200万秒の救世主

京衛武百十

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吉佐倉綾乃の独白 その4

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義理の叔母らが言うには、私の父親の所為で、私の父親が叔父に精神的ストレスを掛けた所為で癌になったんだと言った。

確かにストレスでそういう可能性が増すと言われているのは私も知ってるけど、だからってそれをこちらのせいにされても敵わない。

ただ、父がそんな風に誰かにストレスを掛ける人だっていうのは、私自身、思い当たる節はありすぎるくらいあったけど。

そもそも私の男性不信の原因が父だったから。

彼は、いや、『あの男』は、自分だけが正しくて、何もかも自分の思い通りにすればすべて上手くいく。上手くいかないのは自分の言う通りにしないからだというのを平気で口にする男だった。

そうやって母も私も虐げて、支配して、それでいい気分になってるだけのどうしようもない小物だった。

それが原因で男性を嫌いになったということに加え、たぶん私は、元々、生まれついての同性愛者なんだと思う。でもあの男は、そんな私を認める気なんか髪の毛の先ほどもないだろう。

という訳で、私は、勝手に私をこの世に生み出したあの男と、そんな男の言いなりになっている女を利用できるだけ利用してさっさと自立して、縁を切るのが望みだった。あんな両親の老後の面倒を見るとかありえない。

散々横柄に振る舞って支配者ぶってたくせに、歳を取ったからって子供の世話になろうとか、ふざけすぎてる。

立派な大人だって言うんだったら、老後もきちんと自分で何とかしろ。子供を当てにするな。

「偉そうなこと言ってたんだから、ちゃんと偉いとこ見せてよ。子供なんて当てにしなくても自立できるんでしょ?」

年老いて体も満足に動かなくなったあの男にそう言ってやるのが私の望み。

そうだったのに……

義理の叔母に罵られてまで行きたくなんてなかったけど、それでも一応は親族だから顔だけでも出さないとマズいかと思って見舞いに行くうちに、叔父だけでなく、義理の叔母や従妹までが明らかにやつれていくのを見た時、なんか、それまで憤っていたのが何故か急にどうでも良くなってきたのも感じてしまったのだった。

死に直面した人間と、その人間に生活もなにかもかも依存してた人間の惨めな姿に、腹を立ててるのがバカらしくなったというのもある気がする。

みるみる気弱になって、悲壮な顔つきになっていくのがむしろ憐れで。

だからと言って理不尽に私を罵ったことは許せない。憐れだとは思いつつ、同情する気にもならなかった。

そんな叔父が亡くなった時の、義理の叔母と従妹の表情。

正直、溜飲が下がった気がしたのも事実なのだった。

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