200万秒の救世主

京衛武百十

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『よかろう、お前の望みを聞き入れてやろう』

クォ=ヨ=ムイがそう言った瞬間、僕は自分の体がものすごい勢いで変化するのを感じた。文字通り<変化>したのが分かってしまった。自分自身が、それまでとは全く違ったものに組み変わってしまうのが分かったんだ。

そしてそれは一瞬だった。

視点の高さが変わり、目線が変わる。地面が近くなり、空が遠くなった。背が縮んだような気もしたけど、違う。姿勢が変わったんだ。自分では真っ直ぐ立ってるつもりなのに。

そんな僕に、クォ=ヨ=ムイが言う。

「私の視覚情報を送ってやろう」

と言われた途端に、僕の頭の中に、<獣>の姿が映し出された。

『犬……?』

それが率直な印象だった。

四本足で立ち、全身を真っ黒い毛で覆われたそれは、確かに犬のような姿をしていたけど、明らかに僕が知っている<犬>じゃなかった。犬と言うにはあまりにも歪な形をしていた。

口は首の辺りまで裂け、ギラギラと赤い光を放つ目が四つ、耳と言うよりも完全に<触角>と言う感じのが二本、頭から長く伸びている。

「ははは! これはいい! これはいい出来だ! ここ数万年のうちで一番かもしれん!」

クォ=ヨ=ムイが嬉しそうに笑いながら言った。本当に耳障りな声だった。なのに、耳障りだと感じるのに、なぜかそれが嫌じゃなかった。むしろそれを聞いていたいとさえ思った。

だけどそんなことを言ってる場合じゃない。

『早くみんなを助けてください!』

と言おうとしたのに、それは言葉にならなかった。

「ウア! ウアゥ!」

って感じの唸り声が聞こえてきただけだった。

『しゃべれ…ない……!?』

呆然となった僕にクォ=ヨ=ムイが邪悪に笑いかける。

「お前は犬なんだから喋れる訳ないじゃないか」

『…ぐ、くそぅ…!』

だけど、僕がクォ=ヨ=ムイを呪いそうになったその時、

「だが、おかげで気分がいい。お前の望み、本当に聞き届けてやる」

そう言ってクォ=ヨ=ムイがパキンと指を鳴らした。

瞬間、目の前が<爆発>する。

そう。文字通り<爆発>だった。すぐにそれが<衝撃波>なんだと分かったけど、僕の目には爆発にしか見えなかったんだ。

吉佐倉よざくらさん! みほちゃん!!』

思わず叫んだけど、口から出たのはやっぱり、

「ヴァッ! ガァアッッ!!」

って感じの咆哮だった。

二百万倍に加速されていたのが普通に戻った僕の目には、爆発に呑まれた吉佐倉《よざくら》さん達の姿は全く見えなくなってしまった。

『また、騙されたのか……?』

クォ=ヨ=ムイには、やっぱり助ける気なんかなかったんだ……!

そう思いかけた時、僕の目に捉えられたものがあったのだった。

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