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ロボットメイド、アリシアの優雅な日常
タラントゥリバヤ、アリシアの相談に乗る
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「あなた…本当にロボットなの…?」
千堂アリシアの話を聞いたタラントゥリバヤは、目を見開いてそう問い掛けた。無理もない。今、彼女の前で自分が見てしまったという夢について相談するアリシアの姿は、どう見ても男女の関係について悩む少女のそれにしか思えなかったからだ。
縋るような目で自分を見詰めるアリシアに戸惑いながらも、タラントゥリバヤは目を逸らそうとはしなかった。そしてしばらく見つめ合った後、思案するように自らの顎に手を当てた。それから改めてアリシアを見詰め、静かに語り出す。
「…私は人間の女だから、あくまで人間の女の意見として聞いてほしいんだけど…」
そう前置きし、言葉を続ける。
「あなたがどうしてそういう夢を見てしまうのかは、ロボットのことにはあまり詳しくない私には分からない。でもあなたがもし人間と同じように心があってその所為で夢を見たのだとしたら、やっぱりそれはあなたの願望じゃないかしら?」
願望。そうだ。そう思っていた。自分は人間の女性となって千堂と身も心も結ばれたいのだと願っているのだと思う。だからそんな夢を見てしまうのだと、彼女自身も思っていた。人間の女性であるタラントゥリバヤから見てもそう思えるということを確認して、アリシアはフッと何かが収まるような感覚を得た。
男性だからかも知れないが、またロボットに詳しすぎることが逆に仇になったのかも知れないが、千堂はそのことについてあまり深刻には捉えてくれてない気がする。よくあるノイズの一種だと思われている気がする。しばらく様子を見て異常が無いようなら特に気にする必要はないと思っているのかもしれない。合理的な判断としては間違っていないのだろうが、<心>というものはえてしてそんなに機械的に割り切れるものではないのだ。
もちろん、千堂は心というものを蔑ろにする人間ではない。アリシアが苦しんでいたりしたらそれを気遣ってくれるだろう。ただ、万人に対して常に完璧な対応ができる程、彼も万能ではない。その辺りのズレが、今回、明るみになってしまったということだろうか。人間の女性の心もそれなりに推測できたとしても、<ロボットの女性の心>については、彼も今まさに勉強中だと言える。
アリシアは納得した。自分はこれまで、千堂を全知全能の神のごとき存在だと思っていたのかもしれない。だから今の自分の気持ちを察してくれないことに、つい、不満を抱いてしまっていたのだ。今までが上手くいきすぎていただけで、こういう行き違いやすれ違いがあるのが、本来、当然のことなのだ。
自分は人間の傍にいて人間のサポートをするロボットとして、人間同士でさえそういう行き違いやすれ違いから諍いが起こったりすることを知っていたではないか。そういう場合にどう対処するべきかを知っていたではないか。そういう時は、主人の側に寄り添いながらも、断定的にどちらかの味方をしたりしない。それがロボットのとるべき対応だ。ロボットとしてあるべき姿だ。どちらが正しいのかではなく、どちらの言い分にも一定の理があるいうことで、敢えて第三者的な中立性を保つのが鉄則なのだ。
何故そうするのか? それは、もちろん法律的なことも関係はしているのだが、それ以上に大原則として、ロボットである限りは人間のことを完璧に理解出来る訳ではないというのがあるのだった。理解出来ていないものを断定的に判断することは、そもそも出来ないのだ。細胞という微細な動力源が数十兆というレベルで集まって形を成している人間という存在を、電子機器と化学反応マイクロアクチュエータと金属フレームと人工皮膚の集合体である自分が理解出来る筈がない。だからロボットはどちらの主張が正しいとは判断しないのである。そしてそれは、人間の側も同じと言えるだろう。人間だって、ロボットのことが本当に理解出来ているかと言われれば、怪しいものだ。
その当たり前のことを、アリシアは忘れていたのだった。千堂があまりにも自分のことを理解してくれるものだから、今度のことだって理解してもらえて当然みたいについ思ってしまっていたのだった。千堂のことが自分のことを理解しきれている訳ではないというのをアリシア自身が理解していないのに、千堂が自分のことを完璧に理解してくれるのを期待してしまっていたのだ。だからそれがその通りにならなかったことに不満を感じてしまっていたのだというのが分かってしまったのだった。
その問題が解決し、アリシアは落ち着きを取り戻していた。タラントゥリバヤに相談して良かったと彼女は思った。だが、タラントゥリバヤは続けた。実はタラントゥリバヤもアリシアがどの部分について悩んでいたのかを正確には理解出来ていなかったのだ。
だからその先のことは、完全に蛇足になってしまっていた、しかしアリシアは、あえてタラントゥリバヤの言葉に耳を傾けた。彼女の言葉が、アリシアにとっても非常に興味深いものであったから。
「もし私の体が女として男性を愛せないものだったとしても、私は自分の気持ちを諦めたりはしない。人間の男女の愛って、肉体がすべてじゃないと思うの。そういうのもないと駄目だって言う人もいるかも知れないけど、少なくとも私は違う。体だけで、体の機能だけで決めたりはしない」
自分の胸に手を当て、軽く目を瞑り、少しばかり芝居がかった様子でなおも言う。
「アリシア、今のあなたの状態は、女としての肉体的な機能を失ってるのと似ていると思う。でもだからって、あなたは自分の気持ちを諦めるの? もちろん、諦めることも選択の一つだとは思うけれど、それはあなた自身が答えを出さないといけないことよね」
そこまで言った時、タラントゥリバヤの表情が少し険しいものになったことにアリシアは気付いた。しかしそれは口に出さず、彼女が語り終えるのを待った。
「私の母は、私を生んだ後、子供が出来なかった。遺伝子疾患があることが分かって、子供を産むことを諦めた。しかし父は、子供が欲しかった。子供が欲しいから母と結婚したのに、子供が出来ないとなればお前には用はないとばかりに母を蔑ろにするようになった。父も母も戒律があるから離婚はしなかったけど、でも父がある時、うちにいたメイトギアをメンテナンスに出した。すると、メンテナンスから帰ってきたそれは、全くの別物になってた。普通の人間みたいな体になってた。人間みたいに服を着て、それを脱げば人間と同じ体になってた。それから父はいつもメイトギアと一緒にいた。母や私とは口もきかず、メイトギアと一緒に自分の部屋に閉じこもるようになった。そして私はある時、知ってしまったの。父がメイトギアと何をしていたのかということを…」
そう語るタラントゥリバヤの表情に込められていたものをアリシアは気付いてしまった。彼女にはそれを読み取る能力があった。それは、憎悪だった。まぎれもない憎悪の念が、整った顔立ちだったタラントゥリバヤの顔を歪めていたのだ。
タラントゥリバヤはなおも続ける。
「それからしばらくして、今度は母の様子がおかしくなった。一人でブツブツと何かを言ってたかと思うと突然感情的になり、私を叩くようになった。意味の分からないことを叫び、食器を次々に割ったりした。特に、父の食器は床に叩き付けた後に足で踏みにじったりした。足が血まみれになっても食器が粉々になるまで踏み付けるのを止めようとしなかった。私がそれを止めようとすると、容赦なくぶたれた。そしてある時、私が学校から帰ってくると、母は冷たくなって梁からぶら下がっていたの…」
そこまで語って、タラントゥリバヤはアリシアを見た。その顔はうっすらと笑みを浮かべていたのだった。
千堂アリシアの話を聞いたタラントゥリバヤは、目を見開いてそう問い掛けた。無理もない。今、彼女の前で自分が見てしまったという夢について相談するアリシアの姿は、どう見ても男女の関係について悩む少女のそれにしか思えなかったからだ。
縋るような目で自分を見詰めるアリシアに戸惑いながらも、タラントゥリバヤは目を逸らそうとはしなかった。そしてしばらく見つめ合った後、思案するように自らの顎に手を当てた。それから改めてアリシアを見詰め、静かに語り出す。
「…私は人間の女だから、あくまで人間の女の意見として聞いてほしいんだけど…」
そう前置きし、言葉を続ける。
「あなたがどうしてそういう夢を見てしまうのかは、ロボットのことにはあまり詳しくない私には分からない。でもあなたがもし人間と同じように心があってその所為で夢を見たのだとしたら、やっぱりそれはあなたの願望じゃないかしら?」
願望。そうだ。そう思っていた。自分は人間の女性となって千堂と身も心も結ばれたいのだと願っているのだと思う。だからそんな夢を見てしまうのだと、彼女自身も思っていた。人間の女性であるタラントゥリバヤから見てもそう思えるということを確認して、アリシアはフッと何かが収まるような感覚を得た。
男性だからかも知れないが、またロボットに詳しすぎることが逆に仇になったのかも知れないが、千堂はそのことについてあまり深刻には捉えてくれてない気がする。よくあるノイズの一種だと思われている気がする。しばらく様子を見て異常が無いようなら特に気にする必要はないと思っているのかもしれない。合理的な判断としては間違っていないのだろうが、<心>というものはえてしてそんなに機械的に割り切れるものではないのだ。
もちろん、千堂は心というものを蔑ろにする人間ではない。アリシアが苦しんでいたりしたらそれを気遣ってくれるだろう。ただ、万人に対して常に完璧な対応ができる程、彼も万能ではない。その辺りのズレが、今回、明るみになってしまったということだろうか。人間の女性の心もそれなりに推測できたとしても、<ロボットの女性の心>については、彼も今まさに勉強中だと言える。
アリシアは納得した。自分はこれまで、千堂を全知全能の神のごとき存在だと思っていたのかもしれない。だから今の自分の気持ちを察してくれないことに、つい、不満を抱いてしまっていたのだ。今までが上手くいきすぎていただけで、こういう行き違いやすれ違いがあるのが、本来、当然のことなのだ。
自分は人間の傍にいて人間のサポートをするロボットとして、人間同士でさえそういう行き違いやすれ違いから諍いが起こったりすることを知っていたではないか。そういう場合にどう対処するべきかを知っていたではないか。そういう時は、主人の側に寄り添いながらも、断定的にどちらかの味方をしたりしない。それがロボットのとるべき対応だ。ロボットとしてあるべき姿だ。どちらが正しいのかではなく、どちらの言い分にも一定の理があるいうことで、敢えて第三者的な中立性を保つのが鉄則なのだ。
何故そうするのか? それは、もちろん法律的なことも関係はしているのだが、それ以上に大原則として、ロボットである限りは人間のことを完璧に理解出来る訳ではないというのがあるのだった。理解出来ていないものを断定的に判断することは、そもそも出来ないのだ。細胞という微細な動力源が数十兆というレベルで集まって形を成している人間という存在を、電子機器と化学反応マイクロアクチュエータと金属フレームと人工皮膚の集合体である自分が理解出来る筈がない。だからロボットはどちらの主張が正しいとは判断しないのである。そしてそれは、人間の側も同じと言えるだろう。人間だって、ロボットのことが本当に理解出来ているかと言われれば、怪しいものだ。
その当たり前のことを、アリシアは忘れていたのだった。千堂があまりにも自分のことを理解してくれるものだから、今度のことだって理解してもらえて当然みたいについ思ってしまっていたのだった。千堂のことが自分のことを理解しきれている訳ではないというのをアリシア自身が理解していないのに、千堂が自分のことを完璧に理解してくれるのを期待してしまっていたのだ。だからそれがその通りにならなかったことに不満を感じてしまっていたのだというのが分かってしまったのだった。
その問題が解決し、アリシアは落ち着きを取り戻していた。タラントゥリバヤに相談して良かったと彼女は思った。だが、タラントゥリバヤは続けた。実はタラントゥリバヤもアリシアがどの部分について悩んでいたのかを正確には理解出来ていなかったのだ。
だからその先のことは、完全に蛇足になってしまっていた、しかしアリシアは、あえてタラントゥリバヤの言葉に耳を傾けた。彼女の言葉が、アリシアにとっても非常に興味深いものであったから。
「もし私の体が女として男性を愛せないものだったとしても、私は自分の気持ちを諦めたりはしない。人間の男女の愛って、肉体がすべてじゃないと思うの。そういうのもないと駄目だって言う人もいるかも知れないけど、少なくとも私は違う。体だけで、体の機能だけで決めたりはしない」
自分の胸に手を当て、軽く目を瞑り、少しばかり芝居がかった様子でなおも言う。
「アリシア、今のあなたの状態は、女としての肉体的な機能を失ってるのと似ていると思う。でもだからって、あなたは自分の気持ちを諦めるの? もちろん、諦めることも選択の一つだとは思うけれど、それはあなた自身が答えを出さないといけないことよね」
そこまで言った時、タラントゥリバヤの表情が少し険しいものになったことにアリシアは気付いた。しかしそれは口に出さず、彼女が語り終えるのを待った。
「私の母は、私を生んだ後、子供が出来なかった。遺伝子疾患があることが分かって、子供を産むことを諦めた。しかし父は、子供が欲しかった。子供が欲しいから母と結婚したのに、子供が出来ないとなればお前には用はないとばかりに母を蔑ろにするようになった。父も母も戒律があるから離婚はしなかったけど、でも父がある時、うちにいたメイトギアをメンテナンスに出した。すると、メンテナンスから帰ってきたそれは、全くの別物になってた。普通の人間みたいな体になってた。人間みたいに服を着て、それを脱げば人間と同じ体になってた。それから父はいつもメイトギアと一緒にいた。母や私とは口もきかず、メイトギアと一緒に自分の部屋に閉じこもるようになった。そして私はある時、知ってしまったの。父がメイトギアと何をしていたのかということを…」
そう語るタラントゥリバヤの表情に込められていたものをアリシアは気付いてしまった。彼女にはそれを読み取る能力があった。それは、憎悪だった。まぎれもない憎悪の念が、整った顔立ちだったタラントゥリバヤの顔を歪めていたのだ。
タラントゥリバヤはなおも続ける。
「それからしばらくして、今度は母の様子がおかしくなった。一人でブツブツと何かを言ってたかと思うと突然感情的になり、私を叩くようになった。意味の分からないことを叫び、食器を次々に割ったりした。特に、父の食器は床に叩き付けた後に足で踏みにじったりした。足が血まみれになっても食器が粉々になるまで踏み付けるのを止めようとしなかった。私がそれを止めようとすると、容赦なくぶたれた。そしてある時、私が学校から帰ってくると、母は冷たくなって梁からぶら下がっていたの…」
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