200万秒の救世主

妥協

みほちゃんのお祖父ちゃんやお祖母ちゃんが住むという場所の怪物を含めて六体の怪物を倒すと、いよいよ立っていることもできなくなってきた。

『くそっ…！』

気力とか気合いとか根性で何度でも立ち上がるなんて、所詮はドラマやアニメの中だけだな。僕の膝から力が抜けて、崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまう。頭では立ってるつもりなのに、まったく体が言うこと聞かないんだ。

「神河内さん…！」

「レンジ…！」

吉佐倉よざくらさんとアリーネさんが駆け寄って、僕の体を支えてくれる。

「待ってろ、レンジ！」

二人が座らせた僕の体を吉佐倉さんが抱きかかえてくれて、アリーネさんが走る。その先には、大きな郵便局があった。開いたままの自動ドアを通って中に入り、中から持ってきたのは。

「車椅子…」

吉佐倉さんが声を漏らす。確かにアリーネさんが持ってきたのは、たぶん、体の不自由な人向けに備え付けられてたものと思しき車椅子だった。

「もう、ごちゃごちゃいってる場合じゃないデス。これはやむを得ないことデス。ここに座りなサい！　レンジにはその権利がある！」

強い口調だけど、でもどこか気持ちが込められたそれに、僕ももう黙って頷くしかできなかった。

「そうだね……仕方ないよね……」

『仕方ない』と言い訳して正しくないことをするのは嫌だった。だけどもう、そんな意地も通用しない状況になってたんだろうな。

その車椅子に座り、でも、座ってでさえ体を支えていられずにぐったりとなる。

「おじさん……だいじょうぶ…？」

みほちゃんとシェリーちゃんが心配そうに覗き込んできた。何とか平気なふりをしようと思うのに、やっぱり体を起こすこともできない。

僕達にとってはたぶん十日が過ぎ、僕に残された時間がクォ＝ヨ＝ムイの言う通りなら、あと二週間ほど。でも、こんなので二週間ももつのかな。というのは正直な印象だった。今日眠ったら、もう二度と起きられないんじゃないか。僕の心臓は止まってるんじゃないか。そんなことを考えてしまう。

しかも同時に、もうここまで苦しいのなら早く楽になりたいというのも正直な気持ちだった。

僕が入院していた病院から吉佐倉さんが持ってきてくれた痛み止めを飲み、ゼリータイプの栄養補助食品を口にし、マットが敷かれたベンチに体を横たえ、辛すぎて眠れないけどそれでも何とか眠る。

「おじさん…いたい…？」

みほちゃんが僕の体を撫でさすってくれる。

「ありがとう…みほちゃんは優しいね……」

もう殆どうわ言のようなそれだけど、僕はそう応えたのだった。