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第一章
GWの終わり(後編)
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GWの終わり(後編)
最寄りである桜野駅からしばらく先の真塾駅を目指す。そこからは変わらずいつもの会話が続いた。昨日のテレビがこうだったとかこの前見つけたカフェの話とかそんな他愛もない話。それでも菊と麗華はそれでも十分楽しくて、話しているとあっという間に真塾駅に着いた。朝から出発したとはいえ日曜日、それはもう人が多かった。
「着いた~!すご~いビルたくさん人たくさん!」
「そんなにはしゃぐなよ」
実際、菊も麗華と同じようにテンションは上がっていた。あまり出かける人ではないのでこの大都会の姿はとても新鮮でわくわくした。
「これからどうするの?」
「ここはお店というより見たいものを見に行って、あとは歩きの出発点ぐらいかな」
菊には見てみたいものがあった。巨大なテレビジョンである。手前が少し湾曲していて立体的に映像が見えるというもので、テレビで見て以来一度見てみたいと思っていた。
駅の目の前にあると聞いていたので行ってみるとすぐ見つかった。
「わ~すご~い!これテレビで見たことある~!」
「ほんとだな...」
大きい猫が今にも飛び出してきそうに動いていて、面白くてずっと見ていた。周りでは観光客がスマホのカメラを向けてあの猫を撮っていて菊も動画を撮ろうと思った時にはもう終わってしまった。麗華は残念そうにしてる菊を見て何とかフォローをしようと思い、菊の前に立った。
「じゃあ私を撮ってよ」
「え~、まあいいけど」
猫を取り損ねたスマホを麗華に向けて動画を撮った。
「映ってる~?えーこほん。見てくださいこのたくさん並んでるビルたちを~。さすが都会って感じがしますね~!といってもここからはもう離れてしまうのですが、これからどんな景色が見れるのか楽しみです。以上星野麗華でした~」
「なんでそんなリポーターみたいなんだよ」
「これも思い出なの~。これだとわかりやすくていいでしょ~」
「まあそうだけど」
麗華のはしゃいでる姿を見て菊もうれしくなった。動画を止め、地図アプリを開いてどの道を通るか確認した。
「よし、ここから大通りを歩くぞー」
「行こ~う!」
新宿駅の南にある大きな商業施設の前を通り、しばらく道なりに歩く。その間にも通るお店に目を向けたが、ここで何か食べるわけにはいかないのでそのまま進んだ。しばらく歩くと鳥居が見えた。
「なにこれ大きい鳥居~!」
都会のど真ん中にあるとても広い神社で、都会とこの古めかしい感じのギャップが好きだと言っている記事を見て寄りたいと思っていた。鳥居の前に立ち菊が一礼したところに続けて麗華も一礼した。
「きくちゃんのそういうところ好き~」
「そういうとこって?」
「礼儀をちゃんとしてるところ」
「このぐらい当たり前だろ」
当たり前だと思いつつ、いざそういわれると恥ずかしかった。悟られないように麗華の少し前を歩いたが向こうの方が一枚上手だった。
「照れてる~?」
「照れてないっ!」
進んでみると周りの景色が広く一面緑の高い木に囲まれていた。
「ここ全部道路なんだな。どんだけで広いんだここ」
砂利道がとても広く、人が多い今日でも歩きやすい。案内板に沿って歩くと神社についた。
「なんか力湧いてきたかも~」
「あたしもなんか感じる」
神社を目の前にした瞬間、神聖な空気を感じて力がみなぎった。これはただの気のせいだと言ってしまえば終わりだが、これはこの神社が持つパワーそのものなんだろう。せっかくなのでお参りした。ここでも2礼2拍手を忘れない。
「「・・・」」
二人してそれなりに長いお願いをして一礼した。
「きくちゃんはなにをお願いしたの?」
「こういうのは言ったら叶わなくなるから言わん」
口ではそう言いつつ菊も麗華のお願いが気になっていた。自分から言ってくれることを期待したが、
「じゃー私も言わな~い」
やはり自分からは言ってくれなかった。菊が自分で言ってしまった手前聞くわけにはいかなかったのでこの話を切り、次の場所の話になった。
「ここからはもっとテンション上げてくぞ、なんてったって次は」
「薔薇宿だ~!」
そう、今まで麗華には食べるのを我慢してもらった。それはここでたくさん食べようと思っていたからだ。特徴的な形の飲み物や虹色のわたあめにタピオカミルクティー、菊一人では決して行くことがない場所でも麗華とならいけると思った。麗華も何か美味しいものでも想像しているのか少しよだれが出ていた。
「よだれ出てるぞ」
「おっと失礼」
よだれを拭いた麗華は足早に薔薇宿方面へと向かった。
「早く行こ~!」
「そんなに急ぐなって。店は逃げねえよ」
すると軽く風が吹いて麗華の髪や服がなびいた。その姿があまりにきれいで菊はすぐさまカメラを起動し写真を撮った。すると不意に写真を撮られた麗華は不機嫌そうな顔をした。
「え~なんで写真撮ったのよ~。いい顔してない出来てないよ~」
「そんなことねえよ。だって」
すごくきれいだったから、この言葉は風でかき消されたのか麗華は聞き返した。
「えっ、今なんていったの?」
「いや、その~。あっ、これも一つの思い出だろ」
したり顔で答える菊を見て麗華は顔を赤らめ、歩くスピードを早めた。菊は怒ったのかと思い麗華の後を追いかけずっと謝っているが、麗華は怒ってなどはいなかった。
(きれいって。もっとはっきり言ってよ...。嬉しいけどね!)
菊の言葉はしっかり最後まで聞かれていたが、本人にそれを伝えることはさすがに恥ずかしくてできなかった。
(今絶対私の顔すごいことになってる~。こんなの見せられるわけないじゃん!)
「ばか」
「だから悪かったって」
つい口からこぼれてしまったが、困っている菊を見て面白くなり不機嫌なところをそのままに甘えてみた。
「あーあー、クレープ食べたいな~、誰かおごってくれないかな~?」
「分かったおごるから。許してくれって」
「ほんとに?」
「ほんとに」
そう聞いて麗華はいつもの笑顔に戻り菊の手を引いて歩いた。
「クレープ屋さん待ってなさい!全種類食べてやるからな~!」
「さすがにやめてくれー!それ全部あたしが払うんだろ!?」
さすがに冗談だが、菊のこうやってころころ変わる顔が好きなのでいじっていた。
入ったところからちょうど反対側にも大きな鳥居があり、そこを出るとすぐ都会の街並みが出てきた。本当に都会の中心にある神社なんだなと改めて思い、あの時見た記事に共感した。
ここから薔薇宿の定番、竹中通りは来た方向を戻ることになるがそこまで遠くはなくすぐに着いた。そこにはたくさんのお店が連なっていてどこもいろんな色に溢れてキラキラしていた。その分人も多く通行人なのかお店の列なのかもわからないような状態だ。菊は麗華の手を握り返し、今度は菊が前に出た。
「はぐれないようにしっかり握ってろよ。お店の場所はなんとなく把握してるから連れていく」
「えっ、あ、はい、お願いします」
いつもよりもか細い声で言われ、不思議と思い振り返ると麗華は俯いていて顔をよく見れなかった。
(きくちゃんそういうところだよ~!)
人の波がすごくてうまく前に進めなかったがなんとか目的のクレープ屋に着いた。こういう時のために事前にある程度目星をつけていて、クレープ屋もしっかり目をつけていた。ここは普通のクレープよりも盛り付け方が豪華でどうやって食べればいいのかと写真を見たときに思っていたが、何より美味しそうだったので来てみたかった。しばらく並んでいる間にどのクレープがいいか麗華が頭を悩ませていた。
「ん~どれにしよう、イロドリミドリミックスチョコかデラックスストロベリーか...」
「すごい名前してるよな...だったらあたしがどっちか買って麗華に少し分けるよ。そしたらどっちとも食えるだろ」
「いいの!じゃあ私の分はチョコの方にする~」
「イチゴがあたしか。おいしそうだな」
メニューが決まり、ちょうど自分たちの番になった。しばらくして出来上がったクレープを見て二人して声が出た。
「すげー!」
「すご~い!」
写真で見た時よりも大きく、持つのも慎重になる。スプーンとクレープを受け取りゆっくり動いて、少し開けたスペースに移動しクレープを食べた。先に菊がイチゴとアイスを器用にすくい一口。
「甘くてうまいなこれっ!」
酸味のあるイチゴと甘いイチゴアイスが絶妙にかみ合い口の中でとろけている。
「私にもイチゴちょーだい」
「はいよ」
クレープを突き出すと、麗華は口を大きく開けて待っていた。
「そこは、きくちゃんがあ~んってしてくれるところでしょ?」
「しねえよ、ほらイチゴとって」
「ちぇ~...」
麗華は不満そうな顔をしてイチゴを食べたがすぐに笑顔になった。
「おいしーね!やっぱりそっちもよかったね~」
「じゃあそのチョコのやつもくれよ」
「きくちゃんも自分でとって」
そういって麗華はクレープを突き出した。菊は真ん中にあるチョコをすくって食べるとこちらでも笑顔になった。
「このチョコもうまいな!」
「でしょ~」
そういって麗華の視線がクレープに戻るとしばし見つめていた。
「どうしたんだ?早く食べないと溶けるぞ」
「うっうん!」
大きめにすくったアイスを一口食べ、味をかみしめるように一度止まったが、それからバクバクとクレープを食べた。その姿を見て不思議に思いながらも菊もイチゴを食べ進めた。
それから二人はいろんなものを食べ歩き、おなかもいい具合にたまり、また歩き出した。
次に向かうのは四分矢、若者の街といえば薔薇宿と同じように取り上げられるところでアクセサリーや洋服などのお店が多く、買い物するといえばここだろう。
四分矢が見えるとすぐ、屋上が公園になっている建物に着いた。ここでいったん休憩しようと麗華と菊は屋上に行った。ベンチに座ってみると案外疲れていたらしく二人とも足がじんわり疲れを感じた。楽しくて疲れているなんて考えていなかった。
「なんか久しぶりに座った気がする...」
「ね~。ずっと歩き回ってたから気にしてなかった~」
「...麗華は、今日は楽しかったか?」
菊は探り探りに麗華に聞いた。それを聞いて麗華は温かい笑顔を向けて答えた。
「そんなの当たり前でしょ。楽しかったに決まってるじゃん!」
「そっそうか、それはよかったっておっ」
麗華は菊の肩に頭を乗せて、戸惑ってる菊を見ながら話をつづけた。
「うん、いっぱい話して、いろんなところに行っては何か食べて。こんなにきくちゃんと外で遊んだのは久しぶりだったから楽しかったし、嬉しかった」
「嬉しかった?」
「うん、きくちゃんから誘ってくれたから」
麗華は顔を菊に向けてまっすぐ見つめた。
「ありがとねきくちゃん!」
「うん、あたしも楽しかった」
互いの息がかかるほどの距離で話すことに耐えられず菊は顔をそむけた。
「やっぱりきくちゃんはかわいいな~」
「かわいいゆうなー!」
麗華は照れる菊を見て満足したように立ち上がり、菊に手を差し伸べた。
「そろそろ行こっ、きくちゃん」
「おう」
その手をぎゅっと握り二人は歩き出した。今は夕暮れ時、二人の顔は赤く染まっているがそれは夕日のせいだけではない。
四分矢の駅前にある広いスクランブル交差点に着くといつもみたいにはしゃいだ。
「すごいよ!ここ全部横断歩道だよ!」
「それよりもなんだよここ人多くないか?」
信号待ちの人が多く、その集まりが一気に動くので交差点の中心はこれでもかと密集していた。はぐれないようにしっかりと手を握り反対側まで渡った後は、お店巡りをした。大きい商業施設がたくさんあったのでどこから回っていこうか悩んだが四分矢といえば113だろう。中に入るとキラキラした女性が多く、菊は若干の場違い感を感じたが麗華は構わず進んでいった。服に靴にバッグなどいろんなものを見ていくととあるアクセサリーショップに着いた。いろんなものを見ていた麗華の目があるものに目を奪われていた。赤のネックレスだ。赤色の宝石が1つだけ付いたシンプルなもので、見た目ほど高いものでもなかった。
「欲しいのか?」
「えっ、ううん。ただきれいだなと思って。私には似合わないよ」
「そんなことないんじゃないか、きっと似合うよ」
「そっそうかな~」
似合うといわれまんざらでもなさそうな麗華はもうひとつ見つけ目を輝かせた。
「どうせだったらさ、ペアルックにしようよ~!」
麗華はもう一つの同じ形をした青いネックレスを菊に渡してきた。
「いやさすがにそれは恥ずかしいって」
「え~、だめっ?」
「うっ」
麗華は少し目を潤ませ菊のほうを向いた。この目を向ければ菊は負けることを知っているからだ。今回も麗華が勝った。
「わかったよ、あたしもこれ買う」
「これでお揃いだね~」
「ははっ、そうだな」
嬉しそうな麗華の笑顔にどこかつられてしまい菊も笑顔になった。
それからショッピングは続き二人して満足したので帰路についた。
「さっきも言ったけど、今日は楽しかったね~」
「ほんとになー。久しぶりにこんなに動いた」
「きくちゃん、ばてると思ったのに案外元気そうだね。そういえばなんで歩きで行くことに賛成してくれたの~?」
「別に、大したことじゃねえよ。ただ歩けるかもなって思っただけだ」
たまに走っていることは麗華に言ってないのではぐらかして、ふと思い出したことを麗華に聞いた。
「じゃあこっちも聞くけど、あの時まだ言わないって言ってたよな?あれ結局何だったんだ?」
「覚えてたか~。忘れててもよかったのに~」
もじもじしながら言うのをためらっていた麗華を菊はずっと待っていた。そしてしばらくして麗華は口を開いた。
「きくちゃんといる時間が少しでも長くなればいいな~って」
「えっ、はっ、はぁぁ!」
「もうだから忘れて欲しかったのよ~。まだって言っちゃったから聞かれたら答えるしかないしさ~」
「だってもったいぶるからだろー!」
二人して顔を真っ赤にして話している姿に面白くなったのか麗華が笑い出した。
「あっはははっ!なに~きくちゃんそっちから聞いてきたのに恥ずかしいの~?」
「それはそっちもだろー!」
「あははははっ!」
「ぷっはっははははっ!」
菊も麗華につられて一緒に笑った。ひとしきり笑った後は恥ずかしさもすっ飛んですっきりしていた。
「じゃ、帰ろう。きくちゃん」
「おう」
そうして二人は一緒に電車に乗って帰った。この時間が続けばいいのにと思ったのは二人とも同じだったがお互い口にはしなかった。
続く
最寄りである桜野駅からしばらく先の真塾駅を目指す。そこからは変わらずいつもの会話が続いた。昨日のテレビがこうだったとかこの前見つけたカフェの話とかそんな他愛もない話。それでも菊と麗華はそれでも十分楽しくて、話しているとあっという間に真塾駅に着いた。朝から出発したとはいえ日曜日、それはもう人が多かった。
「着いた~!すご~いビルたくさん人たくさん!」
「そんなにはしゃぐなよ」
実際、菊も麗華と同じようにテンションは上がっていた。あまり出かける人ではないのでこの大都会の姿はとても新鮮でわくわくした。
「これからどうするの?」
「ここはお店というより見たいものを見に行って、あとは歩きの出発点ぐらいかな」
菊には見てみたいものがあった。巨大なテレビジョンである。手前が少し湾曲していて立体的に映像が見えるというもので、テレビで見て以来一度見てみたいと思っていた。
駅の目の前にあると聞いていたので行ってみるとすぐ見つかった。
「わ~すご~い!これテレビで見たことある~!」
「ほんとだな...」
大きい猫が今にも飛び出してきそうに動いていて、面白くてずっと見ていた。周りでは観光客がスマホのカメラを向けてあの猫を撮っていて菊も動画を撮ろうと思った時にはもう終わってしまった。麗華は残念そうにしてる菊を見て何とかフォローをしようと思い、菊の前に立った。
「じゃあ私を撮ってよ」
「え~、まあいいけど」
猫を取り損ねたスマホを麗華に向けて動画を撮った。
「映ってる~?えーこほん。見てくださいこのたくさん並んでるビルたちを~。さすが都会って感じがしますね~!といってもここからはもう離れてしまうのですが、これからどんな景色が見れるのか楽しみです。以上星野麗華でした~」
「なんでそんなリポーターみたいなんだよ」
「これも思い出なの~。これだとわかりやすくていいでしょ~」
「まあそうだけど」
麗華のはしゃいでる姿を見て菊もうれしくなった。動画を止め、地図アプリを開いてどの道を通るか確認した。
「よし、ここから大通りを歩くぞー」
「行こ~う!」
新宿駅の南にある大きな商業施設の前を通り、しばらく道なりに歩く。その間にも通るお店に目を向けたが、ここで何か食べるわけにはいかないのでそのまま進んだ。しばらく歩くと鳥居が見えた。
「なにこれ大きい鳥居~!」
都会のど真ん中にあるとても広い神社で、都会とこの古めかしい感じのギャップが好きだと言っている記事を見て寄りたいと思っていた。鳥居の前に立ち菊が一礼したところに続けて麗華も一礼した。
「きくちゃんのそういうところ好き~」
「そういうとこって?」
「礼儀をちゃんとしてるところ」
「このぐらい当たり前だろ」
当たり前だと思いつつ、いざそういわれると恥ずかしかった。悟られないように麗華の少し前を歩いたが向こうの方が一枚上手だった。
「照れてる~?」
「照れてないっ!」
進んでみると周りの景色が広く一面緑の高い木に囲まれていた。
「ここ全部道路なんだな。どんだけで広いんだここ」
砂利道がとても広く、人が多い今日でも歩きやすい。案内板に沿って歩くと神社についた。
「なんか力湧いてきたかも~」
「あたしもなんか感じる」
神社を目の前にした瞬間、神聖な空気を感じて力がみなぎった。これはただの気のせいだと言ってしまえば終わりだが、これはこの神社が持つパワーそのものなんだろう。せっかくなのでお参りした。ここでも2礼2拍手を忘れない。
「「・・・」」
二人してそれなりに長いお願いをして一礼した。
「きくちゃんはなにをお願いしたの?」
「こういうのは言ったら叶わなくなるから言わん」
口ではそう言いつつ菊も麗華のお願いが気になっていた。自分から言ってくれることを期待したが、
「じゃー私も言わな~い」
やはり自分からは言ってくれなかった。菊が自分で言ってしまった手前聞くわけにはいかなかったのでこの話を切り、次の場所の話になった。
「ここからはもっとテンション上げてくぞ、なんてったって次は」
「薔薇宿だ~!」
そう、今まで麗華には食べるのを我慢してもらった。それはここでたくさん食べようと思っていたからだ。特徴的な形の飲み物や虹色のわたあめにタピオカミルクティー、菊一人では決して行くことがない場所でも麗華とならいけると思った。麗華も何か美味しいものでも想像しているのか少しよだれが出ていた。
「よだれ出てるぞ」
「おっと失礼」
よだれを拭いた麗華は足早に薔薇宿方面へと向かった。
「早く行こ~!」
「そんなに急ぐなって。店は逃げねえよ」
すると軽く風が吹いて麗華の髪や服がなびいた。その姿があまりにきれいで菊はすぐさまカメラを起動し写真を撮った。すると不意に写真を撮られた麗華は不機嫌そうな顔をした。
「え~なんで写真撮ったのよ~。いい顔してない出来てないよ~」
「そんなことねえよ。だって」
すごくきれいだったから、この言葉は風でかき消されたのか麗華は聞き返した。
「えっ、今なんていったの?」
「いや、その~。あっ、これも一つの思い出だろ」
したり顔で答える菊を見て麗華は顔を赤らめ、歩くスピードを早めた。菊は怒ったのかと思い麗華の後を追いかけずっと謝っているが、麗華は怒ってなどはいなかった。
(きれいって。もっとはっきり言ってよ...。嬉しいけどね!)
菊の言葉はしっかり最後まで聞かれていたが、本人にそれを伝えることはさすがに恥ずかしくてできなかった。
(今絶対私の顔すごいことになってる~。こんなの見せられるわけないじゃん!)
「ばか」
「だから悪かったって」
つい口からこぼれてしまったが、困っている菊を見て面白くなり不機嫌なところをそのままに甘えてみた。
「あーあー、クレープ食べたいな~、誰かおごってくれないかな~?」
「分かったおごるから。許してくれって」
「ほんとに?」
「ほんとに」
そう聞いて麗華はいつもの笑顔に戻り菊の手を引いて歩いた。
「クレープ屋さん待ってなさい!全種類食べてやるからな~!」
「さすがにやめてくれー!それ全部あたしが払うんだろ!?」
さすがに冗談だが、菊のこうやってころころ変わる顔が好きなのでいじっていた。
入ったところからちょうど反対側にも大きな鳥居があり、そこを出るとすぐ都会の街並みが出てきた。本当に都会の中心にある神社なんだなと改めて思い、あの時見た記事に共感した。
ここから薔薇宿の定番、竹中通りは来た方向を戻ることになるがそこまで遠くはなくすぐに着いた。そこにはたくさんのお店が連なっていてどこもいろんな色に溢れてキラキラしていた。その分人も多く通行人なのかお店の列なのかもわからないような状態だ。菊は麗華の手を握り返し、今度は菊が前に出た。
「はぐれないようにしっかり握ってろよ。お店の場所はなんとなく把握してるから連れていく」
「えっ、あ、はい、お願いします」
いつもよりもか細い声で言われ、不思議と思い振り返ると麗華は俯いていて顔をよく見れなかった。
(きくちゃんそういうところだよ~!)
人の波がすごくてうまく前に進めなかったがなんとか目的のクレープ屋に着いた。こういう時のために事前にある程度目星をつけていて、クレープ屋もしっかり目をつけていた。ここは普通のクレープよりも盛り付け方が豪華でどうやって食べればいいのかと写真を見たときに思っていたが、何より美味しそうだったので来てみたかった。しばらく並んでいる間にどのクレープがいいか麗華が頭を悩ませていた。
「ん~どれにしよう、イロドリミドリミックスチョコかデラックスストロベリーか...」
「すごい名前してるよな...だったらあたしがどっちか買って麗華に少し分けるよ。そしたらどっちとも食えるだろ」
「いいの!じゃあ私の分はチョコの方にする~」
「イチゴがあたしか。おいしそうだな」
メニューが決まり、ちょうど自分たちの番になった。しばらくして出来上がったクレープを見て二人して声が出た。
「すげー!」
「すご~い!」
写真で見た時よりも大きく、持つのも慎重になる。スプーンとクレープを受け取りゆっくり動いて、少し開けたスペースに移動しクレープを食べた。先に菊がイチゴとアイスを器用にすくい一口。
「甘くてうまいなこれっ!」
酸味のあるイチゴと甘いイチゴアイスが絶妙にかみ合い口の中でとろけている。
「私にもイチゴちょーだい」
「はいよ」
クレープを突き出すと、麗華は口を大きく開けて待っていた。
「そこは、きくちゃんがあ~んってしてくれるところでしょ?」
「しねえよ、ほらイチゴとって」
「ちぇ~...」
麗華は不満そうな顔をしてイチゴを食べたがすぐに笑顔になった。
「おいしーね!やっぱりそっちもよかったね~」
「じゃあそのチョコのやつもくれよ」
「きくちゃんも自分でとって」
そういって麗華はクレープを突き出した。菊は真ん中にあるチョコをすくって食べるとこちらでも笑顔になった。
「このチョコもうまいな!」
「でしょ~」
そういって麗華の視線がクレープに戻るとしばし見つめていた。
「どうしたんだ?早く食べないと溶けるぞ」
「うっうん!」
大きめにすくったアイスを一口食べ、味をかみしめるように一度止まったが、それからバクバクとクレープを食べた。その姿を見て不思議に思いながらも菊もイチゴを食べ進めた。
それから二人はいろんなものを食べ歩き、おなかもいい具合にたまり、また歩き出した。
次に向かうのは四分矢、若者の街といえば薔薇宿と同じように取り上げられるところでアクセサリーや洋服などのお店が多く、買い物するといえばここだろう。
四分矢が見えるとすぐ、屋上が公園になっている建物に着いた。ここでいったん休憩しようと麗華と菊は屋上に行った。ベンチに座ってみると案外疲れていたらしく二人とも足がじんわり疲れを感じた。楽しくて疲れているなんて考えていなかった。
「なんか久しぶりに座った気がする...」
「ね~。ずっと歩き回ってたから気にしてなかった~」
「...麗華は、今日は楽しかったか?」
菊は探り探りに麗華に聞いた。それを聞いて麗華は温かい笑顔を向けて答えた。
「そんなの当たり前でしょ。楽しかったに決まってるじゃん!」
「そっそうか、それはよかったっておっ」
麗華は菊の肩に頭を乗せて、戸惑ってる菊を見ながら話をつづけた。
「うん、いっぱい話して、いろんなところに行っては何か食べて。こんなにきくちゃんと外で遊んだのは久しぶりだったから楽しかったし、嬉しかった」
「嬉しかった?」
「うん、きくちゃんから誘ってくれたから」
麗華は顔を菊に向けてまっすぐ見つめた。
「ありがとねきくちゃん!」
「うん、あたしも楽しかった」
互いの息がかかるほどの距離で話すことに耐えられず菊は顔をそむけた。
「やっぱりきくちゃんはかわいいな~」
「かわいいゆうなー!」
麗華は照れる菊を見て満足したように立ち上がり、菊に手を差し伸べた。
「そろそろ行こっ、きくちゃん」
「おう」
その手をぎゅっと握り二人は歩き出した。今は夕暮れ時、二人の顔は赤く染まっているがそれは夕日のせいだけではない。
四分矢の駅前にある広いスクランブル交差点に着くといつもみたいにはしゃいだ。
「すごいよ!ここ全部横断歩道だよ!」
「それよりもなんだよここ人多くないか?」
信号待ちの人が多く、その集まりが一気に動くので交差点の中心はこれでもかと密集していた。はぐれないようにしっかりと手を握り反対側まで渡った後は、お店巡りをした。大きい商業施設がたくさんあったのでどこから回っていこうか悩んだが四分矢といえば113だろう。中に入るとキラキラした女性が多く、菊は若干の場違い感を感じたが麗華は構わず進んでいった。服に靴にバッグなどいろんなものを見ていくととあるアクセサリーショップに着いた。いろんなものを見ていた麗華の目があるものに目を奪われていた。赤のネックレスだ。赤色の宝石が1つだけ付いたシンプルなもので、見た目ほど高いものでもなかった。
「欲しいのか?」
「えっ、ううん。ただきれいだなと思って。私には似合わないよ」
「そんなことないんじゃないか、きっと似合うよ」
「そっそうかな~」
似合うといわれまんざらでもなさそうな麗華はもうひとつ見つけ目を輝かせた。
「どうせだったらさ、ペアルックにしようよ~!」
麗華はもう一つの同じ形をした青いネックレスを菊に渡してきた。
「いやさすがにそれは恥ずかしいって」
「え~、だめっ?」
「うっ」
麗華は少し目を潤ませ菊のほうを向いた。この目を向ければ菊は負けることを知っているからだ。今回も麗華が勝った。
「わかったよ、あたしもこれ買う」
「これでお揃いだね~」
「ははっ、そうだな」
嬉しそうな麗華の笑顔にどこかつられてしまい菊も笑顔になった。
それからショッピングは続き二人して満足したので帰路についた。
「さっきも言ったけど、今日は楽しかったね~」
「ほんとになー。久しぶりにこんなに動いた」
「きくちゃん、ばてると思ったのに案外元気そうだね。そういえばなんで歩きで行くことに賛成してくれたの~?」
「別に、大したことじゃねえよ。ただ歩けるかもなって思っただけだ」
たまに走っていることは麗華に言ってないのではぐらかして、ふと思い出したことを麗華に聞いた。
「じゃあこっちも聞くけど、あの時まだ言わないって言ってたよな?あれ結局何だったんだ?」
「覚えてたか~。忘れててもよかったのに~」
もじもじしながら言うのをためらっていた麗華を菊はずっと待っていた。そしてしばらくして麗華は口を開いた。
「きくちゃんといる時間が少しでも長くなればいいな~って」
「えっ、はっ、はぁぁ!」
「もうだから忘れて欲しかったのよ~。まだって言っちゃったから聞かれたら答えるしかないしさ~」
「だってもったいぶるからだろー!」
二人して顔を真っ赤にして話している姿に面白くなったのか麗華が笑い出した。
「あっはははっ!なに~きくちゃんそっちから聞いてきたのに恥ずかしいの~?」
「それはそっちもだろー!」
「あははははっ!」
「ぷっはっははははっ!」
菊も麗華につられて一緒に笑った。ひとしきり笑った後は恥ずかしさもすっ飛んですっきりしていた。
「じゃ、帰ろう。きくちゃん」
「おう」
そうして二人は一緒に電車に乗って帰った。この時間が続けばいいのにと思ったのは二人とも同じだったがお互い口にはしなかった。
続く
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