まだ始まるまでは時間があるので列が落ち着いた頃に入ろうと散歩を続けた。少し離れたところまで歩いたところでひとつのスイーツ店を見つけた。いろんな種類のケーキやパフェが並んでいてどれもおいしそうだった。
(麗華こういうの好きそうだな。今度一緒に来るのもいいな)
麗華は今頃何をしているのだろうか。緊張してるだろうか、いや多分あの人はこういう瞬間も楽しんでいるような気がする。全力で楽しんで勝つ、それが麗華という人間だ。
ーーーーーーーーーーーーー
「どうしよ~あかりちゃん、すごいドキドキしてる!」
「あの麗ちゃんが?珍しー、いつもなら「今日も頑張るぞ~」って張り切ってるところなのに」
「そうなんだけど、どうしてだろう」
麗華は珍しく緊張していた。今まではそこまで緊張することはなかったが、菊が応援に来るというだけでこんなにも変わるものなのかと驚いてもいた。
(でもきくちゃんが応援してくれる。これほど頼もしい物もないよね)
麗華は自分の頬を軽くたたき気合を入れた。
「よ~し頑張るぞー、おー!」
「麗ちゃん急にどうしたの!?まあそっちのほうがらしいっちゃらしいけど」
明香里は麗華がいつもの姿に戻ったことにホッとし、友達兼マネージャーとして応援した。
「麗ちゃんならきっと勝てるよ。だってずっと見てきたんだもん。このマネージャーを信じて!」
「うん、いいとこ見せるよ~。あかりちゃんにも、きくちゃんにも...」
「みんなー開会式始まるからスタジアムに集まってー」
顧問の招集により部活のメンバーたちがぞろぞろと動く中、他校の人とすれ違い見知った顔と目が合った。
「麗華、やっぱり出場してたんだね」
葉月は麗華を鋭く睨んでいたが、麗華は気にも留めずいつもの調子で話した。
「は~ちゃん!久しぶり~」
「は~ちゃんって呼ばないで!」
「相変わらずだね、は~ちゃん」
「だーかーらー」
「葉月ー。早く集まってー」
「あ、はいっ。」
麗華に話しかけたことで集合に遅れてしまった。集合場所に行く前に麗華に向き直った。
「麗華、今度は負けないから」
「受けて立つよ~。私も負けるわけにはいかないから」
麗華と葉月はそれぞれの集合場所に向かった。それぞれの思いを強く握りしめながらーーー
「これより、第23回朝顔陸上競技大会、開会式を始めます」
グラウンドに出場選手が整列し大会が始まった。それぞれの学校ごとに並んでいるため菊は麗華をすぐに見つけることができた。いい顔をしている。やはり楽しんでいるようだ。他にどんな人がいるのかと他校の人を見ると、知った顔を見つけた。
「あれ、木済か?」
木済葉月。菊や麗華と同じ中学校で麗華と同じ陸上部だった。小さいころから走っていてジュニア大会で良い成績も残している。葉月が初めて麗華と会ったのは部活の時で、最初は気にも留めてなかったが麗華の上達がとても早く、中学二年の終わりごろには葉月と並ぶほどに強くなっていた。葉月はこの時焦っていた。最初はまったく走れなかったやつが練習のたび速くなっていき、自分にだんだんせまってきているのが見てて分かったからだ。そして中学最後の部活、麗華と葉月は100メートル走で勝負した。結果はほんのわずかな差で麗華が勝った。これは菊も遠くから見ていたので、葉月がとても悔しがっていたのを覚えている。
「相変わらず、気迫がすごいなあいつ...」
葉月は真剣なような、なにかにイラついているような顔をずっとしていた。
大会が始まり、しばらくして麗華の出場する100メートル走が始まった。
「木済と麗華、同じレースなのか」
レースがいくつか終わり、二人がレーンに入っていくのが見えた。
「絶対に勝つから」
「私も負けないよ~」
二人は、中学を卒業してから勝負をするのはこれが初めてだ。だがお互いに成長しているのは見て分かっていた。
「位置について、よーい」
パァン!
ピストルの合図で一斉に走り出した。麗華も葉月もスタートは完璧で、すぐ他の人と差が開き、二人の戦いになった。
「はっはっはっはっ」
「ふっふっふっふっ」
勝負は拮抗し半分を過ぎたが、100メートルがやたら長く感じた。普通に走っていればすぐに終わってしまうこの長さが何倍にも伸びているようだ。
(今度は絶対に!)
(負けるわけにはいかない!)
ずっと横並びで走る二人を見て菊はたまらず叫んだ。
「麗華ーー!負けるなーーー!」
その言葉に答えるように麗華はスピードを上げた。届いたかはわからない。だが言いたくてたまらなかった。その後も麗華が少しリードしてーー
ゴールした。
「よっしゃーーーー!」
菊はこぶしを突き上げこれまた全力で声を上げた。おかげで周りからの視線が集まり、菊はぺこぺこ頭を下げながら少し縮こまるように座りなおした。
(勝ったな、麗華)
「くそっ!結局また...」
「はーちゃんとまた一緒に走れて楽しかった~!」
こんなにも白熱したのはいつぶりだろう。それこそ葉月と最後に走った頃以来だろう。やはり葉月こそが麗華にとっての永遠のライバルなんだなと改めてわかった。
「負けたわ、今回もこっちの負けね」
「はーちゃんも速くなったね~」
「それはこっちのセリフだよ、一体どうやったらそんな早くなるんだよ...」
「ん~、愛、かな?」
葉月は真面目に質問したが、思いもよらぬ返答に少しイラついた。
「ふざけてる?」
「ふざけてないよ。愛っていうのは変な言い方だけど、要は人の想いの強さってところだよ~」
「想いの強さか。確かにそれは自分にはないわね」
葉月は自分を皮肉るように笑いながら右手を向けた。
「一緒に走ってくれてありがとう、麗華」
その手を麗華は両手で握り返した。
「こちらこそありがとう!」
大会が終わり、選手たちが帰り支度を済ませているとき、菊は麗華が出てくるのを待った。さっき連絡を取って一緒に帰ることにした。朝もこんな感じだったなとデジャブを感じたが、今度は緊張していなかった。言うことは決まってる。
「きくちゃ~ん!」
麗華が走って出てきた。本当に元気なやつだなと改めて感心した。
「麗華、おつかーー」
「きくちゃん、私どうだった?」
麗華は菊の前に来たと思ったら感想を求めてきた。でも言いたいことが変わるわけではない。
「かっこよかったよ。よく頑張ったな、お疲れ様」
気づいたときには麗華の頭を軽くなでていた。周りに見られてるのを気にして手を引っ込めると今度は麗華が抱き着いてきた。
「ありがとう、きくちゃんのおかげだよ」
「え?なんで?」
「応援!聞こえたよ~」
「聞こえてたのか。あの時は夢中だったっていうのもあるけどなんか恥ずかしいな」
麗華は極限まで集中していたが、菊の声だけはしっかりと聞こえていた。
「嬉しかったよ」
「そっそうか」
恥ずかしくなり遠くに視線を向けるとこちらに向かってくる葉月の姿が見えた。
「赤崎も来てたんだ」
「久しぶりだな木済。そっちもお疲れ様」
「ありがとうね。それよりーー」
葉月は二人の姿を見て何かを察し、踵を返した。
「あなたの想いの力っていうのがここにきて分かった気がするわ。せいぜいお幸せにね麗華、赤崎。じゃあね」
「おい、何の話ーー」
「きくちゃんも、早く帰ろ~」
「いやだから何の話を」
「秘密~♪」
麗華はいつものいたずらっぽい笑顔を浮かべて菊を引っ張った。麗華もさすがに話すのは気恥ずかしかったからだ。
「そういえばここの近くに美味しそうなスイーツ店があったぞ」
「そうなの!今から一緒に行こ~」
「いや、麗華大会が終わったばっかだろ。何も今からじゃなくても」
「私が行きたいの。だから連れてって~」
「仕方ねえな...」
菊は麗華の元気ぶりに苦笑いを浮かべたが、これでこそ麗華だなと思う。
「ん~!あま~い!体にしみる~」
「でかすぎだろそのパフェ...」
「食べる?」
「いらない」
見るだけで胸焼けしそうだった。
続く
0
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる