200万秒の救世主

京衛武百十

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明かされた真実

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正直もう、あれこれ考えるのも辛くなってきてるのを感じてた。何かを考えようとすると体中から悲鳴のようなものが聞こえてくる感じがして、頭がおかしくなりそうだった。

いや、たぶん、もう既に僕は頭がおかしくなってるんだろう。

こんなの、正気じゃいられない。

だって、みんなを守る為にこれまでやってきた筈なのに、こんなことって……



「…これって、何でしょう?」

少しだけ楽になって傍に付き添ってくれてた吉佐倉《よざくら》さんの顔を見た時、彼女は青ざめた様子で硬い声を発してた。

ほとんど頭も動かさずに彼女の視線の先に僕も視線を向けると、奇妙な違和感が。

『あれ? あんな風になってたっけ…?』

それは、もう見慣れた公園の光景の筈なのに、何かが違ってたんだ。

「土埃……?」

地面から数センチの高さまで土色の小さな壁のようなものが。それも、波紋のように並んでいくつも。

それを見付けたみほちゃんが、

「わあ、おもしろい。なにこれ?」

って言いながらそれに触った。するとその小さな土壁のようなものは煙のようにふわりと散らばる。そんな様子が面白いのか、みほちゃんとシェリーちゃんが脚で次々と踏み潰し始めた。積もった雪にわざと足跡を付けようとするかのように。

この時、みほちゃんたちはただ面白がってたけど、それが実は大変なことの予兆だったと僕達が気付いたのは、すべてが手遅れになってからだった。

「やっぱりおかしいですよ、これ…!」

吉佐倉さんが強張った表情で言う。

すると、アリーネさんが、

「ソニックブーム……?」

って。

ソニックブーム…? それってもしかして、物体が音速を超えて移動した時に生じるっていう衝撃波のこと…?

そのことに気付いた時、僕と吉佐倉さんとアリーネさんは顔を見合わせていた。

「これって、僕達が動き回ってる所為で生じてるっていうことなのか……?」

絞り出すように僕が言った時、

『そうだ。今頃気付いたか。やはり人間は愚かだな』

という声が、僕達の頭の中に直接響いてきた。

「クォ=ヨ=ムイ…!?」

「どこにいる! クォ=ヨ=ムイ!」

吉佐倉さんとアリーネさんが声を上げて周囲を見回すけど、どこにもいない。どこかから僕達の頭の中に直接話し掛けてるんだ。

『私はお前達を二百万倍に加速してそれに耐えられるようにしたが、別にそれによって生じる全ての現象を無視できるようにした訳じゃないぞ。お前達が秒速一メートルで動けば、それは人間大の物体が秒速二千キロメートルで移動してるのと同じになる。そうすれば何が起こるかくらいは、分かるんじゃないのか?』

……なんだって……!?

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