菊の華

八馬ドラス

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第一章

GWの終わり(前編)

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GWの終わり(前編)

「麗華、遊びに行こう」

麗華の家に来た菊は、開口一番遊びに誘った。

「おはよう、きくちゃん。うん!私も行こうと思ってた」

急に誘ってしまったと思ったが、快く受け入れてくれてよかった。菊は安堵したが麗華は不思議そうな顔を浮かべた。

「でも珍しいね。きくちゃんから誘ってくるなんて。私から誘おうと思ったのに」

菊はあまり遊びに誘う方ではなかった。麗華の言った通り、いつも麗華が菊の家に来てどこかに連れていくか菊の部屋で遊んでいるかで、菊が麗華の方に行くのは勉強に付き合う時ぐらいである。

「たまにはいいだろ。GW中は遊びに行くタイミングなんてなかったし、昨日の労いも兼ねてってところだ」

元々、大会がどんな結果になろうとも麗華を連れて「大会終わった記念」と言って連れていく予定だった。金曜日は部活がなかったが麗華は大会に向けて休んでいて、菊もそれは知っていたのでそっとしておいた。そうすると丸一日遊べるのは最終日の今日しかなかった。

「ふふっ、ありがとう。じゃあ中で待ってて」
「いいよ、ここで待ってーー」
「いいから中に入って!」
「おっおい!」

麗華は無理やり菊を引っ張って家に上がらせた。

「ここで待ってて」
「わ、わかった...」

そういって菊をリビングのソファに座らせ、麗華は自分の部屋に向かった。

「ふは~っ...なによ~朝からバタバタと、って菊ちゃんいたのね。おはよう」
「おはようございます菫さん」

麗華の母の菫は眠気を取り切れてないのか欠伸をしながらやってきた。菫は大手企業の会社員で規則正しい出退勤をしているが、たまに持ち帰って仕事をしているらしく朝はいつも眠たそうにしている。

「今日はどうしたの?またお勉強会?」
「いえ、今日は麗華とどこかに出かけるつもりです」
「まあGW終わりだもんね~。まあ私は関係ないけど...」
「あはは...」

何とも言えないひきつった笑顔がつらさを物語っているため、もはや苦笑いしか出てこない。

(お疲れ様です)

心の中で合掌した。菫はキッチンに向かいコーヒーを用意しているところ、バタバタと足音がしてきた。そんなに急ぐこともないのだが。

「お待たせ~ってあ~、またママ負のオーラ出してる~」

準備を終えた麗華はリビングに戻ってきた。やはり麗華からしてみればこの母の姿はいつものことなのか。たまには菊からもいたわってあげようと今後の振る舞い方を考えた。

「仕方ないでしょーこれはもうどうしようもないのよ...。ママ今日は家で仕事するから部屋に戻るわね。気を付けていってらっしゃい」
「は~い」

そういって用意したコーヒーを一気に飲み干し、冷蔵庫から何本かの飲み物と食べ物が詰まったタッパーとお箸を持って自室に戻った。一日中こもる気なのだろう。いつもお疲れ様ですと軽く頭をさげた。

「ママの乱入で空気がくすんだから私が明るくしよ~」

もうやめてやれという暇もなく麗華はスカートを少しつまみ服を自慢するようなポーズをとった。その瞬間心配してたあれこれを忘れ麗華に見とれていた。

「どう~似合ってる?」
(にっ似合ってる)

丈の長い水色のシンプルなワンピースで、いつもよりも落ち着いた大人な印象を持つ麗華に新鮮な気持ちになり心がざわついていた。

「い、いいんじゃないか」

ふと我に返った菊は視線を明後日の方向にそらしながら言うと、麗華は不満そうに口を尖らせた。

「なんでこっち見て言ってくれないんだよ~」
「べっ別にいいだろ」
「ダメ、ちゃんとこっち見て。さあ恥ずかしがらずに!」
「恥ずかしくなってるわけじゃ...はぁ」

菊は覚悟を決めてしっかり麗華に向き直った。あまりの菊の真剣な顔に、麗華本人が少し緊張していた。

「その服、すごい似合ってる。か、かわいいと思う...」

後半はもう声がかすれていたが、麗華にはちゃんと届いたらしく満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう!」

そのまっすぐな感謝がとても麗華らしく、菊はどんな服を着ていようともやっぱり麗華なんだなと思った。

「ほら、早くいくぞ」
「うん!」

菊の先導によりお出かけが始まった。

「そういえばこれからどこ行くの?」
「実は一度やってみたいことがあるんだ。これは体力がある麗華と一緒だからできることだ」

麗華はずっと頭の上ではてなマークを作っていたが、それを見て菊は少し得意げに答えた。

「真塾から四分矢の縦断だ!」
「縦断!楽しそう!」

少し離れたところにある一番の都会中の都会、真塾。そこから下っていくと薔薇宿を通り四分矢に出る。大通りをずっと歩くとほとんど切れることなくお店が連なっているため見れるものが多そうなところで、菊が走るコースを眺めてるついでにマップで見かけて行ってみたいなと思っていた。それでいっそのこと麗華と一緒に行こうと思っていた。

「あそこって駅連なってるよね、それは電車で行くの?」
「そこなんだよなー」

せっかく麗華がおしゃれしてくれたんだ。あまり負担をかけないためにもここは電車で行こうと思ったところで、

「歩いて行こうか~」
「いいのか?」

考えが読まれているようなタイミングで麗華が徒歩を提案してきた。

「一応動きやすいように靴はいつものスニーカーだし、それに~」
「それに?」
「まだ言わな~い」
「なんだよ」
「ほら、はやく駅行こ!」

麗華ははぐらかしたのを問い詰められないように菊の腕を引っ張って駅へと向かった。

続く
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